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あまりにスリリングな公道レース! 驚きの「マカオGP」観戦記(前編)

カジノの街・マカオの市街地を駆け抜けるさまざまなレーシングマシンのバトルに大興奮

Star River Windsor Arch 60th Macau Grand Prix
2013年11月13日~16日開催

ギアサーキット

 見ると聞くとでは大違い! あまりにスリリングな市街地レース「マカオグランプリ」の60周年記念大会を観戦してきました。世界的に有名なレースということで敷居が高いように思えますが、いざ行ってみると日本からの観戦も意外と身近なように感じたレース三昧の4日間でした。

まずは「マカオグランプリ」ってどんなレース?という話

 今やアメリカ・ラスベガスをも抜き去り、世界一の“カジノの街”となった中国の特別行政区「マカオ」。その小さな街の市街地の一部を封鎖して、さまざまなカテゴリーのレースが行われるのが「マカオグランプリ」。コースは街の周辺ではなく、街のど真ん中を使ってガンガン行われます。コース全長は約6km。これは鈴鹿サーキットより長いものですが、コース幅は最も狭いところで何と7mという狭さ。特徴的なのは、一部のコーナーを除いてタイヤバリアやスポンジバリアがないこと。鉄板剥き出しのガードレールでほぼ全周が覆われている、あまりにスリリングなコースということです。

 また、この大会のメインレースとなるF3にはこれまでに多くの日本人が参戦して、佐藤琢磨選手も2001年の勝者として歴史にその名を連ねています。F3に関しては、1983年の導入時から今日まで一貫して日本のヨコハマタイヤがワンメイクサプライヤーを務め、フォーミュラーレースであるF3と並んで人気のあるツーリングカーレース「WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)」でも、発足2年目の2006年からヨコハマタイヤがワンメイクサプライヤーとしてタイヤ供給を行っており、こうした面からも意外なほど日本と縁の深いレースと言えるでしょう。

世界一のカジノの街マカオ
街中がレーシングコース
セーフティーカーも豪華

F3世界一決定戦「Star River Windsor Arch Formula 3 Macau Grand Prix」

 60年の歴史を持つマカオグランプリですが、1983年から始まったこのF3レースは今年で31年目を迎えました。世界各地で行われているF3のトップドライバーが、年に一度ここに集結して戦うのがマカオグランプリのメインイベントなのです。その戦いを見ても、コース幅が狭くてエスケープゾーンがないこのコースで勝つことは非常に難しく、マカオグランプリでの勝利はさらなるステップアップの通過点として非常の意味のあるレースだと感じました。率直に言って、オープンホイールのフォーミュラーカーでのデッドヒートは見ているコッチがハラハラするほど危険極まりないと感じてしまうぐらいです。

 ちなみに、初代チャンピオンに輝いたのはアイルトン・セナ('83)。その後もミハエル・シューマッハー('90)、デビッド・クルサード('91)、ラルフ・シューマッハー('95)、ラルフ・ファーマン('96)、アンドレ・クート('00)、佐藤琢磨('01)、国本京佑('08)と、のちのF1ドライバーや日本で活躍しているドライバーも多く、そのドライバーの足下を支え続けたのがヨコハマタイヤなのです。

 今年の勝者はA・リン選手(ダラーラー[車両]/メルセデス[エンジン])。近い日にF1でその姿を見ることになるかもしれません。また、今までの歴史を考えれば、“未来のF1ドライバー”を見にスタンドに足を運んでいる観客も少なくないように思います。

1位:No.10 A.リン(ダラーラー/メルセデス)
2位:No.1 A.F.ダ・コスタ(ダラーラー/フォルクスワーゲン)
3位:No.18 P.デラニー(ダラーラー/メルセデス)
11位:No.15 関口雄飛(ダラーラー/メルセデス)
12位:No.12 中山雄一(ダラーラー/トヨタ)
15位:No.28 千代勝正(ダラーラー/メルセデス)

WTCC Rd.23/Rd.24

 日本でも岡山国際サーキットや鈴鹿サーキットで開催され、すっかりおなじみとなったWTCC。接触シーンも多いそのアグレッシブなレーススタイルに魅了されたファンも多いと思います。実際、クラッシュシーンを期待して鈴鹿サーキットでは1コーナースタンドに陣取るファンが圧倒的に多く、その究極の姿がこのマカオグランプリの難コースのような気もします。とにかくクラッシュが多い! そしてエスケープゾーンがないのですぐに黄旗、そして赤旗というレース展開。

 特に2013年のシーズン最終戦となるRd.24は荒れに荒れ、目を覆いたくなるような多重クラッシュもありました。観客席には基本的に大型モニターが設置されているので、見えない場所でのクラッシュ発生も即座に分かります。そのたびに「WAAAAAAA!!」「WOOOOOOOO!!」「AH!!!!」と観客席は大きく盛り上がり、まるでそれを期待してるかのような騒ぎっぷりです。車速が高まる長い直線から90度ターンしなければならない通称「リスボアコーナー」はクラッシュの名所で、周辺の観客席は毎年のように超満員のようです。ちなみに、このレースもヨコハマタイヤのワンメイクレースとなっています。

Rd.23

1位:Y.ミューラー(シボレー・クルーズ 1.6T)
2位:T.モンテイロ(ホンダ・シビックWTCC)
3位:R.ハフ(セアト・レオンWTCC)

Rd.24

1位:R.ハフ(セアト・レオンWTCC)
2位:P.オリオラ(シボレー・クルーズ 1.6T)
3位:T.コロネル(BMW 320TC)
日本から「シボレー・クルーズ 1.6T」で出場した谷口行規選手は、Rd.23で17位完走、Rd.24は惜しくもリタイア

CITY OF DREAMS MACAU GT CUP(GT ASIA Rd.11)

 日本のSUPER GTやスーパー耐久でも出走するようになった「FIA GT3マシン」によるアジア地区のシリーズ戦。ただし、マカオグランプリではワイルドカードによるスポット参戦車両との混走による「マカオGTカップ」というレースとして行われています。日本におけるSUPER GTのGT300車両と同様に参戦車種が多彩で、非常に華やかなスーパーカーバトルです。このGT ASIAもヨコハマタイヤワンメイクレースです。

1位:LI Zhi Cong(Porsche 911 GT3 R 4.0)
2位:YU Siu Fung Frank(Aston Martin Vantage GT3)
3位:Stefan MUCKE(Aston Martin Vantage GT3)
Audi R8 LMS
土屋武士選手がドライブするBMW Z4 GT3
澤圭太選手がドライブするLamborghini LP560-4
Ford GT
Aston Martin Vantage GT3
Ferrari 458 Italia GT3
McLaren MP4-12C
Mercedes SLS AMG GT3

一般公道によるレースとヨコハマタイヤ

 以上、フォーミュラ、ツーリングカー、そしてFIA-GT3スーパースポーツとざっと紹介してきましたが、その全てのレースのタイヤを供給しているのがヨコハマタイヤです。一般公道といってもさすがに歴史を重ねてきたコースだけに、日本の舗装道路にときおり見られるような継ぎ接ぎだらけのデコボコ路面は見当たらず、路面状態は良好に感じます。しかし、それでもやはり一般公道であり、競技専用のサーキット路面とは違います。横断歩道や路面に書かれた矢印のペイントなども当然あって、感覚的には路面のグリップ状態は日本のサーキット>マカオグランプリのコース>ターマックステージのラリーという印象です。

 全長6km以上もあるコースに設定されたストレートは非常に長くてマシンのスピードは速く、アップダウンに加えて通常のサーキットでは考えられないほどタイトなヘアピンコーナーが存在し、タイヤに対する負担は想像を絶するものでしょう。しかも、パワーもマシン特性も大きく違うさまざまなレースをサポートするだけに、タイヤ開発の技術と安定供給は大変なものだろうと想像します。現在では“F1の登竜門”的意味合いを持つようになったマカオのF3レースを31年もの長期に渡りサポートしており、アイルトン・セナやミハエル・シューマッハーもここからヨコハマタイヤで戦って世界に羽ばたいていったのです。

 そんな実績が認められ、とくにマカオグランプリにおいてはタイヤ指定が行われない他のレースのマシンでもヨコハマタイヤの装着率が高くなっており、日本メーカーのマシンが主流となっている「Suncity Group Macau Road Sport Challenge」ではその傾向が強いようです。

道路上に書かれたペイントは公道レースならでは
きついヘアピンコーナー
ヘアピン進入時のフロントタイヤの負担は極めて大きそうだ
スタッフの情報収集は非常に重要
短期決戦の必須アイテムである「タイヤウォーマー」
各チームのADVANブランドへの信頼は厚い
マカオGPを支えるADVAN
「Suncity Group Macau Road Sport Challenge」は圧倒的に日本車優勢で、その多くがADVANユーザー。車種だけ見るとまるで日本のスーパー耐久を観戦しているかのような雰囲気。ちなみに日本のスーパー耐久もヨコハマタイヤのワンメイクレース

 レース期間中は朝から夕方までレース三昧。しかし、最終レースが終わるとそれまでバトルが繰り広げられていたコースが開放され、一般車がなだれ込んできます。この感覚は非常に不思議な体験です。ときにはグランプリのコースを通ってホテルに帰ることもあります。また、そもそも市街地にコースがあるので、観戦後にコースサイドを歩いて夜の街に繰り出すのもわるくないでしょう。

 冒頭で「日本からの観戦の敷居は高くない」と書きましたが、後編ではチケット入手や観戦ポイント、はたまた写真を撮りたい人に向けた話など、今回感じたことをお伝えしようと思っています。

 海外ながら渡航費も比較的安価で、日本では見ることができない市街地レースの新鮮さと国外で頑張る日本人レーサーの奮闘を毎日堪能できるのは思いのほか楽しい時間でした。来年の冬に向け、香港など周辺地域での観光とレース観戦といういつもとちょっと違った旅の計画を今から妄想してみてはいかがでしょうか?

(高橋 学)