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あまりにスリリングな公道レース! 驚きの「マカオGP」観戦記(後編)

思い切って来年は生で観戦してみませんか?の巻

2013年11月13日~16日開催

ギアサーキット

 日本でもたまにその声が上がるものの、なかなか実現は難しそうな市街地レース。有名なF1のモナコGPやシンガポールGPを観戦しに行くのは魅力的ですが、交通費や宿泊代、さらにチケットの購入費など金銭的に高めなハードルを越えなければなりません。そこで、羽田や成田から直行便に乗れば片道5時間ほどで到着するマカオで、安価に市街地レースの雰囲気を味わってみようというのが今回のお話です。

なにはともあれ往復の飛行機と宿泊の話

 まずは現地に行くこと、そして宿泊場所を確保することですよね。今回は羽田~香港の往復に「香港エクスプレス航空(HONGKONG EXPRESS)」というLCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)を利用しました。料金は季節や購入方法などによって変動するため一概には言えませんが、今回は受託手荷物20kgを含む費用が日本円でちょうど3万円。宿泊はレース期間をカバーするシングルルーム4泊で、これまたちょうど3万円でした。ちなみに、この宿泊代はマカオにおいては相当安価な金額ですが、早めにネットで探してなんとか確保しました。もちろん、マカオらしいカジノのネオンがギラギラした中心街ではありませんが、それほど不便も感じない場所で、近所には日本でおなじみのコンビニやファーストフード店、さらに地元の定食屋さんなどもありました。

 あとは、香港~マカオを結ぶフェリー料金と現地で移動するときのタクシー代。その全てを合わせて7~8万円程度でなんとか納まりました。あとはなにを食べて、どれだけ遊ぶか? そして肝心の観戦チケット代となります。

今回はLCCの「香港エクスプレス航空」の深夜便を利用。羽田~香港は4時間弱のフライト
香港からマカオにはフェリーで入ります

観戦チケットを買う前に、どのポイントで見るか決めよう

チケットは街のいたる所に設置されている販売所で購入できる。ただし、人気のあるチケットに関しては格安弾丸ツアーでの現地購入は難しいことも

 6kmもある市街地コースのマカオGPですが、意外なほど観戦スポットは少なく、じつはグランドスタンド前~1コーナーにかけてのスタンドとカジノ街の中心地に設けられた90度コーナーにある通称「リスボアコーナー」の2個所しかありません。チケット自体はグランドスタンド前~1コーナーが3つのエリアに分割されているので、発売されるチケットは最もスターティンググリッドに近い「GRAND STAND B」、ストレートの「GRAND STAND A」とストレートエンドから1コーナーにかけての「RESERVOIR STAND」の共通券、そしてクラッシュの名所であるリスボアコーナーのある90度コーナー「LISBOA STAND」の3種類です。これらの中から、観戦と撮影の両面から筆者の独断でおすすめを紹介していきます。

写真を撮るなら「RESERVOIR STAND」

「GRAND STAND A」と共通のチケットなので選べる観戦ポイントが多い。

 観戦、撮影ともにおすすめなのが、ホームストレートから1コーナー進入という、ハイスピードの接近戦が繰り広げられ、ときにはクラッシュシーンもある「RESERVOIR STAND」です。予選日(土曜日)、決勝日(日曜日)ともに350HKD(約4500円)ですが、写真を思いっきり撮りたい人なら50HKD(約650円)で入れる木曜~金曜の練習走行日を狙うのもよいでしょう。練習走行日は座席指定もなく(決勝日は要確認)現地のファンにも人気が高いので、早めに席を確保しないと真っ先に満席になってしまうのがこのスポットです。観戦ならマシンが近い下段、撮影なら最上段がおすすめになります。ちなみに、HKDは香港ドル。記事内では1HKDを13円で計算しています。

写真左奥のストレートから1コーナーにかけた争いが見渡せる「RESERVOIR STAND」
撮影に夢中になるとみんな立ち上がります
他のスタンドが空いていても、この一角だけは混みます
「RESERVOIR STAND」最上段から撮影すると、フルサイズセンサー機(Canon 1DX EF70-300mm)の300mmではこのくらいのサイズで写ります

ピットワークはチェックできるが、撮影には不向きな「GRAND STAND A」と「GRAND STAND B」

「GRAND STAND B」のチケットは座席が指定されていた

 観戦については好みの問題ですが、撮影には不向きと言えるのがグランドスタンド席です。1コーナーへの進入に備えて観客席側にラインをとるマシンが多いので、手前にあるフェンスで少々見にくい場所になります。ただし、上段の席は各マシンのピットが見渡せるので、レース中のピットワークなどが好きという人にはよい席かもしれません。ちなみに、練習走行日のチケットにも座席指定が表記されていましたが、空いていたので席を移動しても係員からとくに注意されるようなことはありませんでした。価格は「GRAND STAND A」が予選・決勝日ともに550HKD(約7150円)、「GRAND STAND B」が予選・決勝日ともに660HKD(8450円)。どちらも練習走行日は50HKD(約650円)。

ホームストレートを見渡せるGRAND STAND A~B
コースの先にあるピットエリアでの作業もチェックできます
同じくCanon 1DX EF70-300mmの300mmで撮影した1枚
最後列で撮影していると、すぐ背後が貯水池となっていてちょっと怖かったり
手にスタンプを押してもらうと会場の出入りが自由になるシステムです
左コーナーに向けて手前側のラインをマシンが走るので、最後列でも車両の下側が隠れてしまうことが多く、なによりフェンスが目障りです。Canon 1DX EF70-300mmを使って81mmで撮影

クラッシュ頻発。最もマカオGPらしいカジノ街にある「LISBOA STAND」

予選・決勝日は900HKDという最も高価な観戦場所

 長いストレートから直角に曲がる“クラッシュの名所”として知られる名物コーナーがあり、スリルを期待するならこの場所でしょう。マカオを代表するホテル・リスボア/グランド・リスボア・ホテルの名前を冠したカジノ街にある観戦スタンドが「LISBOA STAND」です。ただし、今回のレースでは大きなクラッシュは起きませんでした。チケットは予選・決勝日ともに900HKD(約1万1700円)と最も高価で、観客のテンションも最も高く感じました。ただ、ストレートを疾走してくるマシンはちょっと見づらく、90度コーナーから次のコーナーにかけたマシンのバトルを観戦できるものの、そのいずれもが後ろ姿というのは少し残念。最上段あたりからは撮影も可能ながら、やはり写るのはマシンの後ろ姿が中心となります。なお、こちらも練習走行日の料金は50HKD(約650円)。

「LISBOA STAND」最上段からの眺め
路面に残るタイヤのブラックマークがこのコーナーの性格をよく表している。なかにはアウト側のタイヤバリアまで続いているタイヤ痕も
コースと平行にスタンドが用意されているので、ストレート側はそれほど見やすくありません
コース脇に建つスタンドの名前の由来ともなった「ホテル・リスボア」
マカオを代表するビルの1つ「グランド・リスボア・ホテル」
写真右側が「LISBOA STAND」
全てバックショットとなってしまう「LISBOA STAND」での撮影。Canon 1DX EF70-300mm(300mm)

 以上、全ての観客席をチェックしてきましたが、おすすめは観戦、撮影ともに「RESERVOIR STAND」だと感じました。仮に練習日からマカオ入りできるのなら、50HKDと料金も手ごろなので各スタンドをはしごして、それぞれの雰囲気を楽しんでみるのもよいでしょう。

市街地レースならではの光景

 長い歴史があるとはいえ、やはり普段は一般道として使われている道路を封鎖して行われる公道レースということで、仮設サーキットならではといえる独特の風景をお伝えしましょう。

「MELCO HAIRPIN(メルコヘアピン)」

 マカオGPで有名なコーナーがこの「メルコヘアピン」。観戦スタンドは設置されていませんが、道路脇で観戦する人もチラホラ。そもそもコース自体が一般道なので、こういうシチュエーションはほかでもたまに見かけるのです。至近距離までは近寄れませんが、レースの雰囲気は十分に楽しむことができます。

コンパクトに回りこむ「メルコヘアピン」。報道関係者専用スペースから撮影
少し離れた一般道からレースを観戦するファンたち
撮影している人の姿も少なくありません

 あまり大きな声でおすすめはできませんが、そこかしこにコースを垣間見える場所が存在し、市街地を使った特設コース独自の雰囲気が街のあちらこちらで散見できます。また、コース上でリタイアしてしまったマシンが普通にレッカー車に載せられて、市街地の一般道をパドックまで運ばれるなんて光景も市街地レースならではのシーンですね。

意外な場所からコースが見下ろせることも
路地を行き交う人のすぐ脇をレーシングカーが走り去っていく
金網越しに子供連れで観戦してたり……
プロとアマチュアのカメラマンが一緒に撮影するという一幕
コース上でクラッシュしたマシンは一般道を通過してパドックまで向かう

観戦の合間や観戦後には無料のミュージアムにも出かけてみよう

 観戦のついでに、グランドスタンドから徒歩10分弱の場所にある「GrandPrix Museum」に足を運ぶのもおすすめです。入場無料ながら内容は充実していて、マカオGPの歴史に触れておけばレース観戦が一層楽しいものになるでしょう。

マカオGPの歴史を無料で学べる「GrandPrix Museum」
A.セナのレーシングスーツとマシン
R.パトレーゼ
D.クルサード
M.シューマッハー
佐藤琢磨
グランプリを制してきたF3マシンの数々を一堂に展示
F3は2012年に開催30周年を迎えた
AE86レビン&カリーナE(日本のコロナ)

 マカオGPの歴史の中でも中核となるF3は今年で31年目。このレースから多くのF1ドライバーが生まれてきたわけですが、ミュージアムに展示されているF3マシンのフロントスポイラーなどには大きく「YOKOHAMA」の文字が入っており、アイルトン・セナをはじめ、F1にステップアップした名ドライバーたちがヨコハマタイヤを使って戦ったことは日本人として感慨深いものがあります。今年も新しいチャンピオンが生まれ、この街のグランプリの歴史が重ねられていくのです。

 1日のレーススケジュールが終わるとコースは開放されて一般道となります。少し前までF3をはじめ多くのレースマシンが戦っていた舞台を、タクシーに乗ってホテルに向かう車中ではなんとも言えない不思議な気分が味わえました。

タクシーの窓の外に見えるのはまさにグランプリコース!
レースが終われば「LISBOA STAND」の前も一般道。レース中とは逆方向に一般車が走っていることも印象的

 さて、紹介してきた市街地レース「マカオGP」はいかがでしたでしょうか? 昔はこのような感じで一般道を使って競い合っていた自動車レースが、そこからレース専用のサーキットに舞台を移したり、そのままラリーという形で公道競技として残ったり、さまざまなスタイルに枝分かれしながら現代のモータースポーツの姿に発展してきたのだろうと自然に思えてきます。そんな“自動車レースの原点”を見るような気分にさせてくれる、歴史あるマカオGPの4日間は、日本では決して味わえない新鮮な体験になりました。レースに興味がある人は1度観戦に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 そして、いつか自動車大国である日本でも、街の風景に溶け込んだこんなレースが開催される日が来ることを願ってしまいます。

(高橋 学)