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トヨタ TS040-HybridがWEC開幕戦でワンツーフィニッシュ

 スポーツプロトタイプカーとGTカーで争われる耐久レースの世界選手権となるFIA WEC(FIA World Endurance Championship、FIA世界耐久選手権)の開幕戦が、4月20日(現地時間)にイギリスのシルバーストーンサーキットで開催された。

 WEC(ウェック)の愛称で知られるこのスポーツプロトタイプカーレースは、6月に第3戦として行われる、世界3大レースの1つであるル・マン24時間レースを頂点としたシリーズになる(残り2つはF1モナコGPとインディ500)。10月10日~12日には富士スピードウェイにおいてWEC第5戦が開催される予定で、日本のファンにとってはF1、WTCCとともに日本でもレースが行われる馴染みが深いシリーズだ。

 その開幕戦となったシルバーストーン6時間レースでは、トヨタ自動車がワークスとして走らせるトヨタ TS040-Hybridが、8号車、7号車の順でワンツーフィニッシュを飾り、トヨタ悲願の初優勝、そして日本メーカーとしては1991年のマツダ以来の優勝を狙うル・マン24時間に向けて幸先のよいスタートを切った。

アウディ、トヨタに加えて、ポルシェも参戦して注目度が格段に上がったWEC

 この2年間のWECは、アウディとトヨタがワークス参戦し、文字通り両メーカーのマッチレースとなってきた。WECはLMP1(LMP=ルマンプロトタイプ)、LMP2、GTE Pro、GTE Amという4つのカテゴリーが併走するレースだが、総合優勝を争うのはLMP1で、そこは事実上アウディ、トヨタという2つのメーカーの競争となっていたのだ。

 ここ2年の結果は、WECのタイトルも、そしてWECのタイトル以上に価値があると考えられているル・マン24時間の総合優勝もアウディが獲得してきた。その背景の1つに、トヨタは予算が限られた中での参戦となっており、アウディがル・マンでは3台体制、WEC通年では2台体制だったのに対して、トヨタはル・マンで2台体制、WEC通年では1台体制と、体制面での差があった。しかし、今年はトヨタも通年で2台体制で走らせることを明らかにしており、トヨタの悲願とも言えるル・マン24時間レースの総合優勝に向けて力が入っている。なお、トヨタの体制は7号車にアレックス・ブルツ/ステファン・サラザン/中嶋一貴、8号車にセバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/ニコラス・ミナシアンという、いずれもF1を経験したことがある強力なドライバーラインアップを揃えている。

 そんなトヨタに立ちはだかるのは、言わずもがなここ2年のWEC、ル・マン24時間の王者となっているアウディだ。アウディは、2000年代前半からル・マン24時間に本格的に参戦しており、ここ14年のうち12回で優勝を飾るなど圧倒的な強さを誇っている。今年も昨年のチャンピオンであるトム・クリステンセン/ロイク・デュバルの2名に、引退したアラン・マクニッシュの替わりにルーカス・ディ・グラッシ(2010年にバージンF1からF1に参戦していたドライバー)を加入させた1号車、日本でもお馴染みのアンドレ・ロッテラー/ブノア・トレルイエ/マルセル・ファスラーという2012年のチャンピオントリオの2号車の体制でWECに参戦。

 そして、今年新たにWECに参戦し、トヨタのライバルとなるのがドイツのポルシェだ。説明する必要もないぐらい有名なドイツのスポーツカーメーカーであるポルシェは、スポーツプロトタイプカーには昔から熱心に取り組んでおり、ル・マン24時間では16回優勝という実績を誇っている。かつ、今年参戦するうちの1台である20号車には、昨年F1から引退したばかりのマーク・ウェバーが乗っており、ドライバーの実力も充分で、いきなりチャンピオンになる可能性もあると考えられている。

 こうしたトップカテゴリーであるLMP1は、メーカーにより方式の違いがあるものの、いずれもハイブリッドカーになっており、トヨタのTS040-Hybridは、V型8気筒3.7リッターの自然吸気エンジンにブレーキ減速時に回生されるエネルギーをキャパシタに蓄積し、加速時にパワーアシストとして利用することができる。TS040-Hybridがユニークなのは、このハイブリッドシステムを前輪、後輪の両方に搭載していることだ。

 なお、ハイブリッドの方式による性能の違いは、性能調整(BOP)により吸収するとされており、すでにシーズン前のテストでアウディ、トヨタ、ポルシェに対してBOPが設定されている。このBOPではハイブリッドシステムが利用できるエネルギー量を規定しており、すでに設定されたBOPは第3戦のル・マン24時間まで有効になる。

雨模様となったシルバーストーンをノーミスで戦い続けたトヨタ

 その開幕戦となったシルバーストーンは、雨に翻弄されたレースとなった。スタートして1時間ほどして降り出した雨で、トヨタチームの2台(7号車、8号車)はちょうど予定していたピットストップのタイミングだったこともあり、ピットに入りタイヤを交換。この時7号車はインターミディエイト用タイヤに、8号車はある程度雨中にも対応できるスリックタイヤに交換すると作戦を分ける余裕を見せ、結果的にドライタイヤに戻す必要があった7号車が2位に、タイヤ選択が当たった8号車が首位を独走する展開となった。

 これに対してライバルのアウディは、1号車、2号車ともにスリックタイヤのままで走らせることを選択し、1号車が24周目に、2号車も94周目にスピンアウトによるクラッシュでレースを終えることになってしまった。王者アウディとは思えないドタバタは、事前に設定されたBOPがアウディにとって厳しいものになっており、その結果としてドライバー達がかなりプッシュしないとトヨタと互角に戦うのが厳しいという事情もあると考えられている。つまり、王者アウディにも昨年ほどの余裕がないということだ。

 アウディ2台が消えた後はトヨタの楽勝かと思われたが、ポルシェの20号車(ティモ・バーンハート/マーク・ウェバー/ブレンダン・ハートレー)が2番手を走る7号車との差を詰め始めた。それでも最終スティントで中嶋一貴に交代すると、再び7号車がポルシェとの差を引き離し始め、結局レースは残り30分を残して豪雨により赤旗終了となった。

 その結果、優勝はセバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/ニコラス・ミナシアンの8号車トヨタ TS040-Hybrid、2位はアレックス・ブルツ/ステファン・サラザン/中嶋一貴組の7号車トヨタ TS040-Hybridで、3位は20号車ポルシェ919 Hybrid。なお、日本メーカーがWECがワンツーフィニッシュを飾ったのは、1985年に豪雨の中の富士スピードウェイで行われたWEC in Japanにおいて、日産自動車がワンツーフィニッシュを飾って以来となる(なお、厳密に言えば2台ともニッサンワークスのエントリーではなく、プライベートチームでのエントリーでニッサンエンジン搭載という形)。

 また、LMP2に香港のKCMGから参戦していた日本の松田次生/リチャード・ブラッドレー/マシュー・ホーソン組のオレカ・ニッサンは、松田次生がドライブしている時にはトップを独走していたが、ドライバー交代後にピットレーンの速度違反のペナルティなどを科せられ2位に後退。そのままゴールを迎え、みごとに2位表彰台を獲得した。

 WECの第2戦は5月3日にベルギーのスパ・フランコルシャンで行われるスパ・フランコルシャン6時間レースが予定されており、中嶋一貴はレギュラーのSUPER GTを欠席してこちらに参戦する予定になっている。例年スパでのレースがル・マン24時間の前哨戦とされており、悲願のル・マン初優勝を目指すトヨタとしては、開幕戦に続いてこのレースでもよい結果を残してル・マンにつなげたいところだ。

WEC開幕戦の優勝はセバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/ニコラス・ミナシアンの8号車(トヨタ TS040-Hybrid)、2位はアレックス・ブルツ/ステファン・サラザン/中嶋一貴組の7号車(トヨタ TS040-Hybrid)、3位はティモ・ベルンハルト/マーク・ウェバー/ブレンドン・ハートレーの20号車(ポルシェ919 Hybrid)

(笠原一輝)