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「CAN-Gateway ECU」改め86(ハチロク)用「スポーツドライブロガー」を体験してみた

グランツーリスモ6で楽しめる富士スピードウェイでの走行データを公開

富士スピードウェイを走行する「スポーツドライブロガー」を装着した86

 トヨタ自動車は小型スポーツカー「86(ハチロク)」を一部改良し、6月2日から発売することを4月に発表。ほぼ同時期に発表され、やはり6月2日から発売されるのが86用の「スポーツドライブロガー」(9万1800円)。86に取り付け、86の走行データを収集できるというものだ。収集したデータは、プレイステーション3(以下、PS3)用ドライビングシミュレータ「グランツーリスモ6」で再生でき、ドライビングを分析できるとのことだ。

 このスポーツドライブロガーの体験会が富士スピードウェイにおいて開催されたので、ここにお届けする。

「CAN-Gateway ECU」改め「スポーツドライブロガー」

 このスポーツドライブロガーは、以前CAN-Gateway ECUとして開発発表されたものが、実際の製品として登場するものとなる。

●トヨタ、リアルをバーチャルへ展開する86用「CAN-Gateway ECU」説明会&試乗会
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120905_557524.html

 その仕組みは、旧来の名称「CAN-Gateway ECU(Controller Area Network-Gateway Electronic Control Unit)」から分かるようにクルマの中でやり取りされているCAN信号を電子ユニットを経由して取り出すもの。CAN信号を単純に取り出すのではなく、専用のGPSユニットの信号と合わせて記録している。

 製品版のスポーツドライブロガーだが、開発発表版のものから大きな変更点はない。CANと接続し記録する信号を作り出す本体ユニット、GPSユニット、86のセンターコンソールに取り付けるスイッチ、記録媒体となるUSBメモリを取り付けるUSBケーブルなどから構成されている。

「スポーツドライブロガー」一式
GPSユニット
USBメモリなどを装着するUSBケーブル
センターコンソールに取り付けるスイッチ
本体。共同開発社であるデンソーのロゴが見える
コネクタ部分

 今回の取材会はGAZOO Racingが主催する「スポーツドライビングレッスン」の中で行われ、午前中はスポーツドライビングレッスンを見学、午後は富士スピードウェイを走行してスポーツドライブロガーのデータ取りを実施。スポーツドライビングレッスンの中で、スポーツドライブロガーを紹介するコーナーがあったのだが、そこでは筆者のログデータと、GAZOO Racing 86/BRZ Raceで活躍するプロドライバーの蒲生尚弥選手のデータの比較などを行った。

データドライブロガーを取り付けた86。スイッチはセンターコンソールに、USB端子はグローブボックスに、GPSアンテナはダッシュボード上に

 筆者は富士スピードウェイの本コースを走るのは2012年の取材会以来、約2年ぶりの経験だ。自動車媒体の仕事をしているが、普段レースをしているわけではなく、毎日記事などを書いて皆さんにお届けしている。と、伏線をビシバシ入れつつ、富士スピードウェイを走ってみた。

 スポーツドライブロガーの使い方は簡単で、あらかじめUSBケーブルにデータを記録したいUSBメモリを接続。その後。センターコンソール下部に設置された専用スイッチを押すとシステムがスタンバイ状態へ移行。スタンバイ状態から専用スイッチをもう一度押すとデータの記録が始まる。終了時も専用スイッチを押せばOKだ。スタンバイ→記録→停止の3つの状態を遷移するスイッチになっている。

 走行はアウトラップ→タイムアタック→インラップという形式で行った。スポーツドライブロガーにはGPSが取り付けられており、その位置精度を確認するため、アウトラップとインラップでは意図的にコースサイド近くのラインを走行。異なる走行ラインがデータに反映されるよう走行している。

ラインを変えて走行中。データへの反映具合を確認した

 走行後データはトヨタスタッフによって回収され、GAZOO Racing スポーツドライビングレッスンの受講者とともにデータの解説が行われた。データの解説を行ってくれたのは、グランツーリスモの開発会社であるポリフォニー・デジタルの竹藪英樹氏。自身もドライビングライセンスを持っており、レースなどは好きだという。

 グランツーリスモ6はソフトウェアアップデート(1.06)をインストールすれば、このスポーツドライブロガーのデータが再生可能となり、走行ラインの再現のほか、車速、エンジン回転数、アクセル、ブレーキ、ステアリング操舵角、前後左右輪の回転数、前後左右G(加速度)などが表示できる。走行ラインの再現では、自分の走行ラインがグランツーリスモ6のリプレイ画面と同様に表示され、走行データをゴーストデータとして競争も可能。これはこれで楽しいのだが、やはり自分の走行ログを手軽に再現でき、さらに走行ログの比較までできるのは驚くばかりだ。

 このデータ比較解説はポリフォニー・デジタルの竹藪氏が行ったが、その際に使用されたのが、先述したように筆者のデータと、“GAZOO Racing 86/BRZ Raceでの優勝経験もある”蒲生尚弥選手のデータ。筆者は2分27秒961で、蒲生選手は2分8秒499で富士スピードウェイを走行した際のデータだった。

 この重ね合わせデータを見てみると、蒲生選手の素晴らしさと、筆者の下手さが一目瞭然で分かる。ちなみに蒲生選手は6速MTでの走行、筆者は6速ATでの走行となるのだが、アクセル、ブレーキの踏み方が圧倒的に異なる。蒲生選手はアクセルを踏むときは勢いよく全開に、閉じるときは全閉にというメリハリの効いたアクセルワークを行っているのだが、筆者は探りながらのアクセルワークとなりなんともぬるい感じ。もちろんブレーキも同様で、筆者はゆるゆると探りつつ踏む(タイヤがグリップを失わないようにね)のに対し、蒲生選手はビシッビシッと踏んでいる。下の画面の水色のラインが筆者で、白いラインが蒲生選手。右上のサブ画面からプリウスコーナーから最終コーナーへかけてのデータだと分かるが、とくにアクセルの部分で差が大きくなっているのが分かるだろう。

プリウスコーナーから最終コーナーへかけてのデータ

 また、右下のGメーターを見ると、蒲生選手はきれいに加速度を出しているのに対し、筆者はふらふら加速度が加わるのが分かる。下記のリンクから筆者のデータをダウンロード可能としているので、グランツーリスモ6をお持ちの方はデータを一旦USBメモリに保存して、PS3+グランツーリスモ6に読み込ませてみていただきたい。富士スピードウェイの走りの参考にはまったくならないが、どのようなデータが取得されているのかが分かるはずだ。

 なお、配布の関係上ファイルをZIP形式で圧縮している。展開後にできる「20140415135604.DAT」が実際のファイルとなるので、PS3+グランツーリスモ6には、そのDATデータを読み込ませてほしい。

●筆者の走行データ(再生にはPS3+グランツーリスモ6が必要)
http://car.watch.impress.co.jp/video/car/docs/649/733/20140415135604.zip

富士のドライビングのポイントを解説する蒲生選手
その蒲生選手のデータと筆者のデータを比較解説する竹藪氏。その結果“やられメカ”同然となった筆者の走行データ。「あー、ここがブレーキ遅いですね~」「びびってますね~」とか容赦のないコメントが飛んでいた
1コーナーのデータ
これはコカ・コーラコーナーのデータ

 ログデータの精度は、なかなか難しい部分があるという。竹藪氏によると、データは25ミリ秒ごとに記録(つまり40Hz記録)され、そこに10Hz測位のGPSデータが加わって構成されている。車速、エンジン回転数、アクセル、ブレーキ、ステアリング操舵角、前後左右輪の回転数、前後左右G(加速度)などはCANデータをベースに生成されており、位置データはGPSデータをベースに生成されている。

 GPSによる位置データは、カーナビなどに詳しい方はご存じのように位置精度に問題がある場合が多い。カーナビではマップマッチングやジャイロによって精度補完をしているが、このスポーツドライブロガーはどのように解決しているのだろう。竹藪氏に確認すると、「確かにGPSの位置データの精度はよくありませんが、変化量を示すデータは意外と正確なのです」とのこと。つまり、1秒間に10回ほど生成される位置の変化量(どこどこの方向に、○○mといったベクトルデータ)は信頼できるとのこと。そこでグランツーリスモ6では、この位置の変化量(Δ)を積み重ねて(Σ)位置を算出している。

 しかしながら、このように小さなデータを積み重ねていくと、小さな誤差が積み重なることでの誤差も発生する。これについての解決法として簡単に思いつくのは、ある時間で誤差を補正しに行く、ある距離で誤差を補正しにいくというロジックだが、グランツーリスモ6では「独自のノウハウに基づき、サーキットに合わせて誤差を補正しています」(竹藪氏)とのこと。つまり、補正ポイントはサーキットごとに設定されているとのことだ。

グランツーリスモ6を楽しむ井口選手。蒲生選手のデータから生成されたゴーストカーを追いかけることも可能だ

 このようなロジックで位置補正されているため、スポーツドライブロガーはコース外を走行した場合に若干データが暴れてしまう。筆者のダウンロードデータを見ていただければ、アウトラップやインラップにその暴れが見られると思う。この辺りはGPSデータの精度をどう再生データに反映するかという課題となるが、スポーツ走行に使う、友達と走りの比較をするといった用途では問題のない範囲だろう。

 このような補正をしっかり行う必要があるためか、現時点でグランツーリスモ6で再現可能なコースは、拡大がアナウンスされているものの富士スピードウェイ・国際レーシングコース、筑波サーキット・コース2000、鈴鹿サーキット・国際レーシングコースの3つになる。ログデータ自身は汎用性を考えて作られていることが予想されるため、今後の対応アプリの登場に期待したい。

GAZOO Racing スポーツドライビングレッスン

 今回の取材会はGAZOO Racingのスポーツドライビングレッスンの空き時間を使って行われたのだが、このスポーツドライビングレッスンの充実度が高いのにも驚かされた。

 GAZOO Racingでは、ワクドキドライビング!とスポーツドライビングレッスンを実施。ワクドキドライビング!はサーキットを初めて走るような人に向けたプログラムで、走行ルール、ドライビング基礎講座、シートポジション講習に始まり、インストラクターの先導走行や同乗走行を用意。もちろん、自分の愛車でサーキットを走行することができる。

 一方、スポーツドライビングレッスンはワクドキドライビング!の上級版となり、取材日は午前中にジムカーナコースで基礎レッスンを行い、午後はインストラクターによる講習と、富士スピードウェイの走行がそれぞれ3セット組まれていた。講習→走行→講習という流れになっており、そこでインストラクターに疑問点を確かめることができたり、基礎的なサーキット走行のポイントを学べる。

 取材日のインストラクターは、SUPER GTでトムスチームの監督を務める関谷正徳氏やSUPER GT300クラスにBRZで参戦する井口卓人選手、影山正彦選手、前述の蒲生選手など非常に豪華なメンバー。この豪華なインストラクターらから走りについて教わることができ、講習では深い経験から導かれたドライビング理論を学べる。

富士スピードウェイのスタッフから基本的な走行ルールについて解説
インストラクターの紹介。右から関谷監督、井口選手、蒲生選手
午前中はジムカーナレッスン。クルマの基本的な動きを覚える
運転方法について語る関谷監督。井口選手はお手伝い
ジムカーナレッスンには影山選手も参加
井口選手のドライビングを同乗体験できる

 取材日の講習では、関谷監督がステアリングホイールの握り方について説明しているのを目にすることができた。関谷監督によるとステアリングホイールを握る際は、9時15分の位置に手の甲を手前に向けるように置くとよいとのこと。これにより、手の甲を側面に向けた場合に比べステアリングホイールを握り替えずにすむ可動域が増え、ステアリング反力に対しても対応しやすくなるという。そのほか、ちょっとしたコツなどを独特の語り口で教えてくれる。筆者も知識として知っていることはあったが、ル・マン24時間レースの覇者が語ると説得力が違う。優しげな口調でありながら重みのある経験談は、スポーツドライビングレッスンの参加者にとっても収穫だったのではないだろうか。

ル・マン優勝ドライバーから運転を学ぶことができ、一人のクルマ好きとして会話できるのは楽しいことに違いない

●GAZOO Racing ワクドキ ドライビング!/スポーツドライビングレッスン
http://gazooracing.com/detail/506683

イベントを訪れていたGAZOO推進室室長 柴尾嘉秀氏

 GAZOO推進室室長 柴尾嘉秀氏は、このようなレッスンによってクルマの楽しみ方を広めていきたいとのこと。GAZOO Racingではニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦や全日本ラリー参戦などを行っているが、こうした取り組みもその一環となる。

 86用スポーツドライブロガーが普及することで期待されるのは、クルマの運転がインターネットでやりとりできるようになること。実際筆者のぬるい走行データもこうやって世界中に配信できるわけだ(必要としている人はほとんどいないと思うが)。例えば自分のベストラップと、友達のベストラップを比べることができ、「あのコーナーの突っ込みが~」とか「このコーナーのラインが~」という会話を具体的なデータを元に交わすことができるようになる。さらに、そのデータをゴーストデータとしてゲーム中でも楽しめる。

 スポーツドライブロガーに対応するアプリは今後も増えていくことが予想され、新しい楽しみ方がユーザーの手によっても開発されていくだろう。86のオーナーであればスポーツドライブロガーを取り付け、ワクドキ ドライビング!やスポーツドライビングレッスンに参加してみるというのもありだろう。

(編集部:谷川 潔/Photo:安田 剛)