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ソーラーカーレースにおける日米の学生トップチームが討論会を実施

酷暑のレースを戦い抜くチーム作りの秘訣とは?

日米のソーラーカーレースチームが討論会を開催
2014年6月27日開催

 世界のソーラーカーレースでトップレベルの成績を残している東海大学と米ミシガン大学は6月27日、それぞれのチームの代表メンバーによる討論会を開催した。レースに対する取りの姿勢や大学生活とのバランスの取り方など、日米で考え方の異なる部分もありながら、レースにかける情熱、チーム編成の仕方といった部分でトップチームならではの共通点も垣間見えた。

会場に展示されていた東海大学製作の2013年型ソーラーカー「Tokai Challenger」

技術向上だけでなく社会貢献も目標に掲げる東海大学

「世界一のソーラーカーを目指して~日米の大学トップチームに見るチーム・ビルディングの最先端~」と題されたこの討論会では、東海大学とミシガン大学の代表者2名ずつが出席。最初に東海大学で2013年度のチーム代表を務めた大久保亮佑氏とドライバーの坂井達哉氏が、これまでの同大学の軌跡を映像も交えて紹介。世界で開催されているソーラーカーレースの概要についても解説した。

東海大学のチーム代表を務めた大久保亮佑氏
同チームのドライバー坂井達哉氏

 ソーラーカーレースで最も代表的なレースは、2年ごとにオーストラリアで開かれている「World Solar Challenge」。オーストラリア大陸を縦断する約3000kmの距離を走行してトップを争うというこのレースで、東海大学は2009年と2011年に総合優勝。2013年は惜しくも準優勝となった。また、2008年から2年おきに南アフリカで開催されている「South African Solar Challenge」にも参加しており、これまで3回とも総合優勝を飾っている。

World Solar Challengeはオーストラリアを縦断する3000kmがレースの舞台
5000kmを走破するSouth African Solar Challengeにも参加して3連覇を達成している
2011年型のソーラーカーはタカラトミーからトミカとしても販売中

 同チームは1992年に発足し、「挑戦・技術・適応力・社会貢献」の4つを目標に活動を続けている。優勝を目指すのはもちろんだが、チーム車両に採用する日本企業の最新技術をアピールすること、技術から広報活動まで含めた適応力を磨くこと、ソーラーカーレースで得た知識などを社会に還元することなども合わせて行っている。東海大学にはソーラーカーだけでなく、電動自動車(EV)や人力飛行機を製作しているチームもあり、それぞれのチームと交流しながら自らの技術を高めているという。

 東海大学が製作するソーラーカーは、パナソニックによるHIT太陽電池モジュールや東レ・カーボンマジックと共同で開発した炭素繊維ボディーなどを採用し、軽量・ハイパワーに仕上げている。最高速は100km/hを優に超え、2011年は平均速度でも91.54km/hを達成。2013年はレギュレーション変更で3輪仕様から4輪仕様になったことで速度が落ちたものの、それでも平均82.54km/hで走り抜けた。

ビジネスライクにプロジェクトを進めるミシガン大学

 ミシガン大学は、チームマネージャーのパバン・ナイク氏と、エンジニアディレクターのアーノルド・カディウ氏が出席。同チームは1989年に設立され、翌年の「American Solar Challenge」でいきなり優勝を果たすと、World Solar Challengeでも3位になった。その後も数々のレースで上位の成績を収め、電力を集中管理するシステムをボーイング社とともに開発して特許を取得するなど、華々しい成果を上げている。

ミシガン大学のチームマネージャー パバン・ナイク氏
同エンジニアディレクター アーノルド・カディウ氏

 東海大学と同様に、ソーラーカーを走らせるためのメンバーは全員学生。マシン設計、デザイン、マーケティング、企業からの資金調達や技術協力の要請まで、全てを自分たちで行っている。車両をレース開催地まで運ぶロジスティクスを担当するスタッフも存在するとのこと。スポンサーにはフォード、GM、シーメンスといったそうそうたる企業が並ぶ。

マシン開発のプロセスは「ニーズ」から始まる

 車両開発のプロセスについても解説された。同チームでは最初にライバル車両の利点・欠点のほか、パワー・重量・バッテリー容量といった数字を調べ上げ、それに対して自分たちの優れている点、劣っている点を分析。これまでのトレンドやデータも考慮に入れながら、次に勝つために必要な要件を整理していく。

 物理的な車両の要件が決まったら各種コンポ―ネントの設計を行い、組み立て、動作検証へと進む。車両の完成後にはレースクルーとなるコアメンバーを選出。当初参加するメンバーは60人以上になるが、その中から面接などによって20人のコアメンバーに絞り込む。本番のレースでは長期に渡って気温の高い国外に滞在するため、その気候や自国から離れることのストレスに耐えられるかどうかといった面を考慮して決定するという。

 レース前にはメディアへの露出も積極的に行う。2013年には「New York Times」「CNET」「WIRED」など50ものメディアに取り上げられ、チームのPRとスポンサーへのアピールを効果的に行っていることも報告した。

60人以上いるメンバーから20人のコアメンバーを選出する
メディアへの露出は欠かさない

酷暑の環境にも耐えられるメンバーをそろえる

モデレータのウィリアム・H・齋藤氏

 両大学の自己紹介のあとは、モデレータとして参加した米国の起業家ウィリアム・H・齋藤氏が双方に質問していく形で進行した。

「ソーラーカーレースで得たものを、今後どう活かしていくのか」という質問に対して、東海大学の坂井氏はトヨタ自動車に就職が決まったことから、ソーラーカーの研究を進めていきたいと宣言。大久保氏は大学院に進学し、燃料電池(FC)の研究を通じて社会に貢献していきたいと話した。

 ミシガン大学の2人はレース活動のために1学期休むことになるため、ほかの学生とは就職活動のペースは異なるとしたが、ナイク氏はレースを通じてさまざまな経験ができることを強調。多様性を大切にし、いろいろな文化や知識を共有できる場所に行きたいと話した。カディウ氏もレースを通じて、なにかを成し遂げるためには多くの人の協力が必要であることを学んだと語り、教室で勉強しているだけでは得られない大きな価値があると断言した。

 ミシガン大学のチームではレース前にメンバーを60人以上から20人に絞り込むが、メンバー全員が友人でもあることから選考のための面接がつらいという心情も吐露。ときにはその人の欠点をどう改善していくか質問する必要にも迫られるため、チームをまとめることの難しさを実感することもあったようだ。

 一方、東海大学ではチームメンバーの募集でとくに制限をかけていない。役割分担についても基準はなく、1年生時にさまざまな仕事を任せて知識を付けてもらうとともに、自分がやりたいことを自ら決めてもらう形にしているという。ただ、ミシガン大学と同じように、酷暑の環境で作業できるかどうかといった面や、経済的な負担が少なくないことも考え、チームメンバーとして参加させるか判断する場合もあるという。

 リーダーの決め方について質問すると、東海大学では経験の有無と作業時間を取りやすいことから基本的に3年生の中から決めるとしたが、ミシガン大学ではパフォーマンスとリーダーシップが重要であり、場合によっては1年生から選ぶこともあるとのこと。

 それぞれの大学で困難だった点についての回答でも異なる部分があった。東海大学は新しいマシンを作るたびにレベルアップしていけるかが一番の課題。とはいえ、チームから脱退するメンバーは1年に2割ほどとさほど多くはないようだ。卒業して就職した人や大学院に進学した元メンバーと連絡を取ることが比較的容易で、協力も得られやすいとした。

 しかし、ミシガン大学の場合は人の出入りが非常に激しく、毎年8割から9割のメンバーが入れ替わる。2013年に至っては4~5%程度しか残っておらず、そのためノウハウをバトンタッチしていくのが困難。現在は次のチームがマニュアルとして使えるよう、さまざまな記録を残していると話した。

両大学ともソーラーカーの将来を冷静に見る

 このほかに会場から、最近になって米テスラモーターズが特許技術をオープンにすると発表したが、同社の技術がソーラーカーにどんな影響を与えるかという質問も飛んだ。

 ミシガン大学の2人は、市販車は何万kmも走らなければならないものであり、テスラがオープンにした技術のなかにそういった走行信頼性を高めるものがあるかもしれないと期待感を示したが、一方で「あの狭い車中に1日中乗っていたくない」と、率直にソーラーカーの実用性について疑問を呈した。将来的にはソーラーパネルと別のクリーンエネルギーをミックスするなど、複数のエネルギーを組み合わせた自動車が主流になるのではないかと予測した。

 自動車メーカーが自らソーラーカーを開発してレースに参加しなくなったことについてどう思うか、という質問もあった。東海大学の2人は水素で発電する燃料電池自動車(FCV)をトヨタが発表したことに触れ、ソーラーとは異なる別の代替エネルギーの採用に進んでいるのではないかと考察している。

 ミシガン大学の2人は、自動車メーカーが“今”よりも“未来”に投資したいと考えているのではないかと分析。実際にメーカーから聞いた話として、学生チームをサポートした方が学生により多く学んでもらう機会ができ、自動車関連メーカーに就職する可能性も高まるという期待があることを明らかにした。

 最後にはお互いのチームの印象について語り合った。ミシガン大学の2人は双方のチーム編成の仕方が似ていることや、教育制度の違いが興味深かったと話した。東海大学の2人はミシガン大学の広報アピールの方法が優れていると感じたと話し、「いい情報が得られたので参考にしたい」と、次の世代に引き継ぐアイデアをしっかり得ていたようだった。

(日沼諭史)