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東海大学、「ワールド・ソーラー・チャレンジ 2013」参戦体制発表会
2013年型ソーラーカー「Tokai Challenger」で3連覇を目指す
(2013/8/28 00:00)
東海大学チャレンジセンター・ライトパワープロジェクト・ソーラーカーチーム(以下、東海大学ソーラーカーチーム)は8月27日、東海大学で「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ 2013」の参戦体制発表会を開催した。
ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ 2013は、10月6日~13日にオーストラリアで開催される世界最大級のソーラーカーレースで、ダーウィンとアデレード間約3000kmを走破する。隔年で開催されており、東海大学ソーラーカーチームは、2009年、2011年と2連覇。今年は3連覇を目指すとともに、世界大会を5連覇中であることから、その連勝記録も6に伸ばそうとしている。
参戦体制発表会には、東海大学 副学長 山田清志氏、東海大学チャレンジセンター 所長 梶井龍太郎氏、東海大学 工学部電気電子工学科 教授 木村英樹氏、東海大学ソーラーカーチーム学生代表 工学部動力機械工学科 3年次生 大久保亮祐氏のほか、HIT太陽電池とリチウムイオンバッテリーを供給するパナソニック エコソリューションズ社 エナジーシステム事業部 ソーラービジネスユニット長 吉田和弘氏、ボディーに使われるカーボンを供給する東レ 常任理事 自動車材料戦略推進室長 胡谷一路氏が出席。大会への参戦意義や車両概要が説明された。
山田副学長は、東海大学の創立者 松前重義氏の建学の精神の1つである「天然資源に恵まれない日本が世界に貢献していくには、独創的な技術開発による科学技術立国の道を歩むほかはない」を引き、ソーラーカーによる世界戦へのチャレンジが建学の精神に合致したものであると紹介した。
ソーラーカーによる参戦は、学部主体ではなく、学部横断的なプロジェクトを推進する東海大学チャレンジセンターの活動の一環として行われている。東海大学チャレンジセンター 梶井所長は、このプロジェクトが学生の自由な発想と若い力を活かしたものであることを紹介するとともに、レースに参加した後に、素晴らしい体験と技術を学生に役立ててほしいとの思いを示した。
世界最高の技術を詰め込んだ2013年型ソーラーカー「Tokai Challenger」
レースや参加車両である2013年型ソーラーカー「Tokai Challenger」の詳細については、東海大学ソーラーカーチーム学生代表 大久保氏と、木村教授から説明が行われた。
東海大学チームは、2009年、2011年と3輪タイプのTokai Challengerで2連覇してきたが、今回大会からは4輪タイプが義務づけられ、全長も5m以下から4.5m以下に制限される。そのほかコクピット空間の容積確保などが新たに義務づけられており、大幅な車両の設計変更が必要になった。
3輪タイプから4輪タイプの変更するにあたって考慮したのは、センターコクピットタイプかカタマラン型といわれるサイドコクピットタイプかということ。センターコクピットタイプは対称型で作れるためバランスはよいものの、太陽電池パネルの有効面積が減ってしまうことや、前面投影面積が増えてしまう(つまり空気抵抗が増える)などのデメリットがある。そのため、2013年型Tokai Challengerでは、カタマラン型のサイドコクピットタイプを選択。午後の日照時間を考慮して、左側コクピットとしたほか、キャノピーも透明タイプとし、太陽電池の発電能力を重視しているとのことだ。
とくに空力解析には注力。ドライバーが座る側の前後ホイールカバー(スパッツ)を一体化、反対側のスパッツは前後輪で分割している。また、両後輪のスパッツ後部を内側に湾曲させることで、抗力を低減。右前輪のスパッツ後部の形状を工夫することで、ボディー正面を流れる空気とボディー下面を流れる空気のバランスを取り、上向きの力や下向きの力が発生しない状態を作ろうとしている。この解析にはソフトウェアクレイドルの流体解析ソフト「SCRYU/Tetra」を使い、何度もシミュレーションを繰り返した。
太陽電池には、パナソニックのHIT太陽電池モジュールを使用。2011年参加時の変換効率22.0%、出力1.32kWから、太陽電池反射防止膜の改善、高反射充填剤の採用で変換効率を0.5%アップ。変換効率22.5%、出力1.35kWと向上した。これは、室温(20度)のスペックだが、木村教授は「オーストラリア大陸の高温環境下でも性能落ちが少ないもの」といい、この高温時の性能でライバルに差を付けることができるとの見通しを示した。
リチウムイオンバッテリーはレギュレーション上21kgまで搭載でき、パナソニックのリチウムイオンバッテリー「NCR18650B」を432本搭載。1セルあたりのスペックは、48.5g/3.35Ahと前回よりも改善されたもので、20.952kg/5.2kWhの総エネルギー容量となり、重量あたりのエネルギー密度が世界でもトップレベルのものだという。
また、ボディーなどに用いられるカーボン材料は、東レの最新製品を採用。F1マシンやボーイング787などに利用されている「T300 1K 平織りクロス」はスパッツに、「T800 6K 綾織りクロス」はモノコックに用いているほか、F1へも提供していない最新の「T700 12K 開繊織りクロス」をボディー外皮へ使用している。
このカーボン繊維をCFRPへと成型を行ったのは、4月に東レに買収されたのを機に童夢カーボンマジックから社名を変更した東レ・カーボンマジック。そのほか、太陽電池モジュール制御に用いるMPPT(最大電力点追従回路)には産総研と三島木電子が開発したものを、ブレーキパッドにはプロジェクトμの特注品を、シートベルトにはタカタの専用品をと、さまざまな最先端技術が投入されている。
8月24日~25日に秋田県大潟村の「大潟村ソーラースポーツライン」で試走を実施。24日は手で押して動きを確かめる転がしのみに終わったものの、25日午前中には実際にモーターでの走行を行い、100km/hに迫るスピードが出ることを確認。課題として挙げていたのが、透明なキャノピーによりコクピットが高温となることで、これについては赤外線反射フィルムを貼ることや、風をコクピット内に導くことなどを考えているという。
3000kmを走るレースとなるが、平均約85km/hで走りきりたいとし、想定タイムは35時間20分程度とのこと。ただし、天候の状態によってはさらに悪化するかもしれないし、よくなる場合もあるかもしれないとのことだ。
ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ 2013では、「Challenger Class」「Cruiser Class」「Adventure Class」の3クラスが設けられ、東海大学チームが参加するのはChallenger Class。このChallenger Classには、日本から東海大学チームのほか、工学院大学チーム、金沢工業大学チーム、八戸工業大学チームが参加する。木村教授がライバルとして挙げたのは、前回大会2位のデルフト工科大学(オランダ)と、3位のミシガン大学(アメリカ)の2チームで、いずれもカタマラン型のサイドコクピットを採用。実績のある強豪チームはサイドコクピットのマシンになっており、「今大会はカタマラン型の中から優勝チームが出る」(木村教授)と予測している。
パナソニックのソーラービジネスユニット長 吉田氏、東レ 常任理事 自動車材料戦略推進室長 胡谷氏とも、学生とともにこのレースに参加する意義について語り、最先端の製品を投入していることを強調した。パナソニックのHIT太陽電池は量産品で22.0%、開発段階で24.7%の変換効率を達成しているが、このTokai Challenger号には量産品より高効率な22.5%のものを投入。とくに熱に関しては「通常の太陽電池は、高温では20%ほど変換効率が落ちるが、この製品は10%程度の落ちにとどまっている」(パナソニック 吉田氏)といい、その高温性能に自信を見せた。18650のリチウムイオンバッテリーに関しても、テスラモーターズの「モデルS」に供給している最新タイプのカスタム品で、パナソニックの最新技術が注ぎ込まれている。
参戦体制発表後、東海大学の構内を2013年型ソーラーカー「Tokai Challenger」がデモ走行。音もなくあっという間に加速するなど、その実力を見せつけていた。
ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ 2013の予選日は10月5日。10月6日から始まるレースを楽しみに待ちたい。