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ANA、優秀CAを決める“OMOTENASHIの達人”コンテスト2014を開催
新制服も披露、6000人のCAの頂点に立つ今年度の達人が決定
(2014/12/12 00:00)
- 2014年12月2日開催
ANA(全日本空輸)は12月2日、機内の接客技能において優秀な客室乗務員(Cabin Attendant:CA)を決める第2回“OMOTENASHIの達人”コンテストの決勝戦を開催した。
このコンテストは、ANA全社の6000名(個人部門)、もしくは30チーム(チーム部門)から「ANAらしいおもてなしを体現する“OMOTENASHIの達人”」を選出する催しで、CAの技能研鑽の一環として行われた。決勝戦では予選を勝ち抜いた個人部門6名とチーム部門2チームが接客技能を競った。そのようすをリポートする。
普段のCAとはちょっと違った一面が見られた大盛況の会場
最初に行われたチーム戦では、ANAの訓練センターの一室に設けられたビジネスクラスの座席とギャレー(キッチン)が並ぶ、仮想的に機内を再現した部屋で行われた。チーム戦は国際線 ANA277便(羽田~ロンドン間)という設定で、離陸後にお客様に飲料と食事を提供するミッションを実際の機内と同様の手順で実施。その接遇スキル、チーム力、会話力、総合力を審査員のよる採点方式で競う。審査員はANA客室サービスセンターのサービスインストラクター6名に加え、ANAの役員など28名が乗客役を演じながら務めた。また、乗客役のなかには英語のみで話すという設定の人も何人か用意され、日本語と英語の両方でいかに“おもてなし”ができるかも試された。
開会式では、全日本空輸 代表取締役社長 篠辺修氏が挨拶に立ち「決勝戦ではあるが、ファイナリストとして選ばれただけでも十分に栄誉なこと。出場するCAさんたちはいま緊張していると思うが、それを胸に楽しんでほしい。また、審査する側も緊張していると思うが、リラックスして楽しいコンテストにしてほしい。客室乗務員の最大の仕事は保安任務だが、お客様と長時間接する“おもてなし”も同じぐらい重要だ。将来的にはアシアナ航空とも合同でコンテストを行ったり、訓練プログラムを拡充するつもりだ」と語った。
篠辺氏による挨拶のあと、チーム部門の選手が登場。こうした社内コンテストといえば、堅い雰囲気で行われるのが一般的なケースだが、ANAはよい意味で予想を裏切った。会場の雰囲気が終始明るく朗らかで、強いて言えば大学などの学園祭に近いもの。壁には各チームなどの応援ポスターがところ狭しと貼ってあり、周囲には選手が所属する部門の上司や先輩CAたちが応援団として参加。チアガールや学ランなどでコスプレして和やかな雰囲気で並んでいる。選手が登場するときには入り口でドライアイスでスモークが炊かれたり、紙吹雪がまかれたりするなど、まさにお祭りのような雰囲気だった。
競技開始前の説明は、飛行機の機内で離陸前に行われる保安説明のようにCAが客席の間の通路に立って身振り手振りで説明するのだが、「お客様のなかには英語のスピーカーがいます」という説明でマリリン・モンローの肖像画が出てきたり、真面目な表情で笑いを取るような仕草をしたり、「ギャレーの内部は前方のモニターで確認できます」という部分でモニターを見ると、サングラスにちょび髭、頭にネクタイを巻いた中年酔っ払い風の人物が写っているなど、とにかくユニークな演出が満載。日ごろは爽やかな顔で真面目に接客をしているCAたちの意外なパフォーマンスに親しみを感じてしまった。とはいえ、単純にふざけてやっているのではなく、決勝戦という舞台を前に緊張している選手たちの緊張を少しでも解きほぐそうという、先輩や同僚からの心遣いの一環でもあると感じた。
チーム戦は、チーム名「ピロリズム♪」(乗務5課 浦野裕子CA、木村ふみCA、延田麻衣CA)とチーム名「Elegant Smile」(乗務4課 川浪万恵CA、加藤可菜子CA、板倉真由CA)で競われた。
「ピロリズム♪」は開始前の抱負として「私たちは普段、スペシャルルートチームとしてニューヨーク線やロンドン線を担当しています。いつもどおりのロンドン線の乗務と思い、チームワークを発揮したいと思います。審査員のみなさまにも楽しんでいただければ幸いです」と語った。
また、「Elegant Smile」は「日本の武道や芸道には“残心”という言葉があります。これは技を終えたあとにも心を切らさず余韻を残すということです。ANAはいまカスタマー・エクスペリエンスに取り組んでいますが、お客様に飛行機に乗ってよかった、今日のサービスがよかったと思っていただけるように、この言葉を胸に最後まで心を切らさないように勤めます」と述べた。緊張が頂点に達したのか、冒頭でやや言葉をつまらせることもあったが、それでも以後は持ち直し、凜として語っていた。
競技が開始されるとさすがに雰囲気はやや緊張したものとなったが、実際に接客をしている2チームのCAたちは、表面上では緊張の色はほとんど見られない。まさに普段ANAの飛行機に乗ったときに目にするような、落ち着いたしなやかな身のこなしで客席をまわり、食前酒やメニューの説明を行っていく。また、周囲で見守る上司や先輩CAに話を聞くと、どちらのチームの応援団も「普段どおりでよくやってますね」という答えが返ってきた。つまり、決勝戦やコンテストだからといって、特別なことをするわけではなく、本当に普段から持っているスキルをどれだけ最大限に発揮できるかで競っているのだ。
とはいえ、世界の航空会社のなかでも接客スキル評価で最高峰となっているANA、そしてそのなかから選抜された6名のCAだけに、動きを注視していても筆者には2チームの甲乙がまったく分からなかった。そこで、試しにどこで差がつくのか考えてみた。
よく見ると、食前酒の種類によって3種類のグラスを使い分けている。当然、乗客によって注文が異なるため、オーダーに合わせて正しいグラスを使い分ける必要がある。こういう部分に違いが出るのか?と、CA資格を持つ広報担当者に聞いてみたが、迷いなく「ここに出場するCAならば、グラスを間違えることはまずない」と即答された。上司や先輩CA、広報担当者も誰ひとり彼女たちがなにかミスをするとは微塵も思っていないという口ぶりだった。同僚や後輩を信頼し、尊重する姿がそこに見てとれる。
もちろん、無条件で信頼するのではなく、普段から彼女たちの訓練内容や働きぶり、実績などを見ていることが裏付けしているのは間違いない。ANAのチームで行動する一体感と接客力の高さの一端が、この会話で垣間見えたような気がした。
食事のコースを提供する速度も2チームで大きな差はなく、遅延も見られない。「このヒラメはどこ産ですか?」という質問や、寒いという乗客に対するブランケットの提供なども的確にこなしつつ、デザートに入るタイミングで競技終了。どうやら、接客応対の細かな内容が勝敗を決める鍵になるようだ。しかし、筆者には2チームの勝敗の行方は最後までまったく予想がつかなかった。
競技が終わったあとはどちらのチームも緊張したと語っていたが、やはり、まったく緊張しているようには見えなかった。動揺を表に出さないのは、さすがは接客はもちろん飛行中の保安業務も担当するプロ中のプロといったところだ。
審査の結果、勝負を制したのはチーム「ピロリズム♪」。チーム部門の表彰を行った全日本空輸 上席執行役員 渡辺俊隆氏は、「今回のコンテストで暖かさとパワーを感じた。ANAのブランドはCAが培ってきたと言っても過言ではない。この伝統を受け継いでいってほしい」と述べた。
また、優勝した「ピロリズム♪」の3名では、浦野裕子CAが「信じられません。大変光栄です。このチームでいつもロンドン線を飛んでいるので、今日はいつもどおりにやりましたが、それがこうして評価されたのが嬉しいです。たまには辛いことなどもありましたが、こうして優勝したことでその辛さも形になって報われた気がします。私たちのチームは笑顔やチームワークを強みにしていて、お客様からも直接“よいチームだ”とご評価いただいたこともあります。今後もこのチームで働けると嬉しいです。また、客室でのCAのチームワークのよさがANAグループ全体の強みになるように励みたいです」と涙ぐみながら語っていた。
なお、勝敗を分けたポイントは、個別にどこがどうというわけではなく、総合的に乗客にどう満足してもらえたかとのこと。まさにどれだけ“おもてなし”ができたかという点らしい。その点では惜しくも優勝はできなかったが、「Elegant Smile」の実力も拮抗しており、評価に大きな差はなかったのではないかと筆者は思う。
ほんのひと言の気遣いが制した個人戦
会場を移動して行われた個人戦では、乗務4課 近藤樹子CA、海外勤務課 Jorge Cabeza CA、乗務3課 森竹由佳CA、乗務4課 若松万友美CA、乗務8課 小澤美保CA、乗務9課 西川利佳CAの6名で決勝戦が行われた。個人戦はステージ上に4席のビジネスクラスと仮想ギャレーが設置され、8分間の接客内容で競い合った。設定は国内線プレミアムクラス、もしくは国際線ビジネスクラス。乗客を演じるキャストの役柄もそれぞれ違う内容が用意され、飛行中のどのタイミングのシチュエーションになるかは選手ごとに異なるものが設定された。もちろん、この会場でも壁面には選手への応援メッセージが貼られ、選手ごとに所属する部門から応援団も集まり、チーム戦と同様に和やかな雰囲気で行われた。
こちらもハイレベルな内容となったが、優勝したのは乗務8課 小澤美保CA。講評では「エリアを見て接客している」という点が決め手になったようだ。小澤CAの競技内容は国際線ビジネスクラスで食事の希望を聞くというものだった。乗客構成は、いわゆる“お得意様”であるプレミアムメンバー1名と外国人1名、シニアの夫婦というものだった。このように年齢や使用言語、プロフィールの異なる乗客に対し、それぞれに合わせて的確に対応することが求められる。競技の具体的な流れは以下のようになった。
まず小澤CAは、前列のプレミアムメンバーの男性に声をかける。月に何回もビジネスクラスを利用するプレミアムメンバーという設定のため、食事に関してはやや飽き気味という素振りを見せるが、小澤CAはすかさず12月からの新メニューの話をして興味を引くことに成功。しかし、プレミアムメンバーの男性はいきなり「仕事がひと段落したから休みたい」と言い出す。6名すべての競技中にこうした意外な反応や瞬間的な判断が求められるハプニングが用意されており、乗客役が実際に起こりうるケースを演じていた。しかし、ベテランの小澤CAだけに、すかさず「ベットの用意をいたします」「お食事はお取り置きしますが、洋食と和食どちらがよろしいですか?」と対応していた。
その際、時間が掛かると判断したのか、隣に座る外国人の男性に「お食事のメニューをお持ちするを少々お待ちください」と英語ですかさず説明。こうして対応中の乗客だけではなく、待たせてしまうことも想定されるほかの乗客にもひと声かけるところが「エリアを見て接客している」という評価に繋がったのではないかと推察する。次に前列隣の外国人の乗客に対応。12月から始まった料亭「津やま」とコラボした新メニューの説明などを流暢な英語で説明し、乗客からの「ジョニーウォーカーはないの?」「Wi-Fiが使いたい」という質問や要望に的確に返答した。
後席のシニア夫婦に声をかけるときには、小澤CAは夫婦それぞれではなく、自然に2人に対して声をかけるようにして、3人で相談する状況を作った。また、小澤CAより前の競技中に夫が富士山の写真が撮りたいと要望していたことを受け、「富士山は撮れましたか?」と継承するように会話を始め、和んだ雰囲気を作り上げる。
メニューについては夫人が総入れ歯とのことで、堅いものが食べられないという回答。これに対して小澤CAは「私が確認しましたが、基本的に堅いものはないので、入れ歯でもお痛みを感じることはありません。ただ、もし、洋食を選ばれるのでしたらブレッドがやや堅いので、代わりにご飯との組み合わせはどうでしょう?」とすかさず機転を利かせて提案。夫人が「せっかくなら」と洋食を選ぶと「牛フィレ肉は軟らかい部位を使っているので安心して召し上がれます」と応じた。この機転の利かせ方もそうだが、伝聞ではなく自分で確認し、具体的に説明して安心であるという言葉の流れを作ることで、乗客の不安を取り除く話術はなかなかできるものではない。
また、夫の方は「最近は食が細くて、昔はよく食べて、ばあさんのことも食べてたんだけど」と高齢の男性にありがちなちょっと下品なジョークを飛ばしてきた。身内のANA社員が乗客役を担当しているだけに、これにはさすがの小澤CAも笑いをこらえるのに必死だったようだ。とはいえ、すぐに持ち直して「軽いお食事ならスナックメニューはいかがですか?」と、ここでも機転を利かせた対応を見せた。最後にはギャレーに戻るタイミングで、前列の外国人に「Wi-Fiは繋がりましたか?」と確認。このように、乗客ごとの状況や流れを見事に把握し、臨機応変に対応できたことが小澤CAの優勝に繋がったのではないかと思われる。
優勝した小澤CAは「今は驚きの気持ちでいっぱい。この賞はANAのCAたちのチームワークとお客様にいただいたようなものです。これに立ち止まることなく、日々のおもてなしをみんなで考えて進化させていきたいです。また、1日1日を大切にして、ANAのブランド力向上に貢献していきたいです」と、少しだけ感涙を見せながらもしっかりと語っていた。
また、インタビューにも応え、競技中の工夫点については「食事の提供という場面はお客様が楽しみにしておられるところです。いかに自信を持って楽しくお薦めできるかを工夫しました。一人ひとりのお客様の背景や、発信している情報を聞き逃さないように気をつけました」と語っていた。個々の対応では「プレミアムメンバーのお客様が勢いがある方だったので、それをどう受け止めるかがポイントでした。また、シニアの方のひと言には驚きましたが、こういう場合はある程度の品格を備えつつ、笑いを取る方向でお答えするようにしています」とのこと。これからのCAになりたい人へのメッセージとしては「よい同僚たちに会えたのが一生の財産です。CAは色々な体験をつうじて自分を高められる職業ですので、ぜひお待ちしております」と述べた。
なお、小澤CAはアメリカ線を中心としたファーストクラスのCAとして乗務している。さらに今回の受賞により、チャーター便への優先搭乗や広報業務にも活躍するとのこと。
個人部門の講評として全日本空輸 上席執行役員 加藤勝也氏は「久しぶりに楽しい時間を過ごせた。ここにいるファイナリストすべてが素晴らしかった。正直たった1人を選ぶのは罪に感じるが、これはスーパースターが生まれる瞬間でもある。客室センターの素晴らしさが垣間見えた。空港の担当部員も一体になって、スキル向上のいい起爆剤となるだろう」と語った。
閉会式の挨拶として、ANAホールディングス 社外取締役 小林いずみ氏は「今日だけではなく、ここまでのコンテストの道のりは大変なものだったと思います。また、応援団の温かい声援やスタッフの尽力にも感動しました。こんなに難しい審査をやったのは始めてです。流石に6000人の中から選ばれるだけあって特に感心したのは、素晴らしいおもてなしをしつつも一人ひとりが個性が出ていたこと。ここにいる皆さんはANAが誇るCAです。外国の人が最初に日本を感じるのは日本へ向かう飛行機に乗った瞬間です。また、日本に帰る日本人が祖国を最初に感じるのも日本への機内です。このように飛行機のCAは日本を代表して日本を最初に紹介する大きな役目を持っています。これからも若いみなさんを引っ張っていってほしいです」と述べた。
決勝大会の総評として全日本空輸 取締役 執行役員 清水信三氏より「この決勝大会に出られたこと自体でCAとして誇りに思って欲しい。この大会を見て、国内のライバルや海外の航空会社に負けない実力があると確信している。この素晴らしさは社内外に自然に伝わっていくだろう」と語った。
最後に客室センター長を勤める全日本空輸 常務取締役 執行役員 河本宏子氏より閉会の挨拶として「今回で2回目を迎えるが、このコンテストは今日が最終形ではありません。12名のファイナリストたちに本当にありがとうと言いたい。サポートしてメンバーがあり、チームがあるのがANAの強みです。ANAのグループ行動指針 ANA's Wayに「努力と挑戦」という項目があるが、このような結果が残せたのは、全員のひたむきな努力があったからこそです」と部下達の健闘に感動の涙を流しながら語った。恐らく、部下達がひたむきな努力を重ねているのを日頃から目の当たりにしたからこそ今日の結果に感動しているのだろう。
チームが個人を支え、個人がチームの原動力となる。組織の目標としてはよく語られることだが、ANAという組織はリアルにそれを体現している数少ない例だ。これは1日にして作られるものではなく、まさに日々の「努力と挑戦」によって築き上げられてきたものだ。その苦労を共にしたからこそ、こうして同僚や部下の応援にも熱が入り結果が結実した瞬間には涙が出るのだろう。ANAグループはエアライン・スター・ランキングにおいて、2014年も2年連続で最高評価となる「5スター」を獲得している。これは、今回のコンテストで見たような最高レベルのスキルを持つスタッフが努力と挑戦を重ね、チームワークで取り組んだ結果といえる。