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オン・セミコンダクター、車載向けADASシステムの新技術を披露
0.5ルクスでも物体を撮影でき、LED光源のフリッカーも低減する新型モジュールを近日中に供給開始
(2014/12/12 23:15)
- 2014年12月9日開催
半導体メーカーのオン・セミコンダクターは12月9日、都内で同社の戦略、および新製品を発表する報道陣向けの記者会見を実施した。
オン・セミコンダクターは2011年に三洋電機の半導体部門を買収したことでも知られており、三洋電機が持っていた半導体技術や新潟県にある生産設備などを活用して製品を展開している。また、同社のモジュールはADAS(先進運転支援システム)の分野において、具体名は出せないとしながらも大手自動車メーカーに採用されている実績がある。さらに、2013年のADAS関連市場においては約6割のシェアを占めており業界No.1を誇っているという。
ADASなどに用いられる現行のイメージセンシングカメラの課題としては、以下の5点が挙げられる。
1 低照度での撮影
2 低照度での低ノイズ化
3 LED光源のフリッカー低減
4 明暗の差が激しい場所での白飛び/黒潰れの低減(ダイナミックレンジの拡大)
5 より精密な映像解析をするための高解像度化
これに対し、同社が開発した新しいモジュールでは、0.5ルクスという肉眼ではほぼ暗闇に近い状態でも物体が撮影できる。また、リアルタイム多重露光により、120dBのダイナミックレンジを実現しており、HDR化の処理も可能だ。さらに、LED光源からのフリッカー低減も強化している。このため、夜間やトンネル内などでのADASの画像認識性能が向上すると期待されている。なお、このモジュールはまだ出荷されていないが、近日中には供給が開始されるとのことで、1~2年後には車載製品が登場するとみられる。
オン・セミコンダクター コーポレートストラテジー&マーケティング担当副社長 ディビッド・ソモ氏は、事業戦略として「CYPRESSやAptinaといったイメージセンサに関連する事業を買収し、注力する分野への投資とソリューションを拡大させていく。ADAS、センサー、ライティングといったオートモーティブ分野は売り上げ金額の29%を占める注力分野であり、車載分野においてトップ10の部品サプライヤーに成長している。また、製造、オペレーション、ロジスティクスの分野でも世界トップクラスになるように全力で取り組んでいる」と語った
オン・セミコンダクター システム・ソリューション・グループ 上席副社長兼ゼネラルマネージャー マムーン・ラシード氏は、ソリューション戦略と注力分野について「グローバル市場で事業展開するために、日本の拠点の優れた技術力は必要不可欠。日本の製造拠点からも全世界に向けた製品を製造している(筆者注:ウエハファブは群馬県と新潟県、組立・テストは新潟県、デザインセンターは岐阜県、群馬県、新潟県に持つ)。車載分野においてはモーターコントロールを得意としており、電動パワーステアリングやフロントガラスワイパー、燃料ポンプなどの提供実績がある。全社で日本、および世界の市場におけるカスタマー・サポート向上に向けて積極的に取り組む」と述べた。
オン・セミコンダクター イメージセンサー・グループ オートモーティブ担当プロダクトライン・マネージャー ナライヤン・ピュロヒット氏は、車載向けイメージセンサーに関して「オン・セミコンダクターは、車載向けイメージセンサーにおいて、業界を牽引するリーダーシップを発揮している。車載センサーの増加率は今後6年で19%にのぼるとみられており、ADASは販売される新車のうち現在の14%から71%に増加するだろう」と語った。
日本法人であるオン・セミコンダクター 代表取締役 雨宮隆久氏は、日本における事業戦略として「前年にコミットした内容が着実に実を結びつつあり、成田にグローバル物流センターを新設し、年間で500億を超える製品を扱うようになった。また、新潟工場の生産強化や日本法人の組織を最適化し、車載向けなど分野ごとの営業力を強化。さらに、マクニカやリョーサンと代理店契約を締結し、新たな販売ルートを構築している」と述べた。
このほか、会場には同社の自動車に関連する新製品が展示されていた。「ASX344AT」はリアカメラによる撮影と画像処理を行うモジュール。俯瞰から撮影した画像に対する補正機能に加え、車幅などを追加表示するオーバーレイ機能を搭載する。従来、この機能を搭載するためには複数のパッケージが必要だったが、本製品では1つに集約できることがポイント。デモではPCを制御用として使っていたが、車載する場合はカーナビなどに接続し、ナビ画面などに画像処理した映像を出すことで、駐車時のアシストシステムとして活用される。
今後の課題としては、高性能化もさることながら、リアカメラにはコストダウンが要求されている。パッケージ価格をより引き下げることで、1台あたりの搭載数を増やして死角を減らしたり、低価格なクルマにも搭載することを目指しているとのこと。
「NCV78763」はヘッドライトなどに使われるLEDの点灯システム。出力が大きく1.6A、60Vまで対応するので、40Wクラスのロービームからハイビーム、ウインカーなどに使用できる。このモジュールを使うことで複数のLEDの点灯を制御できるため、例えば、ADASのセンサーなどで人や対向車を認識した場合、それに連動して自動的にハイビームからロービームに切り替えたり、一部のLEDを消灯させて照射を抑えるといったこともできる。また、ウインカーでは複数のLEDを連続的に点灯させて、波のような点灯も表現できる。すでに欧州では広く導入されているが、日本では10月にようやく認可がおりたので、これからこのモジュールを搭載し、波のように光るウインカーを採用したクルマが日本でも見られるようになるだろう。
「STK984-170」は、モーターの電源と制御を1つのモジュールで制御するパッケージ。例えば空調用のファンなどを制御するときに、従来では電源と制御用の基板がそれぞれ必要だったが、本モジュールを使うことで1つに統合できるため、ファンの設置場所の自由度が上がり、信頼性の向上や低コスト化といったメリットがある。
内閣府は「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の自動走行(自動運転)分野で、2020年代後半までに「完全自動走行」の実現を目指している。ADASによる画像認識は自動運転への進化に必要不可欠な要素だ。それだけに、同社に対する自動車業界の期待はより大きくなっていくと予想される。
【訂正】オン・セミコンダクターから発言内容の修正依頼があり、それに対応する形での記事修正を行いました。