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JAL ボーイング777-200の動翼を見る
航空機は何を操作して向きを変え、止まっているのか?
(2015/3/13 10:55)
一般にクルマは2次元操作の乗り物、航空機は3次元操作の乗り物といわれている。もちろんクルマは3次元の世界の乗り物であり、少しクルマの運転を理解している人なら、ステアリングコントロールやアクセル、ブレーキコントロールで、荷重移動などの3次元的な動きを制御していることだろう。
と、クルマの運転はなかなかに複雑なのだが、航空機はどこをコントロールしつつ空を飛んでいるのだろうか? そんな疑問を解決する機会を得ることができたので、ここに紹介していく。
JALの格納庫でボーイング 777-200の各部を見る
訪れたのは、羽田空港(東京国際空港)にあるJAL(日本航空)のメンテナンスセンター。ここは航空機の整備などを行う場所で、そこにはJALの国内線機材としては大型の部類に入るボーイング 777-200(ファーストクラス 14席、クラスJ 82席、普通席 279席、計375席)が置かれていた。
説明いただいたのは、日本航空 総務本部広報部 兼 777運航乗務部 機長 船越篤氏と、JALエンジニアリング 羽田航空機整備センター 機体点検整備部 第3機体点検整備室 室長 柴田俊雄氏の両名。船越氏はボーイング 777のパイロットとしての観点から、柴田氏は整備士としての観点から、航空機の操縦の仕組みを語ってくれた。
航空機とクルマの一番の違いは、航空機は空を飛ぶけれど、クルマは飛ばないということにある。その空を飛ぶ力を生み出しているのが胴体の中央部に付いている主翼で、主翼の断面形状で上向きの力(揚力)を発生させている。クルマでも、たまにCL値(リフト量)がマイナス(下向きの力)であることに言及している車種があるが、航空機の場合は上向きの力が発生することが重要となる。
その数式は、L=1/2×PV2×S×CL。Lは揚力(プラス方向で上向きの力)、Pは空気密度、Vは気流の速度、Sは主翼面積、CLは揚力係数を表す。つまり、気流の速度が速ければ速いほど、主翼面積が大きければ大きいほど、上向きの力が発生しているわけだ。
このため航空機にはスラットやフラップという装置があり、とくに低速で揚力が必要なる離着陸時には、それらの装置を使って主翼面積を増大。翼の形も揚力係数の高いものにすることで、低速での“飛ぶ力”を高めている。
コクピットで、着陸時の操作を実演
船越機長は飛行機の操縦を行うコクピットに案内してくれ、実際のフラップ操作などを実演してくれた。現代の航空機では自動で操縦を行うオートパイロット機能もあるが、風の強いときなどは手動での操縦も必要になるという説明を聞きながら、船越機長の操作を見ていく。
まずはスラットとフラップから。前述のように離着陸時は低速でありながら大きな揚力が必要となるため、主翼の前縁にあるスラットと、主翼の後縁にあるフラップをせり出す必要がある。船越機長は機長席(正面を向いて左側の席)に座り、右手で「FLAP」と書かれたレバーを操作、フラップを実際に翼からせり出すデモを行ってくれた。
フラップの操作は、1度、5度、15度、20度、25度、30度の(0度を含めて)7段階となっている。そのうち、大きくせり出す20度~30度は、脚を出した状態(ギヤダウン状態)でしか設定できないとのこと。これは、フラップを出すと空気抵抗が増え、速度が落ちていくためで、離陸時や着陸直前にしか使わないためだ。フラップレバーはメカニカルレバーとなっており、現在の角度が一目瞭然で分かるほか、中央部のディスプレイにも現在のフラップ角度が表示されていた。
また、主翼上に備わるスポイラーについても操作。スポイラーは翼の上に板を立てる装置で、主翼に板が立つことで空気抵抗が増え、速度を落とすために使用する。クルマは常にタイヤが地面と接しているため、タイヤで減速を行うが、飛行機はとくに接するものがないため、ブレーキの類いは空気抵抗を利用するものとなっている。スポイラーはその代表的なもので、着陸時に使用。空気抵抗を利用したスピードブレーキ装置となる。
このスポイラーは主翼の片側に7枚あり、機長の操作によって適宜動作。そのほとんどはフライバイワイヤによる油圧で動作するが、内側から4枚目のみはケーブルによる機械動作となっている。そのため、ほかのスポイラーに比べて遅れて動作しているが、油圧が抜けるなど“イザ”というときにも動作し、航空機の安全を担保している。
航空機は主翼後縁にあるエルロンと垂直尾翼にあるラダー(方向舵)で方向を変えていくが、アンバランスな空気抵抗の状態を作れば向きは変わるため、スポイラーだけの操作でも向きを変えることが可能だ。もちろん、効率はわるいものの、油圧が抜けても操舵できる装置があるのは絶対安全が求められる航空機ならではの装備だろう。
着陸時に活躍するエンジンとタイヤ
フラップで大きな揚力を発生させつつ、エンジンの出力を絞るほか、スポイラーを立てて減速した航空機は、滑走路に着陸した後、急激なブレーキ操作が行われている。ボーイング 777-200の場合、胴体中央下に片側6輪、両側で12輪のタイヤが装着された主脚を装備しており、自動的にその12輪が使われてブレーキがかかっている。また、タイヤだけでは止まらないため、エンジンカウルが途中から2つに分かれ、エンジンの噴射方向を後方から前方に変更するスラストリバーサという装置もついている。タイヤとエンジンの働きにより、400人近くの人と荷物が乗った重たい航空機を適切な個所に止めている。
ちなみに前輪もあるが、こちらにはブレーキ機構はないとのこと。また、滑走路を移動中にブレーキをマニュアルでかけることできるが、その際は過剰に発熱しないよう、1本の主脚についている6輪の内、適切な4輪にブレーキが働くとのことだ。この4輪はどれが使われるか決まっておらず、機械が適宜自動判断している。
船越機長に航空機操縦の難しさについて聞いたところ、ボーイング 777ではフライバイワイヤが導入されたことにより、細かな調整をする必要がなくなり、従来の航空機に比べて格段に容易になっているとのこと。その容易さが操縦の疲労の軽減につながり、安全性の向上にも役立っている。クルマとは大幅に運転方法が異なるが、自動操縦とマニュアル操縦の融合という点では、航空機に一日の長があるように感じだ。
本来は航空機各部の説明やその操縦方法について解説するための見学会だったが、多数のスイッチをこともなげに操作する高い能力と、自動とマニュアルの切り分けがきっちりできている船越機長の解説に、幅広いレベルの人が運転するクルマと航空機の違いを強く感じた。
Car Watchでは航空機も車輪がついているのでという理由で航空関連のニュースも扱ってきたが、3月13日以降は旅行情報サイト「トラベル Watch」(http://travel.watch.impress.co.jp/)にその役割を譲る。航空関連、空旅関連の情報はトラベル Watchから入手していただきたい。
最後に、JALのボーイング 737-800で撮影した着陸映像を掲載しておく。スポイラーやフラップの動きなどに着目して楽しんでもらえればありがたい。