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ホンダ、ASIMOの技術を応用した歩行訓練機器「Honda 歩行アシスト」発表会
小型モーターで股関節運動をサポートするリハビリテーション向け製品を11月よりリース販売
(2015/7/22 00:07)
- 2015年7月21日発表
本田技研工業は7月21日、同社の人型ロボット「ASIMO」の技術を用いて開発した医療機関・リハビリテーション施設向けの歩行訓練用機器「Honda 歩行アシスト」に関する発表会を開催した。11月から開始予定のリース販売では、3年間のリース契約で月額4万5000円。料金には1年間に1度の定期メンテナンスが含まれ、購入者を対象にした機器の取り扱い方法や活用方法を指南する講習会も受けられる。初年度の販売計画台数は450台。
「Honda 歩行アシスト」は、主に病気や怪我などで正しい歩行が困難になった患者の歩行訓練に使用することを目的とした医療用機器。制御システムとバッテリーを内蔵した本体部を腰に取り付け、独自開発の薄型モーターから両太ももに伸びるアームをベルトで固定することにより、モーターが股関節の適切な動作をサポートするようにアシスト力を加える。
約2.7kgという軽さと着脱の容易さが最大の特徴で、介助者や使用者の体力的負担を大幅に軽くすることに成功。付属のタブレット端末で、さまざまな歩行訓練に適したモードに切り替えられるほか、アシスト力の調整なども行える。内蔵バッテリーはリチウムイオン電池で、1回の満充電につき約60分稼働。最大トルクは4Nmとなっており、使用者の力の5~8%程度をアシストするという。
開発責任者である伊藤寿弘氏によれば、同社は1999年から歩行アシストに関わる研究を開始。当初は外部から有線で電源を供給していたり、電池内蔵式ながらも約32kgという重さがあるなど、歩行が困難な患者が容易に身に付けられるような仕組みではなかった。しかし、その後は継続的に軽量化などを行って、装着しやすい形に進化してきた。
開発に当たっては、ASIMOで採用していた二足歩行理論「倒立振子モデル」をベースに、京都大学大学院医学研究科 博士である大畑光司氏の協力なども得て、全国50個所の医療施設などで試験的に利用してもらいながら機能の改善や最適化を行ってきた。元々は高齢者や介護予防(症状が悪化して歩行困難になるのを予防したり、歩行運動を改善すること)に向けたものだったが、その後リハビリテーションへの応用が期待されたことから、歩行訓練用にフォーカスして開発を進めてきたという。
脳卒中やパーキンソン病、骨折などで歩行が困難になった要介護認定者にとっては、ますます歩かなくなる悪循環に陥り、歩行に必要な神経などが衰えてしまう「廃用症候群」が深刻な課題となっている。「Honda 歩行アシスト」はそういった方のリハビリに最適な訓練機器としており、実際の医療・リハビリ現場でも、通常の歩行訓練より「Honda 歩行アシスト」を利用した方がスムーズに歩行でき、訓練中の股関節部分の筋力増加も見られたとしている。
最近では類似の歩行訓練機器に「ReWalk」や「Rex」といった製品が登場してきているとのことだが、それらは1人では歩けない重症患者向けということもあって、数十kgの重量があったり、介助者が必要であるなど、手軽な利用は不可能だった。「Honda 歩行アシスト」は「使用者に触れる程度の介助が必要」(大畑氏)な人向けに設計されており、あくまでも股関節の動きをサポートする機器とすることで、小型・軽量化と低コストを実現している。
実際に「Honda 歩行アシスト」を装着して体験してみた
発表会場では、実際に「Honda 歩行アシスト」を装着して体験することができた。装着してみた感じは、腰まわりの違和感は少なく、重さもさほど気にならない。アシストの力は脚の動きを完全に強制するほどのものではないが、前進に必要な脚の運び方を確実に教えてくれる。脚を前に振り出す時よりも、どちらかというと後ろに蹴る直前のタイミングで押し戻されるような力の方が強く感じられ、重心移動によって歩行に必要な推進力が生み出されることを実感できる。
製品同梱のタブレットはBluetoothで本体と連携し、歩行パターンに合わせて歩行動作を誘導する「追従モード」、脚の屈曲・伸展のタイミングが左右で対称になるように誘導する「対称モード」、かかと・足裏・つま先への重心移動「ロッカーファンクション」をスムーズに行えるようにする「ステップモード」の3種類に切り替えられる。
また、アシスト力を調整することも可能で、使用者の状態に応じて訓練の効率化を図れる。脚の動きをリアルタイムに解析する機能などを用いて、歩き方が正しいかどうかを測定する用途にも活用でき、健常者が歩行の仕方を矯正するのにも役立てられるとしている。