ニュース
鈴鹿サーキットでF1日本GPが開幕、初日トップはサインツ選手とクビアト選手
マクラーレン・ホンダは“鈴鹿スペシャル”な気持ちでレースに臨む
(2015/9/25 23:39)
- 2015年9月25日~27日開催
三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットにおいて、4輪レースの最高峰「F1世界選手権 第14戦 日本グランプリ」が9月25日~27日の3日間に渡って開催されている。
初日となった9月25日には、フリー走行の1回目(FP1)と2回目(FP2)が行われ、いずれのセッションも降雨で路面が濡れた状態での走行となった。FP1はスクーデリア・トロロッソ(以下トロロッソ)のカルロス・サインツ Jr選手が、FP2はインフィニティ・レッドブル・レーシング(以下レッドブル)のダニール・クビアト選手がトップタイムをマークした。
また、グランドスタンドの裏ではさまざまなプロモーションイベントが用意されており、各チームのドライバーが参加したトークセッションや、鈴鹿で行われた最初の日本GP(1987年)の時にフェラーリで優勝したゲルハルト・ベルガー氏のトークショーなどが行われて人気を博したほか、ホンダブースには各種F1マシンが展示されるなどして注目を集めた。
フルウェットの路面でトップタイムを出したのはトロロッソのカルロス・サインツ Jr選手
前戦のシンガポールGPでは、メルセデスAMGペトロナスF1チーム(以下メルセデス)勢が失速し、スクーデリア・フェラーリ(以下フェラーリ)とレッドブルの争いというレースになったため、その勢力図が特殊なサーキットであるシンガポールGP1回限りなのか、それともこれから恒常的に続いていくのか。今回のFP1、FP2でどのような勢力図になるのかに注目が集まっていたが、それに文字通り“水”をさしたのが、前日から鈴鹿地方で降り続いた雨だった。
特に午前中に行われたFP1では朝から降り続いてきた雨により、開始時にウェット宣言が行われ、2つあるレインタイヤ(ウェットとインターミディエイト)のうち、全車ともより排水性が高いウェットタイヤをつけて走行する状況になっていた。かつ雨量が多く、ストレートどころかコーナーを走っていても水煙が高く立ち上るような状況で、全車ともゆっくりとインストレーションラップ(走り始めのチェック走行。通常はメインストレートを通過せず、コースをゆっくり1周してピットインする走行のこと)だけを行い、ピットに戻るという状況だった。その後も、開始後約50分までは誰もタイムを刻むことはなく、ゆっくりと時間は過ぎていった。
その静寂を破ったのは2台のトロロッソ勢だった。トロロッソはレッドブルのジュニアチームと位置づけられていることもあり、チーム代表のフランツ・トスト氏はどんな路面でも若手ドライバーを走らせる方針を貫くことで知られている。今回も今年デビューした若干17歳にして史上最年少出走記録を持つマックス・フェルスタッペン選手、カルロス・サインツ Jr選手の2人をコースへと送り出した。その後、メルセデスのニコ・ロズベルグ選手、ルイス・ハミルトン選手などが続々とコースインしタイムを出し始めた。
後半になるにつれて雨が少しずつ収まっていったため、ウィリアムズ・マルティニ・レーシング(以下ウィリアムズ)のバルテリ・ボッタス選手、フィリペ・マッサ選手の2名がウェットタイヤと比べて排水性では劣るがよりグリップ力の高いインターミディエイトタイヤにチャレンジしたが、いずれもコーナーでフラフラになってしまう状況で、ウェットタイヤを上まわるタイムを出すことはできなかった。
結局、FP1で最速タイムを出したのはサインツ Jr選手。2位がレッドブルのクビアト選手、3位がメルセデスのロズベルグ選手となっていた。このセッションはずっとウェットタイヤで走らないといけない状況で、どのマシンが速いかなどはまったく不明だった。マクラーレン・ホンダ勢は2台ともタイムを出すことはなかった。
●FP1の結果
順位 | カーナンバー | ドライバー | チーム | タイム | ギャップ | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 55 | カルロス・サインツ Jr | トロロッソ | 01:49.4 | - | 10 |
2 | 26 | ダニール・クビアト | レッドブル・レーシング | 01:49.9 | +0.504s | 7 |
3 | 6 | ニコ・ロズベルグ | メルセデス | 01:50.1 | +0.643s | 14 |
4 | 5 | セバスチャン・ベッテル | フェラーリ | 01:50.5 | +1.085s | 12 |
5 | 44 | ルイス・ハミルトン | メルセデス | 01:50.7 | +1.288s | 6 |
6 | 33 | マックス・フェルスタッペン | トロロッソ | 01:50.9 | +1.506s | 10 |
7 | 7 | キミ・ライコネン | フェラーリ | 01:51.2 | +1.778s | 15 |
8 | 19 | フィリペ・マッサ | ウィリアムズ | 01:52.3 | +2.854s | 12 |
9 | 9 | マーカス・エリクソン | ザウバー | 01:53.8 | +4.386s | 12 |
10 | 77 | バルテリ・ボッタス | ウィリアムズ | 01:54.0 | +4.530s | 14 |
11 | 12 | フィリペ・ナッサー | ザウバー | 01:54.0 | +4.579s | 9 |
12 | 22 | ジェンソン・バトン | マクラーレン | 01:55.7 | +6.244s | 6 |
13 | 3 | ダニエル・リカルド | レッドブル・レーシング | no time | - | 1 |
14 | 27 | ニコ・ヒュルケンブルグ | フォースインディア | no time | - | 4 |
15 | 11 | セルジオ・ペレス | フォースインディア | no time | - | 3 |
16 | 14 | フェルナンド・アロンソ | マクラーレン | no time | - | 5 |
17 | 13 | パストール・マルドナード | ロータス | no time | - | 1 |
18 | 30 | ジョリオン・パーマー | ロータス | no time | - | 1 |
19 | 28 | ウィル・スティーブンス | マルシア | no time | - | 3 |
20 | 53 | アレクサンダー・ロッシ | マルシア | no time | - | 4 |
FP2のトップタイムはレッドブルのクビアト選手
午後に行われたFP2では、昼ごろに一度雨が止んだことからFP1時よりはコース上の水の量が減っている状況で行われた。このため一部の例外を除き、各車がインターミディエイトタイヤを装着してコースインした。FP1ではタイムを出さなかったマシンも含めて、多くの選手がタイムを出しに行き、タイヤをセーブするため走らなかったウィリアムズのボッタス選手を除き、全車がタイムを出した。
ただし、その後天候は徐々に崩れていき、FP2の後半では雨が強くなり、路面のコンディションはFP1とほとんど同じになってしまった。そのため各車とも周回を控えるようになり、ピットから出て行くマシンがあってもタイヤは水量が増えた路面に合わせてウェットになっており、それ以前に出したマシンのタイムを更新することはできなかった。マシンにトラブルを抱えてFP2の前半を走ることができなかったマクラーレン・ホンダのフェルナンド・アロンソ選手などはその展開で、そのような状況では17位のタイムを出すのが精一杯だった。
このFP2で最速タイムを出したのは、路面がさほど濡れていなかった前半にタイムを出したレッドブルのクビアト選手。2番手と3番手にはメルセデスのロズベルグ選手、ハミルトン選手と続いているが、路面状況などが刻々と変わる中でのタイムなので、勢力図はFP1と変わらず分からない状況だった。
鈴鹿地方の天気は、明日の土曜日が曇りのち晴れ、日曜日が曇りとなっており、基本的にはドライでの予選、決勝となる可能性が高く、今日の結果はそうしたレースの予想にはまったく役に立たないものとなりそうだ。その意味で、土曜日の午後に行われる予選、そして日曜日の決勝レースの行方を占うためには、土曜日の午前中に行われるフリー走行3回目(FP3)の結果を見てからということになりそうだ。
●FP2の結果
順位 | カーナンバー | ドライバー | チーム | タイム | ギャップ | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 26 | ダニール・クビアト | レッドブル・レーシング | 01:48.3 | - | 6 |
2 | 6 | ニコ・ロズベルグ | メルセデス | 01:48.3 | +0.023s | 8 |
3 | 44 | ルイス・ハミルトン | メルセデス | 01:48.9 | +0.576s | 8 |
4 | 3 | ダニエル・リカルド | レッドブル・レーシング | 01:49.1 | +0.820s | 10 |
5 | 5 | セバスチャン・ベッテル | フェラーリ | 01:50.3 | +1.991s | 19 |
6 | 7 | キミ・ライコネン | フェラーリ | 01:50.3 | +2.042s | 16 |
7 | 55 | カルロス・サインツ Jr | トロロッソ | 01:50.4 | +2.141s | 6 |
8 | 33 | マックス・フェルスタッペン | トロロッソ | 01:50.5 | +2.265s | 5 |
9 | 12 | フィリペ・ナッサー | ザウバー | 01:51.0 | +2.691s | 10 |
10 | 13 | パストール・マルドナード | ロータス | 01:51.6 | +3.280s | 7 |
11 | 27 | ニコ・ヒュルケンブルグ | フォースインディア | 01:51.7 | +3.397s | 11 |
12 | 22 | ジェンソン・バトン | マクラーレン | 01:51.9 | +3.584s | 9 |
13 | 9 | マーカス・エリクソン | ザウバー | 01:51.9 | +3.657s | 12 |
14 | 11 | セルジオ・ペレス | フォースインディア | 01:52.1 | +3.793s | 8 |
15 | 8 | ロマン・グロージャン | ロータス | 01:52.5 | +4.257s | 6 |
16 | 19 | フィリペ・マッサ | ウィリアムズ | 01:52.8 | +4.488s | 6 |
17 | 14 | フェルナンド・アロンソ | マクラーレン | 01:55.2 | +6.962s | 10 |
18 | 28 | ウィル・スティーブンス | マルシア | 01:58.1 | +9.782s | 6 |
19 | 53 | アレクサンダー・ロッシ | マルシア | 01:59.4 | +11.142s | 7 |
20 | 77 | バルテリ・ボッタス | ウィリアムズ | no time | - | - |
気持ちは“鈴鹿スペシャル”とマクラーレン・ホンダ陣営
FP2終了後の16時からは、チーム代表やパワーユニットサプライヤーの代表者からピックアップされた5名の関係者が登壇するFIA記者会見(いわゆるFriday5)が行われた。
参加したのはレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表、メルセデス エグゼクティブダイレクター パティ・ロー氏、フェラーリ ヘッドオブエンジニアリング ルイージ・フラボーニ氏、さらにマクラーレン CEO兼チーム代表 ジョナサン・ニール氏、ホンダ F1プロジェクト総責任者 新井康久氏というマクラーレン・ホンダを代表する2人が呼ばれた。
この中で、ニール氏はこの前日(9月24日、木曜日)に行われたFIA主催の5名のドライバー記者会見(いわゆるThursday5)で、ジェンソン・バトン選手が引退するのではないかという噂(英国のメディアが今週頭にバトン選手が日本GPの期間中に引退を発表すると書き立てたこと)に対して、「話し合いが続いている」とだけ述べて否定も肯定もしなかった件について再度触れられ、「話し合いは続いている。ジェンソンは偉大なドライバーで、チャンピオンだし、これからもよい関係が続けばいいと思って話し合いを続けている」と、引き続き話し合い(英語でDiscussion)が現在進行形であるとだけ述べた。
ホンダの新井氏は「鈴鹿サーキットは世界で一番厳しいサーキット、率直にいって楽な戦いになるとは思っていない。鈴鹿サーキットはホンダにとってのホームだし、多くのホンダの従業員もF1活動を応援してくれていて、マクラーレン・ホンダに成功してほしいと願ってくれている。もちろん私にとってはプレッシャーだが、それは大事なことだ」と述べ、ホンダとしても地元レースに向けて緊張感をもって望んでいると説明した。
また、1980年後半~1990年代前半のマクラーレン・ホンダでは、鈴鹿サーキットに向けて何かスペシャルな機能を“鈴鹿スペシャル”と名付けて投入することがあったが、現代のマクラーレン・ホンダではそういう取り組みはないのかという質問に対し、新井氏は「残念ながら現代のレギュレーションでは、“鈴鹿スペシャル”というモノを開発して投入するのは難しい。しかし、私もジョナサンも、情熱の上では“鈴鹿スペシャル”というつもりで臨んでいる」と述べた。
現代のF1では、パワーユニットは年間4機という制限があり、ホンダの場合は初年度ということで5機まで緩和されているのだが、それもすでに使い切っている。また、シーズン中の開発もトークンと呼ばれるメーカーに許されたジョーカーを切ることでできる仕組みがあるものの、来シーズンも含めた将来を見据えて慎重にトークンを使う必要がある。このため、鈴鹿にだけ“スペシャルな何か”を投入するというのは事実上できないのだ。
従ってそうしたスペシャルはないものの、例えば信頼性を上げるといった、やれる範囲の中でできる限りのことをやってきたということを新井氏は言っていると推測できる。もちろん機械を扱うスポーツであるのがモータースポーツではあるが、最後は人間と人間の気持ちの上での戦いであるのも事実なので、その気持ちだけでも“鈴鹿スペシャル”がどれだけ2人のドライバーを後押しするのか、ファンとしては期待したいところだ。
鈴鹿での最初の日本GPの覇者、ゲルハルト・ベルガー氏がトークショー開催
グランドスタンド裏に設置されている特設ステージでは、各チームのドライバーや関係者によるトークショー、さらには歴代のF1マシンの展示なども行われている。ホンダブースでは歴代F1エンジンの音を体験できるブースが大人気で、雨の中にもかかわらず70分待ちの札が出るなど大盛況だった。
また、今回の日本GPのためにわざわざ来日したゲストとして、ゲルハルト・ベルガー氏が特設ステージでトークショーを行った。本来であればベルガー氏はお昼から行われる予定のヒストリックF1カーでドライブを行い、その後トークショーという予定だったのだが、あいにくの悪天候でヒストリックF1カーのデモ走行は中止となったため、急遽その時間はトークショーになったのだ。
司会者の“ベルガー氏は女好きで有名ですよね?”という容赦ないイジリにも「今日きている女性手を上げて~、この後一緒に飲みに行こう」と軽快なノリで場を大いに盛り上げた。ベルガー氏は「私ももう歳だし、最近はヨーロッパの外には出ないようにしているのだが、日本だけは特別。マクラーレン・ホンダ時代のいい思い出があるし、何より日本の情熱的なファンに会うのが楽しみだから、鈴鹿サーキットからのお誘いだけは特別なんだ」と述べ、集まったファンを喜ばせた。
また、現役時代に仲がよかったドライバーは誰かという質問に対しては、「私はこういう性格だから、99%のドライバーとは仲よくやっていたよ。そのなかでも特別に誰ということを挙げろというなら、アイルトン(筆者注:故アイルトン・セナ氏)とジャン(筆者注:ジャン・アレジ氏)だな。セナとはF1にくる前にF3でも一緒だったし、特にマクラーレン・ホンダでチームメートになってからはより親密になって一緒に旅行に行ったりしたよ」と述べ、ベルガー氏の親友がよく知られている通りのセナ氏とアレジ氏であると述べた。
ベルガー氏らしかったのは「レーシングの世界ではセナがチャンピオンだったけど、夜のパーティはいつでも私がチャンピオンだ」とのコメント。1990年代の日本でのF1人気を彷彿とするようなトークショーとなり、非常に興味深いイベントになっていた。
なお、ベルガー氏のトークショーは9月26日、27日にも行われる予定。また、ベルガー氏は26日と27日にマクラーレン・ホンダ MP4/6(1991年にベルガー氏が日本GPで優勝した時のマシン)を、26日にはフェラーリF187(ベルガー氏が1987年の日本GPで優勝した時のマシン)をドライブする予定だ。このほかにもウィリアムズFW11(佐藤琢磨選手がドライブ予定)、ティレル019(中嶋悟氏がドライブ予定)などの走行も予定されており、そちらの方も要注目だ。
今年のF1のチケットは引き続き販売されており、こちらの記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150911_720621.html)などを参考にすると、これからチケットを購入する場合でも対応できるだろう。