ニュース

ロボットタクシー、一般モニターも参加する自動運転車両の公道実証実験を開始

「完全自動走行」に向けた国家戦略特区プロジェクトの実証実験スタート

2016年2月29日 開催

 ZMPとDeNAの合弁会社であるロボットタクシーは、内閣府主導で行なわれている「完全自動走行に向けた国家戦略特区プロジェクト」の一環として、神奈川県藤沢市と連動して自動運転車両を使用するサービス「ロボットタクシー」の実証実験を2月29日から開始した。この実証実験の開始に合わせ、会場となる神奈川県藤沢市のイオン藤沢店で報道機関向けの説明会が行なわれた。

実証実験に用いられるトヨタ自動車「エスティマ ハイブリッド」を使った「ロボットタクシー」車両。フロントグリル中央にミリ波レーダー、フロントバンパー中央と左右、リアバンパー左右にレーザーセンサーが取り付けられている

 この公道を使った実証実験の実施については、すでに2015年10月1日に横浜スタジアムで行なわれた発表会について誌面で紹介しているが、一般の利用者が乗車できる形で実施されるのは世界でも珍しいこと。

 この実証実験は、公道における無人の完全自動運転(レベル4)の環境整備を目的として、公道における有人の自動運転(レベル3)を実施するもの。利用者はモニターとして選ばれた周辺に住む10組ほどの住民で、主に買い物に出かけるときの往復や荷物の運搬が困難と思われる高齢者などをターゲットに、自宅と近在にある大手スーパー「イオン藤沢店」との往復ルートを走行する形式で行なわれる。

 実験の目的は、「社会的受容性の向上」「一般参加モニターの体験から得られた交通サービスに対する知見の蓄積」「一般道における走行実験による自動走行技術の向上」の3点が掲げられている。

 説明会の会場となったイオン藤沢店の店頭特設会場では、実証実験の概要についての解説が行なわれた。自動運転車両となるロボットタクシーは、トヨタ自動車の「エスティマ ハイブリッド」をベースに、ZMPが自動走行のための各種センサーやシステムを搭載するなどの改造を加えた車両で、今回の実験に2台の車両が使用されている。

 実証実験の基本的なコースは、イオン藤沢店から湘南ライフタウン 中央けやき通りを進み、北部バスロータリーまでの約2.4kmという区間。インターネットから配車予約を申し込んだ参加者の自宅前につながる狭幅路など、中央けやき通り以外の道では乗員による手動運転で走行する。

ルーフ上にGPSアンテナを設置し、ルームミラー横にカメラを装備
センターコンソールにはシステムを操作する各種スイッチや、緊急時の運転権限移譲のためと思われる大型スイッチなどが並ぶ。2015年10月の発表時に助手席に設置されていた大きな箱は、今回の実証実験車両ではなくなっていた。担当者に質問すると「コンピューターは後ろにある」とのこと。実験走行時にはエンジニアが助手席に座り、各センサーなどの動作をモニターしているという

 車両の詳細について担当者に質問したところ、「2015年10月の発表時とハードウェアについては変更していないが、ソフトウェアの面では信頼性向上のために随時アップデートを重ねている」とのことだった。基本的にはフロントグリル中央に設置された100m以上先の障害物も感知できるミリ波レーダーと、フロントバンパー中央と左右、リアバンパー左右に取り付けられたレーザーセンサー、ルームミラー部に設置されたカメラなどを使い、白線や黄線といった車線、高低差などの路面状況を検知して、自車位置の修正のほか、歩行者、周辺の車両、障害物、標識、信号などを認知する。また、ルーフ上に取り付けられたアンテナで受信するGPS情報により、地図データと組み合わせて数cm単位で自車位置を特定。それらのデータをコンピューターで判断して、アクセル、ブレーキ、ステアリングの制御を行なうのだ。

 万が一の事態に遭遇した際、例えば路肩に停車中のクルマの死角から子供が飛び出してきて、明らかに自車の制動性能では止まれない場合などの処理について問うと、「それは今からの重要な課題です」との回答だった。

ロボットタクシーの公道走行シーン(1分44秒)

700万人を超える交通弱者を救うのがロボットタクシー本来の目的

ロボットタクシー株式会社 代表取締役社長 中島宏氏(左)とロボットタクシー株式会社 取締役会長 谷口恒氏(右)
「ニーズをしっかりとつかみ、新しい交通サービスの実現に取り組んでいく」とコメントした中島氏

 ロボットタクシー 代表取締役社長の中島宏氏は、冒頭の挨拶のあとに「一般の住民の方を交えて実験するのはおそらく世界で初めて。ニーズをしっかりとつかみ、新しい交通サービスの実現に取り組んでいく」とコメント。また、ロボットタクシー 取締役会長の谷口恒氏は、「あの(イオン藤沢店前の)交差点は路肩側の白線もみんな消えている。本来は右折レーンとの境にあったはずの黄線もほとんど見えない状態。人間なら、ここが右折レーンだな、と判断できるが、ロボットは曖昧さがないのでできない。今回の実験では確実に運転するために、基本的に片側一車線の道路のみを使うことにしているが、バスレーンなども白線が消えてしまっているので、先と手前に残っている白線を演算でつなぎ合わせた予測値で走行している。老朽化した路面で実験を行なうのは非常にチャレンジングなものだ」と語り、技術的な課題についても挑戦していく姿勢を示した。

谷口氏(右)は「開発の進捗は予定どおり。2020年の完全自動化を目指しているのは変わらない」と話していた

 また、中島氏が「一般市民を乗せるサービスを想定して実験ができるのは大きな一歩。今までは法律上も曖昧で、周辺住民の理解も得られないことだったが、多くの方の協力を得て踏み出すことができた。2020年の完全自動運転実現に向けて進んでいきたい。もちろん、東京オリンピックに合わせることも大切だが、実際には地方で不便な思いをしている交通弱者が700万人以上いる。その方々を救っていけるサービスの実現が本来の目的である」と語ると、「午前中に行なった第1回目の一般参加モニターの乗車に関する報告を受けたが、未来が来たかのような大喜びだったと聞いた。我々が提供したかったのは夢、希望。期待がかかればかかるほど我々もやる気が出てくる。自動運転については体験していただかないと実感がわかないので、実際に体験してもらえることは素晴らしいことだ。オリンピックでは、世界のお客様をロボットタクシーが出迎えることで『日本ってすげぇじゃん』と感動してもらえるようなことを実現したい」と谷口氏がコメントしていた。

午前中は実験車両が一般参加モニターを乗せて、実際に一般道を2.4km走行

 本来のスケジュールでは、車両説明とインタビューのあとに実験車両が走行している姿を見学できる予定だったが、午後から急な荒天となってしまい、自動運転の実証実験は見学できなかった。しかし、午前中に実験車両に同乗した一般参加モニターから話を聞くと、「思ったよりスムーズだった」と好印象が語られた。今回の実証実験は3月11日まで行なわれ、その後は利用者からの意見を集めつつ、断続的に実施していく予定とのことだ。

 藤沢市の実証実験では、公道における無人の完全自動運転(レベル4)の環境整備を目的に、公道における有人の自動運転(レベル3)を実施している。自動車の無人運転はジュネーブ道路交通条約や日本の道路交通法により禁止されており、実証実験では運転手や実験担当者が乗車して、安全確保や緊急時の対処を行なっている。また、ロボットタクシーでは宮城県 仙台市内にある東日本大震災の被災地でも、3月中に実証実験を開始するという。

 日本政府は「日本産業再興プラン」の1つとして「完全自動走行を見据えた環境整備の推進」を掲げ、自動運転システムについてはレベル4(完全自動運転)までの技術開発を目指している。2014年に国家戦略特別区域として指定された神奈川県の国家戦略特区プロジェクトの1つである実証実験をつうじて、早期にジュネーブ条約の改正まで法整備が進んでくれることを願いたい。

ロボットタクシーの内外装紹介(1分35秒)

(酒井 利)