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ZMPフォーラム開催、自動運転ソフトのオープンソース化やNVIDIAとの協業を発表

会場で自動運転車両「RoboCar MiniVan」など展示

2015年8月25日~27日開催

会場に展示された自動運転車両「RoboCar MiniVan」

 ZMPの新製品の発表や関連する企業や研究機関等が発表を行うイベント「ZMPフォーラム」が開幕した。期間は8月25日~27日の3日間で、場所は東京・六本木のベルサール六本木。ZMPの製品、サービス、関連する企業の製品やサービス紹介や研究発表などが行われ、一部はこの場で新しい発表も行われる。ここでは開幕初日25日の模様をお伝えする。

オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」

開幕のあいさつをする、ZMP代表取締役社長の谷口恒氏

 ZMPフォーラム初日の発表事項は2つ。その1つは名古屋大学がオープンソースとして公開した「Autoware」。自動運転に必要なソフトウェアをオープンソースでパッケージングしたもので、このソフトとZMPのRobocar、3次元レーザースキャナがあれば、すぐに自動運転が可能になる。

 対応する車両はZMPのRobocar PHV/HVでの利用を前提としており、車両はベースで1200万円。それに最安クラスの3次元レーザースキャナ「Velodyne 16」、実際にテストコースで動作確認して引き渡す最低限のサポートを組み合わせて合計1780万円(税別)から。レーザースキャナはさらに精度の高いものと組み合わせると価格は一気に跳ね上がる。1780万円はあくまでRobocar、スキャナとも最小限とした最低金額となる。

 公開された「Autoware」のソフトウェアも最小限のもの。Autowareは3D地図をデータとして持っており、それに沿って走るタイプ。当初の地図データはインクリメントPと協力して得たものが含まれている。Autowareには名古屋大学で研究中の研究要素の高い技術は入れておらず、あくまでベース。

 走行には3D地図が必要だが、今後、どれだけ3D地図が用意されるかも課題。レーザースキャナを搭載して走行した場合、スキャナによる3D地図がさらに蓄積されていくが、これを名古屋大学にフィードバックすることも、走行したユーザーが独占して利用することも可能。3D地図も名古屋大学独自のフォーマットだが、デファクトスタンダード的なものに対応させるなど、柔軟に対応するとしている。

 走行にはレーザースキャナのほか、信号の認識などカメラによる画像認識もある。GPUの処理能力を使って煩雑な画像処理も遅延のないよう処理しているという。

名古屋大学 情報科学研究科の加藤真平准教授
ZMP 取締役技術開発部長の三原寛司氏

 ソフトウェアを公開した名古屋大学 情報科学研究科の加藤真平准教授は、公開した理由として「オープンイノベーションを起こしたい」と説明。自動運転に関連する企業や研究者などが改良・発展させてフィードバックされることを狙い、オープンソース化に踏み切ったという。

 ZMPからは取締役 技術開発部長の三原寛司氏が登壇。従来、Robocarを購入してもソフトウェアは自前で用意しなければならなかったが、Robocarとセンサーさえあれば、すぐに開発をスタートできると説明した。

 なお、ZMPが研究開発している自動運転と、名古屋大学のAutowareの違いは、Autowareは3次元レーザースキャナと、地図とのスキャンマッチングによる自己位置推定をベースに走行するのに対して、ZMPは、2次元のスキャナで障害物検知し、さらに画像認識による自己位置検出を行っていること。

 ZMPの自動運転は低コストでの量産化を意識し、「3次元スキャナを使わないこだわりがある」としている。

自動運転ソフトウェアのオープンソース、Autoware
プレスリリース
走行するルートが画面上で青い線で引かれ、何かあったときに安全に退避する軌跡が赤線
道路上に通るべき軌跡が描かれる
画像認識により歩行者を検知するNVIDIAのGPUを使って処理
検知した障害物など
レーザースキャナーを搭載したクルマが通るたび、データが蓄積されていく
実験に使ったRoboCar HVとその装備
自動運転のオープンイノベーションが期待される
Autowareの処理体系
協力企業
RoboCarシリーズのラインアップ
Autowareによるスキャンマッチング
Autowareを搭載したRoboCarを公開
Autowareの基本機能
ZMPが開発中の自動運転と、Autowareでは用途や設計が異なる

NVIDIA DRIVE PXによるディープラーニング応用システムを販売へ

 もう1つの発表は、NVIDIAとの協業。ZMPはディープラーニングを応用した画像認識システム開発に着手し、自動運転車開発プラットフォームのNVIDIA DRIVE PX向けのソフトウェア販売を目指す。

 NVIDIA DRIVE PXは単なる車載用の演算処理ボードではない。自動車のディープ・ニューラル・ネットワークと連携。データセンター向けのGPU、NVIDIA Teslaも提供することで、学習効果をより高めるプラットフォームとなる。

 具体的には最初のステップは画像処理技術において、自動運転車側で正しく認識されなかった画像をデータセンターのサーバーに送信。サーバーが処理した学習済の計算モデルが自動運転車に送られ、次からは正しく認識ができるようになることが期待される。それを繰り替えすことで、画像認識の技術がさらに高まることが期待される。

 サーバー側には、処理能力が非常に高いサーバー向けのGPU、NVIDIA Teslaが待ち受けており、より複雑な処理が可能となる。

 そして、次のステップとして、急ブレーキや危険運転など動画で入力からアクションを検出し、さらに、次のアクションを判断するところまで応用を進めるとしている。

ビデオメッセージを寄せたNVIDIAのCEOのジェンスン・フアン氏
NVIDIA DRIVE PXを手に語るNVIDIA 日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏

 今回の発表は、NVIDIAから日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏が登壇するとともに、同社のCEOのジェンスン・フアン氏がビデオメッセージを寄せた。ジェンスン・フアン氏も来日を希望していたが、参加できなくて悔やんでいるとし、NVIDIAからZMPに対する期待の大きさが伺われた。

NVIDIA DRIVE PXによるディープラーニングの例
NVIDIAとZMPの協業内容
ZMPの画像認識技術とGPU
ディープラーニングの自動運転への応用の段階
ディープラーニングがもたらす変化
ソフトウェア開発の特徴
まずは歩行者検知から
ステレオカメラのRoboVison2によって歩行者検知と距離測定
NVIDIA DRIVE PXを搭載したRoboCarの販売を目指す

ロボットタクシーの意義が語られる

ロボットタクシー 代表取締役社長の中嶋宏氏

 ZMPフォーラムでは新たな発表のほか、関連するサービスの紹介なども多数行われる。先日設立と発表が行われたロボットタクシーから代表取締役社長の中嶋宏氏が登壇した。中島氏はDeNAとZMPが合弁会社の「ロボットタクシー」を立ち上げてこの事業を行う理由を説明。出資元であるDeNAがこの事業を手がける意義を説いた。

 現在の自動車業界は自動車を作るメーカーに付加価値が寄っている。それが急速に運転する側、サービスを提供する側に付加価値が移行するようになると予測した。その際、今までにないユーザー体験となるので、インターネットカンパニーの力が生きてくるとした。

 自動運転になると、クルマを所有する概念が変わる。例えば、クルマが自分を迎えにくるようになると、個人で所有するよりもシェアしたほうが効率的。そこで自動運転となると、タクシーとの違いがなくなってしまう。それらの概念が融合した結果がロボットタクシーであるという。

 中嶋氏はロボットタクシーの会社立ち上げ後、地方の自治体などから「来年にでもサービスをしてくれ」という声が多数あることを明かし、実際に視察も行ったという。住民の高齢化などにより、移動の足としてタクシーやバスが必要な地域があるが、人件費の問題を含めドライバーの確保ができず、自治体が車両を援助すると言っても実現しないのだという。

 また、介護施設では送迎の必要があるが、コストの面から介護スタッフ自身がドライバーを兼ねていることが多く、激務の中で交通事故のおそれが高まっている。

 これらの問題を解決する手段が自動運転だとし、誰かがリスクをとって事業を始める必要性があることも訴え「おとぎ話をやってるわけでなく、世の中に必要なことをやってる」と強調した。

 ロボットタクシーが実現すれば、先行事例として海外へパッケージ輸出も検討している。すでにアジア圏での展開を模索しているという。なお、中嶋氏は近々、センセーショナルな発表があると予告して講演をまとめた。

ロボットタクシー構想
付加価値は車両を作るメーカーからオペレーター、サービス・プロバイダーへと移り変わる
車内でのエンタメ提供をはじめ、ロボットタクシーはサービスを拡大していく
自動運転によってクルマの概念が変わる
タクシー事業のコストは73%が人件費。自動運転で大幅に削減可能という
ロボットタクシーによって解決する課題
アジア諸国での展開も同時に検討
実用サービス検証の実施を計画中。近日発表があると予告された

自律型ロボットと自動運転は似ている

ZMP 自動運転技術統括フェローの景山浩二氏

 ZMPが現在取り組んでいる自動運転技術については、自動運転技術統括フェローの景山浩二氏が説明した。景山氏はソニーの愛玩ロボット「AIBO」の開発責任者で、2015年6月にZMPに入社した。

 景山氏はまず、ZMPが目指す自動運転のレベルを紹介、米国NHTSAの定義で「レベル4」を目指すとした。レベル4とはドライバーが全く関与しない究極の自動運転で、いきなりこのレベルを目指すのはGoogleの自動運転車やロボットタクシーだとした。

 景山氏は「自律型ロボットと自動運転は非常によく似ている」と語り、具体的にはやりとりするデータや処理の仕方が似ているとし、自らの経験が活かせる点を強調した。

 自動運転技術をカバーする技術としては、NVIDIAのGPUによる画像認識。ソニーの新CMOSセンサーにより夜間も対応する感度を挙げ、認知と判断の重要性を挙げた。

 今後のスケジュールとしては、2015年秋に湘南地区にてロボットタクシーの実証実験、2018年にレベル4の自動運転の実証実験、2019年にロボットタクシーとしてのサービス検証、2020年夏に東京オリンピックに向けたサービス運用開始、その後、サービスエリアの拡大を狙うという。

ZMPのミッション
自動運転だけでなく応用事業も実現していく
自動運転のレベル分け。ZMPではレベル4を目指す
自動運転と自律型ロボットは似ている
ロボットタクシーは移動を楽にする
今後のスケジュール
自動運転実現に向けて、重点的に攻めるポイント
自動運転に向けた次の一手、湘南で実証実験を行う

そのほか、関連サービスを紹介

 ZMPフォーラムではこのほかにも多数のセッションがあり、初日から最新の製品やサービスの紹介などが行われた。

 ZMPは同社のサービスや製品を多数紹介し、サービスでは実車実験代行サービスの「Robotest」が紹介された。社内倫理規定で自社で走行実験が困難な場合、ドライバーの手配から実験ノウハウの蓄積まで行うサービス。特に実験項目があいまいな場合は、実験場所をはじめ効果的な実験をアドバイスするという。

 また、製品としては実験プラットフォームのRoboCarシリーズは、トヨタ自動車のプリウス、プリウス PHV、エスティマ ハイブリッド、トヨタ車体のコムスをベースとした実車や、1/10サイズで手軽に実験ができる「RoboCar 1/10」を紹介した。実車ベースのRoboCarの場合、コムスがベースの「RoboCar MV2」はステアリング、ブレーキ、アクセルの操作にアクチュエータを装着しているが、プリウスやエスティマは車両についている制御装置をそのまま誘導することで自動運転のための操作を実現している。

 そのほか、センサ・計測ツールや、ソニー製CMOSセンサーを搭載して0.005ルクスの暗がりまで撮影可能なステレオカメラ「RoboVision2」、車載や乗車人員のモーションセンサーなどが紹介された。

 ZMP以外では、マイクロンが同社のラインアップの中から車載に適したメモリーを紹介。ザインエレクトロニクスが車載器用の画像表示のチップと高速画像伝送技術を紹介した。

RoboCarシリーズ
小型化して開発の入門用となるRoboCar 1/10
1人乗りのRoboCar MV2はトヨタ車体のコムスがベース車両となる
プリウスがベースのRoboCar HV
エスティマ ハイブリッドがベースのRoboCar MiniVan
RoboCarについてのまとめ。トヨタ車以外のロボットカー化も可能だという
実車による走行試験を代行するRobotestの概要
Robotestの特徴
Robotestを支えるセンサーやロガーなど
Robotestでは幅広いデータ収集を行う。バグ出しを得意とする人材を加えてテストを行う
事例は豊富にあり、数百万円から、海外でのテストを行って7000万円という事例も紹介された
ZMPが自ら収集した走行データをサンプルとして量り売りし、Robotestの実施へとつなげることを検討中だ
RoboVisionの概要。ほぼ暗闇でも画像データを取得可能
コンセプトは「ヒーロー」。レッドの派手なボディーでまとめた
スペック表。ソニー製のCMOSセンサーを使っている
ZMPが取り扱うセンサーモジュール。車両用から脳波計、心拍センサーまである
9軸モーションセンサー
世界最小クラスのワイヤレス心電計。自動運転時に人体にもたらす影響を調べられる
マイクロンのロードマップ
ADAS(先進運転支援システム)での使用が想定されるメモリー製品
ザインエレクトロニクスのソリューションの特徴
車載インフォテインメントにチップを提供する

RoboCarシリーズの実車を展示

 会場にはRoboCarシリーズの3台が展示された。2代目プリウスがベースのRoboCar HVはセンサーが取り付けられ、バンパーを大型のものに変更してあるほか、展示用にJVCケンウッドのデジタルコックピットシステムを装着し、サイドミラーがカメラ映像を表示するタイプとなっていた。

 エスティマ ハイブリッドがベースのRoboCar MiniVANは、ロボットタクシーのデモカーであり、車検証には所有者がロボットタクシーとなっていた。さらにRoboCar MV2、RoboCar 1/10も展示された。

RoboCar HV。ベース車両は2代目プリウスだが、バンパー形状の変更で雰囲気は大きく変わっている
フロントにはセンサーを搭載している
車内にはJVCケンウッドのデジタルコックピットシステムを装着
バックカメラや電子式のサイドミラーカメラからの映像を表示する
全周俯瞰カメラシステムも搭載する
サイドミラーに相当するカメラ取付部。後方のほか、直下に向いたカメラも装備し、全周俯瞰カメラに利用する
RoboVision2を搭載するRoboCar MiniVan
ロボットタクシー仕上げのRoboCar MiniVan
2次元レーザーセンサーをフロントや四隅に搭載している
助手席部に機器があるほかは、大きな変化のないコクピット。大型の機器を搭載して検証できることもRoboCar MiniVanの特徴
車内に設置したカメラ映像をNVIDIA DRIVE PXに入力、画像処理を行っている
四隅にある2次元レーザーセンサーによる画像。「Ped」印が人間が歩いているところ。右前方で検知している
自動運転を実現すると運転手が不要になるため、乗客と音声で目的地の指示など、やりとりする技術が必要。ヒュートレックが技術を提供予定。外国語でも使えるようになる見込み
1人乗りのRoboCar MV2
1/10サイズのRoboCar 1/10
RovoVisionも展示
各センサー類
こちらもセンサー
8月26日のセッションで発表が予定される物流支援ロボット「Carriro」も展示された。アシスト機能で軽々と移動できるほか、自律移動機能を開発中
床下に機器があることが分かる
NVIDIAはブースを設けてNVIDIA DRIVE PXと、サーバー用のGPU、NVIDIA Tesla K80を展示した
NVIDIA DRIVE PX
発表会前日の8月24日に発表となったソニーモバイルコミュニケーションズとの合弁会社、エアロセンスによる自立型UAVとマルチコプター型UAVも展示した

 そのほかの展示では、今回発表のあったNVIDIAやそのほかのメーカーの製品も展示。さらに8月24日に発表されたソニーモバイルコミュニケーションズとの合弁会社、エアロセンスによる自立型UAVとマルチコプター型UAVも展示した。

ZMPフォーラムは東京・六本木のベルサール六本木で開催

(正田拓也)