インプレッション

STI「XV ハイブリッド tS」(期間限定モデル)

より多くの人にSTIに乗ってほしい

 コアなファンによる指名買いが多いスバル(富士重工業)のクルマの中でも、「XV」だけは少々事情が違う。スバルであることにあまり関係なく、このデザインや色遣いといった独特の雰囲気が気に入って選ぶ人の割合が高いそうだ。言われてみれば、確かにそれは分かる気がする。

 一方で「STI」というと、男らしい、わるくいうとちょっと汗臭いイメージが根強くあるのは否めないと内部の人たちも自己分析している。そこで、コアなファンの人には物足りないかもしれないことを承知の上で、より多くのユーザーにSTIモデルに乗ってほしいとの思いから企画されたのが、この「XV ハイブリッド tS」だ。XVの“スポカジ的な個性”をより活かすべく、STI(スバルテクニカインターナショナル)としてはかつてなく見た目から入った異色のモデルである。

1月22日まで受注している「XV ハイブリッド tS」。価格は332万6400円。ボディカラーは写真のクリスタルホワイト・パール(3万2400円高)のほかに、クリスタルブラック・シリカ、ハイパーブルーがある

 ベースにXVではなく、敢えてハイブリッドを選んだのもより幅広い層に訴求するため。「Enjoy Driving Hybrid(エンジョイ ドライビング ハイブリッド)」をコンセプトに、「誰がどこで乗っても気持ちがよく、運転が上手くなるクルマ」を追求している。

 このクルマの元になるコンセプトカーは2016年の東京オートサロンで初めて披露された。そして同年5月の「ワークスチューニンググループ合同試乗会」で、筆者もコンセプトモデルに触れることができた。とくに大きな理由はないものの、発売までやや時間を要してしまったようだが、件のコンセプトモデルから基本的な内容はほぼ変わっていない。

東京オートサロン2016 with NAPACのスバルブースで展示された「SUBARU XV HYBRID tS CONCEPT」(参考出品車)
筆者もワークスチューニンググループ合同試乗会で試乗した「SUBARU XV HYBRID tS CONCEPT」

 特別仕様車という設定で、持ち込み登録ではあるが販売台数に限りはなく、価格は332万6400円となる。ベースの「2.0i-L EyeSight」が259万2000円なので、差額は73万4400円。STIのコンプリートカーとしては価格差が小さいと思うところだが、実車に触れてさらにその思いが強まったことをあらかじめお伝えしておこう。

見た目も走りも楽しめる

 前出のワークスチューニンググループ合同試乗会で見たときにも興味深く思ったものだが、やはりこのオレンジを強調した内外装デザインはインパクトがある。エクステリアだけでなく、ブラック、オレンジ、アイボリーでコーディネートされたインテリアも目を引く。これまたけっこうお金がかかっていそうだ。もともと目にしただけでなんだかワクワクした気分になれるXVが、さらにこうして見た目を引き立てられているのだから、この雰囲気だけでも惹かれる人は少なくないことだろう。

 それでいて、むろんこのクルマはSTIのコンプリートカーらしく中身もしっかり性能を出していて、「運転すると“STI”だと感じられる走りを追求した」との開発関係者の言葉どおり、走りも上々だ。

試乗後に開発担当者に疑問点などについてインタビュー
スバルテクニカインターナショナル株式会社 パワーユニット技術部 パワーユニット設計課 課長 柳岡寛典氏
スバルテクニカインターナショナル株式会社 車両実験部 担当部長 桐生浩行氏
フロントマスクではフロントグリルがダークメッキ加飾となり、ベゼル部分もシルバーからブラックに変更。オレンジピンストライプ入りの大型スポイラーのほか、STIロゴ入りのフォグランプカバーも装備する
オレンジ塗装&切削光輝仕上げの専用17インチアルミホイールを採用。タイヤサイズは225/55 R17
オレンジピンストライプ入りでリアタイヤ側にSTIバッヂを装着するサイドアンダースポイラー
試乗車には専用オプションのSTIスポーツマフラー(8万6400円高)が装着されていた
ルーフエンドスポイラーの下側にもオレンジピンストライプを設定
リアハッチに専用バッヂを備える

 前回はクローズドコースのみ、そして今回は一般道でのドライブだが、まず感じたのは乗り味がとても上質に仕上がっていることだ。引き締まったなかにもしなやかさがあり、姿勢変化は小さく、ピッチングも抑えられていてフラット感がある。ちょうど「インプレッサ」が新型になり、従来型に対してずいぶんよくなったと評されている、まさしくその方向性にも通じるものがある。

 操舵に対する応答遅れも極めて小さく、ステアリングを切ったとおりリニアに反応する。文字どおり“意のまま”の操縦性を身に着けている。コンセプトどおり「運転が上手くなった」ような感覚を、誰でも味わうことができるはずだ。これにはサスペンションの味付けはもちろん、各部に装着されたSTIお得意の「フレキシブル系アイテム」が効いているのは言うまでもない。さらに乗りやすいだけでなく、STIらしいエキサイティングさをも併せ持っている。

カラフルな専用シートは、表皮にもウルトラスエード(ブラック)、合成皮革(オレンジ)、トリコット(アイボリー)を組み合わせて採用。フロントシートのヘッドレストと肩口の部分に本革を使う。クッションには低反発素材を使い、形状には適度なホールド感を持たせて走行時の微振動を吸収。疲れにくい設計としている
オレンジのステッチを使う本革ステアリングは、下側スポークがシルバーからダークキャストメタリック加飾に変更されている
ベース車と同じ常時発光式ブルー照明メーター
シフトセレクターはステッチがオレンジになるほか、メタル調加飾パネルがダークキャストメタリック加飾となっている
アルミパッド付スポーツペダルもベース車同様の装備

スポーツマフラー装着の効果は?

 ベースがガソリンモデルではなくハイブリッドモデルであることもポイントだ。そもそもXV ハイブリッドは、ハイブリッドカーとして見るとメカニズム的にはシンプルなほうだが、走ってみると思ったよりもずっとしっかり“ハイブリッドカー”している。モーターをフルに駆使して、軽い踏み込みでも力強く加速する動力性能を実現しつつ、おとなしく走ると頻繁にエンジンが止まることも印象的。アイサイト(ver.2)の「エコクルーズコントロール」を使うとEV走行する割合がさらに増す。

 エンジン性能に関わるチューニングは行なわれていないが、今回の試乗車にはワークスチューニング合同試乗会で乗った車両にはなかった、ちょっと低く太いエキゾーストサウンドを聞かせるオプションのスポーツマフラーが装着されていた。ハイブリッドなのでエンジンが停止したり再始動したりするたび、ONとOFFの差がより明確に感じられるところにも、また新しい楽しさがあるように思えた。むろん、静かなほうがいいという人もいるだろうが、であればオプションのマフラーを選ばなければいいだけの話だ。

水平対向4気筒DOHC 2.0リッター自然吸気の「FB20」エンジンは、最高出力110kW(150PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpmを発生。これに最高出力10kW(13.6PS)、最大トルク65Nm(6.6kgm)を発生する「MA1」モーターを組み合わせるハイブリッドシステムをパワートレーンに採用する
エンジンルーム内のフレキシブルタワーバーフロントのほか、フレキシブルドロースティフナーフロント、高剛性クランプスティフナーなどを装着してボディ剛性を強化。ステアリング操作に対する反応を早め、高速安定性を向上させている

 インプレッサがモデルチェンジし、ベースのXVもそう遠くないうちにモデルチェンジするようだが、現行モデルのフィナーレを飾るスペシャル版として、こうした見た目が楽しく走りの完成度の高い、STIが手がけたコンプリートモデルが出てきたことを歓迎したく思う。そして、次期モデルではハイブリッドがどうなるのかは分からない。ひょっとしてこのXV ハイブリッド tSは、のちのち振り返ると非常に貴重な存在になるのかもしれない……。

【お詫びと訂正】記事初出時、アイサイトをver.3と表記していましたが、同車に装備されているのはver.2となります。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一