インプレッション

レクサス「GS200t」(公道/サーキット試乗)

乗り心地を第一にサスペンションをセットアップ

 レクサス(トヨタ自動車)「GS」にマイナーチェンジが実施され、これまでのV型6気筒2.5リッターエンジンを搭載した「GS250」に代わり、直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する「GS200t」が追加された。いわゆるダウンサイジングターボで、これまでのGS250の215PS/260Nmから245PS/350Nmへと大幅にパワーアップし、燃費も10.8km/Lから13.2km/Lへと進化している。また、トランスミッションが6速ATから8速AT(8-Speed SPDS)となり、Mポジション選択時には最短0.2秒で変速が可能となり、パドルシフトを使ってのよりスポーティなドライブが楽しそうだ。

 GSは2015年に行なわれたマイナーチェンジで、フロントグリルのセンターバンパーを取り除いた大きなスピンドルグリルへと変身し、構造用接着剤とレーザースクリューウェルディング、さらにスポット溶接打点追加によるボディ剛性の強化を行なうとともに、パフォーマンスダンパーをフロントに装着。その走りは、路面のアンジュレーションが強い荒れた路面の走行でも、ボディのガタピシ感はほとんどなく、堅剛ボディのおかげでサスペンションがしっかりと仕事をしている様子が手に取るように感じられる。GSのフロントサスペンションはダブルウィッシュボーン式で、リアサスペンションはダブルウィッシュボーン式から進化したマルチリンク式。これに、電子制御による可変減衰力のショックアブソーバー(AVS:Adaptive Variable Suspension system)が装着される。ただし、今回「GS-F」に新たに採用された、リニアソレノイドによる可変減衰力式のショックアブソーバー(ザックス製)とは異なる仕様のものだ。

2016年9月21日に「GS」を一部改良して、直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する「GS200t」をラインアップに追加。撮影車両はレッドマイカクリスタルシャインカラーの「GS200t“F SPORT”」で、ボディサイズは4880×1840×1455mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mm。価格は659万9000円
エクステリアでは“F SPORT”専用のスピンドルグリル(メッシュタイプ)、フロント&リアバンパー、リアスポイラーを装備するほか、切削光輝の“F SPORT”専用19インチアルミホイール(フロント:235/40 R19、リア:265/35 R19)を装着。さらにフロントには“F SPORT”専用のφ334mmベンチレーテッドディスク(高摩擦ブレーキパッド付)を標準装備
シート&トリムカラーはブラック。本革のシートやステアリング、シフトノブ、TFT液晶式メーターも“F SPORT”専用品

 試乗場所は袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ周辺の田舎道で、適度に路面が荒れていることと、コーナリングも楽しめるワインディングがある。GS200tはボディ剛性がしっかりしていることと、走行ノイズが少なく、室内がとても静かだ。とはいえ、路面のフィーリングはしっかりとドライバーに伝える。乗り心地とは、要するにどのようなインフォメーションでドライバーに伝えるかの問題。リアルに路面状況を伝えるのがいいのだろうが、それでは疲れてしまうし、質感がない。不快感を与えるインフォメーションは除去し、伝えなければならないインフォメーションは正確に伝える。ラグジュアリーなスポーツセダンほど、この不愉快でないリアルは重要なのだ。GS200tの乗り心地は、まさに余計なものはなく、ステアリングからは路面のサーフェースを手に感じさせてくれるほど。

 しかし、これはそれなりにコーナリングを楽しんでいるときの話で、市街地レベルの低速域では、ステアリングのセンター付近(直進時の微小舵)が若干ファジーだった。AVSは、ドライブモードを最強のスポーツ+にセットしても乗り心地が極端に悪化することはなく、“プレミアムなスポーツサルーン”という味を出している。バンプ(縮み)方向の減衰はそれほど強くせず、むしろリバンプ(伸び)方向を強くすることで、コーナリング中の内輪の接地性を上げる目的を意識しているようだ。

 分かりやすく説明すると、コーナーへのアプローチでステアリングを切り込んだ時、外側のサスペンションはスッとロール方向に動くが、内側のサスペンションは一気に伸びず内輪の接地性を維持しているということ。凸凹路面では、凸部での突き上げ感は強くなく、凹部での落ち感が強くなる。したがって、GS200tのサスペンションは乗り心地を第一にセットアップしている。車格を考慮すれば当然のことだ。

タイムラグなくブースト圧を発生

GS200tが搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力180kW(245PS)/5800rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1650-4400rpmを発生。JC08モード燃費は最良で13.2km/Lをマーク

 さて、お待たせしました、ようやくエンジンについてのレポートだ。スペック表を見る限り、V型6気筒3.5リッターエンジンを搭載するGS350との重量差はそれほどない。しかし、走行中の軽快感はGS200tの方がある。プラシーボ効果だろうか、明らかにフットワークが軽く感じられるのだ。つまり、これはハンドリングのことで、パワーフィールはV6 3.5リッターエンジンと比較するべきではないが、GS350の最大トルク380Nm/4800rpmに対して、GS200tは350Nm/1650-4400rpm。わずかに30Nmの差で、しかも極低速域でのトルク重視なのだ。

 少しだけサーキットでも試乗したのだが、ドライブ中のメーターパネル左側に映し出されるブースト計の指針の動きには驚く。アクセルペダルの踏み加減に瞬時に反応して、最大1.2bar付近までピンピンとハネ上がるのだ。つまり、タービンの回転上昇が瞬間的で、タイムラグなくブースト圧を発生させている。3000-4000rpm付近で、ほぼピークに近いブースト圧を発生している。

サーキットではヒートブルーコントラストレイヤリングカラーのGS200tに試乗

 実際にそのトルク感は太く、2.0リッターという排気量を意識させないほどに力感が厚い。低速域のこの厚いトルクに、8速ATが実にうまく反応していて、パワー的にまったくストレスを感じさせない。トップエンドは6000rpm強だが、Dレンジで全開にすると6000rpm弱でシフトアップを繰り返していた。正直、これまでGSに搭載されたエンジンの中でベストではないかと思うのだ。また、オプションでトルセンLSDを装備することができ、ワインディングでのトラクション性能だけでなく雪路や濡れた路面にも効果的。

 数年前、GSがフルモデルチェンジされたとき九州で試乗会が開催されたのだが、夜間の高速道路でジャズ音楽をオーディオから流しながらドライブした。暗闇の高速道路を走る車内は、とてもモダンな部屋を演出。贅沢な時間を満喫したのが印象的だった。また、あの時の音楽をBluetoothで流しながら首都高を走ってみたいと感じた。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在62歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:中野英幸