インプレッション

フォルクスワーゲン「ティグアン」(2017年フルモデルチェンジ)

コンパクトクロスオーバーSUVの先駆けがフルモデルチェンジ

「KY(空気読めない)」なんて言葉が大流行していた2007年。そんな年のフランクフルトショーで発表されたのが、コンパクトクロスオーバーSUVの先駆けとなった初代「ティグアン」。でも実際は、とても空気を読んだモデルだった。

 世界的に原油や食品の価格暴騰や異常気象が起こり、なんとなく先の見えない不安感が蔓延していたこともあって、燃費や維持費を抑えるためにクルマはどんどんダウンサイズする流れに。でも、いざという時に頼れる本格的な4WD性能は持っておきたい。初代ティグアンはそんな人たちの心をグイっと掴む、オシャレで日常にも使いやすい、有能なサバイバルギアみたいな魅力を備えるモデルとして瞬く間に大人気となった。本国ドイツで7カ月連続のSUVトップセールスを記録したのを皮切りに、これまでに世界で累計264万台以上が販売されている。

 しかしその後、全長4.5m前後のMクラスと呼ばれるコンパクトSUVは増えに増え、現在日本で買えるモデルだけでも30車種以上の激戦区。その主流は、スタイリッシュなデザインであったり、普通のコンパクトカーより居住性や積載性が高いという使い勝手であったり、オンロードでの運転のしやすさであったりと、日々の暮らしにちょっと遊び心や安心感をプラスしてくれるモデル。輸入車には、日本車を上回るプレミアム感や先進技術が求められているのが現状だ。

 そんなわけで、フルモデルチェンジした新型ティグアンは、本国では相変わらず高性能な4WDモデルをラインアップしているものの、日本に導入されるのはひとまず2WD(FF)モデルのみとなった。その代わり、搭載される先進技術を一読すると、一気にライバルたちを抜き去る魅力にあふれている。ベースグレードとなる「TSI Comfortline」、上級グレードの「TSi Highline」、そして専用のスポーティスタイルとなる「TSI R-Line」というラインアップのうち、今回は433万2000円の「TSI Highline」に試乗することができた。

1月17日に発表となった新型「ティグアン」。今回試乗することができたのは上級グレードの「TSi Highline」(カリビアンブルーメタリック)で、ボディサイズは従来モデルから70mm長く、30mm広く、35mm低い4500×1840×1675mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは70mm延長されて2675mmとなった。価格は433万2000円。オプション設定の「テクノロジーパッケージ」(ダイナミックライトアシスト/ヘッドアップディスプレイ/パワーテールゲート/アダプティブシャシーコントロール“DCC”。30万2400円)、「レザー&パノラマルーフパッケージ」(43万2400円)を装着する
フロントまわりは、ラジエターグリルとヘッドライトを水平にレイアウトし、幅広さを強調したデザインに変更。LEDヘッドライトは「TSi Highline」に標準装備、フォグランプは全車標準装備
ターンシグナルランプ内蔵の電動格納式リモコンドアミラー(ヒーター、リバース連動機能[助手席]付)
「TSi Highline」は5ダブルスポークの18インチアルミホイール(タイヤサイズ:235/55 R18)を装着
スモークがかったテールランプ(LED)は「TSi Highline」「TSi R-line」に標準

 ひと目見てまず感じたのは、パリッと素敵にシャツを着こなしているかのような凛々しさと、知的さを秘めた堂々とした佇まい。フォルクスワーゲンが進めている新世代のプラットフォーム「MQB」を採用したボディは、全長が先代モデル比で70mm増の4500mm、全幅は30mm増の1840mmとわずかにワイドとなりつつ、全高が35mm減の1675mmに抑えられ、地面にしっかり踏ん張るような安定感が強まっている。

 デザインでは、ヘッドライトとフロントグリルが水平につながる配置となっていたり、サイドを貫くキリリとしたキャラクターラインが高い位置にあったり、リアは絞り込まれたルーフラインからクーペのような張り出し感があったりと、そうした視覚的効果もあってどの角度から見ても生き生きとしたダイナミックさが感じられる。フォルクスワーゲンを語る上で長く使われてきた「質実剛健」という言葉は、この新型ティグアンでは影を潜め、ライバルに多い相手を威嚇するような強面でもなく、遊びすぎたファニーな顔でもなく、サラリと乗れるスタイリッシュなSUVという印象だ。

どの角度から見ても生き生きとしたダイナミックさが感じられるエクステリアデザイン

ライバルに勝る使い勝手

全面的に見直されたインテリアデザイン。スポーティさを強調するとともに、素材の選択や配置でSUVらしさを強調したという

 インテリアを見てみると、インパネは幅広のセンターコンソールで運転席と助手席をしっかり区切り、スイッチ類などが運転席側に向けられたコクピット感のあるもの。外観と違ってこちらは質実剛健のイメージが残りつつ、エンジンを始動すると色鮮やかなイラストなどが映し出されるインフォテイメントシステムが立ち上がり、一気に華やかな印象に。オプション設定のレザーシートに加わったサフラノオレンジを選べば、室内はさらにモダンで明るい空間になりそうだ。

 シートはほどよく肉厚なクッションと、控えめなサイドサポートがあり、ボディのベルトラインも高めで包まれ感のある座り心地。センターコンソールにある蓋付きのドリンクホルダーは、バネでしっかり飲料が固定できたり、コンソールボックスが小さめでもたっぷりの深さがあったりするところに、オフロード走行も得意とするティグアンらしさがチラリと見える。ほかにも大きなドアポケットや助手席下の引き出し、ステアリング右下にもポケットがあり、収納力は十分だ。

 室内空間としては、運転席の頭上はそれほど余裕はないものの、室内長は26mm拡大し、運転席から後席を振り返るとそのゆとりを実感する。後席に座ってみると、前後スライド機能は健在で29mm広がったという膝まわりのスペースと、前席よりも余裕のある頭上スペース、そして膝裏まである大きな座面で安心感のある座り心地。ストラップを引く操作はちょっと使いにくいが、背もたれのリクライニングもでき、リラックスして過ごせる空間となっている。

パドルシフト付きのレザーマルチファンクションステアリングホイール
12.3インチの大型ディスプレイを用いてフルデジタル化されたアクティブインフォディスプレイを採用。画面中央にマップを表示させることもできる
SUVらしくコンパス機能やタイヤ角の表示も可能
オプションのパノラマルーフを装着
トランスミッションは6速DSGを採用する
シフトまわりのスイッチで走行モードを変更したり、アイドリングストップ機能のON/OFFが可能。新型ティグアンでは電動パーキングブレーキを採用する
8インチの大型フルカラータッチスクリーンにSSD(64GB)を搭載する純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」はティグアン初採用。2016年から製品展開しているモバイルオンラインサービスの「Volkswagen Car-net」にも対応
全車標準装備となるシートバックテーブルはカップホルダー付き。角度を調整してタブレットやスマートフォンで動画を視聴、なんてことも可能
オプション設定のレザーシート

 そして使い勝手の面で一番の進化と言えるのが、容量が先代モデル比で145L増の615Lとなったラゲッジ。これはマツダ「CX-5」の505L、メルセデス・ベンツ「GLA」の421Lなどライバルと比べても圧倒的に広く、開口部もほぼスクエアな形状で大きくなっている。後席を前にスライドすれば、奥行きが18cm広がり、6:4分割で前に倒すと最大で1655Lのフラットなスペースができる。さらに助手席の背もたれが倒せるので、長い荷物もOKだ。

パワーテールゲートはキーを保持した人がリアバンパー下で足の出し入れをすると、センサーが反応して自動でテールゲートが開き、テールゲートから離れると自動でテールゲートが閉じ、ロックも自動で行なう「Easy Open & Easy Close」機能付
ラゲッジルーム容量は先代比で145L増の615Lに。6:4分割可倒式のリアシートを折り畳むことで最大1655Lまで拡大することができる
ラゲッジスペースの横にあるレバーで後席を前倒しすることもできる

 デザインや室内空間、使い勝手の面でこうした数々の進化が実現したのも、「ゴルフ」「パサート」「ゴルフ トゥーラン」に続いて4モデル目の採用となった「MQB」の功績だが、それは走りの面でもしっかり表れている。今回設定されたパワートレーンは、1.4リッターTSIエンジン+6速DSGと、先代モデルでもラインアップしていた組み合わせとなるが、エンジン型式が「CTH」から「CZE」に変わっているように、パワーや燃費性能がさらに進化した。

 ダイキャストアルミニウム製の超高剛性クランクケースの採用や、エキゾーストマニホールドとシリンダーヘッドの一体化などで軽量化されたユニット、そして一時的に2気筒を休止することができるアクティブシリンダーマネージメント(ACT)といった改良により、出力&トルクは150PS/250Nm、JC08モード燃費は16.3km/Lに。とくに1500rpmから発揮される最大トルクは、スバル(富士重工業)「フォレスター」の196Nm、クライスラー「チェロキー」の229Nmなど排気量2.0リッター以上のライバルよりも力強い。

 サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアが4リンクで双方にスタビライザー付きというのは先代モデルと変わらないが、タイヤサイズがComfortlineに17インチ、Highlineに18インチ、R-Lineに19インチと3サイズ用意されている。試乗したHighlineには、235/55 R18のピレリ「SCORPION VERDE」が装着されていた。

新型ティグアンが搭載する直列4気筒DOHC 1.4リッターターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生。JC08モード燃費は全グレード16.3km/Lとなっている

先進安全装備とテレマティクス機能が充実

 走り出すと、ひと踏み目からの軽やかさがスーっと続き、もっとトルク重視でグイグイくるのかと思っていただけに、そのジェントルマン的な加速フィールがとても新鮮だ。ステアリングはしっかりと落ち着きのある操作感で、市街地でもなめらかに回せるのが好印象。6速DSGのフィーリングも、MT車っぽい変速ショックはほとんど消え、でもCVTのようなズルズルとした滑り感はまったくなく、ほどよいイージーさが快適だ。アイドリングストップからの再始動は「ほんの少し遅いかな」と感じる場面もあったが、右折や合流などで素早く前に出たい時など、欲しいところでしっかりと加速できる爽快感や、高速での伸びやかなクルージングがくれるリラックス感は、日常からレジャーなどの長距離走行まで満足度が高いと感じた。

 そして大盤振る舞いとも言えるほど充実したのが、先進安全装備とテレマティクス機能などが採用されたインターフェイス。歩行者検知に対応したシティエマージェンシーブレーキ機能が加わった、プリクラッシュブレーキシステムの「Front Assist」や、全車速追従機能付きの「ACC」、車両まわり360度を映し出すワイドアングルカメラの「Area View」が全車標準装備となるほか、レーンキープアシストシステム「Lane Assist」やレーンチェンジアシストシステム「Side Assist Plus」、渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」、フルデジタル化されたメータークラスターの「Active info Display」などがベースグレード以外に標準装備。また、夜道の明るさに応じて自動で最適な明るさを保つダイナミックライトアシストや、パワーテールゲートなどオプションでも先進装備が揃っている。

 さらに、純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」にはテレマティクス機能の「Guide&Inform」を含むモバイルオンラインサービス「Volkswagen Car-Net」を搭載し、ナビのルート案内の精度アップやニュース、天気、目的地の情報などをスマホなどのモバイルやWi-Fi接続によって入手することができる。コネクティビティ機能「App-Connect」対応でさまざまなアプリも起動でき、ドライブの便利さと楽しさが一気に新時代のものになりそうだ。

 こうした先進の安全装備やインターフェイスは、ライバルと比べてもかなりの充実度。日本ユーザーを無視せず、ちゃんと本国並みのサービスを提供しようとする姿勢もフォルクスワーゲンらしいところだ。小さな排気量で気持ちのいい走りをかなえ、運転しやすいボディに先進機能と使いやすさを満載し、見た目も知的でスタイリッシュ。これこそ、今後のコンパクトSUVに最も求められていく条件ではないだろうか。新型ティグアンもやっぱり、ちゃんと空気を読んだモデルなのだと実感した。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学