インプレッション

ダイハツ「トール」&トヨタ「ルーミー/タンク」

 13年前の2003年に「タント」を“発明”したダイハツ工業の底力が、一気に炸裂した1台。新型モデルの「トール」、そしてトヨタ自動車からOEM販売される「ルーミー」「タンク」に試乗して、あらゆる面でそう実感した。

 それは開発にあたってのコンセプト設定の段階から始まっている。2016年は人気ミニバンの日産自動車「セレナ」、本田技研工業「フリード」がフルモデルチェンジして、いずれも「家族がクルマに求めるもの」を突き詰めてきた快作だったが、このトール/ルーミー/タンクがキーワードと定めたのも「家族とのつながり」。驚いたのは、想定した“家族のカタチ”が最も細かくピンポイントだったことだ。

 想定ユーザーは「20代後半から30代前半で郊外に住む子供が小さいファミリー」と、「40代前半で都心部に住む子供が小さい晩婚堅実ファミリー」という2タイプ。そうした人々が子育てをする日常に求められるのはどんなものか仮説を立てて検証し、ジャストフィットするコンパクトファーストカーに仕上げたのがトール/ルーミー/タンクだという。私自身がまさに想定ファミリーの後者にあたるため、説明を聞いたときはドキリとしてしまったが、せっかくなのでリアル目線でチェックしてみた。

トヨタ「ルーミー G“S”」(左)、ダイハツ「トール G“SAII”」(右)
トール G“SAII”のボディサイズは3700×1670×1735mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2490mm。今回の試乗会で用意された車両は2WD(FF)車のみで、車両重量は1070kg。ボディカラーは「ファインブルーマイカメタリック」

 まずはそのパッケージング。都心の道は案外と狭く、入り組んだ路地も多い。古いビルなどは駐車場も小さめで、大きなミニバンでは勝手がわるく近寄り難い場所になってしまう。だからボディサイズはなるべく小さく、室内はなるべく広く、スライドドアはマスト。ダイハツの検証ではそんな声が多かったようだ。

 トール/ルーミー/タンクのボディサイズは全長が4mを大きく切る3700mm、全幅が1670mm。全高はタントの1750mmより少し低めの1735mmに抑えられた。サイズ的に直接ライバルとなるスズキ「ソリオ」と比べても、全幅以外はすべてわずかに小さめだ。そこに、ダイハツの底力が発揮されている。

トール/ルーミー/タンクの各種寸法。コンパクトサイズで最小回転半径も4.6mとなっており、狭い場所でも扱いやすいよう配慮されている

 というのも、室内スペースを見てみると、ソリオが室内長2515mmを稼ぎ出す半面、室内幅は1420mmにとどまるのに対し、トール/ルーミー/タンクは室内長こそ2180mmと短いが、室内幅は1480mmと広く確保され、室内高も1355mmでソリオよりわずかに5mm低いだけ。子供と一緒に乗ると、世話をするときにほしいのは縦方向よりも横方向のスペースと天井の高さだ。とくにチャイルドシートを装着すると後席の横幅に余裕が必要になる。

 だからトール/ルーミー/タンクは全幅をしっかりとり、低めの全高でも室内高はそこそこの高さを実現。全長は抑えてその分を取りまわしのよさに譲ったことで、最小回転半径はソリオの4.8mを凌ぐ4.6m。実際に試乗会場の周辺には細くて急なカーブがあったものの、なにも気を遣うことなく、同乗者と談笑しながらラクラク走り抜けていた。

インテリアカラーは全車ブラックで、シート表皮はファブリック。カスタム系モデル(写真)のシートははっ水加工が施されている
ステアリングはカスタム系モデル(写真)が本革、そのほかのグレードがウレタンを採用全車オーディオレスが基本となり、装着されている9インチメモリーナビはディーラーオプション(25万8293円)

子育て中に重宝する装備満載!

 室内をもう少し細かくチェックすると、子育て中にほしいシート機能のツートップであるセンターウォークスルーとリアシートのロングスライドをしっかり装備。240mmのロングスライドは左右6:4分割で個別に操作可能となっていて、荷室側からもスライド操作ができるのもありがたい。後席のリクライニング角度も最大70度と大きく、前席の背もたれを最大限に倒せばベッドのようにフルフラットになり、足を伸ばして仮眠できる。これまで私はこのフルフラット機能のあるクルマを所有したことがなく、外出先で子供が眠ってしまったときはベビーカーを出して寝かせていた。でも、雨の日などはそれが難しく、仕方なく抱っこのまま車内で過ごしていたのだが、フルフラット機能があれば、片側を簡易ベビーベッドとして使えて助かりそうだ。

 そして全長が短い分、気になるのは5人乗車時の荷室容量だが、荷室幅は1300mm、奥行きは後席が最高端の位置でも500mmあり、タントの横幅1140mm、奥行き347mmと比べて余裕たっぷり。後席を少し前に動かせば機内持込みサイズのスーツケースが4個積めるほか、付属の多機能デッキボードを上げるとベビーカーの縦積みもOKという実力だ。ここにも、横幅と高さをしっかり確保した恩恵が見てとれる。

 また、後席を前方にダイブインさせると、奥行き1500mm以上の低くフラットなスペースが生まれ、自転車の積み込みも可能になる。多機能デッキボードは裏側が防汚シートになっており、展開すると前席のシートバック背面に届く長さがあるので、自転車のような大きな荷物を積むときにフロアを汚れや傷から守ってくれる。これはコンパクトカーではあまり見かけない、なかなか気の利いた装備だ。

荷室長はリアシートが最後方時(左)で500mm、前方にスライド(右)させると740mmまで拡大可能
前方の足下スペースにリアシートをダイブインさせると広い荷室スペースが生まれる
多機能デッキボードの防汚シートを使って自転車などを気兼ねなく載せられるようになる

 そのほか、室内では収納スペースにも気遣いを感じた。前席のカップホルダーは、閉じた状態ではスリット部分にスマートフォンがちょうど入り、引き出せば缶やペットボトル飲料が置け、さらに内側のホルダーを押し込むと1Lの紙パック飲料まで置くことができるという優れもの。センターコンソールには容量5Lもの大型ボックスがあってゴミ箱としても使えるし、後席にはシートバックテーブル(オプション)があってドリンクホルダーが2個と両サイドにフックもついており、子育て中は離乳食やミルクタイムに重宝するはずだ。

インパネの両サイドにある「回転式カップホルダー」は、わずかに開いたスリットにスマートフォンなどを収納できる
回転式カップホルダーは、手前に引いて円筒形の容器に対応。上にあるスペーサーを押し込むと紙パックが置けるようになる
後席右側にトレイ式デッキサイドトリムポケットとボトルホルダーを用意

 また、後席に早くエアコンの風が届くようエアコンセンターレジスターを設定したり、リアヒーターダクトを全車標準装備にするなど、後席の子供がいつも快適に過ごせるよう、まるで親の気持ちを汲んでくれているかのような装備にも感心した。スライドドアは低いステップや子供でも手が届く位置まであるアシストグリップもありがたいが、開口部の幅はタントと比べてもあまり広くなっておらず、子供を抱き上げて荷物を持ったような状態だと、もう少し開口幅がほしいと感じた。ただ、スライドドアの開閉に連動して光る後席ステップランプは、夜間に足下が見やすくなるだけでなく、スライドドアがしっかり閉じたかどうかがひと目で分かるのが、いたずら盛りの子供がいるファミリーには安心だろうと思う。

燃費情報など多彩な情報を表示可能な4.2インチの「TFTカラーマルチインフォメーションディスプレイ」。センターコンソールの中央に置いたのは、ドライバー以外の乗員にも見てもらえるようにとの狙いから
エコキャラモードの選択時には、かわいいキャラクターのアニメーションも表示される

大人4人乗車でも発進からグイグイ加速する新開発1.0リッター ターボ

 抜群の扱いやすさと使い勝手を実感したら、今度は気になるのがその走り。ダイハツの調査では、「定員フル乗車の機会が多いので、しっかりとした走行性能がほしい」という声も多数あったという。その声に応えるため、トール/ルーミー/タンクには新開発した1.0リッター ターボエンジンと、市街地での扱いやすさをアップさせた1.0リッター 自然吸気エンジンの2タイプを搭載。どちらもトランスミッションはCVTで、ターボは98PS/140Nmと1.5リッターモデル相当のトルクを発生する。また、自然吸気モデルは69PS/92Nmで、ブーン/パッソ同等となっている。

自然吸気の直列3気筒DOHC 1.0リッター「1KR-FE」エンジン。最高出力51kW(69PS)/6000rpm、最大トルク92Nm(9.4kgm)/4400rpmを発生
新開発の直列3気筒DOHC 1.0リッターターボ「1KR-VET」エンジン。最高出力72kW(98PS)/6000rpm、最大トルク140Nm(14.3kgm)/2400-4000rpmを発生
1KR-VETエンジンの単体展示。低イナーシャターボチャージャー、カムタイミングや作用角の最適化などで「1.5リッター自然吸気エンジン並み」という140Nmの最大トルクを生み出している

 大人4人乗車で試乗してみると、エンジンの差は明らかだった。自然吸気モデルでは発進から穏やかな加速フィールで、ステアリングの反応にもまったく鋭さはなく、リラックスして走れる感覚。直進安定性も高く、低速から60km/hくらいで走る街中では十分なパワーだが、上り坂ではやや“頑張ってる感”が強まった。それがターボになると、発進からグイグイと押されるように感じるほどの加速フィールで、とくに60km/hくらいまでの俊敏さがすごい。しかもステアリングに「スポーツモードスイッチ」があり、押すと体感速度がさらにアップする。

 ガッシリとした足まわりは安定感も高く、カーブでは挙動がピタリと一定のまま曲がれるのが爽快なほどだ。これは全車標準となるフロントスタビライザーに加えてターボモデルはリアにもスタビライザーが付くことや、試乗車(ルーミー カスタム G-T)は15インチのタイヤ&アルミホイール装着だったことも関係しているが、それでいてゴツゴツとした硬さはそれほどなく、ファミリーを意識した乗り心地に仕上がっていると感じた。

 ママと子供だけで街中を走ることが多いウィークデーに一番ほしいのは安心感。でも、休日にパパが運転するときにほしいのは、しっかりしたパワーと手応えのある満足感。ターボモデルはそのどちらも備わっていた。多くのグレードで衝突回避支援ブレーキ機能などがつく先進安全装備「スマートアシストII」が選択できるのも嬉しいポイントだ。

 こうして見てくると、トール/ルーミー/タンクはまさに、“晩婚堅実ファミリー”というキーワードにピタリとハマると感じる。子供が20歳になるころ、自分はもうすぐ定年……と考えると、なるべく節約して少しでも多く蓄えておかなければと思うのが普通だし、そのためには最高のコストパフォーマンスで最高に使えるファミリーカーを手に入れるのが賢明だと実感する。

 そしてもう1つ、若い子育てファミリーの“タント卒業組”も、やはりトール/ルーミー/タンクにハマるだろうと思う。子供が2人に増えたり、遠くまで出かけることが多くなったら、やはり軽自動車では物足りないところが出てくる。もうひとまわり広い室内や収納力、パワーと安心感のある走り、静粛性。いずれも軽自動車からのステップアップに十分な満足度だ。「ヴォクシー/ノア」までは必要ない、タントの次を求めるファミリーに、トール/ルーミー/タンクはちょうどいい選択だと思う。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学