インプレッション

トヨタ「ハリアー」(2017年マイナーチェンジ)

2.0リッター直噴ターボエンジン搭載モデルが追加されたハリアー

「ハリアー」というのは、実はなかなか波乱万丈なクルマだったりする。センセーショナルな初代の登場と、その後の北米での大ヒットはいまだに語り草。続く2代目も国内外で人気を博したが、レクサス「RX」の日本導入により、日本での役目を終えたとの判断から一度は消滅を余儀なくされる。

 ところが再販を求める声を受けて2013年に復活。その後は月販目標台数の2500台のダブルスコア以上も珍しくないほどの売れ行きを見せ、新車効果がとっくに薄れてからも生産能力を上回る好調な受注により納期に時間がかかるという情報がたびたび聞かれるほどの人気ぶりであった。2016年末には「C-HR」の登場を機にトヨタのSUVとして再び注目を集め、C-HRに興味を持ったものの何らかの理由でハリアーに流れた顧客が決して少なくないことが取り沙汰されるなど、とにかく話題に事欠かない。

 2016年度(2016年4月~2017年3月)には4万8366台を販売して、登録車の車名別ランキングでは18位となった。2013年の発売から4年がたった、しかもそれなりに安くはない価格帯のクルマとしては立派というほかない。

LEDシーケンシャルターンランプ採用

LEDシーケンシャルターンランプを採用。右左折の際、16灯のLEDランプが内側から外側へ流れるように光る

 そんな現行ハリアーのマイナーチェンジが実施された。内容としては、内外装のリフレッシュ、安全装備の充実など多岐にわたる改良とともに、最大のポイントとなるのが、2.0リッター直噴ターボエンジン搭載モデルの追加だ。

 見た目はそれほど大きく変わっていないながらも、ずっとモダンな雰囲気になった。見比べると初期型がずいぶん古く感じられてしまうほどだ。そして、ウインカーを点灯させると、初期型との違いは一目瞭然! 最近ちらほら見受けられるようになった、いわゆる流れるウインカー「シーケンシャルターンランプ」がハリアーにも採用されたのだ。

 加えて「LEDコーナリングランプ」や「LEDデイライト」も設定された。こういうアイテムに目ざとい人にとっては気になることだろう。むろん車内にいると見えないとはいえ、点灯させた姿を外から見るとやはりインパクトがある。

 インテリアも、もともと最初にハリアー見たときからずっと素晴らしいと思っているが、その思いは今も変わらない。今回、エンジンを問わずアルミヘアライン加飾を施したシフトパネルやプレミアムナッパ本革を採用したシート表皮を設定するなどして、さらに素晴らしくなった。トヨタがリリースで“「本物感」から「本物」を追求した”と表現しているとおりだ。

PREMIUM “Metal and Leather Package”のインテリア
アルミヘアライン加飾のシフトパネルを装着
赤いステッチを施したプレミアムナッパ本革のシート(ターボ車 PREMIUM “Metal and Leather Package”)

2.0リッター直噴ターボエンジン「8AR-FTS」の印象は?

新たに搭載される直列4気筒 2.0リッター直噴ターボエンジンの「8AR-FTS」。最高出力170kW(231PS)/5200-5600rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1650-4000rpmを発生

 件の8AR-FTS型という2.0リッター直噴ターボエンジンは、すでにレクサスの「GS」「IS」「NX」「RX」や、トヨタでは「クラウン」などに搭載されている、トヨタやレクサスにとって新しい主力となるエンジンの1つだ。むろん搭載される車種の性格に合わせて味付けが大なり小なり差別化されており、ハリアーとの組み合わせがどんなものなのか興味深いところだ。

 同ターボ車は、ハリアーの中でもっともスポーティさを訴求するキャラクターの持ち主であることは全体の仕様からも明らかだ。外観では専用デザインのフロントグリルやスモーク調メッキ加飾ヘッドランプ、新デザインの切削光輝+ダークグレーメタリック塗装の18インチアルミホイール、カーボン調エアロスタビライジングフィンを持つリアコンビランプ、マフラーカッターなどが装備され、インテリアも各部に鮮やかなレッドのアクセントやメタルカーボンのパネルが与えられている。走行性能面でも同モデルのみパフォーマンスダンパーが標準装備とされたあたりにも、このクルマの位置づけがうかがえる。

 エンジンスペックで気になるのが、最高出力が170kW(231PS)/5200-5600rpmと、レクサスNXの175kW(238PS)/4800-5600rpmに対して5kW(7PS)低く、発生回転数も異なることだ。これは、NXでは専用のリアフロアを新設し、サブマフラー容量を拡大して背圧を低減しているところ、もともと8AR-FTSを搭載する予定がなかったハリアーは、ボディ構造の関係でNXのリアフロアを使うこともできず、サブマフラー容量が小さいことによる。

 いざドライブすると、「ノーマルモード」は誰にでも乗りやすく感じられるように、下をあえてマイルドにしているようだが、2000rpmあたりから活き活きとしてきて、中回転域からトップエンドにかけての吹け上がりはなかなか伸びやか。昔ながらのターボっぽくもあり、スポーツユニットを意図したフィーリングでもある。

 新設の「スポーツモード」を選ぶと、低中速域の印象がだいぶ違って、踏み始めのピックアップが鋭くなる。とはいえけっして扱いにくいほどではないように味付けされているあたりは、ハリアーの性格を考えてのことだろう。

 気になるターボ車の燃費については、JC08モード燃費13.0km/L(4WDは12.8km/L)とされている。今回は正確には計測できていないのだが、実のところ感触としては期待したほどよくなかったのは否めず。経済性を求めるなら、あるいはモーターによるトルク感を好む人には、ハイブリッドのほうが適していそうだ。

快適で上質な走りは不変

2.0リッター直噴ターボエンジン搭載モデルは「パフォーマンスダンパー」を装着(試乗車は4WDモデル)

 ターボ車の足まわりについては、タイヤが18インチのみの設定で、前後にパフォーマンスダンパーを搭載するのが特徴となる。もともとハリアーは、全体としてはしごく快適で上質な、よい意味であまり何も気になることのない走りこそ持ち味だと感じていたが、今回もあらためてそれを実感した。

 ステアリングはゆったりとしたステアリングには俊敏性を狙った印象もないが、パフォーマンスダンパーも効いてか、操舵に対する応答に遅れもなく、素直な回頭性を示す。適度に抑えられたロール感も⾃然な感覚で⼼地よい。

 最近はSUVもヒトクセあるクルマが増えてきた中で、ハリアーのこの“主張しない”走りの境地には、むしろ好感を抱く。むろんハイブリッド車に付く「ばね上制振制御」はないためフラット感では及ばない気もしたが、どんな道を⾛っても乗りやすいところがよい。高速で巡行する際も、いたって自然な感覚で直進状態を保ち、安定感も高い。

「Toyota Safety Sense P」をはじめ安全装備も充実している。今後のハリアーは、このターボ車がメインになっていくものと思われるが、全体としてはターボ車の登場を心待ちにしていた多くのユーザーにとって、十分に納得できるであろう完成度であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛