インプレッション

トヨタ「ハリアー」

ダウンサイジングしながら居住性はむしろ向上

 10年ぶりのフルモデルチェンジで3代目となったハリアー。魅力を一言で表現するなら「上質と快活」だ。ボトムグレードであっても上級グレードと遜色ないインテリアを持ち、ダウンサイジングされたボディーは2.0リッターガソリンモデルでも活発な走りを披露してくれる。

 初代が登場したのは17年前。当時の国産SUVはまだまだ無骨なイメージが強く、ハリアーのような上級セダンとSUVを掛け合わせたクロスオーバーというジャンルは確立されていなかった。そのため、ハリアーがどう評価されるのかトヨタとしても読み切れない部分が多かったというが、いざ市場に投入するや高い評価をもって迎えられ、北米を中心に販売台数を順調に伸ばした。パワートレーンはV型6気筒の3.0リッターと直列4気筒の2.2リッターの2本立てだったが、存在感を示していたのは3.0リッター。優雅なスタイルからは想像できないパワフルな走りに筆者も魅了されたことを思いだす。

 2代目で加わったハイブリッドモデルは、燃費数値よりも走行性能をドーピングするためだけに設定されたのではないかと思うくらい劇的に速かったが、最先端の車両統合制御である「VDIM」をもってしてもワインディング路ではECB(電子制御ブレーキシステム)との連携が追い付かず、さらに緊急回避時を想定した素早いステアリングさばきにボディーが遅れて反応するなどバランスはわるかった。それでも、クロスオーバー×ハイブリッドを定着させたモデルとして、初代同様、国内外で高い評価を浴びた。

 3代目は北米で販売されている「RAV4」とプラットフォームを共有しているが、佇まいはまったくの別物であり、日本国内専用モデルとして開発された。ボディーサイズは先代から若干のダウンサイジングされ、4720×1835×1690mm(全長×全幅×全高)。ホイールべ―スは55mm短縮されて2660mmとなったが、レイアウトやシート形状を変更することで居住性はむしろ向上し、前後席間の距離は12mm拡大の972mm、後席のひざ前空間にいたっては拳半分ほどの47mm拡大している。

ハリアー ハイブリッドの「PREMIUM」。ハイブリッドは全車「電気式4輪駆動」の4WD仕様。価格は392万円

 数値でみるとプロポーションは単なるダウンサイジングのようだが、ご覧のとおり実車はかなり“顔”にインパクトが置かれたデザイン手法をとっている。驚きは先代比60mmも拡大したフロントオーバーハングで、縮小されたリアオーバーハング(20mm縮小)とホイールベースの兼ね合いもあり、真横からのシルエットではエンジンルームがグンと突き出した格好だ。

「見切りのよさと歩行者保護性能をしっかり確保しながら、迫力あるデザインとするためエンジンフードの高さも保ちました」(豊田自動織機 自動車事業部 冨田健二氏)というが、それを強調するようにスリム化されたAピラーは全体的にセットバックされ、フロントセクションの張り出し感を生み出している。個人的にはフロントグリル上部のクロームとレンズ処理されたグリルにアクの強さを感じるが、「歴代ハリアーのモチーフを新型ではさらに昇華させた」(冨田氏)という考え方からすれば納得もいく。ボディーサイドからリアセクションにつながるラインにも一貫性があって、LEDを多用した特徴的なリアコンビネーションランプは機能性も高められている。

フロントオーバーハングが60mm拡大され、独自性の強いサイドビューを形成

 ただ、個性豊かなデザインセンスの一方で、被視認性に対してはちょっとした疑問を持った。ヘッドライト(ロービームとクリアランスランプはLED式)ユニットに内蔵されたウインカーの点滅がLEDの強烈な光量に溶け込んでしまい、正面からだと判別しづらいのだ。これは昼夜問わずに確認できた。ドアミラーウインカーがあるのでそちらで判別すればよいのだろうが、バイクに乗車していることを想定してその高さに目線を合わせて確認をしてみると、残念ながらそのドアミラーウインカーも光量が弱い。厳密にはドアミラーウインカーは正面よりも、横から後方にかけて目視されることを目的としているため弱く感じられるのだ。そうした意味も含め、車両の意思表示であるウインカーの被視認性に関しては向上を望みたい。保安基準はもちろんのこと、トヨタのことだから、それよりもはるかに厳しい社内基準をクリアしているのだろうが、LEDなど強い光源とのバランスを図っていく必要性はあると感じた。

フロントグリル上部のクロームメッキ加飾とレンズ処理されたグリルが個性的
LED式ロービームなどの強い光に溶け込んでしまい、ウインカーの点滅が判別しづらいのが難点
LEDを多用して機能性も高いリアコンビネーションランプ

 インテリアは左右方向に先代比で53mm拡大されたというが、乗り込んでみると数値以上にワイド感が演出されていて非常に心地よい。ボトムグレードから採用されている合皮のダッシュボードには本物の革を転写しているため、ステッチ処理を組み合わせることで、本革のようなしぼの風合いを醸し出している。通常はパターン化された人工しぼを転写するにとどまる部分にひと手間かけているため、かなり上質な雰囲気が漂う。また、ダッシュボードの見切り部分に施された合皮の折り返し処理にはミリ単位での調整が行われ、あたかも実際に革が折り重なっているような処理をつくりだしている。

 この質感をさらに高めてくれるのが、8.0インチのTFT液晶モニターが入るセンタークラスターと静電タッチ式の各種スイッチだ。この液晶モニターが優秀で、設置角度が通常よりも天井側に向いているため車外の映り込みがほとんどない。また、静電タッチパネルも単なる平面スイッチではなく、エアコン温度調整部にはなだらかな弧を描く窪みが設けられ、運転中のタッチ操作も簡単だ。しかも、この静電タッチスイッチは好みの感度に調整することが可能となっている。

ワイド感が演出された心地よい室内空間。合皮を使う手間のかかったダッシュボードが上質さを演出
オプティトロンメーターを採用するガソリンモデルのメーターパネル
静電式スイッチを採用するエアコンパネル。左右独立温度調節に対応し、両サイドに温度設定を操作するガイド用の凹凸が設けられている
映り込みが少なく視認性が高い8.0インチのTFT液晶モニター

17インチタイヤを装着するFFの「ELEGANCE」がベストバランス

 パワートレーンは2.0リッターガソリンと2.5リッター+ハイブリッドシステムの2本立てで、2.0リッターは2WD(FF)と4WD、ハイブリッドは4WDのみ。ガソリン車のミッションは新開発のSuper CVT-iを組み合わせた。

 ハイブリッドモデルでは公道を走行できず、なおかつ10分程度の試乗時間だったので詳細なロードインプレッションは次回に譲るが、クラウンから搭載された2.5リッター直列4気筒エンジン+ハイブリッドに加え、後輪にモーターを搭載した専用のE-Fourシステムは相当に高いポテンシャルを持っていることが分かった。軽量化されたボディーもさることながら、前輪とは独立制御される後輪モーターのアシストを受け、タイトコーナーでの立ち上がりから登坂路まで、つねに余裕のある走りを堪能できる。

 エンジンとモーターが生み出すシステム出力は197PS。クラウン(220PS)とは23PSの差が付けられていて、さらに細かく見ていくとエンジンそのものの出力も、178PS→152PSへと26PSダウンしている。これは後輪モーターを備えるハリアーならではの出力特性で、積極的にモーター駆動させるために採られた策だ。もちろん、ハリアーはクラウンよりも110kgほど重量がかさむため絶対的な加速力は劣るものの、今回のような試乗ルートではその違いはごくわずかだった。いずれにしろ、公道でしっかりと試乗しつつ、雪道などでテストしてから判断したいところだ。ちなみに、バッテリー個数はクラウンから2個増えた34個(容量はどちらも6.5Ah)を搭載する。

直列4気筒DOHC 2.5リッターの「2AR-FXE」エンジンとハイブリッドシステムの組み合わせで、システム合計145kW(197PS)を発生。JC08モード燃費は車両重量が軽い「GRAND」が21.8km/L、それ以外のグレードは21.4km/Lとなる

 2.0リッターガソリンモデルにはFF/4WDともに、装着タイヤ違いの数モデルを公道試乗できたが、結論からいえば、FF車で17インチタイヤを装着する「ELEGANCE」がもっともバランスがとれていた。151PS/19.7kgmとスペック上はクラスの平均であり、先代より軽くなったとはいいながら車重は1580kgもあるため信じ難いだろうが、Super CVT-iの制御が非常に優秀で、市街地走行では滑らかにトルクを増幅させながら走る。キャビンへのエンジン透過音も少ない。

 登坂路ではさすがに苦しくなるものの、そうした場面ではCVTの変速制御が変わる「パワーモード」を積極的に使いたい。センタークラスター下部(シフトノブ前方)に配置された「パワーモード」の静電タッチスイッチに触れることで、CVTがステップ変速制御となって一気に加速が力強くなる。

ガソリンモデルに搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターの「3ZR-FAE」エンジン。最高出力111kW(151PS)/最大トルク193Nm(19.7kgm)を発生。JC08モード燃費はFF車が16.0km/L、4WD車は一番重いPREMIUM“Advanced Package”が14.8km/L、それ以外のグレードは15.2km/L

 しかも、単にエンジン回転だけが上昇するのではなく、車速に合わせて有段ギヤのようにエンジン回転数を上下させながら、同時にスロットルレスポンスも鋭くなるので、ドライバーの意図した加速力を生み出しやすいことが特徴だ。スイッチを押さない状態が「ノーマルモード」で、「パワーモード」同様に「エコモード」も任意で選択可能。惜しいのはその切り替えスイッチの位置。せっかくの静電タッチスイッチであれば、ここもエアコン温度調整部のような窪みを設けるなどの配慮がほしかった。エンジンスペックをフルに使いきることで2.0リッターモデルの存在意義が強まることからも、運転中の積極的なモード切り替えが求められるからだ。

センタークラスター下部のスイッチで「パワーモード」を選ぶとメリハリが効いた走りが楽しめる

 安全性については、クラウンと同レベルの衝突被害軽減ブレーキである「プリクラッシュセーフティシステム(ドライバーがトリガーとしてブレーキペダルを踏むことでブレーキアシストが介入し、最大60km/h相当分減速する。踏めない場合でも自動ブレーキの介入により30km/h相当分の減速が可能で、30km/h以下であれば完全停止する)」「インテリジェントクリアランスソナー」「ドライブスタートコントロール」に加えて、車載カメラにより白線や黄線を認識し、車線を逸脱しそうになった場合に警報を出しつつ、電動パワステに車線にとどまるような制御を加える「ステアリング制御付レーンディパーチャーアラート」をトヨタとして初めて搭載した。また、見通しのわるい交差点などでの発進や駐車時に、人やクルマを検知する「左右確認サポート」もトヨタ初の装備だ。

 こうした先進的な安全装備が盛り込まれる一方で、快適装備としての「レーダークルーズコントロール(ACC)」は、多くのトヨタ車同様に50~100km/hどまりで、一般的になってきた低速域や完全停止までは制御しない。以前、安全技術全般を担当するトヨタ自動車の吉田常務にその理由をお聴きしたことがあるのだが、「ECBでなければフェールセーフを担保できない」といった趣旨の回答を頂いている。しかし、ハリアーのハイブリッドモデルはECBだ。ACCはすでにASV(先進安全自動車)として高い普及率を示し、低速域での制御をすることで渋滞時のドライバー疲労度が大きく下がることは実証されている。筆者のまわりにも、低速域での制御がないことを理由にトヨタ車の購入を断念した人も少なくない。こうした制御ができない、もしくは、敢えて踏み込まない理由が存在するのであれば、そこを明らかにしてほしいと切に願う。

Photo:安田 剛

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員