【インプレッション・リポート】 マツダ「プレマシー」 |
新型プレマシーのエクステリアデザインは、モーターショーのコンセプトカーに採用してきた「流 NAGARE」を初めて量産車に本格採用したものだ。フロントフェイスはデミオ以降のZoomZoomの流れを感じさせるが、大きく開いたシャークフェイスのエアダクトが斬新。そこからリアに向かって風の流れをモチーフしたようなサイドラインは水の流れのようにも見え、角度を変えて見るたびにキラキラと微妙に色彩が変化する。リアにスライドドアを採用するモデルの中ではかなりスタイリッシュに仕上がっている。スライドドアの場合、機能面からもリアドア以降の処理が角ばって全体のレイアウトを壊しがちだが、その点、新型プレマシーは野暮ったさを感じさせない。それどころか、一見しただけではスライドドアとは分からないくらいだ。
さて、この新型プレマシーのデザイン、なにもスタイリングにこだわっただけのものではない、もっと凄いのはエアロダイナミクス。Cd値0.30というミニバンとしては驚異的な空力性能を持っているのだ。もちろん、一番の目的は燃費の向上。開口部の大きなフロントグリルはエンジン冷却に必要なエアを確保。それによってエンジンルーム下に大型のカバーを装着でき、リフトの原因となる下面の空気の流れを整流している。また、ボンネット後端部に三日月形の形状をつけることでフロントガラスへの空気の流れをスムーズにしているのだ。
エアロダイナミクスに関しては前後のリフトバランスを最適化している。これは、旧型でリアに対してフロントのリフトが少なかったことから、新型ではフロントのリフトを多少増やして前後バランスを改善している。確かに、ボディー下面を覗くとアンダーパネルはフロントに集中していて、フロントタイヤ前方など複雑な処理がされている。
そして、今回一番こだわったというのがハンドリングなのだ。確かに、先代プレマシーをドライブしていると、“ミニバンだからこのレベルでよい”といった割りきりを感じる場面がいくつかあった。そこを今回の刷新で徹底的に見直したらしい。「あらゆるニーズに1台で応えられる新しいファミリーカー」、それは快適な乗り心地や気持ちのよい走りを持ちながら、たまにワインディングを攻めるときでも上質なスポーティさを持っているということ。
今回の試乗会に用意されたグレードはFFばかりの3グレード。搭載される直噴2リッター+5速ATは全て同じで、20CSを除く20E、20Sにアイドリングストップ機能のi-stopが設定されている。ちなみに4WD仕様が、8月5日に追加設定された。
さてその3グレード、エンジン、トランスミッション以外にサスペンションの設定値も同じ。そこに装着されるタイヤサイズは20CS及び20Eが195/65の15インチ、20Sには205/55の16インチがそれぞれ標準装備されるのだが、ほかに20Sにはオプションの205/50の17インチタイヤが装着されたモデルもあったので15、16、17インチタイヤすべてを乗り比べることができた。そして、サスペンションは同じであるにも関わらず、タイヤサイズによって乗り味がはっきりと分かれたのだ。
左から、オプションの17インチ、標準の16インチ、ボトムグレードの15インチスチールホイール。3タイプのタイヤでインプレッションができた |
まず15インチタイヤ。これは65%偏平ということもあり乗り心地がとてもよい。ステアリングの重さはこの15インチが一番軽く、鉄ホイールを履いているせいかロードノイズも小さめ。ただ、エコタイヤを履いていることもありグリップレベルは低く、タイヤのグリップ限界点手前で発生するスキール音が気になった。また、ロールも大きく感じられる(エアボリュームが大きいことによるタイヤの変形なのだが)。その点、16インチモデルはトータルな性能が高い。乗り心地に関しては若干突き上げが気になったレベル。
しかし、一番のお勧めはオプションの17インチタイヤ。コーナーリング進入時の初期応答が速く、これがミニバン? と感じさせるくらいスポーツセダンのようなハンドリングだ。ロールもそれほど大きくなく、コーナーリング中に路面からのダイレクトなグリップを感じ取れる。突き上げ感は15インチと16インチの中間ぐらい。タイヤのエアボリュームが大きい16インチより小さく感じるのは、振動の周波数がボディーとマッチしているからだろう。突き上げても短い時間で収束するのでそれほど気にならないのだ。ちょっとBMWっぽい印象を受けた。
ブレーキングから転舵そして加速というコーナーリングにおけるプロセスの中で、減速G→横G→加速Gの変化をスムーズにしたという狙いどおりに仕上がっている。それほど走りがよくなった。これまでの弱点だった直進性の安定感や剛性感を改良するためにサストップ、スライドドア根元、ゲート開口部などの剛性アップが施されたというが、その目的はきちんと達成されていると言える。
一方、インテリアは3列シートの利便性が高く、2列目までは快適なシートとスペースを確保している。3列目シートに関しては若干座面が短いのと、2列目中央席用の3点式シートベルト収納が天井にあるために左側席の圧迫感が多少ある。が、安全性を優先する喜ばしい装備あることには違いない。
その2列目シートには、いわゆる“からくり”が仕込まれている。2列目シートはキャプテンシート(2座)にもなるし、3座にもなる。これは2列目両座席の座面シートの下にセンターシート部等が収納されていて、3座にするときはこれを取り出してセッティングするのだ。この時、センターアームレストが中央席の背もたれになる。その3座中央席の乗り心地は個人的に座面の盛り上がりが気になった。5人乗車の場合は3座中央席を使用せず3列目シートを独り占めするのがお勧めだ。
この3座2列目席は、座面の代わりにネットの付いた収納トレイをレイアウトすることもできる。もちろん、2列目以降のフルフラットも可能で、収納など多目的なユーズに細かく対応している。
また、20Sと20Eにオプションの電動スライドドアを装備すれば「平成22年度燃費基準+25%」を達成するので自動車取得税と重量税が75%減税される。
新型プレマシーのリニアなステアフィールは、3列7人乗りだからと諦めていたハンドリングをしっかり楽しめるモデルに成長したことを感じさせた。
2010年 9月 3日