【インプレッション・リポート】
日産「ジューク 16GT FOUR」

Text by 岡本幸一郎


 2010年の日産の新車攻勢には驚かされたものだが、中でもジュークはかなり印象深い1台だった。とにかくデザインが面白いからだ。

 巷では賛否両論あるようだが、筆者は大いにアリだと思っている。一昔前の日産の体質ではこうした奇抜なコンセプトに対し、上層部のお許しが出ることはなかったはず。それを企画だけで終わらせず、実際に販売した日産には大いにエールを送りたい。

 実はこのジューク、もともと日本では2010年秋に全車が市場投入される予定だったが、エコカー補助金に間に合うよう、2010年6月に直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンを搭載した自然吸気モデルのみが先行発売されたという経緯がある。その際に、実車に触れて感じたのは、ユーティリティはそこそこ、走りはまずまずで、やはりジュークはデザインがすべてのクルマ、ということだった。やがて追加されるという話があったターボエンジン/4WD車については、それほど気に留めていなかった。

 ところが、その自然吸気モデルの試乗会の場で開発陣より、あとに控えたモデルはかなり走りに力を入れていて、当時すでに筑波サーキットで1分13秒台のラップタイムをマークしていることを聞かされて驚いた。13秒台というと、一昔前ならけっこうなタイムだ。さらにはリアの駆動系に新しい仕掛けがあることもほのめかしていたのだが、ジュークのようなクルマでそこまで走りを追求するとは、いったいどういうことかと思ったものだ。

 そして5カ月後、予定どおり直列4気筒DOHC 1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載した2WD(FF)/4WD車が追加された。グレード名に「16GT(FOUR)」と、「GT」の名が与えられたことからも、このクルマに込められた思いが伝わってくる。

 ところが、専用のボディーカラーは用意されているものの、個性的なスタイリングはすでに発売されている自然吸気モデルとなんら変わりない。タイヤサイズも、自然吸気モデルの上級グレードにあたる15RXでもオプションで選べるもので、ちょっと拍子抜けの感が否めない。

試乗したのは4WDモデルの16GT FOUR17インチのアルミホイールを装着。タイヤサイズは215/55 R17
外観上で自然吸気エンジン車と大きな差異はないが、リア部に「DIG TURBO」のバッヂがつく

 試乗車として用意されたのは、4WDの16GT FOURだ。ちなみに15RXグレードと比較すると、ボディーサイズは全高が5mm高いだけでそのほかのスペックは同じだが、車両重量は1380kgと自然吸気モデルよりも210kgも重くなっている。また、リアサスペンションがトーションビームではなくマルチリンクとなる。

 価格は245万1750円ということで、このプライスだと「安いコンパクトSUV」という雰囲気でもなくなるわけだが、実際に走ってみて納得させられた。そこにあるのは、15RXとはまったく別の世界だった。自然吸気エンジン車に乗っただけでは、どうすれば筑波サーキットで13秒台を出せるクルマになるのかイメージできなかったが、走り始めてすぐに、これなら出るなと思ったのだ。


 エンジンは格段にパワフルで、専用にチューニングされた足まわりはかなりハードなセッティング。乗り心地は固めで、荒れた路面では跳ね気味となるが、車高が高めながらコーナリング時のロール量がかなり抑えられているし、高速巡航時のフラット感も高い。そしてリアには、トルクベクトル機能が付いたオールモード4×4-iが与えられている。これは、従来はエクストレイルなどで前後のトルク配分を調整していた機構を、左右輪の駆動力の制御に応用したもの。後輪の外輪側に大きな駆動力を配分することで、車両ヨーモーメントをダイレクトにコントロールすることができるという新しいアイテムだ。

 そのおかげでコーナーの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、アンダーステアがあまり顔を出すこともなく、ノーズを向けた方向にグイグイと曲がっていく。普通ならアンダーステアを抑えるために、必要に応じてアクセルコントロールするようなシチュエーションでも、このクルマはほぼ踏みっぱなしで行けてしまう。ロール量が少ないことも手伝って、ハンドル操作とクルマの動きに一体感がある。この感覚は面白い!

 降雪地などに向けた4WDとは異なり、ハンドリングを楽しむための“攻め”の4WDである。ただし、4WDのモード切り替えスイッチを「4WD-V」モードではなく「4WD」モードにすれば、いわゆる「4WD」という言葉のイメージどおりの滑りやすい路面でも安定した走りが得られるし、さらに「2WD」モードも選択できる。


1.6リッター直噴ターボエンジンは最高出力140kW(190PS)/5600rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/2000-5200rpmを発生

 ついで、日産初となる、1.6リッター直噴ターボエンジンについて。燃費と動力性能の両立を図ったこのエンジン、欧州市場をメインターゲットに開発されたジュークにもガソリン直噴ターボというのは必要なものだったと思うが、それなりにパワフルではあるものの、もう少し力感があってもいいかと感じた。

 CVTは、1.5リッターの自然吸気モデルが副変速機付であるのに対し、こちらはエクストレイルなどと同じ副変速機の付かないタイプ。やはり、こちらのほうが機構がシンプルなぶんフィーリングがスムーズで、その点では好印象。また、走行モードをスポーツにすると、エンジン回転数を高めに維持するだけでなく、CVTがATのようなステップ変速制御になるところも新しいアイデア。ちなみに、その際にはパワステの手応え感も増す。CVTよりもAT派である筆者としては、このスポーツモードの走りが好みだった。


 そのほか、自然吸気エンジン車にはないものとしては、インテリジェントコントロールディスプレイにブースト圧や、車両の前後左右Gを表示させることができるなど、走りを楽しむための演出がいくつか見られる。

 ただ、ブースト計はよしとしても、G表示が3段階しかないのは物足りない。そもそも、この位置で表示されると、ドライバーが見ることができない(見ようと思えば見られるが危険!)ところが惜しい。

 ユーティリティについては、後席や荷室が狭いとの声もあるようだが、ジュークはデザイン最優先と割り切ったクルマであって、あまり色々なことに気配りすると、このデザインが成立しなくなるので、居住性重視の人には向かないかと思う。それでも、各部のクリアランスなど寸法的には、欧州で評価の高いプジョー「207」と同等かそれ以上を確保したと開発陣も述べていたことだし、筆者としても、ジュークはこれで十分だと思っている。

バイクのタンクを想起させるセンターコンソールの形状は、自然吸気エンジン車と同様のものシート地はスエード調トリコットを採用する
メーター中央に配置されるディスプレイは瞬間燃費、平均燃費、航続可能距離、走行時間、トルク配分(16GT FOURのみ)を表示できるターボエンジン搭載車では、インテリジェントコントロールディスプレイに車両の前後左右Gやブースト圧などを表示できる
後席は6:4分割可倒式

 前述のとおり価格については、自然吸気モデルのジュークには割安感があったが、ターボモデルはやや割高感を感じるのは否めない。与えられたアイテムを考えると納得ではあるのだが、このクラスでこの価格というのは、あえてこのグレードを選ぶだけの背中を押してくれる「理由」が必要だと思う。それが、このクルマならではのドライビングプレジャーだ。

 ジュークというクルマは、デザインが好みであれば、それだけで買う価値のあると思うし、日常の足としても、自然吸気モデルのほうが低燃費で乗り心地がよく、使いやすいことには違いない。しかし、それだけというのも寂しいもの。今回16GT FOURのようなグレードが加わり、走って「楽しい!」と感じさせる“味”を身につけていたこと、そして、このようなクルマが出てきてくれたことを、走り好きの筆者としてはとてもうれしく思う。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 1月 21日