【インプレッション・リポート】
日産「リーフ」雪上試乗会

Text by 岡本幸一郎


リーフの雪上試乗会、開催!
 来るべき電気自動車(EV)の時代の先駆けとして、その完成度の高さとEV普及に向けての本格的な取り組みなどが評価され、2011-2012日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いた日産「リーフ」。

 現時点で存在するEVの中で、もっとも高い完成度を誇ることは間違いないと思われるが、EVとしての環境性能や利便性だけでなく、実は走行性能についても注目すべき部分が多々ある。

 中でもリーフの開発責任者であるゼロエミッション事業本部 車両開発主管の門田英稔氏は、リーフの寒冷地での試験を行う中で、エンジンで走る従来のクルマでは実現できない、非常に滑らかな走りができることを体感していたと言う。そこで、その事実をより多くの人に伝えたいと思い、今回リーフの雪上試乗会を実施した次第。

 試乗ステージは、北海道の士別にある「交通科学総合研究所 寒冷地試験場」というクローズドコース。多くのメディアが招かれた今回、広報車ではなく道内のレンタカーで十数台を調達したリーフは、全車ブリヂストン製のスタッドレスタイヤ「ブリザックREVO GZ」に履き替えられていた。

試乗車のリーフは全車ブリヂストン製のスタッドレスタイヤ「ブリザックREVO GZ」を装着

デジタルメーター内に「凍結注意」の表示が

極寒の地でもリーフが愛される理由とは
 この北海道でも、すでに約350台(同試乗会の開催時点で)のリーフが一般ユーザーのもとで愛用されていると言う。そしてリーフは、冬場の北海道のようなシチュエーションでもユーザーに多くのメリットをもたらすのだと言う。

 冒頭でも述べたとおり、その1つは走りのよさであり、それはクルマとしての基本素性によるものだ。リーフは前輪駆動だが、バッテリーを車体の中心の低い位置に搭載したことで、前後重量配分はエンジンで走行する一般的な前輪駆動車と後輪駆動車の中間ぐらいになっていて、重心高も低く下げることに成功している。

 さらに重心位置もドライバーのヒップポイントと近い位置にあるため、ヨー慣性モーメントのオフセット感が非常に小さくなっている。おかげで応答遅れもない。ちなみに重心高はスカイラインと同等、ヨー慣性モーメントはフェアレディZと同等としている。一般的な前輪駆動車とは、そのあたりの事情がまったく違うわけで、こうした雪上のようなハンデのある状況になればなるほど、それら一連の素性のよさが活きてくるのである。

 また、エンジンと違ってモーターは1万分の1秒という単位でトルクを素早く、きめ細かく制御できることも大きい。リーフは全車にVDC(横滑り防止装置)を搭載しているが、雪道や凍結路など低μ路における動作や制御を非常にスムーズに行えるため、オーバーシュートすることもなく、内燃機関搭載車よりも圧倒的に素早く、スムーズに挙動の乱れを収束させることができるのだ。

 リーフはシートヒーターやステアリングヒーターを装着している。これは、ブロアファンを持つエアコンで車内の温度を上げるには、バッテリーの負荷が大きく、航続距離を確保のためになるべくバッテリーを使いたくないからだ。

 そこで、人を直接的に温めることのできるシートヒーターやステアリングヒーターを活用した。さらに、人が温かいと感じるツボを集中的に温めることで、エネルギーをあまり使わず、効率よく乗員を温める手法を採っている。これによりエアコンで電力をあまり消費することなく、快適な車内環境を提供することに成功している。

 試乗コースは、一般道のワインディグを模したカントリー路と、スキットパッドでの円旋回、圧雪路でのパイロンスラロームという3つのステージが用意された。果たして雪の上でのリーフは、どんな印象を与えてくれるのだろうか。

この日の気温は-16度。かなり低かったことを写真からお分かりいただけるだろうか

VDCのありがたみを痛感したカントリー路
 まずはカントリー路から。リーフに乗り込んでほどなくステアリングヒーターとシートヒーターが効いて身体が温められる。欲をいうと、これで足下を温めてくれる仕組みが何かあればいうことなしだが、それについては将来に期待しよう。

 そして事前の指示どおり、VDCをONにして走行。ドライ路面でごくごく普通に走っているときは、VDCのありがたみをあまり感じることなどないのだが、雪上ではその恩恵を痛感させられる。

 トラクションコントロールが的確にパワーを絞るとともに、必要な状況ではコーナー内輪のブレーキをつまんで曲げてくれる。その制御の仕方が非常にきめ細かで、滑らか。筆者は雪国の生まれなので、都内で暮らしているとは言え普通の人よりは雪道を走る機会は多いはずだが、このスムーズさはかつて体験したことがない。

 ちなみに筆者はリーフにたびたび乗っているので、無音で加速する状態には慣れていたが、リーフ初体験だった編集部Kは、アクセルコントロールしても音で感じられる部分がなく、エンジンが吹ける感覚がないことにカルチャーショックを受けていたようだ。

 モーターはエンジンよりもはるかに細かい制御が可能で、エンジンのように回転数が変化することもなく、静かに仕事をこなす。内燃機関で走るクルマよりも、圧倒的にスムーズに走ることができる。

約2.8kmのカントリー路では旋回性、回答感、トラクション感などハンドリング性能全般を評価

エコモードでの「コースト制御」とは
 続いてスキットパッドで定常円旋回を行った。パイロンに沿って、まずはVDCをONで走り、何事もなく安定して走れることを確認。ここでも巧みに出力を絞ってアンダーステアを出さない。

 VDCをOFFにしてガンガン踏むと、もちろんアンダーステアになるし、アクセルOFFではオーバーステアになることもある。また、せっかくなのでサイドブレーキを引いてみると、瞬間的に後輪にブレーキがかかってサイドターン状態になり、アクセルを踏むとすぐにそれは解除されるのだが、ドリフトのきっかけをつくるには十分だった。

 前輪駆動ながら、ドリフト円旋回を楽しむことができた。この際も、アクセルでのコントロール性のよさを実感。こうしたシチュエーションではエンジンだと反応が一定しないところだが、モーターは一定しているのでコントロールしやすい。

 さらに、リーフに仕込まれた特徴的な制御として、エコモードでの「コースト制御」と呼ばれる機能について触れたい。エコモードは、Dレンジに対して1割ほど実燃費を稼ぐ設定となっているのだが、走りに関しては加速がマイルドになるだけでなく、回生ブレーキも強くかかる。低μ路では、この回生ブレーキによりスリップしてアンダーステアを誘発することが考えられると言う。

 そこで前輪のすべり量が所定値よりも大きくなると低μ路だと判断し、回生ブレーキを緩めて曲がりやすくなるよう制御しているのだ。今回は圧雪路で比較的μが高かったため少々分かりにくかったのだが、そうした親切な制御も入っていることを理解いただければ幸いだ。

定常円旋回では、VDC ON/OFFそれぞれでのアンダーステア、オーバーステアの抑制効果、またEcoモード時のアクセルOFF時のアンダーステア抑制効果を体感した

VDCをOFFにしても素直なハンドリング
 最後に圧雪路では、パイロンに従ってスラローム走行を実施した。1回目はVDCをONで走行。トラクションコントロールの効果でスイスイと走れることを体感する。

 1回目の感じからして、スタートからゴールまでアクセル全開のまま行けそうだったので、2回目はそれを実行してみた。すると案の定行ける! 走行中は大なり小なり舵角がついている状態となるが、それに合わせて出力を絞りながら、さらには必要なときに個別にブレーキをつまんで舵角のとおりに曲がろうとしてくれる。そして一連の動きが本当にスムーズで感心させられる。

 ここで、同じことを内燃機関搭載車で行うとどうなるのかが気になったのだが、エンジンは反応時間が長くかかるので、これほどスムーズには走れないと開発者は語る。EVだからこそ、駆動力を出すほうも絞るほうも瞬時にスムーズに制御できるからだと言う。絞られすぎてストレスを感じるようなこともない。

 また、本来VDCというのはフィードバック制御だが、まるでアクティブにフィードフォワードで制御しているように感じられたほど。そのくらい応答性がよく、きめ細かく制御してくれる。低μ路での安心、安全な運行を提供するという意味でも、EVは大きなメリットをもたらしてくれるわけだ。

スラローム走行ではVDC制御による姿勢抑制効果を体感

 VDCをOFFにすると、ONにしたときと比べるとまったく違った挙動となるが、OFFでの素直なハンドリングもわるくないという印象。路面μが低くなればなるほど、前述のヨー慣性モーメントなどクルマ自体の素性が効いてくるのだが、リーフはベースの素性もよい。

 VDCのような制御デバイスは、付いていればOKという話ではなく、最後の最後にアシストするというのが理想。もとが大きく乱れるクルマだと、それだけ大きく修正しなければならなくなり、その分違和感も出てくる。まずはベースの仕上がりが大事なわけだが、その点リーフはベースもよくできているので理想的だ。

 ところで、スイッチをOFFにしてもVDCが完全にOFFにはならないように感じられたのだが、それについてはOFFにしていても、ブレーキを踏んでいるときに限ってはスタビリティ確保のため介入すべき状況では介入すると言う。ただし、それはABSが作動していないときに限られ、ABSが作動するとVDCは介入しない。ということで、ブレーキを踏んでいるときにはドライバーがコントロールしようという意志があると判断し、最終的には安全を優先して完全OFF状態にはならない。

 一方の加速側では、ブレーキを操作せずにハンドルを切った際には何も制御が入らないので、横を向いたりスピンしたりという状況は起こりうる。


弊誌でおなじみの飯田裕子女史も登場。決して遊びに来ているわけではございません

 ところで1つ気になったのが、同じ条件でタイムを計測した場合に、VDCのONとOFF、どちらが速いのかということだ。その点について開発者に聞いたところ、むろんドライバーの技量にもよるが、一般ユーザーであれば基本的にONのほうが速いだろうが、難しいのは上級者の場合で、一発アタックならおそらくONのほうが速く、何度かアタックすればOFFのほうが速くなることもあるかもしれない、とのことだった。

 というわけで、リーフは雪上においても我々の既成概念を打破する走りを披露してくれた。この事実をリーフに興味を持っている多くの方々、とくに降雪地に住んでいる人に、心よりお伝えしたいと思う次第である。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 2月 2日