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フォルクスワーゲン「up!」

Text by 岡本幸一郎


 

 move up!の2ドアが149万円、4ドアが168万円、上級のhigh up!が183万円。最廉価モデルは受注生産ではあるが、とにかく150万円を切る価格からスタートしたことに驚いた、鳴り物入りで日本デビューをはたした“小さな大物”の「up!」(アップ!)である。

 ここ数年、エンジンのダウンサイジングに積極的だったフォルクスワーゲンが、大人4人が乗れる空間を確保しながら車体のダウンサイジングを図ったブランニューモデルだ。

小さなサイズ、大きな存在感
 背景にはスモールカー市場の拡大がある。過去10年で67%から81%に上昇したシェアは、今後もさらに拡大が進む見込み。フォルクスワーゲンにとってもポロの下に魅力的な商品を持つことは極めて重要であり、このup!で新しい顧客の開拓を図りたいとの思いがある。

 フォルクスワーゲンでは、up!の想定ユーザー層を、30〜40代のDINKS、スモールカーを自分のために使う20〜30代独身男女、子どもが親離れした50〜60代としている。

 そして、スモールカーの市場は、クルマは移動手段だから、最低限のものが付いていて安ければそれでいいという層と、反対にクルマは生活を楽しむためのものであり、カタチや仕様の好みにこだわるという層に大別されるが、up!がターゲットとするのはもちろん後者だ。

high up! move up!2ドア(左)とhigh up!

 ボディーサイズは、2001年に日本に導入されたルポとほぼ同じ。ところが実車を前にすると、今ではまわりのクルマが大きくなったせいか、もっと小さいように感じる。

 現行のポロと比較すると、450mm短く、35mm狭く、ホイールベースは50mm短くなっている。それでいて、見てのとおりショートオーバーハング、ロングホイールベースとし、タイヤを四隅に配することで、大人4人が快適に乗れる空間を確保している。

 ちょっとパイクカー的なデザインにより、サイズは小さくても存在感は大きい。

 フロントのバンパーを囲むようなラインをはじめ、リアではガラスで覆われたスマホのようなテールゲートや、そのゲートと一体に見えるC型リアコンビランプなどが見た目にも楽しく、印象に残る。2ドアと4ドアの間でも差別化されていて、ウエストライン後端の跳ね上がった2ドアは、よりスポーティなイメージとなっている。

 ボディカラーは全6色と、それほど豊富ではないが、ザ・ビートルに通じる遊び心のあるカラーが設定されている。

日本車とは違うアプローチ
 インテリアはクリーンかつシンプルで機能的であること、さらに高品質でファンであることを追求したという。

 シートカラーや、ダッシュパットと呼ぶインパネを貫くパネルのカラーも、ボディーカラーとの組み合わせに制約はあるものの、いくつかのバリエーションが用意されているし、アクセサリー類も充実しており、そのあたりの力の入れ具合がうかがえる。

 ヘッドレスト一体型のフロントシートは座面も大きく、大柄な人でも不満はないであろう座り心地。むしろ小柄な人にとっては座面が長すぎるくらいで、横幅の制約があるせいかリクライニングのレバーは内側に設置されている。

 メーターは中央がスピードで、左にタコ、右に燃料計がある。

 high up!では、シートがファブリック地なのに前席シートヒーターが付くほか、レザーステアリングホイールや、マルチファンクションインジケーター、クルーズコントロール、リアのパークディスタンスコントロールなど、上級車からのダウンサイジングにも対応する充実装備を誇る。電動パノラマスライディングルーフがオプションで選べるのもhigh up!のみだ。

 一方で、電動格納できないドアミラーや、前席のパワーウインドウの開閉スイッチは左右それぞれにあり、運転席側に集中したスイッチがないこと、横に開くタイプの後席ウインドウなどは、不便に感じることもありそう。また、カーナビとしてパイオニアのエアナビが用意されているが、エアコンの吹き出し口がダッシュ上面の中央にあるため、装着すると風を遮ってしまうところもやや難点ではある。

 後席は、さすがに「広々」とまではいえないまでも、外観から想像するよりはずっと広い。

 横幅自体は、もう1人座らせられそうなスペースはあるのだが、シートとしての機能を重視して、あえて2人掛けにとどめたと思われる。シートのサイズはフロント同様にリアも意外と大きく、背もたれと座面の角度も適正で、比較的クッション厚もあり、長時間座っても疲れなさそう。座面の高さはあまり高くはないが、そのぶん頭上には意外とクリアランスがあるし、膝前もそれほど窮屈ではなく、前席下への足入れ性もよい。

 このあたりは同クラスの日本車とはアプローチの異なる部分であり、フォルクスワーゲンの見識を感じさせる。

 とはいうものの、日本車ではもっと後席の空間が狭いクルマであっても、横3人掛けとしているクルマが少なくないのは、「いざというとき」を重視する日本のユーザーにとっては、そのほうが好まれるからにほかならない。軽自動車と同じ4人が上限というのは、選択の俎上に乗るかどうかという点では、up!にとって少なからず不利となることは否めないだろう。

ラゲッジスペースの床の高さは2段階に調節できる

 2ドアのドア自体の横幅が大きいのは当然として、2ドア、4ドアとも開く角度はけっこう大きめ。これもトレンドを採り入れたのだろう。また、後席乗員向けのドリンクホルダーが、4ドアは1個なのに、なぜか2ドアには3個もあるなど、微妙な違いがある。

 ラゲッジスペースも広くはないが、これまた外観から想像するよりは広い。容量は251Lと聞いて、200Lをそんなに大きく超えていたことが判明し、納得した。ボードの高さを2段階に調整でき、上にするとリアシートを倒したときに段差のないフラットなスペースとなる。スペースの大きさは兄貴分のポロと同等とのことで、いざというときには意外と大きな荷物も積めそうだ。

シティーエマージェンシーブレーキのセンサー

 考え方の違いといえば、安全に対する取り組みにも大いに注目に値する。

 これほど小さなボディーでありながら、ユーロNCAPの衝突テストでは最高ランクの5つ星を獲得。ESPはいうまでもなく、カーテンエアバッグと同等のはたらきをするサイドエアバッグを含む4エアバッグも全車標準装備。一部の日本車では法制化が目前に控えながら、いまだに横滑り防止装置の設定すらない車種が少なくないことに驚いているところだが、up!はさすがである。

 そして、クラス初の「シティエマージェンシーブレーキ」だ。これは、フロントガラス上のレーザーセンサーで前方10m以内を監視し、障害物等があれば自動的にブレーキをかけて、30km/h未満であれば衝突を回避してくれるというものだ。最大1Gで減速するということで、試してみるとけっこうガツンと止まるのが印象的だった。これらがすべて全車に標準装備で冒頭の価格というのだから恐れ入る。

アイドリングストップなしでも優れたモード燃費
 車両重量は900kg〜920kg(high up!の電動パノラマスライディングルーフ付きは940kg)で、JC08モード燃費は23.1km/Lをマークしており、エコカー減税は75%減税となる。

 パワートレインについて、1リッター直列3気筒のMPIエンジンと、「ASG」と呼ぶ新開発のオートメーテッド5速MT(AMT)の組み合わせとなる。つまり、フォルクスワーゲンお得意の直噴ターボエンジンではなく、DSGでもない。

 また、日本ではとくにアイドリングストップがブームと呼べる状況になっている中、ポロやゴルフではすでにアイドリングストップ機構が与えられているのに対し、意外なことにup!には採用されていない。それでも前述の燃費を達成したのは立派といえるものの、付けるともっとよかっただろうし、こういうクルマではなおのこと、アイドリングストップすること自体に「付加価値」のある時代なので、少々もったいない気もしなくない。

 まあ、いずれにしても、それだけパワートレインの効率が優れているということに違いない。アルミブロックエンジンの単体での重量はわずか69kgで、徹底的にフリクションの低減を図り、バランサーシャフトを付けなくてもスムーズに回るようにし、振動を抑えるためマウントにもひと工夫したという。

 実際、回せば3気筒っぽい音はするものの、日本車の3気筒エンジン搭載車よりも圧倒的に静か。振動も小さく、回転感はスムーズ。しかも、ドアまわりゴムのシールが施されていないことに気づいた。それにもかかわらず、あまり音関係で気になることがないのだ。

 トランスミッションは、海外にはHパターンのMTの設定もあるが、日本には入ってこなくて、ASGのみが用意される。ポジションは、左に「D」と「M」、中央に「+」と「−」があり、右に倒して「N」と「R」となっている。DCTのDSGでなくMTをベースとするASGを採用したのはスペース効率を考えてのようだが、燃費重視のプログラムが施されていて、燃費はMTを上回るという。また、ヒルホールド機能が付き、エンジンを切ってもブレーキを約2秒保持してくれる。

 ただし、世のAMTがおしなべてそうであるように、運転感覚に違和感がないわけではない。

 まずクリープがない。そして発進は思ったよりもスムーズだが、タイムラグがあるし、シフトアップ時に駆動力が途切れる。

 狭い場所で枠内に駐車したい際のような、微低速でのちょこまかした動きが不得手であるのは、他社のAMTと同様だ。ようは、クラッチの操作を人間のかわりにやっているわけで、そこはいたしかたない。ただし、よくAMTは、「MTのつもりでシフトアップの際にアクセルを抜くとよい」などといわれるが、up!のASGはそうでもない。ATやCVTやDCTのように普通に踏んでいるのが一番いいように感じられた。

 そんなわけで、誰にでも薦められる訳ではなく、やはり、それなりに意識の高い人が、こういうものだと理解したうえで乗るべきかと思う。

感心させられたフットワーク
 加速性能も、街中を流すには十分だが、速度域が高くなると物足りなく感じるシーンはある。強く加速したいときは、1つか2つシフトダウンしたほうがいい。日本車のように、モード切り替え機構はなく、デフォルトでエコモードになっているような感じ。それでも、このセッティングのおかげで、良好な燃費が実現できているのだから、ヨシとしたいと思う。

 シフトダウンの際、必要なときには自動的にブリッピングも行なう。タコメーターのレッド表示は6200rpmから始まるが、踏み込むと6500rpmぐらいまで回る。マニュアルモードでも速度が上がり回転がレッド近くまで上昇すると自動的にシフトアップするし、高いギアのまま減速するとギアも自動的に落ちる。ちなみに、トップギアで100km/h巡航時のエンジン回転数は、2900rpmの少し上だ。

 視界については、いまどきの日本車はかなりいいものが多いので、それに比べると、太めのピラーやドアミラーまわりの死角が少々気になる。このあたりはボディー剛性や強度を考えた結果、このようになっているのだと思われる。逆に、横方向は低めのウエストラインのおかげで開放感は高い。

 感心させられたのはフットワークだ。特筆すべきことはとくに何もやっていないと思うが、高速安定性が抜群にいいのだ。直進性が高く、人工的な感覚もなく、自然とクルマがまっすぐに走っていく感じ。コーナリングでは、それなりにロールして、ゴルフあたりとはだいぶ雰囲気は違うが、素直な動きが心地よく、安定感は同クラスの日本車が大きく水を開けられているように思う。

 そして、乗り心地がいい。

 コンパクトなクルマのわりにタイヤの外径が大きいようにも思ったが、指定空気圧も、2人乗車時で前200kPa、後180kPa、4人乗車時で前220kPa、後250kPaとなっていた。

 最近の日本車では、転がり抵抗を低減して燃費を向上させるため、軽自動車ですら200kPa台後半という高い空気圧を指定した車種が増えていて、それはドライバビリティ面においては少なからず悪影響を及ぼしているのは明白なところ、up!はそれをやっていない。

 ちなみに、前席に比べると後席ではやや突き上げを感じ、後ろから入ってくる音もやや気になるが、不快というほどのものではなかった。

クルマの本質的な部分が秀逸
 タイヤは3タイプ。銘柄は14インチと15インチがエコピアEP25、オプションの16インチがコンチプレミアムコンタクト2となっており、14インチのみスチールホイール+キャップで、その他はアルミホイールが組み合わされる。

 それぞれの印象は順当で、15インチ仕様に比べて14インチ仕様のほうがおそらくバネ下が重く、ややバタツキを感じるが、サイドウォールが厚いぶん縦バネのしなやかさが微妙に高い。

 16インチ仕様は、やはりグリップ感が高く、路面の凹凸も拾うものの、一体感が高まり、運動性能が一段上となっていた。高速コーナリングでの安定感も高い。乗り味の好みでいうと、筆者は16インチ仕様がもっとも上だった。

 そんなup!だが、昔から軽自動車もあれば、リッターカーと呼ばれるクラスや、その少し上のクラスまで含め、もともとこのカテゴリーは大得意な日本市場において、どのように受け取られるか、非常に興味深い。

 すでにup!は、「日本車にとって脅威」といったニュアンスで表現されているようだが、そもそもこんなにかわいらしいデザインのフォルクスワーゲンのスモールカーで、安全装備が充実していて、しかもこの価格なのだから、商品力はかなり高いといえる。それでも、販売の数としては、日本車勢と「年」と「月」ほど単位が違うことは、いずれにしても変わらないと思うものの、そこをup!がどこまで数を伸ばすことができるのか、大いに関心を持って見守りたいと思う。

 本当の「脅威」は、むしろ販売よりも中身の話。走りに感心の薄いユーザーにとっては、ASGの違和感のほうが先に立ってしまうかもしれないが、経験豊富なユーザーであるほど、パッケージングや装備なども含め、クルマとしての本質的な部分の秀逸さに気づくことだろう。


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2012年 11月 8日