インプレッション

レクサス「CT」

車格が一気に上がったように見える

 レクサス(トヨタ自動車)のエントリーモデルとしてCTが登場したのは2011年1月。さすがはレクサスブランドの一員らしく、サイズは小さくても存在感の大きなクルマであり、プレミアムブランドとしてラインアップの拡充を図るレクサスに、ついにハッチバック車が加わったことが印象深かった。

 CTの追加には、レクサスに価格帯の低いモデルを用意することで、もっと販売店に人を呼び込もうという意図もあったと思われるが、若い世代だけでなく、ダウンサイザーやエンプティネスター(巣立ち世代)など比較的高い年代の顧客も多く、ユーザーの年齢層は意外に幅広いという。

 そんなCTが、登場からちょうど3年が経過した2014年1月にマイナーチェンジを実施した。CTに乗るのはひさしぶりのことだ。

 最近、トヨタやレクサスはマイナーチェンジで大胆にスタイリングを変えるケースが多いが、CTも見た目の印象は一目瞭然で変わり、レクサスの統一テーマに則したフロントマスクが与えられた。

 そういえば、CTが登場したときに見たなにかの資料に、まだレクサスが今のデザイン戦略を打ち出す前だったのに「スピンドル」という言葉が用いられていたことを記憶している。ただし、初期型のCTのマスクは、おちょぼ口のデザインであり、今のレクサスのデザインとはあまり関連性を感じさせない。ともあれ、新しい顔を得たことで、車格が一気に上がったように感じられる。

 エクステリアの変更で注目すべきは、“Fスポーツ”にブラックルーフという新たなチャレンジを設定したことだ。これはなかなかインパクトがある。アルミホイールも、最近では世界的にノーマルながら凝ったデザインのものが標準で履かされるようになってきたが、“Fスポーツ”のホイールもなかなかのものだ。リアまわりもフロントほど大きな変更ではないが、より低重心で踏ん張り感のある意匠とされた。

“Fスポーツ”ではボディーカラーとのコントラストが際立つブラックルーフを採用。この車両のボディーカラーは新規開発色の「マダーレッド」
リアバンパー両サイドのエッジ感を強調し、低く踏ん張るイメージを与えた
リアコンビネーションランプにエアロスタビライジングフィンを設定
切削処理を施した専用17インチアルミホイールを装着。タイヤサイズは215/45 R17

 インテリアも車格が上がった印象だ。「心惹きつけるシャープな美しさと、肌になじむしなやかさ」を追求したとのことで、スイッチやシフトノブに加飾を施して質感を向上させたり、コンソールには触感のよいクッションを配したりしている。ステアリングスイッチとの連携でさまざまな情報を呼び出せるマルチインフォメーションも追加された。

 さらに、シート表皮と内装色、オーナメントパネルの選択パターンが実に約80通りに拡大された。シートとの統一性を持たせるため、ドアトリムにもアクセントカラーが入るようにオーナメントが2分割されており、ユニークなカラーコーディネートと高いクオリティを楽しむことができる。こうした設定は欧州プレミアムブランドのCセグメント車にもちょっと記憶がない。CTならではの高い付加価値といえそうだ。

車両価格が448万円と一番高い“バージョンL”のインパネ
パドルシフト付きの本革ステアリングは全車標準装備
メーターパネルはドライブモードセレクトの「ECO」「NORMAL」ではブルー照明で左側はハイブリッドシステムインジケーターになるが、「SPORT」を選択するとレッド照明とタコメーターの組み合わせに変化する
シフトノブも全車本革仕様。“Fスポーツ”ではディンプル付きタイプになる。パネル中央にあるメタル調のダイヤルがドライブモードセレクトの操作部
“バージョンL”は運転席/助手席シートヒーター付きの本革シートを標準装備

快適さと運動性能の両立ぶりが絶妙

 ルックスだけでなく、走りについても最近のトヨタやレクサスは、かつてのマイナーチェンジでは考えられないほど大きな改良を加えて我々を驚かせることが多いが、CTもまさしくそうだった。ドライブフィールが大きく変わったことは走り出してすぐに分かる。

 まず直感するのは、静粛性が大幅に上がったことだ。吸音材や遮音材の改良のほか、基本骨格である車体の作り方そのものも、GSやISの知見を活かして構造用接着剤を導入するなど、従来とはまったく違う手法を採り入れたことが着実に効いているようだ。

 そして、乗り心地がよくなり、走りの一体感が増していることが分かる。これにも、走りの土台であるボディー剛性をしっかり確保できたことに加えて、新たに与えられたパフォーマンスダンパーが効いているようだ。走行中に生じるボディーのたわみや微振動を即座に吸収するパフォーマンスダンパーが走りの質感向上にとても効果的であることは、これまでもたびたびお伝えしてきたとおりだ。

 従来型はボディー剛性が十分ではないところに、俊敏性を演出するための足まわりセッティングを施したことで、跳ねる、突き上げる、乗り心地が硬いという、あまり印象のよろしくない乗り味となっていることも否定できないように思う。

 ところが、マイナーチェンジ後はそれが一気に改善されていた。乗り心地はしっとりした印象となり、ギャップを越えたときの突き上げ感も明らかに低減されている。操舵に対する応答性も高まり、優れた操縦安定性と上質な乗り心地を実現していた。

 さらに、空力性能についてもボディー各部に追加されたエアロスタビライジングフィンが少なからずドライブフィールの向上に寄与しているはずだ。

吸・遮音材の改良や基本骨格からの見直しで静粛性と乗り心地が大幅に改善
ボディー剛性の確保で操縦安定性と乗り心地もレベルアップ

 今回は“Fスポーツ”と“バージョンL”に試乗したが、ここまで述べたことは概ね両車で共通し、いずれもそれぞれのキャラクターに相応しいバランス感で、快適性と運動性能を両立している。とりわけ“Fスポーツ”には専用チューンのサスペンションが与えられるが、乗り心地に不快な硬さはなく、より俊敏なハンドリングと、姿勢変化を抑えた乗り味に仕上がっており、レクサス スポーツのエントリーモデルとしての期待にしっかり応える、洗練された「エモーショナルドライビング」を味わわせてくれる、のはよいのだが……。

“Fスポーツ”
“バージョンL”

足がよいからこそ不満を感じる動力性能

 新型CTにおける大きな改良点の1つとして、CVTのリニア感向上が挙げられている。アクセル操作に対するレスポンスを従来よりも高めたとのことで、そういえば現行ISのハイブリッドについても、同様の旨を述べていたことを思い出した。

 ところが、ノーマルモードで走り出すと相変わらず出足が鈍いのだ。たしかに従来モデルと比べれば、いくぶんリニアになっていることは分かる。しかし、改良されたかどうかを抜きにして言うなら、筆者としてはまだ物足りなさを感じる。

 先で述べたとおり、シャシー性能がグンと高まったのだからなおのこと、バランス的にも動力性能に不満を覚えてしまうように思える。スポーツモードを選べばいくらか元気になるのだが、とくに“Fスポーツ”にはプラスアルファを求めたくなってしまう。

 もう1つ、細かい話だが、CTにはボンネットダンパーが付いていないところが惜しい。おそらくボンネットを開ける機会はそれほどないとはいえ、最近の欧州車ではBセグメントでも付いている車種が見受けられる。仮にもレクサスの一員であればなおのこと、オーナーをガッカリさせないためにも装着を望みたい。

システム出力100kW(136PS)というスペックは不変。直列4気筒DOHC 1.8リッターの2ZR-FXEエンジンと電気式無段変速を組み合わせたパワートレーンとなっている

 とまあ、後半では不満も述べてしまったが、全体としては内外装は見てのとおりで、走りにおける快適性とハンドリングの向上ぶりは上々であった。さらには原稿では触れなかったがエンターテインメント系装備の充実も行われた。マイナーチェンジとしては異例の大改良である。世界のCセグメント車のなかでも異彩を放つ存在であるCTが、その魅力を大きく高めたことには違いない。

 また、マイナーチェンジでこのように中身が大きく進化したわりに、車両価格は標準モデルがこれまでから据え置きで、“バージョンC”は4万円高、“Fスポーツ”と“バージョンL”では15万円高と、価格の上昇が小さく抑えられたことも歓迎したい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛