インプレッション
BMW「220iスポーツ」「M235i」
Text by 岡本幸一郎(2014/5/28 12:18)
スタイリッシュなシルエット
このところBMWがこれまでにも増してラインアップを細かく刻んでいるのには驚かされるばかり。偶数のシリーズ名が与えられたクーペ/カブリオレ系モデルのボトムを担う2シリーズができたことで、ついに1シリーズから7シリーズまで、すべての数字が抜けなく揃ったわけだ。さらに驚いたことに、間もなく導入予定のブランニューモデルが2014年の下半期だけで3車種もスタンバイしているというではないか。
従来の1シリーズ クーペの後継モデルに当たる2シリーズ クーペというのは、まったくのニューモデルではないとはいえ、1シリーズの一員としての制約を少なからず受けたであろう痕跡の見受けられた1シリーズ クーペに対し、2シリーズ クーペは新たにシリーズを立ち上げた意義が随所から感じ取れる。
実車を目にして、まずは月並みだが、なかなかスタイリッシュだなと感じた。従来の1シリーズ クーペは、ベースであるハッチバックの1シリーズに少々無理をしてトランクを追加したように見えなくもなかった。ルーフからリアウインドーにかけてのラインに唐突な印象があったし、全体的に寸詰まりに見えた感もある。
それが2シリーズ クーペでは、Cピラーがなだらかに落ちる、流麗な美しいシルエットを手に入れている。フロントマスクは現行1シリーズのような奇抜な感じではなく、比較的オーソドックスなデザインとされた。サイズのわりにワイドで伸びやかに見えるし、ボディーパネルの表情もダイナミックな印象で、全体として1シリーズ クーペ時代よりもずっとスタイリッシュに見える。
スポーティなセダンはもとより、こうしたコンベンショナルなクーペ造りに長けているのもBMWならでは。この2シリーズ クーペも、ちょっと見ただけで「欲しい!」と強く思わせる力を持っているように思う。
ところで、BMWで「2」というと、あの往年の名車「02シリーズ」を思い出さずにいられないわけだが、奇しくも非常にキャラがかぶるところも面白い。また、筆者はE36型の「318iS」を所有していたことがあるのだが、2シリーズは当時の3シリーズ クーペともイメージが重なるものがある。
パワフルで機敏に走れるM235i
試乗車として用意されていたのは、「M235i」と「220iスポーツ」だ。
まず「M235i」からドライブした。いずれは「M2」があるのかもしれないが、MモデルとM-Sportsの中間的な位置づけとなる「M235i」は、価格のわりに性能は高く、内容も充実しているところが魅力だ。
搭載されるのは、一連の「○35i」と名のつくモデルに搭載されている、直列6気筒DOHC 3.0リッターターボエンジン。スペックとしては、近い関係にある「M135i」よりわずかに高い240kW(326PS)の最高出力と、450Nm(45.9kgm)の最大トルクを1300rpmという低い回転域から発生する。トランスミッションは、8速スポーツATのほかに6速MTが選べる中で、ドライブしたのはATだ。
0-100km/h加速は4.8秒(8速AT)というだけあって、エンジンはなかなか強力。1550kgの車体を軽々と引っ張ってくれる。同型式のエンジンは、デビュー当初は高回転域で頭打ちになる印象があったのだが、すでに手が加えられていて、トップエンドまでよどみなくスムーズに吹け上がるのは4シリーズ等でも確認しているとおりだ。そして何よりサウンドがよい。パワフルな加速感もさることながら、このストレート6ならではのサウンドを味わってしまうと、こちらを選ばずにいられなくなる。
足まわりには、18インチタイヤ&ホイールが標準で付き、電子制御の「アダプティブMサスペンション」や「バリアブル・スポーツ・ステアリング」が標準装備される。操舵力が軽く、クイックなステアリングはインフォメーションが希薄なところもあり好みの分かれるところだろうが、極めて俊敏で、応答遅れなく車体全体が一体となってついてくる感覚は2シリーズならでは。運動性能を追求すれば軽くコンパクトなほうが有利なことはいうまでもない。上級モデルである4シリーズに対してはその点でも選ぶメリットがあるといえる。
サスペンションは、最近のBMW車がおしなべてそうであるように、よく動くセッティングが施されており、乗り心地はいたって快適で接地性にも優れる。路面のアンジュレーションをしなやかに吸収しながら、狙ったラインを正確にトレースしていける。
本当に気持ちよく走れるクーペ。かなりパワフルなのだがもてあますほどではなく、コンパクトゆえ軽快で機敏に走れる。いちスポーツカーとして、とても魅力的な存在だと思う。
手の内で操れる感覚が楽しい「220iスポーツ」
一方の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載し、「M235i」よりも100kgも軽い「220iスポーツ」は、また違ったキャラクターが美味だった。コンパクトで軽い車体にほどほどのパワーという、かつての愛車を思い出す乗り味。元318iS(E36型)オーナーとしてはますます気になる存在である。
「ほどほど」といっても最高出力は135kW(184PS)で、こちらも最大トルク270Nm(27.5kgm)を1250rpmという低回転から発生するスペックのとおり、動力性能的には十分。レスポンス遅れも気にならない。上まで回したときのノイズや振動も4気筒としてはよく抑えられている。「廉価版」という表現はまったく不適切といえそうだ。
鼻先は軽く、試乗車にはオプションの17インチタイヤ&ホイールが装着されていたが、先に乗った18インチ仕様の「M235i」に対してこちらの方が乗りやすく、動きが素直であるように感じられた。1450kgという車両重量は、けっして軽いとはいえないレベルだが、より軽快で一体感のあるドライブフィールにはライトウエイトスポーツ的な楽しさがある。ストレート6が生むサウンドと高い動力性能が魅力の「M235i」に対し、こちらはリーズナブルなパワーを手の内で操れるところが持ち味だ。
ところで2シリーズは「M235i」であればMTとATが選べるのだが、むしろこちらにMTがあったらぜひそれが欲しいと思った。8速ATの出来も素晴らしいのだが、このほどほどのパワーをMTで操りながら走るのは、さらに楽しいのではないかと思ったからだ。
そんな感じで、「M235i」と「220iスポーツ」、いずれもそれぞれの持ち味を楽しませてくれた。もちろん価格はそれなりに違う(「M235i」は584万円~、「220iスポーツ」は444万円~)が、そこは求めるものに合わせて選べばよいかと思う。スポーティで洗練された走りを身に着けた2シリーズは、個人的にもかなり食指の動いたニューモデルであった。