インプレッション

BMW「M3」「M4」(本国仕様)

 i3、i8そして新型MINIと、立て続けに話題を振りまいているBMW。時代はまさにエコ。確かに新しく立ち上げられたiブランドは時代に適合したサブブランドといえる。しかし、BMWのキャッチを思い起こしてほしい。それは「駆けぬける歓び」なのだ。つまり走ってなんぼ、なのである。

 iブランドに続き、BMWはMブランドの国際試乗会を先日開催した。試乗モデルはセダンの「M3」とクーペの「M4」で、会場はスペインの西隣に位置するポルトガル。真夏のような眩しい太陽の下、サーキットも含め全開走行で新しいM3&M4の実力をチェックしてきた。

ブルーのボディーカラーがM3、イエローのボディーカラーがM4。ともに新開発の直列6気筒DOHC 3.0リッターツインターボエンジンを搭載し、最高出力は317kW(431PS)/5500-7300rpm、最大トルクは550Nm(56.1kgm)/1850-5500rpmを発生。すでに日本での受注を開始しており、価格はM3が1104万円(7速DCT)、M4が1075万円(6速MT)/1126万円(7速DCT)

新しい機能・装備が満載の新型M3&M4

 ニューブランドである4シリーズのハイエンドモデル・M4は、これまでのM3クーペの後継車だ。4シリーズの登場に伴い、M3は4ドアセダン専用モデルとなり、M4は2ドアモデルとなる。

 では、新しくなったM3&M4のトピックをお伝えしよう。まず注目なのが、先代M3で姿を消していた直列6気筒エンジンの復活だ。新しいM3&M4にV型8気筒エンジンは採用されなかった。これは上位モデルとの差別化ともとれるが、やはりダウンサイジングが主な狙いだろう。

M3はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製ルーフを初採用。ボディーサイズは4685×1875×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2810mm。鍛造のMライト・アロイ・ホイール・Vスポーク・スタイリング513Mを標準装備(フロント:9.0J×18ホイール+255/40 ZR18タイヤ、リア:10.0J×18ホイール+275/40 ZR18タイヤ)。乗車定員は5名
M3のインテリア

 ところで、新開発3.0リッター直噴の直列6気筒DOHCエンジンにはシングルスクロールのターボチャージャーが2基、そして可変バルブ制御システムの「バルブトロニック」と無段階可変カムシャフトコントロールの「ダブルバノス」が採用され、その出力は431PSと先代に搭載されたV型8気筒4.0リッターエンジンの420PSを11PS上回っている。最大トルクも40%近く向上していて、550Nmを1850-5500rpmという広範囲で発生する。

 トランスミッションは6速MTとツインクラッチの7速DCT。今回の試乗は7速DCTのみだったが、日本市場にはM4に6速MTが導入される予定。もちろん7速DCTは両モデルに設定されている。これらのシステムによって0-100km/h加速はM3&M4ともに4.1秒と、大幅に加速性能が向上している(7速DCT車)。ちなみに先代モデルのM3クーペは4.8秒で、M3セダンは4.9秒だった。この差は2ドアと4ドアという主に重量差によるもの。先代モデルには2ドアのM3クーペにのみCFRP(カーボンファイバー)製のルーフが与えられていたのだが、新型からはセダンモデルのM3にもCFRP製ルーフが採用されている。CFRP製ルーフの効果はM4クーペで6kg減、M3セダンで5kg減となっており、重量削減だけでなく重心位置が下がることでの運動性能の向上にも一役買っているのだ。

M4のCFRP製ルーフは先代のM3クーペから引き続きの採用となる。ボディーサイズは4685×1870×1385mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2810mm。こちらもM3同様、鍛造のMライト・アロイ・ホイール・Vスポーク・スタイリング513Mを標準装備。乗車定員は4名
M4のインテリア

 もちろん新型ではほかにも軽量化にさまざまなテクノロジーが採用されていて、フロント・サイドパネル、そしてパワードームと呼ばれる膨らみのついたエンジンフードが、旧モデルではスチール製だったのに対し新型ではアルミ製に変更された。そのエンジンフードを開けると、わずか1.5kgというCFRP製の軽量なストラットタワーバーが真っ先に目に飛び込んでくる。

 また、M4ではクーペデザインを強調し、エアロダイナミクスにも寄与するトランクリッドがCFRP製となる。さらに、縦置きされたエンジン後部のトランスミッションからリアデフにトルクを伝えるプロペラシャフトも一体成型のCFRP製となり、約40%の軽量化に成功している。従来のスチール製プロペラシャフトは、中空スチールパイプの剛性の問題から中間にベアリングのジョイント部を設ける必要があったが、CFRP製は飛躍的に剛性が上がって1本モノで耐えられるようになったのだ。これは駆動輪へのダイレクトなレスポンスに貢献する。

M3、M4ともにプロペラシャフトは一体成型のCFRP製を採用(写真上で手にしているのは従来のスチール製プロペラシャフト)

 このように、新型M3&M4ではBMWがi3やi8で培ったCFRP技術がふんだんに取り入れられている。これらのことは、BMWが高強度軽量素材の加工分野で世界の自動車産業をリードしているといえるのではないだろうか。「インテリジェント・ライトウェイト構造」とBMWが呼ぶこれらのテクノロジーの導入により、新型では約80kgの軽量化を実現した。とくにM4の空車重量(DIN準拠)は1497kgと、目を見張るものがある。

 ところで、エコ性能についても付け加えておかなければならない。新型エンジンはMT/DCTともにアイドリングストップ機能を採用していて、欧州テストサイクルによる燃費は約12.0km/L。1km当たりのCO2排出量は194gと先代モデルよりも燃費とともに25%以上も向上し、ユーロ6の排ガス基準をクリアしているのだ。

加速もコーナーリングもブレーキングも素晴らしい

 車両説明が長くなってしまったがそろそろ走り始めよう。試乗会場はポルトガルの南部ファロ。大西洋の向こうにはアフリカ大陸を望む温暖な地域で、試乗会当日はほとんど真夏という気候だった。

 インテリアは3シリーズのそれを踏襲しているが、カーボン製のパネルや専用ステアリング、そしてサポート性と座り心地を両立した専用シート等が目をひく。メーターパネルには、アイドリングストップを示す「OFF」のロゴが入った7500rpmからレッドゾーンのタコメーターが右に配置される。そして、330km/hフルスケールのスピードメーターが左に置かれる。ちなみにスピードリミッターは250km/hに設定されていて、オプションのMドライバーズ・パッケージを装備することで280km/hまで引き上げることができる。

 コクピットでドラポジをチェックする。テレスコピック&チルト、そしてパワーシートをアレンジするとほぼ理想的なポジションが取れる。目につくのはまったく新しくなったドアミラー。視認性がよく、何より空力に優れていそうな特徴あるデザインだ。

 エンジンをスタートして走り出す。発進はトルコンのようにとてもスムーズ。しかも極低速からしっかりとトルクを感じる。走行モードはエンジン&トランスミッション、サスペンション、ステアリングの3種類を、それぞれ「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」と好みに応じて3段階で調整できるようになっている。エンジン&トランスミッションをノーマルにあたるエフィシエントモードに設定すれば、早めのシフトアップであまりエンジン回転を上げずにエコなマネージメントを行う。それでも2000rpmの領域では十分にトルクが感じられスムーズな走りだ。

 高速道路ではとても直進性が高い。ステアリングのニュートラル位置がしっかりと直進時に座っているので安心して走ることができるのだ。また、サスペンションをノーマルモードにしておけば乗り心地はとてもスムーズ。逆にステアリングはスポーツモードがちょうどよい重さだ。サスペンションのスポーツモードは若干突き上げ感を伴うようになるが安定性は高く、高速巡航でも苦にならないレベルの乗り心地だ。

 燃費を気にしないのなら、エンジン&トランスミッションをスポーツかスポーツプラスにする方がレスポンスもよく心地がよい。スポーツ以上のモードでマフラー前に設置された排気系のバルブが開き、その音質がかなりレーシーに変貌する。室内はとても静かなので快適だが、この排気音だけはしっかりとドライバーに伝えてくれるのだ。高速道路と田舎道を走ること約30分、アルガルヴェというサーキットに到着。

 2008年にオープンしたというこのサーキットではDTMレースが開催され、F1のテストサーキットとしても使用されているという1周約5km弱のコース。ただし、その難易度は高くアップダウンの繰り返しとブラインドコーナーの連続。まるでニュルブルクリンクのオールドコースを走っているかのようだ。

 サーキットコースを走ってみて感動するのは、大きなトルクによって低速からしっかりと力を出す直6エンジン。3000rpmあたりから非常に力強い加速力を感じる。排気音は低音タイプでドロドロという音質が不気味ささえ感じさせる。エンジン&トランスミッション、サスペンション、ステアリングをすべてスポーツプラスに調整し、サーキットコースを走る。いわゆるスピンを予防するスタビリティコントロールには「MDM」というスポーツモードが設定されていて、それをチョイスした。エンジンは中速域(4000rpm前後)のレスポンスがよく、コーナーからの立ち上がりがとても力強い。MDMは多少のドリフトも許容してくれ、行き過ぎるとしっかりとセーフティにコントロールしてくれるから安心だ。

 実はEデフが採用されていて、コーナーリングのアプローチではデフがほとんどフリーになって回頭性を高め、立ち上がりではリニアにロッキングファクターが上昇し最終的に100%にまで達する。だからトラクションがとてもよく、コーナー入り口ではステアリングの反応がしっかりしている。また、リアサスペンションの一部がレーシングガーと同じ手法でボディーに直付けされている。これによりサスペンションの剛性感が増し、よりトラクションが安定する。それ以上に、このようなセッティングが乗り心地を大きく崩していないことに驚きを感じるのだ。

 新型ではサーキットでのパフォーマンス向上を狙ったというとおり、加速もコーナーリングもブレーキングも素晴らしい性能。特にブレーキはオプションのカーボンセラミックローターが採用されていて、変化のない素晴らしいフィーリングだった。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在60歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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