インプレッション

BMW「M3セダン」「M4クーペ」(日本仕様)

タダモノではない存在感

 現行F3#系の3シリーズセダンが登場して約3年経つので、いつ出てもおかしくないと思っていた「M3セダン(以下、M3)」と、まだ誕生してそれほど時間の経っていない4シリーズクーペをベースとする「M4クーペ(以下、M4)」が同時にデビューを果たした。ベース車の登場時期にだいぶ差があるので、両車のMモデルが同時に出るのは意外だったが、内容的には共通性が高いので不思議な話ではない。

 クーペだけでなくセダンにも採用されたカーボンルーフや、開口部の大きなフロントマスクなどを見るにつけ、やはりタダモノではないことを匂わせる存在感がある。全長こそ日本の5ナンバー枠にも収まるが、全幅は1870㎜(セダンは1875mm)とかなりワイド。内側の上のほうが尖ったユニークな形状のドアミラーは、さらなる空力性能の追求によるものだ。

 独特の形状をしたボンネットは、開けてみるとその形の理由が、中にギッシリ詰め込まれた直列6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「S55B30A」エンジンによるものであることが分かる。カーボン製のU字型のストラットブレースは見た目にも美しく、機能性も高そうだ。

 インテリアではふんだんにレザーを張りめぐらせたり、インパネやコンソールが柄の美しいカーボントリムとなる仕様などがオプションで選べる。今回撮影したM3のように白いインテリアもなかなかよい雰囲気だ。

今回撮影したM3(ヤス・マリナ・ブルー)とM4(オースチン・イエロー)。ともに7速DCT仕様で、価格はM3が1104万円、M4が1126万円。ステアリング位置はいずれも右で、M4のみ設定される6速MT仕様は左も選択可能

時代を踏まえたダウンサイジングエンジンながら派手なサウンドを咆哮

搭載エンジンはM3、M4ともに高精度ダイレクトインジェクションシステム、ダブルVANOS(吸排気可変バルブタイミング)、バルブトロニックを組み合わせた新開発の直列6気筒DOHC 3.0リッターツインターボ「S55B30A」。最高出力317kW(431PS)/7300rpm、最大トルク550Nm(56.1kgm)/1850-5500rpmを発生する。アイドリングストップ機能も備え、JC08モード燃費はM3/M4ともに12.2km/L(M4の6速MT仕様は11.6km/L)となっている

 Mモデルといえば、真っ先に気になるのはやはりエンジンだ。V型8気筒4.0リッターの自然吸気エンジンが与えられ、多くの人を驚かせた従来のE9#系に対し、次はどんなエンジンになるのか非常に興味深く思っていたところ、搭載されたのは先で述べたとおり直列6気筒 3.0リッターツインターボだ。従来型に比べて燃費やCO2排出量は25%以上も改善されており、時代を踏まえたダウンサイジングエンジンということになる。

 直列6気筒 3.0リッターでターボというと、335iや435iも同じだが、ツインスクロールのシングルターボではなく2基のコンプレッサーを持つツインターボである点が大きな違い。317kW(431PS)の最高出力をトップエンド近くの7300rpm、一方で550Nm(56.1kgm)の最大トルクを1850-5500rpmという幅広い回転域で発生させているのが特徴だ。225kW(306PS)/5800rpm、400Nm(40.8㎏m)/1200-5000rpmのスペックを持つ335iや435iも相当に速いと感じたが、さらに圧倒的に上回るスペックであり、期待せずにいられない。トランスミッションはトルコンATではなく、7速デュアルクラッチトランスミッション「M DCT ドライブロジック」が両モデルに設定され、M4のみ6速MTが選べる。

M3のボディーサイズは4685×1875×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2810mm。ベースの320iや328iと比べ60mm長く、75mm広く、10mm低いスペックとなる。車両重量は1640kg。M3としてはカーボンルーフを初採用し、スチール製ルーフよりも5kg軽量化するとともに、重心を下げることに成功した。鍛造ホイールのサイズはフロント9.0J×18(タイヤサイズ:255/40 ZR18)、リア10.0J×18(275/40 ZR18)
M3のインテリア。乗車定員は5名、トランクルームの容量は480L

 エンジンをスタートさせると、アイドリングからすでにサウンドがかなり大きいことが印象的。かつてBMWでここまで派手に音を出していたモデルなと、ちょっと記憶にない。圧倒的に高性能ながらジェントルさを感じさせるM5とは違って、Mモデルの末弟として、あえてちょっと“ヤンチャ”なキャラクターが与えられた感じがする。踏み込むと、その圧倒的な加速性能はさすがというほかない。そして上はめっぽう回る。

 最高エンジン許容回転数の7600rpmまで、まったく衰えることなく文字どおり一気に吹け上がる。これぞ“M”の真骨頂! あまりにスムーズなせいか、途中の加速性能の高さを実感しないうちにあっという間に上まで回ってしまっている感もあって、ちょっともったいない気もするほどだ。ターボチャージャーの採用で気になっていたアクセルレスポンスは、歴代M3がこだわり続けた自然吸気エンジンと大差はない。アクセルオフにしてから再加速したいときでも、タイムラグなく加速させることができる。これにはアクセルオフでも一定時間、過給圧を維持する機能が効いていることに違いない。

 そして、BMWでは一般的な量販モデルにはトルコンATを採用し、MモデルにはDCTを採用している理由がうかがい知れる。335iや435iも十分に高性能でかつ乗りやすいとはいえ、やはりリニアさやダイレクト感ではMモデルの方がDCTならではのものがある。

 エンジン性能を3段階から選べるほか、セレクターの後方にある「ドライブロジック」のタンブラースイッチを押して、シフトスピード等の希望の走行プログラムを好みで選択できるのもMモデルの特徴だ。

M4のボディーサイズは4685×1870×1385mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2810mm。ベースの428i クーペや435i クーペと比べ45mm長く、45mm広く、10mm高いサイズとなっている。車両重量は1640kg(6速MT車は1610kg)。M3と同様、カーボンルーフや鍛造ホイールなどを装着する
ブラックを基調としたM4のインテリア。後席の快適性はM3に譲るものの、必要にして十分なスペースを確保している。乗車定員は4名、トランクルームの容量は445L

シャシー性能も一級品

 ハンドリングの切れ味も極めて鋭い。クイックなステアリングで、すべてが操作したとおりに反応する。

 これを実現するためにいろいろ手を尽くしているようで、もちろんより軽量で剛性の高い車体や前述のストラットブレースも効いているはずだ。さらには、ファイナルドライブを無段階でロックする「アクティブMディファレンシャル」が、左右輪の駆動力を最適に配分してくれる。また、ドライブトレーンも軽量でねじれ剛性の高い仕様とされているため、より応答遅れなくダイレクトにトラクションをコントロールすることができる。

 サスペンション自体も軽量なアルミニウムが多用されていて、路面追従性に優れている。「Mカーボン セラミック ブレーキ」は見てのとおりのサイズで、そのキャパシティにまったく不安はない。おそらくサーキットを何周にもわたって攻めても、そう簡単に音を上げることはないだろう。

 エンジン、足まわり、ステアリングはそれぞれ3段階の調整が可能で、これに前述の「ドライブロジック」を組み合わせると、走行面でのフィーリングはかなり変わる。快適なツーリングカーからダイナミックなスポーツカーまで、1台で大きな幅を持っているのも特徴的だ。

 シートはきつくサポートしすぎることもなく、適度なホールド感を提供してくれて、十分に快適ながらGの高いコーナリングでも不安は感じない。M3とM4では、シートの低さやAピラー角度が異なるのは当然として、走りについての方向性は共通だが、座る位置が低いことと、実際に重心高が低いこともあり、M3でも相当にハイレベルだが、強いて比べるとM4の方がスポーティさでは上といえる。

 このように、現状で考えられる数々のデバイスが与えられているM3とM4。1100万円超という価格設定も、内容を知れば知るほど納得できるものだ。

 この2台の試乗後に、兄貴分のM5にも試乗したのだが、味付けはかなり異質。M5もやはり圧倒的なまでに高性能だが、あくまでラグジュアリーサルーンとしての性格をも多分に備えていることが分かった。

こちらは「M5」。V型8気筒DOHC 4.4リッター「S63B44B」エンジンに7速DCTを組み合わせる。最高出力412kW(560PS)/6000rpm、最大トルク680Nm(69.3kgm)/1500-5750rpmを発生。価格は1553万円でステアリング位置は左右から選択できる

 それに比べるとM3/M4はスポーティさを極めたツーリングカーという印象で、より分かりやすくダイナミックさを前面に打ち出している。335iや435iだって十分に高性能だが、“究極”とか“クラス最高”を求めたとき、こうしたMのようなモデルが憧れとして存在しているからこそクルマは面白いのだと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一