インプレッション

BMW「435i」

 3シリーズのクーペバージョンとして新たに4シリーズが立ち上がった。従来は3シリーズのバリエーションの一環だったが、今回から4シリーズとして独立したことになり、今後の新しいバリエーション展開も期待される。

 4シリーズに求められたのは、3シリーズのクーペという枠からはみ出して新しいDセグメントのクーペを作りなおそうということから始まっている。完成度の高い3シリーズの延長ではないということで、これまで以上にクーペらしくスポーティなテイストを持つことが重要だ。そのためにセダンとは異なったアプローチで開発が行われた。

 今回の4シリーズ海外試乗会はリスボン郊外で行われ、リスボン空港で我々を待っていたのは3.0リッターツインターボの435iという心憎いばかりの演出で出迎えられた。4シリーズには435iのほかにディーゼルや2.0リッターターボもあるが、まずはトップエンドの435iのみが用意されている。日本に導入される時もハイエンドにはこの435iがポジショニングされ、そのほかに428iと420iがラインアップされることになるだろう。2種類あるディーゼルの導入予定はないようだ。

 プラットフォームはF30の3シリーズを基本としているのでホイールベースは2810㎜と共通だが、従来のE92クーペと比較すると50㎜延長されている。これによってピッチングなどによる影響を受けにくくなり、さらにトレッドはF30の3シリーズと比較してもワイドに設定されている。フロントは24㎜、リアでは30㎜の拡大されたため、見た目にもクーペらしい踏ん張り感のある安定したフォルムを持つことに成功している。

 これは単純なサスペンションアームなどの延長だけでなく、プラットフォームも拡大されていることから、BMWがいかに本気で4シリーズを開発しているかが分かる。

 さらにフロントには横力の踏ん張りに伴って、トーショントラストと呼ばれる補強バーがボディーとサブフレームを結んで入れられている。

 ボディーサイズは従来型よりも大きくなっているが、軽量化が図られて25㎏の重量軽減を実現しており、前述のようにボディー剛性は大幅に向上している。

 全長は4638㎜で従来型と比較すると26㎜ほど長いが、ホイールベースの延長分を考えるとオーバーハングが切りつめられたデザインになっていることが分かる。

 全幅は1825㎜。セダンの欧州仕様はドアハンドルが最も張り出していたが、日本仕様ではハンドルを小型化して全幅を抑えていた。しかし、4シリーズではリアフェンダーがもっとも広いところなので1825㎜の全幅は日本仕様でも変わらないだろう。ちなみに従来の3シリーズクーペと比べて45㎜広くなっている。

 さらにクーペらしいのは全高を下げて重心高を低くしたことだ。1362㎜の全高は従来モデルより16㎜低くデザインされており、相対的にかなり低くて安定感のあるフォルムになっている。

 エクステリアデザインはクーペらしい伸びやかさでプロポーションの美しさを表現している。ボディーサイドに入ったBMWらしいエッジが効いていて、後方に流れるように入ったライン、リアフェンダーを自然と張り出させたことで力強さと安定感をキチンと表現している。緊張感とエレガントさの調和したバランスのよいデザインだ。

ボディーサイズは4638×1825×1362mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2810mm
3シリーズ グランツーリスモから採用がスタートした「エア・ブリーザー」を採用。ブレーキは前後ともシングルピストン・フローティングキャリパー・ディスクブレーキを装着する

 インテリアの基本的なデザインモチーフは現行3シリーズセダンだが、BMWはそのまま流用するような無粋なマネはしない。クーペとしてのパーソナル空間をしっかり作り上げており、4シリーズだけの世界が広がる。カラーにしても、フロントのダッシュパネル下半分をインテリアカラーと共通化することで、クーペらしさを直接感じとれる。センターコンソールも形状が異なり、i-Driveのセレクターダイヤルも大型化したうえタッチパッド化されている。今後のBMW車はこのサイズになるようだ。これらにより、セダンより1クラス上の居住空間を提供している。

 乗降性がよくホールド感の髙いドライバーズシートに座ると、従来モデルよりヒップポイントがかなり下がっていることを感じる。全高を下げていることからヒップポイントも下げて、ドライビング時の姿勢と視線の変化を抑えている。フロントのダッシュボードは相対的に上がっているが、適度に包まれ感もあって違和感はない。これによって重心高が下がっている。

第一印象はワイドで低く、そしてエレガントでスポーティ

 いよいよ公道に乗り出してみる。エンジンは既存の3.0リッターの直列6気筒ツインターボ。225kW(306PS)/5800-6000rpm、400Nm/1200-5000rpmという出力を楽しむのはサーキット試乗に取っておくとして、久しぶりに味わう直列6気筒エンジンの滑らかさはやっぱりいい。直列4気筒は滑らかでも振動感があるが、やはり直列6気筒、しかもBMWのエンジンはさすがである。

 装着タイヤはブリヂストンのPOTENZA S001。ランフラット仕様でフロントは225/40 R19、リアは255/35 R19を履く。これはオプション設定で、標準装着タイヤは17インチとなる。

 ドライバビリティはさすがに熟成されており、8速のトルコンATとの相性も良好。市街地のような低速時のドライバビリティも問題なく、スムーズにストップ&ゴーができる。また、アクセルの反応は過敏でなく、滑らかで運転しやすい。パフォーマンスの高さをおくびにも出さないのが好ましい。

 郊外路ではコンフォートとECO PRO、SPORTといろいろなモードを試してみたが、ECO PROではかなりエンジン制御が入ってスロットルレスポンスが鈍くなる。また、エアコンの制御も行うので暑い時は冷えがわるくなる傾向があり、日本では使う季節を選ぶかもしれない。

 しかし、アクセルオフでは早めにクラッチを切ってコースティングの惰性走行するなど燃費走行は徹底しており、アイドリングストップも含めて燃費面は頼もしい。

435iに搭載される直列6気筒DOHC 3リッター直噴ツインスクロールターボエンジン。最高出力225kW(306PS)/5800-6000rpm、最大トルク400Nm/1200-5000rpmを発生

 コンフォート以上を選択すれば、もちろんアクセルレスポンスは力強くなる。SPORTではさらにアクセルのツキがよくなるが、変速のタイミングも回転を上の方でキープしようとするので、日常的な走行シーンでは変速パターンが合わなくなることもある。

 ちなみに試乗車には可変ダンパーが装着されており、コンフォートモードではタイヤの硬さに対して上下のダンピングとのマッチングがピタッとしておらず、突き上げ感もあってややキレのわるい乗り心地だった。むしろ18インチタイヤの方がマッチングがよさそうだ。しかし、SPORT+を選ぶとシャキッとして硬いがスッキリした乗り心地に変化する。また、コンフォートモードでも120km/hを超えたあたりからスッキリとした収まりのよさを見せてくれた。

 ダンピングはハンドリング面でもちょっとした違和感があったが、これもタイヤサイズとのマッチングによる部分のようだ。しかし、ドライバーの視線が低くてロールもよくチェックされているので、BMW特有のドライビングの楽しさが堪能できる。さらにSPORTにすると操舵力が重くなるのと同時に操舵時にシャープさが増し、スポーティなハンドリングが味わえる。ワインディングロードではまさにBMWの本領発揮だ。

 18インチぐらいのタイヤでドライブするとまた異なる印象を持ったかと思うが、BMWのことだ、すぐにアジャストしてくるに違いない。

 面白いアイデアだと思うのは、フロントのアンダーグリル脇にあるスリットから取り入れた空気を、フロントホイールアーチの後方に設けたエアダクトから抜くという新しい空力デバイス。中速域から効果が高いと言われているが、たしかにサイドの空気の流れはかなり整流されそうだ。

 公道ではややアンダーステアが強めかと思っていたが、翌日のエストリルにおけるサーキットドライブではよい意味で予想は裏切られ、4シリーズの真価を見ることができた。

 ドライブモードは当然ながらSPORT+を選んでDSCを解除。序盤の2ラップはハイスピードな先導走行でコースを確認し、残る2ラップをフリーに走るというプログラムだ。

 最高出力225kW(306PS)/5800-6000rpm、最大トルク400Nm/1200-5000rpmの出力と8速ATによる、力強く間段のない加速フィールは「あ~やっぱりBMWだな」と感歎させずにおかない。

 ハンドリングでは、剛性の高い19インチタイヤとハードモードのダンパーによってステアリングの切り始めからロールをよく抑えており、ターンインでのノーズの入りがきわめて自然で、アンダーステア傾向はみじんも見せなかった。郊外路で覚えたわずかな違和感も、サーキットではまったく感じない。予想よりあっけなく、そして無理なくコーナーに入ると435iは綺麗な姿勢で旋回する。BMWのクルマ作りのフィロソフィーとなっている50:50の前後重量配分による前後バランスを活かしきった走りだ。ドライビングセオリーを高い次元で実現してくれるところはさすがである。ボディーのねじれ剛性が高く、ロールのコントロールが絶妙。しかもアンダーステアを出さずにライントレース性に優れる。やや重い操舵力もサーキットでは適度になじんだ重さだ。

 まわり込んでいるコーナーでもニュートラルなステアリング特性で癖がなく、非常に乗りやすい。さらにESCなどの電子制御デバイスをすべてカットし、ターンアウトでアクセルを踏みこんでいくと、大トルクによってリアタイヤが徐々にグリップを失いスライドを始めるが、これがなかなかの粘り腰でコントロールしやすいのだ。

 グリップが高いだけではなく、前後のグリップバランスに優れて扱いやすい。まさにBMWの真骨頂だ。公道で感じたよりもむしろしなやかに動くサスペンションなど、やはりBMWはサーキットで鍛えられていると感じる瞬間だ。

 ブレーキは特に強力ではないが、エンジンパワーに対して相応で、ペダルストロークに対して自然なフィーリングで効いてくれる。フローティングローターだがマルチシリンダーの大きなキャリパーを使っているわけではないが、これもBMW流の考え方で、たしかにバネ下は軽くて動きはスムーズだ。

 8速ATはシフトアップはもちろんだが、シフトダウン時も軽いブリッピングと共に軽快にシフトダウンしてくれるので、スポーツドライブのみならず運転に心地よい刺激を与えてくれる。

4シリーズは全車4人乗り。ラゲッジルーム容量は445L

 さてキャビンだが、フロント優先のクーペとはいえ、リアシートも大人2人がきちんと座れる空間。レッグルームは広く、つま先がフロントシートの下に入るので、平板なリアシートながら居住性は意外と良好だ。ヘッドクリアランスも身長が170㎝ぐらいまでなら余裕がある。

 トランクスペースは採寸していないが、横幅が広く、深くて奥行もあるのでかなりの容積がある。ゴルフバッグも収納可能ではないだろうか。さらにリアシートは40:20:40でシートバックが前方に倒れるので実用性は高い。

 4シリーズはBMWらしくスポーティで、なおかつエレガントで魅力的なモデルだ。国産車から2ドアモデル、ステーションワゴンなどを選びたくても選択肢が少なくなっている昨今で、日本におけるBMWの存在感はますます高まることになるだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。