インプレッション
BMW「4シリーズ グラン クーペ」
Text by 日下部保雄(2014/7/29 00:00)
このところ矢継ぎ早に新型車を投入するBMW。そんなBMWが日本市場に投入した最新モデルが4シリーズのグラン クーペだ。グラン クーペは6シリーズにも設定されているように、クーペシリーズにラインアップされる4ドアバージョンとなる。一見類似しているグラン ツーリスモ(GT)は3シリーズにラインアップされており、こちらは違いを明確にするため後述する。
3シリーズはBMWのメイン車種だけに、兄弟車種の4シリーズと合わせたシリーズ合計が6車型に及ぶ。ちなみに4シリーズではクーペ、カブリオレ、グラン クーペの3車型がラインアップされ、3シリーズではセダン、ツーリング、GTになる。
しかも、ガソリン、ディーゼル、ハイブリットと3つのパワーソースを持っているのも3&4シリーズの特徴だ。6つの車型と書いたが、パワートレーンとの組み合わせも含めると25モデル、さらにグレードで細分すると99モデルにもなるというからなんとも凄まじい数だ。それだけBMWは3&4シリーズを重視している。
グラン クーペは、クーペに4ドアの機能性とラゲッジの利便性を合わせた多機能クーペで、ドアは4枚あるが後席の乗降性などはあまり重視していない。この点、3シリーズのGTは後席の居住性を犠牲にせず、ファーストバックのボディーとしたもので似て非なるものだ。ちなみに、ディメンションは2810mmのホイールベースは変わらないものの、トレッドは4シリーズの方が広く、グラン クーペが1550/1600mm(フロント/リア、420i グラン クーペ)に対して、GTでは1540/1585mm(同、320i GT)と狭くなっている。
ちなみに、全長はGTの4825mmに対して4640mmと短い。全幅も1830mmから1825mmとなっており、全体の第一印象は寝かせられたルーフ、四隅に配されたタイヤの効果もあって、グンと引き締まった印象だ。
テストドライブしたのは435i グラン クーペ M Sportで、3.0リッター ストレート6をパラレルターボで過給したハイパワーモデル。出力は225kW(306PS)/400Nmと大きく、1690㎏の435i グラン クーペを軽々と走らせる。パワーウェイトレシオからすれば5.52㎏/PSなので、その動力性能の素晴らしさは想像がつくというものだ。
全高はGTの1510mmに対して1395mmとぐんと低いため、乗降性では若干不利になるが、デザイン重視のグラン クーペではこれぐらいのトレードオフは十分に妥協できる。ただし、後席の乗降性は劣るので、後席を重視するユーザーには同じパフォーマンスを誇るGTを薦めておきたい。後席スペースではヘッドクリアランス、レッグルームなどは確保されているが、Cピラーとのクリアランスが限られており、やはり居住性の点では妥協しなければならない。
グラン クーペは常用で4人が乗るのではなく、ときおり後席も使うというユーザーに適しているし、スタイリッシュなクーペスタイルに4枚のドアと大きなテールゲートを設けたことによる利便性の高さを狙っている。ラゲッジスペースではGTやツーリングの方が広いので、クーペの延長と考えて選んだ方がよいだろう。とはいえ、実用性は高く、後席を使っているときでも480Lのラゲッジルームを確保。さらに後席をすべて前に倒した場合は1300Lのスペースを生み出せるので、大抵の荷物は載せられる。
このテールゲートは電動開閉式であるだけでなく、キーを持っていればリアバンパー下に蹴りこむように足を入れると自動的にオープンするBMW得意のシステム「オートマチック・テール・ゲート・オペレーション」を備えているので、両手が荷物で塞がっている状態でもテールゲートを開けて積み込めるのはなかなか便利だ。
穏やかだが、確実性のあるグリップ感と応答性を持つ
さて、435i グラン クーペ M Sportはフロント:225/40 R19、リア:255/35 R19のブリヂストン製ランフラットタイヤを採用しているが、さすがにBMWはランフラットを履きこなしている。タイヤ開発も進んでいるので、タイヤから感じるゴツゴツした突き上げは最少で、グリップなどの運動性能とのバランスもよく取れている。
市街地での取りまわしでも幅広タイヤによる煩わしさは感じないし、ちょっと速度の出るような高速道路でも安定して一定のグリップ感があるのは好ましい。ワインディングでもスポーティなステアリング応答性を示し、グリップも適度に高いので安心感がある。
ただ、バネ下とバネ上の動きにあまり一体感がないのは意外だった。BMWはこの点では一級のドライブフィールを持っているが、少なくとも435グラン クーペ M Sportでは、従来のBMWモデルで感じられたスッキリしたハンドリングの一体感よりも、ボディー上下の動きを収束させながら乗り心地を確保しようとしているように感じられた。BMWも上質な乗り心地というテクノロジーの進化と無縁ではなく、グラン クーペでは2ドアクーペ以上に乗り心地が求められているところから、このような動きになったのかもしれない。この点では、同じ4シリーズでもハンドリングに振れるクーペはBMWのイメージに合う動きを提供してくれる。
とはいえ、この一瞬の違和感もちょっと距離を乗ると、素直にグラン クーペのよさだと慣れていった。ハンドリングはキリッとした俊敏な動きより、穏やかだが、確実性のあるグリップ感と応答性を持っており、太いタイヤながら荒れた路面でもハンドルを取られることの少ない素直な動きになっている。
ちなみにグラン クーペでは、フロントアクスル・キャリアとサイドシルを結ぶトーションバーが設けられ、フロント部の剛性を上げてステアリング操作に対する精度を高めている。
8速ATは各ギヤの守備範囲が広く、どのようなシチュエーションでもギヤが合っており、なによりも燃費に貢献する。燃費では「ECO PROモード」を選ぶとアクセルオフでトランスミッションとエンジンを切り離す「コースティング機能」が働き、燃費向上に一役買ってくれる。もちろんアイドルストップも備わり、グラン クーペは全車エコカー減税の対象(420i グラン クーペ xDriveは申請中)になっている。
また、ドライバー支援システムも充実している。レーンキープアシスト、前車接近警告、衝突被害軽減ブレーキなどをセットにした「ドライビング・アシスト」は全車標準装備だ。グレードは直列4気筒ターボの420i、428i、そして直列6気筒ターボの435iがあり、それぞれにStandard、Luxury、M Sportの各モデルがある。さらに420iにはAWDの「xDrive」が用意されており、手厚いラインアップを誇っている。