インプレッション

メルセデス・ベンツ「G 63 AMG 6×6」

メルセデス・ベンツの6輪駆動車「G 63 AMG 6×6」

進化・発展しつづけるGクラス

 35年もの長い歴史を持つGクラスは、これまでたびたび生産終了のウワサが出ては消え、そのうちなくなってしまうのかと思わされることもあったが、いやいやとんでもない。まったくそんなことはなくて、むしろますます勢いを感じさせるほどだ。

 2012年夏には大規模なマイナーチェンジを実施し、その際にGクラス史上で初めてV型12気筒エンジンを搭載したり、その1年後にはクリーンディーゼル搭載車を設定したりと、新しいことに挑戦し、進化・発展しつづけている。そして2013年の春頃から、何やらさらに新しい試みが行なわれているのはうすうす知っていたが、それが現実のものとなった。

 2014年4月、6輪駆動車「G 63 AMG 6×6」が日本でも限定発売されることがいきなり発表された。2014年分の割り当ては5台で、8月31日までの期間限定で受注を行う。価格は実に8000万円と、ふつうのG 63 AMGの4台半に相当する金額だが、すでにオーダーしたツワモノもいるそうだ。

 そんな貴重なクルマを、見る機会はあっても乗れる機会が訪れるとは思っていなかったのだが、なんと日本に上陸した貴重な1台を「富士ヶ嶺オフロード」のオフロードコースで試すチャンスに恵まれた!

見るからにインパクトのある外観。とても公道を走ってもよいクルマとは思えない

 全長5875mm、全幅2110mm、全高2280mm、車重3850kgという、6輪の大径タイヤを履く巨体を目の前にし、その“オフロードモンスター”を謳う迫力ある姿に圧倒される。資料によると、最低地上高460mm、渡河深度1000mm、アプローチアングル約50°、デパーチャーアングル約45°、並のオフローダーではまずお目にかかれないようなスペックが並ぶ。

普通のGクラスでは無理そうな難所を走破

 まずはインストラクターがドライブする車両に同乗し、シビアなステージでのデモ走行を体感する。ふつうのGクラスもポジションは高めだが、G 63 AMG 6×6はもっと高いので、乗り込むときは、よじ登るような感じになる。

メルセデス・ベンツ「G 63 AMG 6×6」

 ワイルドな雰囲気満点のエクステリアに対し、インテリアはメルセデスの高級車らしく極めてラグジュアリーに仕立てられているというギャップも印象的だ。また、日本仕様には、日本語による各種表示や、日本の交通事情に配慮した360°カメラシステムなど、本来はない日本専用の装備が与えられている点も特筆できる。

岩場をぐいぐいと上っていく
岩場はインストラクターの同乗走行で

 待ち受けるのは、急な上り勾配で高低差の大きい岩場で、しかも岩と岩ひとつひとつの凸凹がかなり深いという、相当に厳しそうな条件の場所。こんなところを本当に走れるのだろうかと思わずにいられないほどの難所。ふつうのGクラスではとうてい無理だろう。そこで、より走破性を高めるため、G 63 AMG 6×6に乗用車として世界で初めて搭載されたタイヤ空気圧調整システムを駆使し、空気圧をもっとも低い0.5barとしてタイヤの接地面積を通常の3倍に増やす。さらに、状況に応じて3つのステージを選択可能な、3軸に配された計5個のデファレンシャルを、すべてロックさせる。防弾仕様車の技術をベースに開発されたという「ポータルアクスル」(ハブリダクション)を採用したG 63 AMG 6×6は、3軸を独立してストロークさせることが可能だ。

 勾配にさしかかり、G 63 AMG 6×6は最高出力400kW(544PS)、最大トルク760Nmを発生するAMG謹製のV型8気筒エンジンを唸らせながら、ゆっくりと確実に、その巨体を、前へ、上へと進ませていく。4t近い車体にかかる重力にも耐え、岩をひとつひとつ乗り越えていく。そして、2~3分かけて、G 63 AMG 6×6は登りきってしまった。これはスゴイ!

V型8気筒5.5リッター直噴ツインターボエンジン。7速AT「AMG SPEED SHIFT PLUS」と組み合わせ、最高出力400kW(544PS)、最大トルク760Nm(77.5kgm)を発生する

 同じステージで、助手席に続いて、後席にも乗せてもらった。セパレート仕様の後席は、パワーシートやエンターテインメントシステムまで備えたラグジュアリーな空間で、後輪が4つあることもあってか、こうした極悪路での乗り心地が非常に快適だったことも印象的だ。

G 63 AMG 6×6のインテリア。メルセデス・ベンツらしく、非常に上品な作りになっている
センターコンソール。ここだけ見ると、6輪駆動の外観は想像しづらい
360°カメラシステムを備える
360°カメラシステムの下に並ぶ3つのシルバーのスイッチがデフロックシステム。左から、フロントデフ、センターデフ、リアデフの順に並ぶ
上部に配置されるタイヤ空気圧調整装置
車内から空気圧を変更し、接地面積を増やすことができる
タイヤの奥にある空気タンク。6輪それぞれに付いている。ショックアブソーバーも別体タンクのオーリンズ製
デフがタイヤハブより上部に位置するポータルアクスルを採用。これによりオフロード車としての性能と、サバイバビリティを高めている
フロントフェンダー、リアフェンダーともにドライカーボン製。フロントは1枚150万円、リアは300万円とのこと
荷台には木製の化粧パネルが装備されていた。スペアタイヤはこの位置に

まさしく“オフロードモンスター”

 そして、いよいよG 63 AMG 6×6を自らの手で運転するときがきた! 4輪駆動のG 63 AMGよりもずっと高い位置から周囲を見下ろしながら、これまで何度か走ったことのある富士ヶ嶺のコースへ。

 筆者が走ったコースなら、このクルマが持つ本来のポテンシャルからすると序の口みたいなものなのだろうが、まず感じるのは、当たり前だが4輪あるリアのトラクションの感覚がものすごく強力なことだ。後ろからグイグイと押し出されながら、バンクも上り坂もものともせず、重量級の巨体は何事もないように前に進んでいく。どんなところも走破していけそうな心強さを感じさせる。

 何周かコースを走り、我々に与えられた試乗時間の終わりが近づいてきたところで、公道ではないから問題ないだろうということで、せっかくの機会なので荷台にも乗ってみた。8000万円のクルマの荷台…!?(笑) 大きなスペアタイヤが荷台に置かれていたのは、下まわりに付けると走破性能に影響するからだろうか。

実際に運転すると、リアのトラクションが非常に高いことを感じられた
リアが4輪あるせいか、後席の乗り心地も非常によい。クローズドコースのため、荷台にも乗って体感してみました。異次元感覚のクルマです

 G 63 AMG 6×6はオーストラリア軍に納入される軍用車両の技術を応用しているというだけに、駆動系や足まわりは地面との距離を稼ぐことで、地雷を踏んでもできるだけ影響を免れるような仕組みになっているという。そんな市販車は、ハマーなき執筆時点では他には存在する由もない。

 いやはや、まさしく“オフロードモンスター”、インパクト満点の乗り物であった。こうしてこのクルマに触れることができたのは本当に貴重な経験である。メルセデス・ベンツ日本に感謝を申し上げたく思う。一方で、こうしたクルマながら最高速度は160km/hに達するらしく、オンロードもなかなかいけるということのようだ。そう聞いたらなおのこと、いつか機会があればぜひ日常的な世界でもぜひ試してみたいと、ちょっと欲が出てきてしまった……。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛