インプレッション

スバル「レヴォーグ」(2015年 年次改良)

 4月16日、スバル(富士重工業)の「レヴォーグ」が年次改良を受けた。EyeSightのさらなる機能強化が主たる変更項目だが、同時にGT系の足まわりも設定変更を受けている。今回は撮影時間含めて80分のうち試乗時間は約30分と短時間ではあったが、一般道と高速道路での試乗が行えたので、まずはその第一印象からお伝えしたい。

 試乗グレードは「1.6GT EyeSight」で、同車両にはメーカーオプションとして年次改良のトピックである「アドバンスドセイフティパッケージ」が装着されていた。搭載エンジンは従来通りの水平対向4気筒DOHC 1.6リッター直墳ターボで、170PS/25.5kgmのスペックも同一だ。一方、燃費数値は17.6km/Lへと向上(車両重量1540kg以上は16.0km/L)したことで、エコカー減税対象となっている。

 エンジン特性は相変わらず力強さが際立つ印象だ。走り出してしまえばCVTであるリニアトロニックとの相性はとてもよく、アクセルワークに対する追従性も高い。この印象は一般道だけでなく高速道路でも変わらず、スペック以上の力感はじつに頼もしい。加えて、環境性能も満足のいくもので、100km/h巡航の燃費数値も車載燃費計での確認ながら、常時15.0km/L以上を示していることが多かった。また、こうした高い走行性能と優れた燃費数値の両立という相克するふたつの性能を、レギュラーガソリンで達成している点もスバルの高い技術力を実感できる部分だ。

 しかしながら、走りの質という意味では独特のフィーリングが気にかかり、正直なところ手を焼いた。具体的には、ターボチャージャーによる過給効果が発進加速時、とくに車速0~35km/h程度までに限って強すぎると感じられるのだ。アイドリングストップ状態からのエンジン始動はじつに素早く、アクセルペダルをジワッと踏み込んだ際に伝達されるショックも少ない。しかし、発進動作が落ち着いた10km/hあたりからさらなる加速を行うためにアクセルペダルの踏み込み量を10~15㎜程度深くしていくと、必要以上の(≒ドライバーの予測を上回る)加速度を体感することが多く、結果として踏み込んだ右足の力を緩めながら、自分が意図する加速度に近づくようにコントロールする必要があった。

 これは、ドライバーのアクセル開度に応じたCVTレシオの選択にはじまり、そのCVTによる信号を受けて行われる燃料噴射や過給圧コントロールといったミリ秒単位で行われる各段階での微妙な時間差が、結果として二次曲線グラフ的な加速特性を生み出すことで起こる現象だ。ジワッとしたアクセル操作と低開度といった状況が重なるとこの傾向は強く現れ、同じくジワッとしたアクセル操作でも高開度であると発生頻度が低くなる。

 ちなみに筆者は、レヴォーグが誕生した時点からこの特性を指摘してきた。今回の年次改良で改善の傾向は見られたものの、たとえば市街地での信号発進時に前走車に追従して加速していく場合、ほとんどの状況でアクセルペダルを踏み込む力を緩める必要があった。

 改良が加えられたGT系のサスペンションはダンパーの変更によって路面の細かな凹凸をいなす性能が向上した。少し路面が荒れていて“ゴーッ”といったタイヤノイズを発するような路面ではフラットな乗り味が強調されるようになっている。また、リアシートにおける快適性の向上を狙って、路面からの振動を抑える制振材やロードノイズや風切り音を吸収する吸音材の追加を行っているが、これらの改善はすべて市場からの声に応えたものだ。

EyeSightをアシストする「アドバンスドセイフティパッケージ」

 ついにEyeSightにミリ波レーダーがセンサーとして加わった。EyeSightはこのレヴォーグから第3世代となり、光学式ステレオカメラセンサーはカラー化され、カメラの画角も第2世代から約40%広角&望遠化した。また、センサーのCOMS化により逆光時に発生していたスミア(白くなる)現象が起こりにくくなり、朝日や西日など強い光を直接カメラが受けても従来のようにフェイルセーフによるシャットダウンが発生しなくなるなど高いロバスト性も手に入れた。

 EyeSightが採用する光学式カメラに限らず、ADAS(Advanced Driver Assistance System)として使われる物体検知センサーは物体認識力が非常に高くなければならない。しかし、ADASの善し悪しは認識力だけでなく、認識した物体が何秒後に自車に対してどんな影響を及ぼすものなのかを瞬時に取捨選択する判断力を持っているかどうか、ここに大きく左右される。刻一刻と変化する交通環境のなかでは、ちょっとした判断ミスが大きなミスにつながることがあるからだ。

 EyeSightの歴史は長く、開発は1988年にスタートした。その3年後にはEyeSightの前身である「ADA」(Active Driving Assist)が発表され、1999年9月には「レガシィ・ランカスターADA」として市販化された。こうした長きに渡る開発によりステレオカメラによる外界の物体認識能力と、そこから得た情報の認知/判能力については、今や世界一といえるほどのデータを蓄積している。

 今回、年次改良を受けたレヴォーグには自車の後両側方に向けたミリ波レーダーを新たなセンサーとして加えた「アドバンスドセイフティパッケージ」(メーカーオプション)が用意された。この「アドバンスドセイフティパッケージ」は、「スバルリヤビークルディテクション」(後側方警戒支援機能)、左ドアミラー内蔵のカメラにより左前/左前下方の死角を映し出す「サイドビューモニター」、「ハイビームアシスト」(自動防眩インナーミラー付)、EyeSightの作動状況や警報をフロントウインドーの運転席前に表示する「アイサイトアシストモニター」をまとめた総称だ。

「スバルリヤビークルディテクション」で使用されるドアミラーのLEDランプ。ドライバーの死角や急接近する車両の存在をランプの光で警告する
運転席前方に配置された「アイサイトアシストモニター」のランプ。3色の光を使い分けてEyeSightの作動状況をドライバーに知らせる
「スバルリヤビークルディテクション」「サイドビューモニター」「ハイビームアシスト」「アイサイトアシストモニター」の4種類の機能を追加する「アドバンスドセイフティパッケージ」

 衝突被害軽減ブレーキ機能はこれまでどおりだが、スバルリヤビークルディテクションとして後側方の死角車両と後方から急接近する車両、さらには後退時の左右方向からの車両を検知する機能が加わったため、EyeSight唯一の弱点だった側方/後側方の認識力が大幅に強化された。また、同パッケージに含まれる「アイサイトアシストモニター」は、フロントウインドーに赤/黄/緑色のLED灯を反射させることでEyeSightの作動状況をドライバーの視線移動なしに行えるため、ADASとの協調運転がスムーズに行えることも利点として挙げられる。

 乗り味の改善と強化されたEyeSightのADAS機能によって商品性が大幅に向上したレヴォーグだが、正直なところ乗り味はもっと別の表現方法が加わってもよいように感じた。具体的には、大きな凹みを乗り越えた際の突き上げをさらに減らす方向にダンパー特性を変更するとともに、ステアリング特性にしても切り始めの挙動がもう少し緩やかになる方向でまとめ上げてもよいと思う。

 “スポーツカーとワゴンのクロスオーバー”というレヴォーグの成り立ちからすれば、現状のセッティングはそのものズバリだ。しかし、日本を走るステーションワゴンとして使いこなすには、さらなるしなやかさを身につけてほしいと願うのは行き過ぎか……。筆者は20年近いステーションワゴンオーナー(実家では先代アウトバック EyeSight2.0を使用中)でもあるが、振り返ってみればいずれのモデルもロングランで身体的・精神的疲労度が少なく、しなやかな乗り味を持ち合わせていることが特徴だった。

 もっとも、このあたりは好みがはっきりと出る部分であることは分かっている。しかし、初代のBF型からBR型に至るまでレガシィ ツーリングワゴンは自然吸気とターボエンジンで足まわりをはじめ乗り味を明確に分類したことで販売台数を伸ばした実績があるわけで、レヴォーグでもこうした棲み分けを考えてみるのはいかがなものか? これは2.5リッター自然吸気並のパフォーマンスを持つ1.6リッターと、ピュアスポーツを受け持つ2.0リッターのエンジン特性が選べるレヴォーグにとってむずかしい戦略ではないだろう。ボディーが大型化したことで現行レガシィ アウトバックが購入候補から落ちてしまったという声も聞くが、この棲み分けが新たなレヴォーグユーザーを生んでくれるのではないかと密かに期待している。

Photo:高橋 学

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員