インプレッション

マツダ「G ベクタリング コントロール」

エンジンとステアリングを連携して制御することで、横方向と前後方向のGが滑らかにつながるよう統合的にコントロールするマツダの新技術「G ベクタリング コントロール」(GVC)をいち早く体感してきた。なお、今回の試乗会では写真のように機能をON/OFFできるスイッチが備わっていたが、製品化の際にはこのようなスイッチはつかないとのこと

シャシーとパワートレーンの制御技術が統合!?

 マツダがまたしても新しい興味深い技術の開発にチャレンジしていることが分かった。

 栃木県のGKNドライブライン プルービンググラウンドで開催される試乗会に際し、どのようなクルマに乗れるのか事前に伝えられていなかったので、果たして何だろうとあれこれ考えつつ現地入り。そこに用意されていたのはニューモデルではなく、すでに何度か乗っているアクセラとアテンザ。ただし、見た目はこれまでと何も変わらないものの、マツダが現在開発中の新しい制御が盛り込まれていた。

 それはスカイアクティブ技術の進化により、シャシーとパワートレーンというダイナミクスをつかさどるチームが制御技術を統合することで、人馬一体の走りをさらに高めるというもの。具体的には「ドライバーのハンドル操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させることで、これまで別々に制御されていた横方向と前後方向のGを統合的にコントロール。4輪への接地荷重を最適化して、スムーズで効率的な車両挙動を実現する(後略)」と資料に記されている。これにより秘めたポテンシャルが最大限発揮でき、ドライバーだけでなく乗員にとっても人馬一体の走りの恩恵がもたらされるということだが、どういうものなのだろうか? 興味深いところだ。

 走行したのは砂利路、周回路&レーンチェンジ路、ハンドリング路という大別して4つのシチュエーション。車内のスイッチで、今回紹介された新技術「G ベクタリング コントロール」のON/OFFを切り替えられるようになっていて、OFFの状態でのフィーリングを覚えておいて、同じクルマでONにしたり、再びOFFにしたりして変化を確認した。

あまりにスムーズで知らず知らずのうちに車速が……

 最初に20km/hという低い車速で舗装路を少し走ったあと、砂利路へコースイン。ON/OFFを切り替えながら走ると、たしかにフィーリングが違う。

 中立から切り始めた微小舵の領域からして、OFFではやや応答遅れがあるのに対し、ONではそれがない。また、コーナーを曲がるときの舵角の量が小さくなる。走りがスムーズなので、20km/hキープを心がけていても車速が超過気味になってしまうほどだ。

 続いて周回路へ。ここでは郊外やバイパスを想定した走り方をしたが、車速を高めるほどにフィーリングの違いが顕著に表れた。OFFでもわるくはないのだが、ONにすると直進性がよくなり、修正舵が少なくて済むようになる。これまた同じスピードで走っているつもりでいても、ONにすると知らず知らずのうちに車速が上がってしまった。

 横方向の動きもぜんぜん違う。ここでは後席にも人を乗せて走ったりしたのだが、ミラーに映る後席乗員の動き方がまったく違うことも印象的だった。同じように運転していても、OFFだとコーナー進入でいきなり横に持っていかれて、直線に戻るときも急激に動く。ところがONにするとその動き方がゆっくりで、動く量も半分ぐらいのイメージになる。

 同乗者にも恩恵があるというのはこのことのようだ。試しに筆者も後席に乗ってみたところ、やはり違いは小さくないことを実感した。制御しているのは駆動トルクなのに、どうしてこんなに違うのかと思ったほどだ。

G ベクタリング コントロールありなしでの操舵角と操舵速度を比較したグラフ。上段は周回路の緩いS字で、下段は周回路の直線でデータを取っている

ロングドライブでの疲労感にも差が出るはず

 車両を替えて、同じく周回路でさらに高い車速域で走ったり、高速レーンチェンジを試みたりしても、そのフィーリングは大きく違った。ONでは荷重を最適にフロントに移すことで、キレイにダイアゴナルな姿勢を作ることができているからだろうが、切り始めで応答遅れがないし、やはり操舵量が小さくて済んでいる。

 さらにステアリングを戻したときに、OFFでは挙動がやや乱れるのに対し、ONにするとそれが大幅に軽減される。いわゆるオツリが小さいのだ。また、全体的に修正舵が少なくて済んでいることも分かる。アテンザの大幅改良後のモデルは、ただでさえ従来に比べて操縦安定性や乗り心地が大きく改善されていて、そもそも不満は感じていなかった。それでも新しい制御を入れた車両は、このようにさらに上の走りを実現しているわけだ。実際に高速道路を使ってロングドライブしたときなど、疲労感にも大きな差が出ることに違いない。

 最後にハンドリング路へ。ここでは、わざとステアリングをカクンと切ったり、アクセルをラフに開ける走り方から、できるだけ前後左右のGを発生させない丁寧な走り方まで、いろいろな走り方を試してみた。そもそもG ベクタリング コントロールは、アクセルONの状態でのみ動作するものであり、粗い運転をするほうが恩恵は大きく、実のところ本気で丁寧に運転するとあまりON/OFFによる違いはなくなる。それでもフィーリングは異なり、ONのほうが全体的にしっかりとしていて安心感がある。いずれにしてもONの方が走りやすいことに変わりはない。どのレベルのドライバーにとっても恩恵があるし、ひいてはほかの乗員にとっても恩恵があると思う。

 また、いずれのシチュエーションを走っても、制御が入ることで違和感を覚えることもなく、それでいてこれほど走りが変わることに感心しきり。さらにはESCのようなフィードバック制御ではなく、ステアリングの舵角のみをもとに制御しているので、ロジックはいたってシンプルであり、こうした有益な技術ながら搭載によるコスト上昇をともなわないところもありがたい。

 クルマの走りをよりよくするための方法はいろいろ考えられると思うが、こうしたアプローチがあったとは。まったくマツダの目のつけどころの鋭さには恐れ入る思いである。そして、この制御が市販車に盛り込まれるのも、そう遠い話ではないようで、大いに期待したいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。