インプレッション

日産「フェアレディZ NISMO」

「ZバージョンNISMO」が「Z NISMO」として再出発

 今はセダンのみ所有していてすべて手放してしまったが、筆者はスポーツカーが大好きで、若いころから何台も乗り継いできた。日本車のラインアップからスポーツカーがめっきり少なくなってしまったのは残念なことだが、そんな中でフェアレディZのようなクルマが存在し続けてくれることをとても喜ばしく思う。

 2008年末に登場した現行Z34型フェアレディZは、2012年夏にマイナーチェンジを実施。デザインが小変更され、各部に改良が加えられたほか、ユーロチューンドサスペンション装着車が設定されるなどした。

 ところで、フェアレディZには先代Z33型の時代から、NISMOとオーテックジャパンの共同開発によるコンプリートカー「フェアレディZ バージョンNISMO(以下「バージョンNISMO」)」がラインアップされていた。

 そのバージョンNISMOは、空力付加物を装着した派手な見た目と裏腹に、メーカー直系のコンプリートカーらしく、洗練されたドライブフィールを身につけていた。

 一方で日産は、NISMOブランドをより活かすための新しいプロジェクトを、2013年2月の「ジュークNISMO」を皮切りに展開し始めたのはお伝えしたとおり。その第2弾として発売されたのが、今回の「フェアレディZ NISMO(以下「Z NISMO」)」となる。

フェアレディZ NISMO

 同プロジェクトでは、「レースに由来する確かな性能向上と、上質なデザインを実現したコンプリートカーをお客様に提供する」ことをコンセプトとしている。そして、すでに完成形で存在したバージョンNISMOがそのコンセプトにピッタリ合致するクルマだったので、あえて手を加えることをしなかったという。

 よってZ NISMOは、機能的にはバージョンNISMOそのものを踏襲しており、名前が変わって若干の化粧直しを受けて再出発した、という理解でよいかと思う。そうなると、タイミング的にも、さらにはベース車自体のイメージとしても、先に述べたプロジェクトの第1弾がZ NISMOでもよかった気もするところだが、それはきっと何らか事情があったのだろう。

 Z NISMOの詳しい内容は別記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/photo/20130902_613431.html)をご覧いただくとして、エアロパーツ類のモディファイは見てのとおり。エンジン、サスペンション、ブレーキ、ボディーなど、走行性能に関する部分にもひととおり手が加えられている。

 エクステリアにおけるバージョンNISMOからの変更点は、ボトムをブラックとした2トーンカラーにデザイン変更されたことと、フロントバンパー開口部やリアディフューザー、ドアミラーに赤いアクセントが配されたこと、ホイールカラーがダークメタリック塗装とされたことなどが上げられる。

 細かい部分では、リアに装着された“nismo”ロゴバッジのサイズが大きくなり、最後の“o”が赤くされた。インテリアでは、タコメーターの外周に赤い帯が配された点と、ステアリングに赤いセンターマークが入れられた点などが違う。

バンパー下部をブラック塗装とした2トーンボディー
エクステリアの要所にレッドのラインが配される
oの部分を赤くしたnismoロゴ

ノーマルよりも快適な乗り心地

 実はZ NISMOをドライブする直前に、幸運にもノーマルのユーロチューンドサスペンション装着車に乗る機会があったので、自分の中での感覚がよりフレッシュな状態で比較することができたのだが、Z NISMOをドライブしてまず感じるのは、ノーマルよりも乗り心地がよいことだ。

 逆にいうと、ノーマルはもっと快適性を高めたほうがよいと思わずにいられない。2012年のマイナーチェンジで従来より多少は改善されたものの、まだまだバタついて乗り味の粗さが気になる。それに比べると、バージョンNISMOはサスペンションそのものはダンピングが効いていながらも、フリクション感が小さくよく動くし、路面からの入力はカドが上手く丸められている。

 ハンドリングについても、ノーマルはステアリングを切ったときにリアの反応が鈍く、ワンテンポ遅れてヨーが立ち上がるのに対し、Z NISMOはリアがあまり遅れることなく曲がる体勢に移る。また、路面のアンジュレーションの影響を受けてリアが暴れる感覚がノーマルよりもずっと小さいし、ステアリングの正確性も増して、修正舵を必要とする状況が格段に減っている。

 これには車体の各部に施したブレース類による補強やパフォーマンスダンパーの装着が少なからず効いているはずだ。

インテリアにも本革・スエード調ファブリックシート、本革・アルカンターラ巻ステアリングなどの専用アイテムを投入

 また、Z NISMOは空力性能が高いことも体感できる。ジュークNISMOは地上高の問題でリフトをマイナスとするところまで達していなかったが、地上高の低いZ NISMOではマイナスまで攻めて、本来の意味での“ダウンフォース”を獲得している。これにより、速度が高まるにつれて車体が路面に吸いついていくような感覚となる。

 ただし、ノーマルにも見受けられるサスペンションのストローク不足(とくにリア)や、リアサスがバンプしたときのアライメント変化により挙動が不安定になりやすい傾向など、このシャシーが根本的に持っている問題点まではさすがに完全には払拭できていない。また、こればかりはしかたのないことだとは思うが、全体的に重さを感じるのも否めない。

 とはいえ、そうしたZの宿命を抱えながらも、手を加えればここまで変わるということが分かったし、Z NISMOは現状でできる限りのことをやったという印象だ。

エンジンフィール、ブレーキフィールも上々

 続いてエンジンについて。Z34型に搭載されるVQ37VHR型エンジンは、ノーマルでも力強さや豪快さは大いに感じるのだが、いまひとつフィーリングがよろしくない。回転感がガサツで、どうも回しても気持ちよくないのだ。それもフェアレディZというクルマの味だといわれれば、納得できなくはないのだが。

 それに対してZ NISMOでは、エンジン本体に手を加えることなく、排気効率を高めたり、マップを最適に書き換えるという比較的ライトな手法ながら、ずっとスポーティなフィーリングを実現している。

 アクセルを踏んだ瞬間に大きなトルクが発生する力強さをそのままに、回して楽しめるようになっていて、5000rpmからレッドゾーンの7500rpmの手前までの吹け上がりがはるかに鋭い。加えて、いかにも抜けのよさそうな、野太いエキゾーストサウンドを楽しめるところもよい。

 欲をいうと、全体的にもう少しスムーズに吹け上がってくれるとさらによいのだが、ベースエンジンの素性からすると、こちらのほうがスポーツカーとして相応しい性格になっていて好印象だった。

NISMO専用チューニングのVQ37VHRエンジンは、261kW(355PS)/7400rpmの最高出力と374Nm(38.1kgm)/5200rpmの最大トルクを発生
V6エンジンの片バンクごとに独立した「フルデュアルエキゾーストシステム」を採用

 ブレーキフィールも上々だ。こちらもノーマルから変更したのはホースとフルードのみとのことだが、それだけで大幅にコントロール性が向上している。初期の制動力の立ち上がりがよく、また前後バランスも良好。踏力の微妙な調整によって制動力や前後輪の荷重バランスをリニアに制御できる味付けとなっている。

 フェアレディZは歴代のどのモデルも大好きだ。個人的に先代のZ33型も好きだったが、日産としても販売面でまずまずの数字を残しており、ヒットモデルと認識しているらしい。その背景には、当時の開発責任者の言葉どおりに「毎年進化する」ことを実践したことがヒットの理由として小さくないのではないかと思う。

 それに対してZ34型は、少々なおざりにされている感が否めない。そんな中でZ NISMOの登場は、Z34型をベースとする完成度の高いコンプリートカーが、こうしてすでに存在することをあらためて世に知らしめるよい機会になったようにも思う。

 また、あくまで筆者の意見だが、フェアレディZのすべての市販モデルについて、エアロパーツ以外の走行性能に関する部分を、いっそのことZ NISMOと同じセッティングにしたほうがいいのではないかと考えた。むろんコストが上がって販売価格に影響するだろうが、購入者の満足度も高まるはず。そのくらいZ NISMOの仕上がりがよかったとご理解いただけると幸いである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛