インプレッション

トヨタ「ランドクルーザープラド」

腰高感を払拭するとともにアグレッシブなフロントマスクに

 ランドクルーザープラド(以下「プラド」)に試乗したのは、2009年に4代目となる現行の150系プラドが登場したときに実施された試乗会以来となる。そのときに印象的だったのは、オフローダーでもここまでできることを強調するかのような舗装路での軽快な走り味だった。それでいて、同試乗会ではオフロードコースでの試乗も用意されており、ランドクルーザーの名に恥じない非常に優れた走破性を併せ持っていることもあらためて確認できた。

 それから4年が経過した2013年9月、プラドのマイナーチェンジが実施された。変更点としては、外観の意匠変更、内装の質感向上、装備の充実に加え、走行性能についてもオンロードでの走行安定性や乗り心地の向上、オフロード走破性を高める「マルチテレインセレクト」のモード追加などがアナウンスされており、マイナーチェンジとしては盛りだくさんの内容となっている。

 試乗したのは、車両価格が490万円となる最上級の「TZ-G」というグレード。ボディーカラーは、新たに追加された4色の1つである「ブロンズマイカメタリック」だ。

 最近のトヨタはマイナーチェンジで外観の意匠を大きく変えるケースが多いが、プラドもかなり変化した。前身である120系からのキープコンセプト色が強い印象だった150系の初期型は、見た目がおとなしすぎるとか腰高に見えるという声が多々聞かれたという。そこで今回は、その2点を払拭することを念頭に手が加えられた。

 アグレッシブになったフロントマスクは、近づいて見ると造形がとても立体的であることに驚く。より鋭い形状となったヘッドライトや、あたかも直下のバンパーに噛みついているかのようなメッキグリルが印象的だ。

 赤白ツートーンのリアコンビネーションランプは、前期型では赤い部分が高い位置にあり、目線が上に行きがちだったところのパターンを変え、赤い部分を分けて下にも配するとともに、テールゲートに大きめのガーニッシュを配して腰高感の払拭を図っている。

フェイスリフトを行って個性的なヘッドライトとグリルデザインを手に入れた
エアロスタビライジングフィンをドアミラーのベース部分とリアコンビネーションランプのサイドに設置
リアコンビネーションランプのデザインを赤白交互に配置して腰高感を払拭
フロントのヘッドライトカバーに「LAND CRUISER」の文字が刻まれている
横開き式のバックドアはガラスハッチだけの開閉が可能

オフロードの長距離走行で疲労感の少ない乗り味に

 見た目だけでなく、ドライブした印象もずいぶん変わっていた。150系の初期型はステアリング操作力がかなり軽く、オフローダーらしからぬシャープなハンドリングが与えられていることに驚かされた。なかでも、スタイビライザーを制御してオンロードでの安定性とオフロードでの走破性を両立させるというKDSS(キネティック ダイナミックサスペンション システム)付き車両は、重心の高いクルマながらほとんどロールしない独特の感覚があった。

 ところが、そんな150系の初期型に対して市場からは「プラドが軟弱になった」という意見が少なからず聞かれたようだ。今回のマイナーチェンジにより、ドライブフィールはもともとプラドが持っていたテイストに回帰したというのが第一印象。あえてシャープさを落とすことで、ゆったりとした乗り味を心がけたようだ。

 この乗り味の変化ついては、開発者も「どちらが正解か分からない」としながらも、170カ国に及ぶ世界各地で愛用されているプラドにとって、よりワールドワイドでの相応しい走りを追求するとこうなると述べていた。世界には1日中オフロードばかり数百km走り続けるといった日本国内には存在しないシチュエーションもある。そんな使い方でもできるだけ疲れない乗り味を目指すと、こうしたセッティングのほうが好都合なのだという。

タイヤサイズは265/60 R18
V型6気筒DOHC 4.0リッターの「1GR-FE」エンジンを搭載。最高出力203kW(276PS)/5600rpm、最大トルク380Nm(38.8kgm)/4400rpmを発生する
最上級グレードのTZ-Gは、後輪のエアサス制御で乗降時用のローモード、通常走行用のノーマルモード、悪路走行用のハイモードを切り替え可能な「リヤ電子制御エアサスペンション」を標準装備

 ステアリングもドッシリと重みのある味付けとされた。むろん軽いほうが運転は楽だが、軽いと路面状況を受けて不要に動いてしまうような状況も増える。また、プラドにはまだ電動パワステが搭載できていないため、調整の自由度はあまり高くはない。どちらを取るかとなったときに、今回はオフローダーとして求められる味を優先したということだ。

 確かにパーキングスピードでの取り回しなどではやや重く、クルマの動き自体にもいくぶん重さを感じるようになったものの、しっかりとした手応えがあるところがよい。150系の初期型はやや軽すぎたきらいもあり、プラドとしてどちらが似合うかと考えると、筆者にとっては新しい味付けのほうが好ましいように思えた。おそらく、前で述べたような悪路を延々と走るような状況でも疲労感が少なくて済むことだろう。

 シャシーの味付けは、スプリングやダンパーだけでなくKDSSも大きく変更されている。初期型ではKDSSについてもより俊敏な操縦性を意識して設定されており、やや動きすぎた感もあった。そこで今回、ゆったりと乗れるよう大胆に味付けを変えた。ロールも初期型ほど極端に抑えられていない。KDSSの設定を変更するのは想像するよりもずっと手間のかかる作業らしいのだが、求める特性を得るためにはやらないわけにはいかなかった。

 ただし、このKDSSは4.0リッターエンジンを搭載するTZ系グレードしか装着できない。優れたデバイスなので、できれば2.7リッターエンジンを積むTX系グレードの上級モデルでも選べたほうがありがたい。

 足まわり全体の味付けも、もともと細かい振動を吸収するアキュームレーターを備えており、路面からのコツコツとした入力を感じさせないところはプラドの美点だが、さらに乗り心地の快適性が向上していた。欲をいうと、バネ上の動きがもう少し抑えられるとなおよい。

G-BOOK mX Pro(Ver.2.1対応)のSDナビは全車にオプション設定。NAVI・AI-SHIFTによってATの変速制御などとも連動する
試乗車のTZ-Gのほか、2.7リッターエンジン搭載のTX“Lパッケージ”は本革シートを採用。写真のブラックのほか、外装色によってフラクセン(亜麻色)も設定する
TZ-Gは3列目シートを備える7人乗り。3列目シートはフラットに格納可能で、2列目シートまで折りたたむと広い収納スペースが出現する。2列目シートは135mmのスライド機構を持つ

オフロード走行に関する進化も多々

 今回はオンロードのみでの試乗だったが、マイナーチェンジではオフロードの走破性に関する進化もある。150系の登場時に設定された、路面状況に応じてトラクションやブレーキを最適に制御して走破性を高める「マルチテレインセレクト」は、「MUD&SAND」「LOOSE ROCK」「MOGUL」「ROCK」という4つの走行モードを設定していたが、新たに段差が多い路面向けの「ROCK&DIRT」モードが加わった。また、150系の登場時から採用している、5段階の速度設定で低速走行状態を自動的に維持する「クロールコントロール」ももちろん付く。これらの装備により、たとえビギナーでもオフロードで簡単にヒルクライムやダウンヒルできるところもプラドの強みだ。

 さらに、死角となる部分をカメラが捉えて映し出す「マルチテレインモニター」や、ステアリングの角度を7段階で表示する「タイヤ切れ角表示機能」もある。オフロード走行では周囲や先の状況をできるだけ早く正しく確認したいところ。また、悪路ではステアリングが勝手に動いて、どのくらい切れているのか分からなくなることも多い。そんなとき、これらの装備が強い味方になってくれることに違いない。

 加えて今回のマイナーチェンジでは、新たに大型カラーTFT液晶の「マルチインフォメーションディスプレイ」をメーターパネル内に採用。自車の体勢を表示する傾斜角モニターや、4輪のトラクションやデフロックの作動など、オフロード走行に役立つ情報の表示機能がより充実した。

インテリアはインパネ中央の加飾がメタル調から木目調に変更された以外に大きな変更はない
木目調&本革のコンビネーションステアリングはTZ-Gの専用アイテム
2眼式オプティトロンメーターの間に「マルチインフォメーションディスプレイ」を設置。オフロード走行を支援する多彩な情報を表示できる
4.0リッター車は5速AT、2.7リッター車は4速ATを採用。5速ATはシーケンシャルシフトマチックも設定する
「センタークラスターモジュールスイッチ」は、MTSのボタンを押して「マルチテレインセレクト」、CRAWLのボタンを押して「クロールコントロール」の設定内容を変更する
運転席のドアトリムにはパワーウインドーのスイッチのほか、TZ-Gに標準装備するパワーシートのメモリー機能スイッチも設定
プッシュ式エンジンスタートのスマートエントリー&スタートシステムを全車標準装備
純正SDナビ装着車はルームランプ部分に「ヘルプネット」の通知ボタンを設定。メーカーオプション装着品はエアバッグの作動と連動して自動通報する機能も持っている
センターコンソールにアクセサリーソケット、USB端子、本革シートとセットの「快適温熱シート」の温度調節ダイヤルなどを設置する

 世の中ではクロスオーバーSUVが流行しているが、プラドのように本格的なオフローダーでないと納得できないという人は大勢いるはず。あるいは仕事や趣味で使う上でプラドのような優れたオフロード走破性を実際に必要としている人も少なくないはずだ。そんななかで、登場から4年が経過したタイミングで行われた今回のマイナーチェンジは、プラド本来の姿に忠実な、より本質を追求した内容であったことをあらためてお伝えしておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛