インプレッション

キャデラック「CTSプレミアム(4WD)」

4WDシステム搭載の新グレード「CTSプレミアム」

 キャデラック「CTS」の2015年モデルが発表され、新たにアクティブ・オン・デマンドの4WDシステムを装備した「CTSプレミアム」が追加された。

 CTSは下位モデル「ATS」の登場などにより、2013年のフルモデルチェンジでボディーサイズがひと回り大きくなり、メルセデス・ベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」と競合するようになった。今回の2015年モデルではフロントグリルの形状やバンパー下のデザインが変更され、さらに4WDモデルの追加によってより競争力をつけようという意図が感じられる。

 4WDということもあり試乗会場となったのは軽井沢。この時期なら当然だが、ここのところの寒波で大通りから道をそれたらすぐに雪道という状況。そんなわけで、まずは雪道から4WDのインプレッションだ。装着タイヤはミシュランのスタッドレスタイヤでサイズは245/40 R18。

 CTSは基本的にFRモデルだ。だから4WDもFRが基本となっている。つまり、オンデマンド4WDということは基本的にはFRで走行し、リアタイヤのどちらかが空転したときにフロントタイヤに駆動を伝達するというシステム。ではそのFRから4WDになる瞬間のフィーリングはどのようなものなのか、確かめてみよう。

2015年モデルで新たに設定された上位グレード「CTSプレミアム」。ボディーサイズはベースグレード「CTSラグジュアリー」と共通で4970×1840×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2910mm。「CTSプレミアム」ではアクティブ・オン・デマンドの4WDシステムを装備し、車重は2WD(FR)の「CTSラグジュアリー」から90kg増の1770kgとなっている。「CTSプレミアム」では「CTSラグジュアリー」に装備されない、エマージェンシーブレーキシステム、フォワードコリジョンアラート(前方衝突事前警告機能)、レーンキープアシスト(車線内走行アシスト)/レーンディパーチャーウォーニング(車線逸脱警告機能)、セーフティアラートドライバーシート(警告振動機能付)、アダプティブクルーズコントロール(全車速追従機能)といった多数の安全装備が標準装備される
専用装備の15スポーク18インチポリッシュアルミホイール(タイヤサイズ:245/40 R18 93V)の奧にブレンボ製キャリパー(フロント)が覗く
ブラックとレッドの2トーンカラーとなるインテリア
トランスミッションは6速AT。シフトノブの近くにある「MODE」スイッチで、「ツーリング」「スポーツ」「スノー」の3種類の走行モードを選択できる
写真では分かりにくいが、カーボン柄の加飾にも赤色を織り交ぜるなどして上質かつスポーティな仕上がりになっている
独自のインフォテイメントシステム「CUE」では非接触充電システムのワイヤレスチャージングを採用。ワイヤレス充電機能を備えたスマホなどを専用トレイに置くだけで充電ができる
ブラックレザーシートを装備
分割可倒式のリアシートを採用し、長尺物の積載も可能になっている
メーターまわり。走行モードによって表示も切り替わる

 まずは20km/hくらいから一気にアクセルを踏み込む。すると後輪が空転し、すかさずトラクションコントロールが暴れかけた後輪を制御する。アクセルを踏み込む意思が逸るも、ドライバーがつんのめるように肩すかしを喰らう。何も起こらないのだ。というよりも、トラクションコントロールの介入は感じられるのだが、その後は何もなかったかのようにスルスルと加速するといえばよいだろうか。フロントに駆動が移行したことがほとんど感じられない。電子制御システムの優秀さと自然な4WDへの移行で、クルマはとても安定している。

 そこでドライブモードを「ツーリング」から「スポーツ」に変更してみる。CTSプレミアムには鉄粉を混ぜたダンパーオイルを電磁石で減衰コントロールする「マグネティックライドコントロール」が装備されている。そのライドコントロールには「ツーリング」「スポーツ」、そして「スノー」の3種類の走行モードが切り替えられるようになっている。

 それぞれをチョイスすることで、ダンパーの減衰力変更と走行モードでのスタビリティコントロールレベルが変更されるのだ。さすがにスポーツモードにすると多少リアタイヤの空転率が高くなり、リアセクションが若干暴れる。

 その時、ごくわずかだが明らかにフロントタイヤで引っ張っているフィーリングが感じられ、クルマは安定性を取り戻し何もなかったかのように加速してゆくのだ。コーナリング時でも大きく姿勢を乱すこともなくスタビリティが高い。この4WDはかなり使える。

静粛性、快適性に優れる!

搭載する直列4気筒DOHC4バルブ 2.0リッター直噴ターボエンジンは、最高出力203kW(276PS)/5500rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/3000-4500rpmを発生

 エンジンはこれまで通りの可変バルブタイミング機構付き直列4気筒DOHC4バルブ 2.0リッター直噴ターボエンジンだ。最高出力は276PSで400Nmの最大トルクを3000-4500rpmで発生する。ドッキングされるトランスミッションは6速ATで、ステアリング上からマニュアルシフトができるパドルシフトを装備している。車重は1770kgでメルセデス・ベンツ「E300 4MATIC」と比較しても50kg軽量だ。その加速はまったくフラストレーションを感じさせないスムーズなもので、低速域でのレスポンスもよい。ダウンサイジングターボとしては高いレベルの仕上がり。

 ところで走っていて感じるのは、乗り心地がよいことと室内の静粛性が高いこと。サスペンションはソフトでストロークのある、いわゆる往年のキャデラックとは異質なもの。もしも目隠しされて乗せられたら欧州車と答えるだろう。それほど硬く締まっている。

 そして室内がとても静か。遮音性も高い処理が施されているが、ボーズ製のアクティブノイズキャンセルシステムが装備されているのだ。雪道は凸凹が多く乗り心地や騒音に厳しい環境だが、CTSプレミアムは“プレミアムセダン”としてメルセデス・ベンツやBMWなどの欧州勢と対等以上の快適性を持っている。

 走りも快適性も欧州勢に対等。だとするとドイツ勢が得意とする安全面はどうなのだろう? CTSプレミアムには最新の自動ブレーキ、全車速領域のアダプティブ・クルーズ・コントロール、複数の警告システム、そして操舵を補助するレーンキープ・アシストが装備されている。なかでもこのレーンキープ・アシストはカメラで車線を監視し、車線を逸脱しそうになったら自動的にステアリングに力を加えて車線内をキープするようアシストする。長距離の高速移動ではステアリングに集中する意識レベルが下げられるので、疲労軽減と事故防止に役立つシステムだ。

 また、方向指示器を出さずに白線を踏みそうなときはシートの座面が振動して危険を知らせてくれる。その振動も危険な方向側が振動するのだ。さらに衝突の危険性が迫った時などは左右同時に振動して危険を知らせてくれる。このシステムなら、オーディオなどの音声によって警報音が邪魔されてしてしまうことを防ぐことが可能で、他の乗員への影響がないことも嬉しい。

 そのほか、快適装備としてスマホ等の充電をトレイに置くだけで行えるワイヤレスチャージシステムが採用されるなど、クオリティが高くなったCTSプレミアム。その価格は699万9000円也。インテリアの質感も含め、装備を考えたらバーゲン価格である。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:高橋 学