インプレッション
ロータス「エリーゼ S CR」
Text by Photo:高橋 学(2015/2/10 00:00)
「エリーゼ」「エリーゼ CR」から大幅増のパワー&トルク
ノンアシストの重いステアリング、ざらついた路面の感触をそのまま伝える乗り心地。地ベタに腰を下ろすかのようにセッティングされたドライビングシートに身を預けてクラッチミートした途端、はじめてレーシングカートに乗った15歳の記憶が蘇ってきた。
モータースポーツの名門であるロータスのエントリーモデル「エリーゼ」。見た目はコンパクトだがそのボディーに詰まった走りのエッセンスはどれも本格的なものばかりだ。いわば原点に近いドライビングの楽しさとはこういうことだったなぁと、試乗早々、昨今流行の大柄ボディー×ハイパワースポーツカーとはひと味違う醍醐味を実感する。
今回紹介するのは「エリーゼ S CR」。CRとはクラブレーサーの略で、ベースのエリーゼ Sに対して数々の専用装備品がおごられている。外観では特別色を含めた5色のボディーカラーが選べるほか、14本スポークのフラットブラック塗装のアルミホイールが足下を引き締める。インテリアでは、ボディー同色のProBax製軽量コンポジットシート(スエードパッド付)、スエードのステアリングホイール/シフトブーツ/ハンドブレーキブーツ/ドアインナーなどをあしらいながら、ボディー同色のセンタートンネルとCR刺繍入りのブラックフロアマットがむき出しのアルミシャシーに彩りを加える。粗削りだがグッとくるインテリアデザインだ。
搭載エンジンはトヨタ製直列4気筒DOHC 1.8リッター「2ZR-FE」型で、吸気・排気バルブタイミングを最適にコントロールするデュアルVVT-iにスーパーチャージャーを組み合わせている。トランスミッションは6速MTのみ。この「2ZR-FE」型はトヨタ「プリウス」が搭載する「2ZR-FXE」型のベースエンジンでもあり、ボア×ストローク比にして約110%のロングストローク型だ。現在、トヨタのラインアップでは「2ZR-FE」型の進化版でバルブマチック(吸気バルブリフトを連続的に変化させる機構)を搭載した「2ZR-FAE」型へと換装されているが、なかなかどうして素性がよいのだろう。ベースである「2ZR-FE」型であってもエリーゼS CRのようなライトウェイトスポーツ(950kg)であれば今でも一級のポテンシャルであることが分かる。
220PS/6800rpm、25.4kgm/4600rpmのスペックは、「エリーゼ」「エリーゼ CR」が搭載する1.6リッターの自然吸気エンジン「1ZR-FAE」型から、84PS/9.1kgm増という大幅なパワーアップが図られている。エクストラパワーの大部分はイートン製のスーパーチャージャーによるものだ。パワー/トルクにして161%/155%も増大しているのに、車両重量はわずか50kg増にとどまっていることから、スペック上だけでも自然吸気エンジンを搭載するエリーゼとはケタ違いの速さを持っていることがお分かりいただけるだろう。
間違っても乗降性はよくないが、それでもコンパクトなボディーであるため幅の広いサイドシルを乗り越えるのはそれほど苦にならない。ProBax軽量コンポジットシートにリクライニング機構はなく、ステアリング調整機構もつかないが、身長170cmの筆者にはベストなポジションが一発でとれた。A/B/Cの3ペダル配置もその昔から乗っていた愛車のようにしっくりとくるもので、ヒール&トゥ時に右足踝(靴のサイズは25.5cm)がアルミモノコックシャーシにあたることもない。その点、エリーゼの上位車種である「エキシージS」はヒール&トゥを行うと右足踝がシャーシと干渉してしまうため、そうした際には独特のペダル操作が要求される。
大型バイクのような連続する加速感
そしてエンジン始動……。外気温3℃の冷間スタートであるため1速へのシフトはゴリッとした感触が掌に伝わってくる。クラッチミートポイントはペダルストロークのかなり上、つまり踏み込んでから大きく戻して繋げるセッティングだ。しかし、低いシート位置にはじまるいわゆる足を投げ出すレーシングポジションとの関係から、操作性が抜群によい。また、軽い車両重量に加えてスーパーチャージャーはアイドリング時から過給が行われているため、ミート直後からふくよかな駆動トルクが頼もしい。気をよくしてそのままジワッとアクセルを踏み込んでいくと、ブワッ~というエンジン音の高まりに高周波のコンプレッサー音が共演し、軽いボディーがさらに軽くなったかのようにグングンと車速を伸ばしていく。
もっとも前述のとおりロングストローク型のエンジンであるため、シャープな回転フィールを求めると少し違うかなぁという印象を抱いてしまうが、やはりすべてにおいて軽さが効いているため、シフトアップ直後のアクセル操作であっても右足とボディーが直結しているかのような動きを見せる。この連続する加速度の感覚は、筆者が乗る大型バイク、ホンダ「CBR1000RR」に近い。
トルク曲線を確認することはできなかったが、おそらく1500-4500rpm前後(最大トルクは4600rpmで発生)まで、いわゆる台形に近いカーブを描いているようだ。エンジンそのものは7000rpm近くまでスッと回っていく素振りをみせるが、サーキット走行でもない限りそのちょっと下の6000rpm前後をシフトアップポイントにしても十二分な速さを見せつけてくれる。
ただ、残念なことに今回の試乗時間が約15分と非常に限られており、ワインディング路でのコーナリング特性を検証するまでには至らなかった。しかし、その代りといってはなんだが一般道での走りを確認することができた。そうした状況で多くの読者の方々が気になるのはやはり「乗り味」だろう。最初に結論から書くと、エリーゼ S CRはそこの期待も裏切らなかった。
油音/水温ともに正常な値にまで上昇し、トランスミッションオイルも十分に馴染んだころには掌に伝わるシフトフィールは劇変していた。相変わらず「ゴリッ、バキッ」としたギヤノイズは耳に届くが、不快なひっかかりは一切なく、正しいアクセルワーク(戻し方)を行うことでシフトゲートの入り口にノブを誘うだけでスッと自らが意思を持ったかのように吸い込まれていく。クラッチミートポイントとの関係も素晴らしく、アクセルを戻してクラッチを切る→シフトアップ→クラッチミート→アクセルオンに至るまで、まったくといってよいほどボディーには嫌なショックが発生しない。どんなに素早いシフト操作をしても、だ。
これがハイパワースポーツモデルであれば、各部位にフリクションダンパーが装着されているため当たり前だが、なにせ950kgのライトウェイトスポーツだ。スポーツ走行を妨げるような大げさな装備はない。にもかかわらず、こうした一連の操作に対して、しかも市街地走行でのゆったりとした操作でもそれが再現できるところに、ロータスの高い技術力を垣間見ることができた。
冒頭でレーシングカートを思い出したと書いたが、それはフラットな乗り心地を強調して表現したものだ。アイバッハスプリングと単筒式ビルシュタインダンパーという王道の組み合わせに、見た目こそペラペラだが東洋人の体重であっても優れた減衰特性を生み出すProBax軽量コンポジットシートによって、ちょっと信じられないほどに車内は快適だ。また、押し出し結合のアルミモノコックボディーは、アルミボディー特有の衝撃のいなし方と独特なボディー剛性を生み出している。その印象は、パフォーマンスダンパーを装着した高剛性ボディーに近い。
機会があればぜひ、リニアな制動力を発揮するブレーキと抜群と評される旋回性をたっぷりと堪能してみたい。