インプレッション

スバル「WRX S4(2015年モデル)」

 6500rpm、280km/hまで刻まれたメーター。カーボン調のパネル、赤いステッチ。「WRX S4」のインテリアにはスバリストの心に刺さる加飾が施されている。その「WRX S4」「WRX STI」にスバル(富士重工業)の先進安全装備である「アドバンスドセイフティパッケージ」が設定された。WRXシリーズが市場に投入されてからほぼ1年が過ぎたわけで、今回が初の年次改良となる。

2015年モデルの改良のポイント

 現在、WRXシリーズはWRX STIとWRX S4を含めておおよそ月平均800台を販売するペース。そのなかでも大半を「S4」モデルが占めている。今回は、そんなS4に特化して改良点に着目してみよう。

 S4はいわゆる2ペダル仕様のSTIを望むユーザー向けに開発されたモデルで、先代「A Line」の後継モデルと理解してよい。そのS4、まず新たにオプション設定された「アドバンスドセイフティパッケージ」だが、「スバルリヤビークルディテクション」「サイドビューモニター」「ハイビームアシスト」「アイサイトアシストモニター」といった先進安全装備をセットにしたものだ。このなかでもアイサイトの作動状況や警報に応じて点灯するランプをフロントウィンドーの運転席側に表示するアイサイトアシストモニターは、S4にのみ装着されている。

ヘッドライトのハイビームとロービームを自動で切り替える「ハイビームアシスト(自動防眩インナーミラー付)」により、アイサイト(ver.3)のカメラに加えてルームミラー一体型の単眼カメラが追加される
「スバルリヤビークルディテクション」「サイドビューモニター」「ハイビームアシスト」「アイサイトアシストモニター(S4のみ)」をセットにした「アドバンスドセイフティパッケージ」
WRXシリーズの改良のポイント

 次に、乗り心地等の快適性を進化させている。そのなかでも注目は標準グレード「2.0GT EyeSight」のサスペンションだ。フリクションを最適化した新ダンパーを採用している。作動時のフリクションの変動を抑えることで微小なストロークでもダンパーの減衰力が働くようにし、路面の凸凹を乗り越えた際の振動を抑えて乗り心地を向上させたとのこと。

 また、S4全モデルで、フロントウインドーの遮音中間膜追加やボディーへの吸音材追加など振動・騒音対策を強化。高速クルージング時の風切り音やロードノイズを低減し、静粛性の向上を図っている。パワーウインドースイッチのエッジ部分に高級感の高いクロームメッキの加飾を採用。センターコンソールに設けられたUSB電源の出力を、従来の1Aから2Aに強化。また、ボディーカラーに新たに「ピュアレッド」を展開。

WRX STIに採用する245/40 R18のハイパフォーマンスタイヤを「2.0GT-S EyeSight」グレードにオプション設定
「2.0GT-S EyeSight」グレードにはサンルーフの設定も用意

 以上がS4の主な改良点だが、今回試乗することは出来なかったが上位グレード「2.0GT-S EyeSight」には、245/40 R18のハイパフォーマンスタイヤの装着とともにビルシュタインダンパーの特性を最適化したオプションを設定。さらに、使い勝手のよい電動チルト&スライド式を採用したサンルーフをメーカー装着オプションとして設定している。

WRX S4 の標準グレード「2.0GT EyeSight」に試乗

試乗車はWRX S4の標準グレード「2.0GT EyeSight」

 今回の試乗会場は千葉県にあるかずさアカデミアパーク。ここには、私が探し出した秘密の試乗コースがある。アップダウン、路面、コーナーリング、そしてちょっとした市街地とバラエティに富んだもの。試乗車は標準グレードの「2.0GT EyeSight」、早速走りだそう。

 試乗会場のホテル敷地内からは欧州の石畳のような路面を通り抜けるのだが、ここでまず感じたことはキャビン内の静粛性が上がったことだ。明らかに密閉感があり、また石畳のような細かな凸凹の連続でもボディーへの振動感が少ない。敷地内の歩道を横切る際の路面の段差などでも突き上げ感が少ない。

“ついにS4はナンパな方向に走ったのか?”という思いで秘密の試乗コースへと出かけた。30km/h前後の速度からの減速ではブレーキペダルは少し重めで踏力が必要だが、これはスポーツモデルらしいフィーリングでコントロール性がよい証拠。50km/h前後の走行ではスポーツモデルのサスペンションらしい突き上げ感やピッチングを感じる。これがなければS4に乗っている意味がないとでも言われているかのように。

 しかし、不快感がない。シートのクッション性もちょうどよいレベルであることと、そのような衝撃でもボディー振動を感じさせないということが不快感を低減している。このあたりのサスペンションのセッティングはどう変わったのだろう?

ダンパーの可動初期に少しだけ減衰力を発生

「2.0GT EyeSight」の装着する225/45 R18 タイヤ
「2.0GT EyeSight」グレードでは乗り心地の向上を図った

 WRX S4/WRX STIの開発を担当するプロジェクトゼネラルマネージャーの高津益夫氏によると、ダンパーの特性を変更しただけだという。特にこのような街乗りレベルでの走行では、ダンパーの可動初期の動きが大切で、ここにほんの少しだけ減衰力を発生させるようにしたという。

 我々の想像では、逆にダンパーが動き始める初期の減衰力は弱くして、動きをスムーズにした方が乗り心地はよくなるものと考えがちだが、初期に少しだけ抵抗を発生させた方がボディーへの振動等も軽減されて体感として突き上げ感等が軽減されるのだという。この部分が弱いと遅れが生じてかえって振動感が強くなるようだ。

 確かに、路面の凸凹に対してリニアに反応し、ボディーも上下動を起こすが、突き上げる瞬間の角が丸い感触がして嫌気がなく、結果疲れにくい。ボディーのピッチングは、人間の目の“手ぶれ補正モード”が自動起動するので疲労の原因になると理解しているのだが、角が丸くなれば“手ぶれ補正モード”に大きなパワーを使うこともない。これは新しい発見だった。

 さて、重要なコーナーリングの話をしよう。ダンパー変更は前述以外に、全体に減衰力特性を落としている。特にフロントに比べてリアを大きく落としている。そのハンドリングは、登り坂でのコーナーリングではややフロントが軽くなるのを感じたが、路面を掴むようなグリップ感が非常に高くオンザレールの感触。コーナーリング中、ロールし始めてからは路面の凸凹をサスペンションが上手く吸収して、それによるピッチングも大きくならず路面に貼りついたようなグリップ感が素晴らしい。コーナーへ進入するときの操舵初期、ヨー方向へのノーズの動きとサスペンションが沈むロール方向への動きがほぼ同時に起こり、バランスがよい。

S4に搭載する水平対向4気筒 DOHC 2.0リッター直噴ターボ「FA20」

 よく観察しないとロール方向を感じないほどにヨー方向への動きが感じられるのだが、そこにはきちんとロールをともなわせて荷重移動の速度をコントロールしている。それに合わせてリアセクションがしっかりしていることも安心感を与えてくれる。

 S#モードで1速40km/hは約3500rpm、2速60km/hは約3300rpm。しかし、このエンジンの本領は5000rpmを超えてからだ。そのときのエキゾーストノートの唸り声はものすごくレーシー。そんな速度域でもS4のスタビリティは高く、ハンドリングはスポーティで安心感のあるものだった。WRX S4は欧州同クラスのスポーティモデルのなかの何台かを凌駕していることは間違いない。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

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Photo:高橋 学