インプレッション

レクサス「RX」(4代目)

ひと回り大きくなった新型RX

 レクサス(トヨタ自動車)「RX」はプレミアムSUVの先駆車で、1998年に北米で販売されるまで、このカテゴリーにはヘビーデューティ4WDしかなかった。RXの登場でこのカテゴリーが一気に活性化したのは、その後の各メーカーの動きを見るとよく分かる。グローバルでのレクサス販売ではRXが圧倒的な台数を誇り、だからこそ通算4代目となるRXのフルモデルチェンジに気合いが入る。これでレクサスSUVはエントリーの「NX」、中心となる「RX」、そして王者「LX」の3つのラインアップが揃った

 ボディサイズは従来モデルよりもひと回り大きい。全長では120mm長い4890mm、ホイールベースも50mm伸びて2790mm。全幅も10mm広い1895mmとなる。全高は1710mmと+20mmに収まっていて、堂々としているが間延びした印象はない。外観でインパクトが大きいのはタイヤサイズに20インチを採用していることも大きい。

ハイブリッドモデルの「RX450h“version L”」。ボディサイズは4890×1895×1710mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2790mm。先代モデル(RX450h比)から120mm長く、10mm広く、20mm高くなり、ホイールベースも50mm延長されている。ボディカラーはレッドマイカクリスタルシャインで、価格は702万5000円(2WD)
撮影したRX450h“version L”は、切削光輝の20インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:235/55 R20)
RX450hは最高出力193kW(262PS)/6000rpm、最大トルク335Nm(34.2kgm)/4600rpmを発生するV型6気筒DOHC 3.5リッター「2GR-FXS」エンジンに、フロントモーターとして最高出力123kW(167PS)、335Nm(34.2kgm)を発生する「6JM」を組み合わせる。4WD車ではリアモーターとして最高出力50kW(68PS)、139Nm(14.2kgm)を発生する「2FM」も搭載。JC08モード燃費は18.2km/L~18.8km/L
インテリアカラーはノーブルブラウン

 デザインは、スピンドルグリルが板についたシャープなマスクとボディ前後を絞った精悍な造形を実現している。特にCピラーから後方の流れるようなウインドーが特徴だ。プラットフォームは基本的にキャリーオーバーだが、ホイールベースの延長でも分かるように、車体のかなりの部分を変更して乗り心地、運動性能などの改善につなげている。

 エンジンラインアップは従来から変わり、V型6気筒DOHC 3.5リッター「2GR-FXS」エンジンにモーターを組み合わせる「RX450h」、そして直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「8AR-FTS」エンジンを搭載する「RX200t」の2種類からなる。いずれにも2WD(FF)と4WDが用意され、4WDではスポーツテイストのF SPORTも選択することができる。

 レクサスらしいエレガントなインテリアはドライバー/パッセンジャーともにリラックスした気持ちにさせてくれる。ダッシュボード上にレイアウトされたディスプレイは最近のトレンドにしたがって12.3インチのワイド画面が設置され、見やすく、またコントロール類も整理され操作しやすい。version Lにはリアシートエンターテインメントシステムが備わり、独立して画像が楽しめるのもRXで初めてだ。

ガソリン車の「RX200t“F SPORT”」。トランスミッションは6速ATを組み合わせる。ボディカラーはディープブルーマイカで、価格は605万円(2WD)
撮影車はF SPORT”専用の20インチアルミホイールを装着(タイヤサイズ:235/55 R20)
直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「8AR-FTS」エンジンは最高出力175kW(238PS)/4800-5600rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1650-4000rpmを発生。JC08モード燃費は11.2km/L~11.8km/L
インテリアカラーはF SPORT”専用ブラック
ラゲッジ容量は553L。ラゲッジスペースの開口幅は従来モデルと同一の1185mmながら、フックの形状の見直しにより9.5インチのゴルフバッグを4個横置きすることを可能にしている

乗り心地と扱いやすさが向上

 静粛性はレクサスの十八番。従来型のRXより一層磨きがかかって、SUVというよりもリムジンと言った方がぴったりする。粛々と滑らかに走るRXは心地よく、乗心地の向上と相まってどの席でも快適に過ごせる。エンジンノイズを下げるためにエンジンルームの遮音材を拡大し、フロントフェンダー内やフロアにも制振材、遮音材を追加(さらにリアシート下まで伸ばしている)したことでキャビンの静粛性は格段に向上している。ロードノイズは大幅にカットされているし、キャビンへの共鳴もほとんどない。RXでハッチバックボディにありがちな路面から侵入するノイズを心配することはない。

 乗り心地は腰のあるソフトさと言ったらよいだろうか。周波数の大きなピッチング等の動きは感じないし、静かな室内とともになかなか快適だ。そのキャビンは広がり感があってもガランとしている感じではなく、落ち着いた雰囲気があって好ましい。

 HUD(ヘッドアップディスプレイ)にはさまざまな情報が表示され、必要に応じてピックアップできる。現代のクルマにはさまざまな機能が備わり、便利な半面、それを機能させるための操作や視認性が必要になり、いろいろと面倒だ。必要なものだけをHUDに表示できることはドライブの安全につながり、今後もますます増えていくだろう。RXではカラー表示されるので、見やすく、分かりやすい。ドライバーからの視界は開放的。三角窓もダテではなく、斜め前方視界もかなり見やすくなっている。

 ついでに言うと、ナビなどのディスプレイをコントロールするためコンソール上にあるリモートタッチにBACKボタンとENTERボタンが備わり、操作性は向上した。しかし感度は調整できるものの、リモートタッチはちょっとコツが必要。走行中の操作はあまり勧められない。

12.3インチワイドディスプレイを新採用。VICS WIDEに対応し、精度の高い最適ルート探索や渋滞回避ルートの案内などを実現しており、気象庁が提供する特別警報のポップアップ表示や豪雨エリアの表示も可能になっている

 乗り心地とともに最も感銘を受けたのが扱いやすさ。大型のボディサイズにもかかわらず、ハンドルの応答性が素直で余分な動きがなく、大きなSUVとは思えないほどキビキビしてフットワークがよい。サーキットでなければ分からないというレベルのモノではなく、街中のコーナーを1つ曲がっただけで「おっ!」という感じでスイとノーズの向きを変える。

 1つにはエンジンのマウント方式の変更で、重いエンジンを重心位置に近いところにマウントしたため、アクセルOFFなどでのピッチングに対してパワートレーンの搖動が少なく、ドライバーの操作への動きが素直になっている。前述のようにプラットフォームはキャリーオーバーだが、細部の改良によってこれまでよりもハンドリング性能は大幅に向上しているのがよく分かる。さらに速度を上げた時の印象は大幅に違う。ドライバーの操作に対して素直な反応で、さらにスタビライザーやバネの見直しでロールがよく抑えられ、スタビリティとハンドル追従性は大幅にレベルアップアップしている。運転が楽しくなるだけでなく、安全マージンも大きく向上した。

 ボディ剛性は片側からも溶接できるレクサス/トヨタ得意のレーザースクリューウェルディング(LSW)、接着剤を使った結合長の延長、スポットの打点増しなどで大幅に向上しており、制振性、静粛性、そしてハンドリングや乗り心地に対する土台作りに役立って、前述のプラットフォームの改良とともに優れた車体を作り上げたと思う。

 RX200tのパワートレーンは、NXと同じ2.0リッターの新世代ダウンサイジングターボ。燃費の改善を目的としたターボだけにドーンとしたトルクの塊感よりも滑らかさを追求しており、車体とエンジンとの相性はなかなかよい。6速ATもNXとギヤ比は同じだが、最終減速比を低くして重量増の駆動力を補っている。1890㎏(FF)という車重に238PS/350Nmのパワー&トルクは十分にパワフルで、グイグイと引っ張ってくれる感触はわるくない。

 一方のRX450hは滑らかでスムーズ、そして力強さがあり、コンベンショナルエンジンとは違ったスタート時のトルク感がある。ハイブリットの魅力の1つは言うまでもなく電気モーターのサポート。燃費もさることながら、無理のない自然な加速感も好ましい。

 また、RXには予防安全パッケージ「Lexus Safety System+」が備わる。全車速追従機能、オートマチックハイビーム、レーンキーピングアシスト、プリクラッシュセーフティの4つの機能からなり、トヨタブランドで採用される「Toyota Safety Sense P」に該当する。このほか車車間/路車間通信の安全運転支援システム「ITS Connect」、誤発進防止装置のインテリジェンスソナー、ブラインドスポットモニター、リアトラフィックオートブレーキ等がオプション、あるいは標準で装備される。

 RXの進化は大きい。プレミアムSUVのカテゴリーの質をさらに押し上げ、北米でもきっと大きな成功を収めるだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一