インプレッション
日産商用車シリーズイッキ乗り(後編:NP300 ナバラ、タイタン、e-NT400ほか)
Text by 岡本幸一郎(2016/5/30 18:53)
日産自動車は、LCV(ライト コマーシャル ビークル=小型商用車)についても非常に多彩なラインアップを揃えている。グローバルで販売される日産車のうち5台に1台はLCVであり、日本で販売されているもの以外にも多くの車種が存在する。
大磯プリンスホテルで開催された今回の試乗会では、普段触れる機会のない海外のみで販売されるモデルにも試乗することができた。後編では、まず2台のピックアップについてお伝えしよう。
海外で活躍する2台のピックアップ
1tピックアップの「NP300 ナバラ」は、タイをはじめメキシコ、スペイン、アルゼンチンなどで生産され、180カ国以上もの地域で販売されている。シングルキャブ、キングキャブ、デュアルキャブが用意されており、優れた燃費性能と加速性能、高い操作性、優れた耐久性、タフで力強いデザインを持ち合わせている。フロントフェイスやインテリアデザインには日産のSUVラインアップとの共通性が感じられる。
今回試乗したのはヨーロッパ仕様の「Tekna」というグレード。パワートレーンは新開発の2ステージターボを採用した直列4気筒DOHC 2.3リッターディーゼルエンジンに6速MTの組み合わせ。乗り心地は快適で、ハンドリングはゆったりとしている。
一方、こちらは全長6mを優に超えるフルサイズピックアップの「タイタン」だ。ホイールベースも4m近くあって、ちょっとUターンしようにも、かなり大回りすることになるのはご愛嬌。
インテリアはかなり豪華に仕立てられていて、さすがはフルサイズらしく、ピックアップでは軽視されがちなリアシートの居心地も上々だ。荷台はとてつもなく広い。これなら相当に大きな荷物も運べそうだ。
動力源に「カミンズ」という重機等用で有名な老舗メーカーのV型8気筒DOHC 5.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載しているのもポイントで、とてもスムーズな回転フィールゆえ、最初はディーゼルだと思わなかったほど。
ところが走り出すと、大排気量ディーゼルらしいみなぎる力強さと重厚な響きのサウンドを味わえるのがうれしい。走りにはこの体躯から想像するよりも重々しい印象はなく、あまりロールすることもなくスラロームもスイスイとこなす。日本の公道で乗るとさすがに持て余しそうではあるが、注目度はバツグンだろう。
そのほか「アトラスF24」や、試作車のEVトラック「e-NT400」にも試乗。
e-NT400にはリーフ(改良前)のパワーユニットがそのまま移植されていて、やはりモーターなればこそ、踏んですぐに俊敏に加速していく。静かでスムーズ。リーフよりもかなり重たそうに見えるが、動力性能のポテンシャルはなかなか侮れず、今回は空荷だったが、フル積載しても発進はラクラクだという。
ゴミ収集車として実証実験を行なったそうで、実際に使った人の感想では、普段乗っているディーゼルよりもパワフルで乗りやすかったという。たしかに市街地をちょっと走っては止まるを繰り返すごみ収集には、むろんゼロエミッションであることも含め、まさしく打ってつけな車両ではないかと思う。
半面、操縦性にリーフなどのEVに見られる低重心な感覚はなく、むしろ重心が上がった感じがすると思ったらそのとおり。駆動バッテリーが荷台上の車両の中央あたりに搭載されており、しかも荷台に段差がある。このあたりには改善を望みたい。
次世代アラウンドビューモニターの機能は?
そのほか、会場では日産のLCV事業本部が設定する商用車向けアラウンドビューモニターの追加機能に関する説明および体験試乗もあった。
通常走行時において、インサイドミラー(ルームミラー)の代わりに7インチモニターを設置し、後方のビューに加えて車両前端から見た状況を表示させている。これにより、たとえば細い路地から広い通りに出る際に左右から来る歩行者や自転車などを確認できる。
次いでは、ウインカーやハザードと連動して左右側面の下を映し出す機能。NV350は福祉送迎の用途も想定したモデルだが、たとえば左側に幅寄せして人を乗降させたい状況で、スライドドアの上に設置されたカメラから真下の路面状況を見られるようにしている。これにより、降雨で水たまりができて足場がわるくなっていないかなどを確認することができる。
ミニバン等でドアミラーの下に設置したカメラから路面の状況を確認できるようにしているものはあるが、その位置から映す画像では、実際に人が乗降する場所が歪んでしまう。そこで、外観上はカメラ搭載位置が出っ張ってしまうことを承知の上で、デザインより役に立つ機能を優先して、この位置にカメラを設置したわけだ。
さらに、パーキングブレーキを引くと、車両の前後左右の状況が同時に映し出される。これにより、いざ出発しようというときに目視では確認できない小さな子供や障害物を轢いてしまわないようにしているのだ。
また、アトラスのバン系ではルーフの上の真ん中にカメラを設置して、ボックスの上の画像を表示することで、軒や標識などが出っ張っているところを車高の高いクルマで通り過ぎてガリガリとやってしまわないようにしている。要するに、クルマによってほしい情報がいろいろあり、それに対して適切な装備を用意しているというわけだ。念のためお伝えすると、これらはあくまで画像を表示する機能であり、センサーはないので警報機能はない。
こうして普段はなかなかお目にかかる機会もない車両にも実際に触れることのできた今回の試乗会。貴重な機会であったが、とにかく日産のLCVを見てきて感じたのは、とても使う人の身になって考えられているということだ。そして、e-NV200のように独創的なモデルに限らずとも、持ち前の高い技術力は随所に活かされている。いずれもなかなか乗り応えのある日産のLCVたちであった。