レビュー

【タイヤレビュー】ヨコハマタイヤのフラグシップモデル「アドバン スポーツ V105」

バンク付きのテストコースやウェット試験路でその実力を体感

 クルマの走りを最終的に決めるのはタイヤである。どんなにクルマがよくても、タイヤ次第で本来のよさを引き出せないこともあるし、逆に、同じクルマでもタイヤを交換するだけで走りが見違えることもある。

 ただし、タイヤの性能にはいろいろな要素があり、どこかを上げると別のどこかが落ちてしまう場合が多く、グリップと耐磨耗性、ドライ性能とウェット性能、運動性能と乗り心地や音、振動などの快適性といった要素は、例外もあるが、一概には相反する関係にある。

 これに対し、できるだけ相反する要素を両立しながら諸性能を高められるよう、タイヤメーカーも新しい素材や技術を積極的に開発している。それらは後発モデルであるほど採り入れられているものの、タイヤメーカーにとっても、そうそう頻繁に新商品や改良版を発売できるわけではない。

 そんな中に登場した、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)のハイパワープレミアムカー向けタイヤ「ADVAN Sport(アドバン スポーツ) V105」(以下V105)は、「アドバンスポーツ」として知られてきた製品の最新版となる。発売サイズは205/55 R16 91V MO~295/30 ZR19(100Y)の全33サイズで、従来製品の「V103」もサイズによって併売される。

アドバン スポーツ V105。ハイパフォーマンスプレミアムカー向けのタイヤとなる
トレッドパターンは非対称形状。右がアウト側で左がイン側。アウト側で荷重を受け止め、イン側で積極的な排水性や直進性を確保する意図が見える
斜め方向から見たトレッドパターン
トレッドパターンの解説図。写真と見比べてみて、設計意図を確認してほしい

 従来製品のV103は、2004年にベントレー コンチネンタルにOE装着(新車装着)されたのを皮切りに、2005年には世界展開し、それとともにメルセデス・ベンツの高性能モデルをはじめOE装着を拡大していき、その後の6年間で実に約5倍にまで販売本数を増大させた。これは並大抵のことではなく、個人的にも快挙だと感じている。本当に世界から「認められた」ということに違いない。

 ヨコハマタイヤでは、よりスポーティに、より快適に、という年々厳しさを増す欧州自動車メーカーの要望に対し、V103に続く次世代モデルの開発を進め、独ニュルブルクリンクのテストセンターを拠点に欧州各地で評価を実施したり、モータースポーツで培った技術を積極的に転化し応用するなどしてきた。

 その成果が、V105最大の特徴となっている「マトリックス・ボディ・プライ」と呼ばれる内部構造である。一般的にラジアルタイヤではカーカスと呼ぶ繊維でできた内部骨格をタイヤ中心に向かって配置するところ、V105では2枚のカーカスをやや斜めに角度をつけて配置している。これはヨコハマタイヤがレーシングタイヤで培った技術を応用したもので、周方向の剛性を高め、ステアリングの正確性や操縦安定性を向上させることができると言う。

マトリックス・ボディ・プライの説明を受ける筆者。「この部分が斜めになっており~」
タイヤのカットモデル。実際の構造がよく分かる
タイヤの構造図
タイヤのイン側のプライコード
タイヤのアウト側のプライコード。一般的なラジアルタイヤと異なる構造で、周方向の剛性を向上
レーシングタイヤからフィードバックされたマトリックス・ボディ・プライ構造。現在もアドバンのレーシングタイヤはこの構造を採用している

 トレッドパターンについては、最近のヨコハマタイヤらしくシンプルなものだが、イン側、アウト側別々の非対称パターンを採用。イン側のパターンはウェット性能強化のためストレートグルーブを太くし、アウト側のパターンはドライ性能を強化するためシンプルなショルダーブロックを配置している。

 また、V105は5本のリブが走るパターンとなっているが、そのリブのエッジにごくわずかな丸みを持たせる「マウンド・プロファイル」を採用。接地圧をコントロール。さらに、それぞれのリブのエッジの丸みを微妙に異なったものにすることで、接地圧をきめ細かくコントロールしている。

 コンパウンドについては、ドライ&ウェット性能の大幅な向上をテーマに、自動車メーカーと共同開発。マイクロシリカの効果を高めるシリカ分散剤をヨコハマタイヤとして初めて採用したことや、WTCCの公式タイヤにも用いられたオレンジオイルを配合しているのが特徴だ。これらによりV105では、相反する性能を高次元でバランスさせることに成功しているとのことだ。

従来タイプのアドバンスポーツ V103。非対称パターンを採用しており、各ブロックに刻まれる曲線的な溝が印象的
アドバンスポーツ V105。V103の発売が2005年、V105の発売が2013年。8年の時間が設計思想の違いを生んだことが分かる。V103のパターンのほうに優雅さを感じる部分はあるが、その性能差は明らかに体感できるものとなっていた
V105とV103の性能比較チャート。すべての面で従来製品を上回っているのが印象的
V105のトレッドパターン部拡大
マウンド・プロファイルの説明図。各ブロックのエッジをコントロールすることで接地圧を最適化

ハイパフォーマンス車で試乗

 このV105を試乗したのは、横浜ゴムのテストコースである「D-PARC」。D-PARCではV105の試乗向けに、高速周回路や、さまざまな凹凸を持つ特殊路、低μ(ミュー:摩擦係数)のウェット路面などが用意されていた。

 周回路&特殊路では、メルセデス・ベンツSL350、アウディRS5、BMW328i、ルノー・メガーヌRSという4台に試乗。いずれもハイパフォーマンスなクルマとなるが、共通して感じられたのは、とても静かであることだ。特殊路と呼ばれるポイントには、20種類もの音関係の試験が可能な凸凹路面が作られており、その中には比較的入力の大きな(凹凸の激しい)個所もある。しかしながらV105は、音に関して相当に気を使って開発されたことがうかがえる仕上がりで、いわゆるインパクトハーシュネスも直接的に車体に伝わらないようになっている。

車種タイヤサイズタイヤ銘柄
メルセデス・ベンツ「SL350」フロント:255/40 R18 95Yアドバンスポーツ V105
リア: 285/35R18 97Y
BMW「328i」225/45Z R18 95Y
アウディ「RS5」265/35 ZR19(98Y)
ルノー「メガーヌR.S.」235/35 ZR19 (91Y)

 加えて、乗り心地がよい。凹凸のギャップや波状路など何通りかの悪条件の路面を越えた際にも、入力のカドが上手く丸められていて、何かで包んだようなワンクッションおいた感覚があった。

 旋回しながら両側に不規則に設置された突起を越えていく路面でも、一般的なタイヤでは跳ねてラインがずれてしまいそうなところを、サイドウォールがしなやかにたわんで入力を吸収し、本来のラインからあまりずれることなくトレースしていける。試乗したタイヤは35~45の低扁平で、しっかりとした剛性の中に、微妙な「いなし」を体感できた。

 周回路では、120km/hを超える高速でのレーンチェンジを実施。素早い操舵にも遅れることなく応答し、その後のオツリも小さいことが分かる。もちろんクルマ側でもしっかり作り込んでいるはずだが、それにタイヤがまったく負けていない。

 また、微少舵域からきれいにヨーが立ち上がり、ずっとリニアにステアリングインフォメーションがあるので、自然と無駄な動きを出さない操作を心がけるようになるところもよい。

 速度域をもっと高めても、まるで空力パーツで車体全体を押さえているかのように安定した接地感が得られ、よい印象が変わることはない。この辺りは、マトリックス・ボディ・プライによる周方向の剛性向上や、路面への接地、面圧が均一になるよう断面形状の最適化を図ったというパターンなどが効いているのだと思う。また、100km/hからのフルブレーキも試してみたところ、左右へのブレが極めて小さいことも印象的だった。

各試乗車とのマッチングは?

 4台とも印象は概ね共通だが、細かく見ていくと、若干の違いがあったので付け加えておこう。まずルノー メガーヌRSはOEタイヤとのマッチングがよく、タイヤサイズのわりに車両重量が比較的軽いせいか、V105ではわずかに跳ねが見受けられた。またBMW 328iは、本来はランフラットタイヤを標準装着するクルマであるため、乗り心地がわるく感じないよう、ランフラットタイヤに合わせて突き上げを減らすべく標準ダンパーの減衰力を部分的に落としている。それゆえ、もともとしなやかなV105を装着すると、乗り心地は標準状態よりもさらによくなる半面、ゆるいアンジュレーションのある路面では若干フワ感が出ていた。ここは好みの分かれるところだと思う。

 一方アウディ RS5とメルセデス・ベンツ SL350はクルマとの相性もよく、安定感のある走りを実現していた。とくにSLには、メルセデス・ベンツ車用のOEタイヤであることを示す「MO」が表記された、専用にマッチングを図ったタイヤが装着されていたこともあってか、文句のつけようがないほど素晴らしかった。あまりに安定していたので、ふと速度計を見たときに、予想よりもはるかに高い速度が出てしまっていて驚かされたほどだ。

ウェット路面でV103と比較

 ジムカーナのようなコースレイアウトが設定されたウェット路では、フロント245/40 ZR18 97Y、リア265/35 ZR18 97Yを装着したメルセデス・ベンツ E250で、従来製品のV103と新製品のV105を履き比べた。

 最初にV103を装着した車両でこのウェット路を走ってみたが、今でも十分に通用する性能は持っているように思えた。しかしながら、V105装着車に乗り換えるとその差は大きく、違いは顕著だった。

 全体的にV105のほうがグリップ力は高く、ステアリングを切り込んでクルマが向きを変えようとするとき、V103は若干の遅れがあるのに対し、V105にはそれがほぼない。さらに、コーナリングでグリップ力の限界を超えて横滑りに移行するとき、V103は、これはこれで分かりやすくてよい面もあるのだが、素直に流れ始める感覚がある。対するV105は車速にするとそれほど大きな差ではないのかもしれないが、滑り始める限界のレベルが高い上、限界を超えてからも粘りながら滑っていく感覚がある。

 これには、両者のコンパウンドなどの違いももちろんだが、旋回時の接地中心にメイングルーブを配することでウェット性能を高めたという、特徴的な3本+1本のストレートグルーブが大きく効いていることと思われる。

 さらに、V103に対し横方向のグリップだけでなく、アクセルを踏み込んだ際のトラクションや、ブレーキングでの制動距離など縦方向のグリップにおいても、横方向よりも大きいのではと思えるほどのアドバンテージを感じた。今回はタイム計測を行わなかったが、V103とV105ではウェットでのラップタイム差が結構あるのではないかと思う。

 V105には8年分の進化の大きさを痛感させられた次第。「アドバンスポーツ V105」の登場により、プレミアムカーのための優れたタイヤの選択肢が、また一つ増えた。アウディやメルセデス・ベンツなど、もともと完成度の高いクルマに履かせると、本来の性能や快適性を、あまさず享受できるだろう。さらには、運動性能と引き換えに乗り心地を犠牲にしたようなスポーティ系の車種に装着しても、運動性能を損なわずに、ワンランク上になったかのような乗り味を得ることができるタイヤだと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。