レビュー

【ナビレビュー】「ハイエンドオーディオ」を名乗る最新AVナビ「ダイヤトーンサウンドナビ NR-MZ100」

大幅なステップアップを果たした注目モデル

10月にフルモデルチェンジした三菱電機「ダイヤトーンサウンドナビ NR-MZ100」

 毎年気候のよい秋の休日には全国各地でカーオーディオイベントが数多く開催されるが、その中でも今年ひときわ注目を集めていたのが三菱電機の新型「ダイヤトーンサウンドナビ」のデモカーだ。

 2012年に初代モデルが登場し、今回で4世代目となるダイヤトーンサウンドナビ MZ100シリーズは、10月7日から幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2015」で一般に初お目見えして10月20日に発売された。主要なオーディオデバイスと基板を一新し、クアッドコアCPU搭載でカーナビ機能も一気に引き上げられ、カーオーディオユーザー、カーナビユーザー双方の注目を集めている最新モデルだ。

基本性能の向上が実感できるファーストインプレッション

表示品位の高いグレア液晶パネルとあいまって地図画面の表示はたいへん美しい。画面の解像度は800×480ドットの7型ワイドVGAだ

 長年この業界で仕事をしているおかげで今まで数多くのカーナビに触れてきたが、その中でも新型MZ100のファーストインプレッションは実に鮮烈で印象深い。特筆すべきは画面の美しさと、レスポンスのよさ、洗練された操作感だ。

 美しい静電容量式グレア液晶は非常にコントラストが高く視認性がよいが、驚異的なのは強い直射日光が当たってもコントラストが落ちずに視認性が維持されていること。これは画期的といってよいレベルだ。MZ100では新たに液晶パネルと表面のタッチパネルの間にある空気層をボンディング材で埋め、表面にARマルチコートを施した新型パネルを採用している。カタログには「晴天昼間の自然光に相当する10万ルクスの照度でも十分なコントラストが確保できる」と書かれているが、これは誇張ではない。

 液晶パネルには、表面をマット調に処理して光の反射や光沢を抑える「ノングレア」タイプと、きれいな光沢処理を施した「グレア」タイプがある。以前は液晶テレビやカーナビでは外光の映り込みが少ないノングレアが主流であったが、最近は発色が鮮やかでコントラストの高いグレアタイプの人気が高く、AVナビでも採用例が増えた。グレアは「ギラギラする光」という意味で、PCやカーナビといった情報機器で避けられる傾向であったが、きれいな静電式グレア液晶を搭載しながら視認性も決してわるくないiPhoneやiPad、MacBookなどのアップル製品の人気が後押ししたのか、最近ではすっかり市民権を得た。

NAVIメニューを中心に、左右のフリックでルート、インフォ画面に遷移する。洗練されたメニュー体系でフリック動作もたいへんスムーズという優れたインターフェース
「ピュアブラック・ハイコントラストモニター」と名付けられた新規パネルを採用。快晴・昼間の明るい空が映り込んでも十分なコントラストが確保されているのは驚きだ

 本機の液晶フレーム左上には同社の液晶テレビ「REAL」のブランドネームが刻印されていて、画面の表示品質に対する並々ならぬこだわりを表している。今回のMZ100シリーズでは美しい静電容量式グレアパネルでAVナビとしてはトップクラスとなる画像の美しさを実現したが、液晶テレビの大画面化がはじまった時期に家庭用液晶テレビで他社に先駆けてグレアパネルを採用して、それまで非光沢オンリーであった他社が一斉に追随した歴史を思い出した。大画面化が進む2007年頃のことだ。

光沢液晶で新しい映像体験を。三菱の新液晶TV「REAL」(AV Watch)

http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071018/mitsu.htm

 タッチパネル操作のフィーリングも非常に印象的だ。地図画面では2画面表示を含めて全面的にピンチイン、ピンチアウトでズーム操作が可能で、メニューはフリック、スワイプ動作に対応。いずれも引っ掛かりを感じることのない極めてスムーズな操作感で、表示されるメニューも洗練度が高まっており、従来のカーナビとは一線を画している。極めて快適性が高い。

メニューのフリックと地図のピンチ操作
ナビゲーションは4つのビュー画面を持つ。過不足なく実用的な設定だ
2画面表示。両方の画面でそれぞれピンチイン、ピンチアウト操作が可能。動作はスムーズ
システムチップはルネサスのR-Car Hiを採用。このSoCはメインCPUと別にマルチメディア用としてSH-4Aコアも搭載している

 あらゆる局面で動作はスムーズで高速だ。このパフォーマンス向上には一新されたシステムチップ(SoC)に搭載されたクアッドコアCPU(Cortex A9)が貢献している。現在ではスマートフォンでも8コアなどの強力なCPUを搭載するが、AVナビではまだシングルコアが主流で、他社がデュアルコアCPUを採用してずいぶん快適に動作するようになって驚いたものだ。AVナビは地図描画、タッチパネルオペレーション、測位演算、オーディオ処理など複数の重いタスクが並行するので、マルチコア化による恩恵は大きいのであろう。このシステムチップでは、メインCPUとは別にマルチメディアエンジン用のCPUコア(SH-4A)も搭載している。まさに威力は強大だ。

 ナビシステムの性能は必ずしもCPUだけで決まるわけではないが、少なくともAVナビとしては現時点で最強のCPUとグラフィックス環境を持つことによって、トップクラスの操作スピードと快適性を確保していることは間違いない。

カーナビ機能はトップクラスに進化

 ダイヤトーンサウンドナビは、その名前が示すように狙いのはっきりしたAVナビだ。性能・機能をオーディオ側に大きく振った造りが特徴であった。AVナビの主力がアフターマーケット市場から自動車メーカー向けへと変化するなか、市販カーナビ市場で強い存在感を示すためにこれは正しい戦略で、結果としてカーオーディオファンを中心に三菱電機カーナビの存在感は以前より大幅に高まっている。

 しかし、ナビ機能では必ずしも最先端を狙っていなかったため、他社のカーナビ、とくに高機能、高性能モデルからの乗り替えに躊躇するユーザーが少なからずいたのも事実。なかでも市販カーナビ使用歴の長い人ほどその思いは強かったことだろう。今回のMZ100シリーズではナビ機能にも大幅な改良が加えられ、性能が大きくアップしたという。それでは実際に走行して、その機能や性能を確認してみよう。

 カーナビを操作して最初に実感するのは新規ルート探索のスピードだ。MZ100シリーズはCPUの大幅なアップデートによる高速化のおかげで新規ルート探索の速さは目覚ましく、目的地までの距離に関係なくストレスの少ない探索が可能だ。地図媒体がハードディスクからフラッシュメモリーに移行したことで、他社のカーナビでも探索が速いモデルもあるが、この部分はCPUパワーの比重が大きい。MZ100シリーズは現時点で業界トップクラスのスピードを確保している。

 目的地検索は、文字入力による部分一致検索、インクリメンタルな候補表示、エリアとジャンルによる絞り込みなどひと通りの機能を備えている。ルート探索が高速化されることにより、カーナビの実使用上で非常に重要なリルートのスピードがアップしている点も指摘しておきたい。条件にもよるが、走行中にルートを外れたときに従来モデルより圧倒的に速いスピードで新ルートが提示される。リルート性能は安全運転にも極めて重要なので、この点は高く評価したい。

 自車位置精度に関しては準天頂衛星への対応がハイライトで、ほかに目立った機能は触れられていないが、実用上の精度は十分だ。ちなみに、実際の準天頂衛星「みちびき」の主要部分も三菱電機製となっている。並走する一般道と高速道路の認識ミスも、新たに導入された使い勝手のよいショートカットキーで簡単に修正可能だ。

衛星の受信状況画面。GNSSはGPS、QZSが準天頂衛星だ。現在は試験運用中の準天頂衛星はまだ1機しか存在していないが、2019年までに4基体制になって一層の精度向上が図られる予定
画面左下の「<<」の部分をタッチするとショートカットのバーが出てくる。「変更」のボタンでルート関連の操作が可能で、写真ではグレーアウトしているが並走道路切替で高速道路と一般道の認識ミスなどを簡単に修正できる
検索ボタンを押すと主要施設の周辺検索メニューが出る。全般的によく考えられたショートカットで実用性は高い

 ルート案内機能では、新たに一般道方面案内看板、3Dで仰角も変化する交差点案内、一般道と高速道路のルート色分けなどに対応。高機能カーナビに搭載されている機能を着実に取り入れて、カーナビとしてのレベルを大幅に向上させている。もはや他社の高機能ナビと遜色はない。地図のデザインや配色もよく、地図上の文字サイズは大小切り替えが可能。画面下側の見やすい位置に新たに設置されたショートカットボタンでは、再探索、周辺検索、案内中止などよく考えられたメニューを配置。実用的な機能進化が大きく進んだ印象だ。

交差点案内も大幅にアップデート。画面右側の拡大図は3D表示でポイントに近づくにつれて表示角度が浅くなり、最後は2D表示になるので分かりやすい。左の写真は交差点の手前約260m、右の写真は約50m手前の状態。拡大表示の右側にはプログレスバーも表示されて安心だ
ルート表示の一般道は緑色、高速道路は水色に塗り分けられる
地図上の地名、施設名などの文字サイズは「標準」「大」の2種類から選べる。インターフェースの文字サイズは変更できない
地図のトーンは「ライト」「ダーク」「ユニバーサルデザイン」の3種類。ダークは上質感のあるハイコントラストデザインだ

 ナビ機能全般を通じて見ると、驚くような新しい機能は採用されていないが、これまでウィークポイントとして見られがちだったナビ機能は一気にフロントラインに並んだ。スムーズな操作性についてはトップクラスだ。

Wi-Fiテザリングによるオンライン情報取得も秀逸

 ハイライトになるような機能は用意されていないものの、ナビ機能全般について非常に細かく丁寧な機能アップが図られているのが印象的。そのような機能の代表例が通信機能だ。

 従来モデルでサポートされていたBluetoothのダイアルアップネットワーク接続に加えて、MZ100シリーズでは新たにWi-Fiテザリング(インターネット共有)で各種オンラインサービスに対応ができるようになった。これはたいへん有用な機能で、テザリング契約をしたiOS/AndroidスマートフォンとWi-Fi接続することにより、実に簡単にオンデマンドVICSやスマートループ渋滞情報の取得が可能となる。さらにクルマのなかでCDの新譜タイトルダウンロードが完結でき、音楽再生マシンとしての魅力も一気に高まる。このように、あらゆる機能に対して全方位的にアップデートが施されている点が好印象だ。

左側サイドメニューバーの「VICS」部分をタッチするとVICSメニューが開く
「オンラインで受信する」を押すと、手持ちのスマートフォンで簡単に渋滞情報が取得可能。サービス利用料は無料だ(テザリング通信費は除く)

注目のオーディオ性能は

 ラインアップは「NR-MZ100PREMI」(税別24万円)と「MZ100」(税別17万円)の2モデル。両者の価格差は7万円だがナビ機能はまったく同等で、オーディオ調整機能とシステム対応力に差がある。今回の試聴はスタンダードモデルとなるMZ100で行った。

 ちなみに、ダイヤトーンサウンドナビはカタログに投じられたエネルギーにも驚かされる。総合カタログとPREMI用カタログが別仕立てとなっていて、いずれも非常に豪華。PREMI用カタログは表紙に「プレミアムサウンドブック」と書かれており、音質調整機能に関して詳細な解説が掲載されている。取扱説明書にない情報や設定方法が書かれているので、PREMIモデルに関心がある人は一読することを強くお勧めする。

 また、ダイヤトーンサウンドナビは今回のモデルから「オーディオナビシステム」という表記に代わり「ハイエンドオーディオ&カーナビゲーションシステム」というタイトルが使われている点にも注目したい。まさにハイエンドオーディオを名乗る史上初のAVナビだ。

今年のモデルからカタログの表紙に「ハイエンドオーディオ&カーナビゲーションシステム」と書かれている。PREMI用カタログ(右側)の情報量には圧倒される

 ダイヤトーンサウンドナビはCD/DVDのディスク再生に加えて、USBとSDXCのファイル再生、iPhoneの音楽再生に対応している。専用変換ケーブルによりHDMI入力も可能で、iPhoneの動画やAndroidスマホの接続にも活用可能だ。CDの録音機能としてはSDXCカードにSDオーディオとして音楽を録音する「ミュージックフォルダ」機能を搭載しているが、録音フォーマットは128kbpsのAACと最新モデルとしては一歩物足りない。

 従ってダイヤトーンサウンドナビのメインソースはCD、USB、iPhoneということになるだろう。ファイルはFLACで192kHz/24bitまで、WAVで96kHz/24bitまで読み込み可能だが、ハイレゾ音源は44.1kHzにダウンサンプリングされて再生される。

 今回の試聴はスバル(富士重工業)「インプレッサ スポーツ」の純正スピーカーを残してMZ100を装着したデモカーで行った。この車両は日本各地のイベントに数多く出展されているもので、音質調整がスタンダードレベルの簡易調整であってもハイエンドレベルの音質の実現を目指しているという。ダイヤトーンのWebサイトにはデモカーの紹介も用意されている。

ダイヤトーン メーカーデモカーの紹介Webサイト

http://www.mitsubishielectric.co.jp/carele/car_diatone/democar/subaru_impreza_sport/

今回の試聴システム。スピーカーはすべて純正品でサブウーファーは使用していない

 今回のような本格的なカーオーディオ機器の試聴で、スピーカーが純正品のままという例はあまりない。特にダイヤトーンはハイエンドスピーカーをラインアップしているのでこのようなデモカーは異例だ。これはダイヤトーンサウンドナビ本体の音質と調整能力に対する自信の表れということだろう。

 ただし、純正スピーカーのクォリティはクルマによってまちまちなので、常によい結果が出るとは限らない。当然、車種やグレードによっては期待されるレベルに到達しない場合もあり得る。この点だけは注意しておきたい。

スケール感の大きい高品位なサウンド

 非常に情報量の多い、高品位なサウンドだ。位相がよく揃ったフォーカス感と広がりのある音場表現が両立しているのが印象深い。低音は過剰ではなく、かといって硬すぎないよくコントロールされたもので、純正スピーカーとは信じがたい良質なサウンドとなっている。上級クラスのスピーカーが丁寧にインストールされているような印象だ。

 現代のオーディオシステムでは、技術的な意味での「ノイズ」はほぼ克服が可能で、S/Nの数値が問題になることはあまりない。しかし、良質なハイエンドオーディオでは圧倒的な静寂感のなかからフッと音が出てくる独特の感覚がある。これが「聴感上のS/N」で、カタログ数値上のS/Nとは違う次元の話だ。ダイヤトーンサウンドナビはこの聴感上のS/Nを高めることを目指したという。実際に試聴して、その意図は十分に感じられる。

 瞬発力、エネルギー感の表現も秀逸で、カーナビ、内蔵アンプ、純正スピーカーという3条件を感じさせない高品位なサウンドはナチュラルでクォリティが高い。佐渡裕/ベルリンドイツ交響楽団のドヴォルザーク「新世界」、アンネ ゾフィ ムター/プレヴィン/ウィーンフィルのチャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲といったオーケストラ作品のスケール感の表現も見事で、十分に鳴らし切っていて不満を感じない。

 今回は純正スピーカーによる試聴であったが、ダイヤトーンサウンドナビは「純正品でもよい音が出る」というよりは、「たとえ純正スピーカーであってもその力を十分に引き出す能力を持っている」と理解すべきだ。

 一聴すると確かに純正品とは信じられない高音質であったが、純正スピーカーの限界とも思える高域の質感の不足やツィーター固有のキャラクターが感じ取れる場面はあった。ダイヤトーンサウンドナビの本質は調整機能と音楽性、音の鮮度の両立にある。純正品を鳴らし切る能力も素晴らしいが、一方で素性のよいスピーカーの性能を極限まで引き出す方向での活用も目指したい。

ダイヤトーンサウンドナビとどのように向き合うか

 ダイヤトーンサウンドナビの革新的な技術が「マルチウェイタイムアラインメント」だ。1つのチャンネルの音楽信号を低域と高域に区切って、それぞれに時間差とレベル差を与えるというダイヤトーン独自の技術で、1組のケーブル、1ペアのアンプで2ウェイスピーカーの高音と低音を自在にコントロール可能となる。例えば、スピーカー交換やケーブルの引き直しが難しい輸入車でマルチアンプシステムを組みたいというシーンで、誰でも1度は思いつくアイデアではあるが、まさか本当に実現できるとは思わなかったという掟破りの技術だ。しかも、これだけの高度な信号処理を行ないながら音質的なデメリットをまったく感じない。優れた技術と執念を感じる。

クロスオーバー設定画面。今回の試聴システムでは6.3kHzで帯域を分割しているのが分かる
タイムアラインメント画面。純正のスピーカーとケーブルをそのまま利用して、ツィーターとドアのウーファーに時間差を与えている

 マルチウェイタイムアラインメントが実用化できたおかげでチューニングの幅が一気に広がる。今回の試聴車のように純正スピーカーの活用という道も広がった。その結果、スピーカーやシステムでも選択の幅が広がり、チューニングのパラメーターも膨大になった。PREMIシリーズのサウンドセッティング説明書には、実に42種類ものシステム構成図が紹介されている。さまざまなアプローチで目指す音を実現できるのがダイヤトーンサウンドナビの魅力だが、ある程度でも自分がどのような方向を目指すのか見えていないと途方に暮れることにもなる。しかし、サウンドチューニングのテクニックはオーディオの基本セオリーを理解していれば決して難しいものではない。

 MZ100では新たにテストトーン発生機能、設定メモリー数の追加、調整中にFIR状態の音質確認ができる切替ボタンの搭載といった新機能が追加され、チューニングの効率が高まっている。「ネットワーク画面」や「タイムアラインメント画面」をスワイプ動作で切替できる点は画期的と言ってよい。

タイムアラインメント画面とクロスオーバー設定画面がスワイプ操作で変更できるのは画期的

 自分ですべてチューニングをしなくても、ダイヤトーンサウンドナビは車種別データに基づく簡易プリセットが可能で、とりあえずは一定水準の音質は確保できる。「CLUB DIATONE(クラブ ダイヤトーン)」のWebサイト(http://www.mitsubishielectric.co.jp/carele/club-diatone/)でも簡易プリセットデータを公開している。

 しかし、サウンドチューニングは理屈と結果が必ずしも一致しないことが多い。「これでよいはず」と設定してもスパッと狙いどおりの結果にはならない。経験されている人は同感していただけると思うが、目指す音を探りあてるためには何度も試行錯誤を繰り返す長い道のりが必要だ。

 このようなサウンドチューニングのプロセスで求められるのは、今出ている音をどう評価し、判断するかという能力だ。これにはセンスや多数のシステムを聞いた経験が求められる。ダイヤトーンサウンドナビの能力を生かし切るためには専門店の門を叩いてアドバイスを受けるのが近道だ。専門店の仕事の神髄は、求めるサウンドを最小の時間とコストで実現することにある。最終的な到達点が同じであっても、専門店の力を借りれば近道を通って余計なコストを支払わなくて済むこともある。もちろん、取り付けや配線といった一般ユーザーにとっては難しい加工作業も専門店が最も得意とするところだ。

 三菱電機・ダイヤトーンはこのような「取り付けた後のフォロー」にとても力を入れている。製品の持つ性能を生かすためには当然のことだ。クラブ ダイヤトーンのWebサイトには「ダイヤトーン認定店」「音質調整店」のリストが掲載されている。全国の販売店に働きかけて販売店デモカーを整備して、そのデモカー情報やデモカーよるイベント情報も掲載されている。このような努力は高く評価できる。よりよい音を手にいれるためのステップとして参考として頂きたい。

ダイヤトーンサウンドナビは“理想のナビ”か

 今回から搭載された機能の1つに「Pure Audio Mode」がある。オーディオ再生時に地上デジタル放送のチューナーに対する電源供給を止める機能だ。一般的なAVナビに搭載している地デジチューナーは常にバックグラウンドで動作を続けており、受信するためのノイズ輻射だけでなく、4×4チューナー動作による消費電流の影響も少なくない。電源を切ることで地デジが表示されるまでの時間は長くなるが、TVを頻繁に見ないのであればノイズの影響を排除し、消費電力が減少することで電源を強化したのと同じ効果がある。

 これはダイヤトーンサウンドナビが細部まで作りこまれた1つの例であるが、カタログにはこのような改良点が数多く記載されていてたいへん興味深い。まさに執念を感じる造りこみだ。

Sound Settingメニューの一部。上下のフリック操作で項目が選べる。Pure Audio Modeのメニューも見える

 このようにたいへん完成度の高まった新サウンドナビではあるが、一方でいくつか注文をつけたい部分もある。

 カーナビの使い勝手や画面表示のクォリティは大幅にステップアップしたが、時計、到着予想時刻など画面内にある一部の文字が小さく、とっさに確認しにくい場合がある。また、案内画面、ランドマークといったインターフェースのデザインに一層の洗練を望みたい部分も残っている。VICS WIDEに対応していない点も残念だ。いずれも慣れで解消できるレベルで実用上に問題があるとは言えないが、せっかくAVナビのトップレベルに並ぶところまで到達した以上は、より突き抜けた性能アップを望みたい。

よく整理された画面ではあるが、到達予想時刻や時計などに文字が小さい個所がある

 オーディオについては音質、調整機能ともにまったく不満はないが、ハイレゾ音源のネイティブ再生、AndroidスマートフォンのMTP接続、BluetoothのApt-X対応、CDを録音する「ミュージックフォルダ機能」の高スペック化など、メディア対応力については強化を望みたい部分がある。

 ダイヤトーンサウンドナビはオーディオの名門である三菱電機・ダイヤトーンが渾身の力を込めてチャレンジした意欲作で、オーディオ性能とナビ機能が非常に高いレベルでバランスした秀作だ。低価格化が進む市販AVナビのなかで、その絶対的な音質とスピーカーのポテンシャルを引き出す能力、そしてアップデートされたナビ機能は十分に価値がある。今回のナビ機能アップにより、幅広いユーザー層の支持を得ることができるだろう。

Photo:安田 剛

三宅 健