特別企画
高橋敏也の「バトラックス スポーツ ツーリング T30」で走ってみた in 伊豆!
ブリヂストンのモーターサイクル用新型スポーツツーリングラジアルタイヤ
(2013/1/7 15:14)
ブリヂストンが2012年12月14日に発表したモーターサイクル用新型スポーツツーリングラジアルタイヤ「BATTLAX SPORT TOURING T30(バトラックス スポーツ ツーリング ティーサンマル)」。バトラックスはオンロード用モーターサイクルタイヤのプレミアムブランドで、ツーリング走行用からレース用まで、また小型バイク用から大型バイク用まで幅広く製品をラインアップしている。
発売は2月からとなるが、2012年12月に試乗する機会があったので、本誌でトヨタ「86(ハチロク)」の長期レビューを行っている高橋敏也による体験記をお届けする。
「これがバイクだったらなあ」と、つぶやくと……
不肖・高橋、かれこれ30年以上モーターサイクル、すなわちバイクに乗ってきた。北海道から上京して、真っ先に向かったのが上野と秋葉原である。貧乏学生ではあったが、バイクとパソコンは私にとって必須アイテムだったのである。それから30年、この2つのアイテムを私は手放したことがない。
さて、本サイトは基本的にクルマを扱うサイトである。そんなところで原稿を書いている都合上、たまに難題に出会ったりもする。普段はオートマ車に乗っているのに、体験走行ということでマニュアル車を運転しなければならないといったことだ。もちろんかなり戸惑うし、うまくも運転できない訳だが、そんな時には必殺の言い訳がある。そう、自分の技術のなさを棚に上げて「これがバイクだったらなあ」と、つぶやくのである。
「バイクならうまく運転できるのに」と言っているように聞こえるが、もちろんそんなことはない。私は30年間、ただ単にバイクに乗り続けている「だけ」なのだ。目を見張るテクニックがある訳でも、バイクに対する造詣が深い訳でもない。それでも「バイクなら」とか言うのは、もはや負け惜しみの領域に入っているのかも知れない。
時として言い訳は、巨大なブーメランとなって自分に返ってくる。ある日のこと、編集部から連絡があった。「敏也さん、バイクの仕事です」という、とてもありがたい電話である。「いつも“バイクなら、バイクなら”って言ってたじゃないですか」と、ダメ押しまであったりする。ああ、おっさんはただ単に長いことバイクに乗り続けているだけなのに、どうしよう。
スポーツツーリングラジアルタイヤを体感せよ!
2012年12月14日、伊豆のサイクルスポーツセンターに到着したおっさんは緊張していた。当日、ブリヂストンが2月に発売するモーターサイクル用スポーツツーリングラジアルタイヤ「バトラックス スポーツ ツーリング T30」の取材をするというのは、特に問題ない。問題は商品説明会の後に開催される、試乗会である。発表内容をまとめるだけでなく、実際に走らなくてはならないのだ。
ちなみに2月1日から順次グローバル展開されるT30は、現行商品であるBT-023に代わるものだ。「バトラックス」シリーズと言えば、ブリヂストンを代表するバイク用タイヤのブランド。特にオンロードカテゴリーにおいては、メインブランドと言っていい。
また、T30の「スポーツツーリング」というジャンルは、ライフ性能(耐摩耗性)を重視しつつも、スポーティな走りを実現するグリップ性能を確保している。ツーリングのような長距離走行を乗心地よく走り、状況によっては攻める走りもできる。ツーリングなどでは雨にも降られるだろうから、ウェット性能も充分に確保されている。どちらかというとオールマイティ、幅広いニーズをカバーしているタイヤなのだ。
現行商品であるBT-023はすでに高い評価を得ており、そのリプレースともなれば、ブリヂストンの自信作であることは間違いない。説明会ではフロントタイヤが新しいコンパウンドになったこと、前後共に新しいパターンが採用されたことなどが紹介された。そして重要な点は、T30ではBT-023と比較してドライハンドリング性能が大幅に向上したということだ。
このドライハンドリング性能とは、具体的に言うと軽快性であり、ライントレース性だという。狙ったラインをスムーズに確保できる、そういったイメージでいいだろう。なお、ウェット性能はBT-023と同レベルを確保しており、T30で確保されたドライハンドリング性能とトレードオフされたのはライフ性能だ。もっともBT-023を100とした場合、T30のライフ性能は93となっているとのこと。
私の理解を簡単に言ってしまうと、新コンパウンドとパターンを駆使したT30は、従来品よりスポーツ性能が向上したタイヤということだ。だが、これはあくまで頭で理解したこと。問題はこの説明会が終わったら、そのT30で実際に走らなくてはならないということだ。果たして私は、T30の特徴を体感できるのだろうか?
伊豆スカイラインを颯爽と走り抜けた……のか?
商品説明会の後、各メディアは2つのグループに分かれ、私のいるグループは単独試乗へと向かった。単独試乗というのはT30を履いたバイクで、伊豆スカイラインを走って乗心地などを体感するものである。
ライダーズジャケットとブーツに着替え、ヘルメットとグローブを持って指定された場所に行く。そこには試乗用のバイクが、ズラリと並んでいた。単独試乗の時間は90分、伊豆スカイラインに亀石峠IC(インターチェンジ)から入り、熱海峠ICに向かって、そこで折り返すコースである。公道ということで安全に配慮した走りをするのだが、それはすなわちツーリング走行のシミュレーションでもある。
ここだけの秘密だが、私の中では「これから試乗だぞ!」という理由ではなく、別の理由で緊張感が高まっていた。そう、コースで迷ったりしないか、それが心配だったのである。結果的には基本一本道だったので迷うことはなかったのだが、方向音痴というのはこれだから困る。
さて、ズラリと並んだ試乗車だが、時間は限られているので乗れても2車種である。往路、復路で異なる車種に乗るとして、私は往路にスズキのハヤブサ1300を、復路にカワサキのNinja 1000を選んだ。まず、乗ったことがないハヤブサでニュートラルにT30を体感し、次に普段乗り慣れているNinjaで特徴を探ろうというのだ。
実は現在、私のメインバイクはNinja 1000なのである。本当のメインバイクは旧車であるカワサキ Z1300なのだが、さすがに古いため修理に出たり入った。そこでZ1300の代わりに入手したのが、Ninja 1000という訳だ。なのでNinja 1000なら慣れているので、タイヤの感触に意識を集中できるのである。
まずはハヤブサでスタート。緊張と寒さもあって、とにかく走りは慎重である。それでもしばらく走ればそこはそれバイク乗り、ラインを左右に移動してみたり、カーブであえて車体をオーバーに倒してみたり。第一印象は極めて良好、とにかく扱いやすいタイヤだと感じた。この時点では、まだスポーティな味付けなどは分からない(私の能力不足という話はさておき)。
復路はNinjaである。勝手知ったるマイバイク、全開バリバリで攻めてやる! などとはならない。寒いし、緊張してるし、何より公道なんですからね。運転は自然にできるので、とにかくタイヤの特性に注目しつつ走る。実は私のNinjaは、ブリヂストンのBT-016を履いており、このBT-016はハイパースポーツと呼ばれている。BT-023と比較するとややスポーティなタイヤだが、ではT30と比較した場合にどうか?
正直な話、私にはBT-016とT30の違いを明確には感じられなかった。これが意味するところは、T30のスポーティな部分がBT-016に近いのではということだ。いやいや、そんな気がしただけで、もしかしたら私が単に鈍いだけなのかも知れない。そのあたりは、次に待っている比較試乗で見えてくるのか?
比較試乗会でまさかの出来事がっ!
昼食をはさんで午後からは、比較試乗である。サイクルスポーツセンター内にある、5キロサーキットへ移動し、2種類のタイヤを比較しながら試乗する。一方は新商品であるT30、そしてもう一方は現行商品であるBT-023だ。
現行商品であるBT-023は、繰り返しになるがスポーツツーリングタイヤとして、高い評価を得ている。商品説明会でも分かりやすいように、新商品であるT30とBT-023を比較した話が多かった。そして比較試乗のポイントは、T30のスポーティな要素である。それをBT-023と比較して把握できれば、まあなんとかいったところだ。
だが、何度でも言うが、私は「バイクに乗り続けている」だけのおっさんなのである。2種類のタイヤの微妙な違いを、走って体感できるのだろうかと、内心ドキドキしていたのもまた事実。
ちなみに走るコースは本来、自転車向けの山岳コースである。このためサーキットといっても、一般公道に近い造りとなっている。遠慮なく走ることができる公道といった雰囲気で、スポーティな走りをするには絶好の環境だ。だが、試乗の説明を受けている最中、衝撃的なことが伝えられた。
「鹿に注意!」というのである。午前の部で比較試乗をしたグループの人が、サーキット中央部にある茂みで「鹿」を目撃したというのだ。そこはそれ、鹿さんたちである。いつ何時、コース上に出てくるか分かったものでは無い。走行中に鹿と接触しようものなら、それはも立派な事故である。くれぐれも「鹿に注意」という試乗だ。
比較試乗では5車種が用意されていた(それぞれT30装着車とBT-023装着車があるので、合計10台)。ホンダのCB1300SFとCB400SF、ヤマハのFZ1 FAZER、スズキのバンディット1250F、そしてカワサキのNinja ZX-14Rである。時間の都合上、4車種しか乗れなかったが、まずはバンディット1250Fから比較試乗を開始する。
相変わらずの寒さを感じつつ、鹿への警戒を怠らないようにじっくり噛みしめるように走る。まずはBT-023で走り、バイクを乗り換えてT30で走る。1周約5kmのコースは、高低差やカーブが適度にあって、試乗にはピッタリだ。安全な範囲でスピードも出せるので、加速をしたり、カーブをちょっと攻めてみたりといろいろ試す。
そこで見えて来たのは、走って楽しいのはCB400SF、フィーリングが合うのはNinja ZX-14Rということだ……いやいや、バイクの車種はどうでもいい。注目すべきはタイヤなのだから。でもね、久々に乗ったいわゆる中型バイク、エンジンの回転数を上げられるので、本当に楽しかったんだって。
さて、タイヤの話である。晴天、ほぼ完璧なドライコンディションなので、ウェット性能は分からない。もちろん長距離を走ってこそ見えてくるライフ性能も知りようがない。やはりポイントはドライハンドリング性能の軽快性、そしてライントレース性なのだ。
軽快性やそしてライントレース性、このあたりに関して「これだ!」という明確な違いは見つからなかった。だが、BT-023からT30に乗り換えた際、しっかり感じ取ることができたこともある。それは「狙ったラインにスパッと入る」感覚と、「もう少し攻めてみようかな」と思わせる感覚だ。
バイクに乗っている人なら分かると思うが、コーナーを走り抜けようとする際、自分が狙った(想像した)ラインと、実際のラインには誤差が生じる(運転がうまくなればなるほど、この誤差は小さくなる)。大きくラインを外れた場合は修正が必要となりストレスだが、狙ったラインをトレースできると気持ちがいい。T30で走った時には、車種に関わらず、この気持ちのよさを何度も感じることができた。
気持ちよく走れれば、もう少し上を狙ってみようと思うのは自然な流れである。結果としてライダーはアグレッシブになることができる。まあ、実際には「攻めの走り!」という訳にもいかないだろう。それでもT30はライダーを前向きにしてくれるタイヤなんじゃないかなと、そんなことを感じた。
緊張と興奮、さらに鹿を探しながらの比較試乗も無事に終え、お世話になった皆さんにお礼をいいつつ帰路につく。その帰り道、ふと思ったりするのである。「T30は2月1日に発売か。BT-016から履き替えちゃおうかな……」とか。その目的はもちろん、久々のロングツーリングである。春になったら峠をいくつか越えるロングツーリングに出るのもわるくない。T30ならいい相棒になってくるだろうし。