特別企画
【特別企画】車両協調制御を行う新型クラウンのカーナビ「HDDナビゲーションシステム」
アイシンAWが開発。地図連動、バックカメラ連動を実施
(2013/5/23 00:00)
2012年末にデビューした新型トヨタ「クラウン」。トヨタブランドのフラグシップモデルとなるだけに、先進装備の充実には目を見張るものがある。タッチパネル式のエアコンパネルなども目新しい部分だけれど、今回、注目するのは上級グレードに標準装備となる「HDDナビゲーションシステム」だ。8型ワイドの大型タッチパネルモニターを採用するとともに、ナビ操作やソース切り替えのボタンが段差なくフラットに仕上げられているなど、そのルックスだけでも「さすがは高級車向けモデル!」と思わせるデキとなっている。
このナビの製造を担っているのはアイシン・エィ・ダブリュ(アイシンAW)。同社はATやハイブリッドシステムなどトランスミッションのパイオニアとして知られているが、同時にカーナビゲーションシステムにおいても高いシェアを誇っている。といっても、純正装着およびOEM供給がほとんどのため一般ユーザーと直接の接点がなく、トヨタをはじめレクサスやアウディ、さらにイクリプス(富士通テン)の一部モデルなど、知らず知らずのうちに使っている人の方が多いハズだ。ただ、最近ではスマホ向けナビアプリ「NAVIelite(ナビエリート)」をリリースしているため、そちらで知っているという人もいるのではなかろうか。
ちなみに、同社がナビゲーションの開発に着手したのは1985年、初の商品は1992年でわりと後発メーカーの位置づけ。ただ、このセルシオに搭載されたモデルは世界初の音声案内機能付きと、一躍トップレベルのナビゲーションシステムに肩を並べることになる。その後もAV一体型をはじめ道路情報を元にシフト制御を行う「ナビ協調シフト制御」、地図差分配信システム、ナビ協調ブレーキアシストなど、世界初の機能を持ったモデルを次々と世に送り出しているのだ。
と、概略を説明したところで新型クラウンに話を戻そう。この14代目クラウンはベーシックグレードは標準でラジオレス、ミドルグレードにおいてもオプションでラジオレスが選択できるようになった。これは車格を考えれば「少しでも安く買いたい」人向けではなく、ディーラーオプション(DOP)や市販ナビメーカー製など、ユーザーの選択肢を広げたものといえる。確かに最新機能の投入は市販モデルが先行するのが一般的だし、前のクルマで慣れた地図や操作感を変えたくない、なんて場合には歓迎されそうな設定だ。
だが、逆に純正(メーカー装着)ならではのメリットもある。すぐに思いつくのはフィッティングやら、一般的な2DINナビの7型を超える大型モニターの採用といったところだけれど、このあたりは車種別モデルを用意するなど市販ナビも進化している。ただ現状、新型クラウン対応の大画面モデルはリリースされておらず、8型ワイドモデル「HDDナビゲーションシステム」が新型クラウンユーザーの標準ナビゲーションになっていくだろう。
今回、協調制御の部分などを含め、純正装着ゆえに実現できるポイントを、アイシンAWでナビゲーション(車両工場装着品)の開発統括業務を担当するVIT事業本部 製品統括部 主査の小林政人氏と、営業を担当するVIT事業本部 営業部 営業管理グループの清水崇典氏にうかがった。
新型クラウンが搭載しているのは、2012年1月に発表されたレクサスGSから採用された2011年仕様と呼ばれるモデル。この仕様に用意された“純正ならではの機能”は下に挙げた6項目があると言う。
1.高精度ロケーション
2.ナビ協調シフト制御
3.ナビ協調ブレーキアシスト制御
4.逆走注意案内
5.地図差分配信(マップオンデマンド)
6.プローブ交通情報
同社のナビは「フラグシップ」「ハイグレード」「スタンダード」の3タイプが用意されており、例えばスタンダードはこの中の地図差分配信と逆走注意案内のみ採用する、といった差別化が図られている。もちろん、新型クラウンに装着されているのはフラグシップモデルで“全部入り”。それをベースにパネルまわりをはじめ起動音やオープニングロゴ、そしてデータまわりを専用にチューニングしたものとなる。
地図差分配信とプローブ交通情報は市販ナビにも採用されているおなじみの機能。G-BOOKによる通信機能が利用できるため、手間いらずだし便利ではあるものの、純正ならでは、とまではいえない。注目したいのは上の4項目だ。
高精度ロケーションが実現するカーナビ協調機能
カーナビの場合、自車位置を測位するためにGPSと車速、それに回転や上下角を判断するジャイロセンサーを利用している。スマホを使ったナビにはマネのできない精度の高さは、これらによるハイブリッド測位のたまものだ。だが、高精度ロケーションではバックカメラの映像と専用の地点情報を併用することで、もっとピンポイントで自車位置と道路の関係を判断することができるようになった。それを利用しているのが2と3の機能だ。
ナビ協調シフトはコーナーなどでナビの情報を元にATの制御を行う機能。具体的には自車位置の前方にコーナーがあった場合、道路形状を元にその大きさを3段階に分類。理想車速を計算するとともにブレーキやアクセルなどドライバーの操作を検知、シフトダウンやシフトホールドを行うというもの。これによりコーナー手前でアクセルオフした際のムダなシフトアップや、ブレーキや再加速時のムダなシフトダウンが抑えられ、スムーズなドライブを実現すると言う。
もう1つ、「合流退出アシスト」という機能も備わっている。これは高速道路や有料道路をターゲットにしたもので、地図データとともにバックカメラを利用して本線と分岐・合流レーンをわける太い破線を認識。分岐時はシフトダウンにより減速を、合流時にはシフトホールドにより加速をサポートしてくれる。
従来の自車位置測位と地図データだけでは車線移動を完璧に認識するのは難しいが、カメラ映像を併用することでより確実なものとしているのだ。三菱製の市販ナビもバックカメラを使ってレーン逸脱を検知する機能を持っているが、あくまでも警告のみ。シフトという車両制御にまで介入できるのは、専用チューニングが可能な純正ならでは、というわけだ。
ナビ協調ブレーキアシスト制御は、狭い道路からバイパスなど複数車線を持つ道路に出る際、一時停止制限のある場所で安全に停まれるようにサポートする機能だ。こちらもバックカメラを活用し横断歩道(一時停止直後にある場合)を示す「ひし形」などを認識、データベースと照合することで自車位置を正確に把握。画面上に一時停止があることを表示するとともに音声で案内し、減速操作が行われない場合は音声による警告が行われる。クラウンならほとんどのグレードで標準装備となるVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management)装着車ならブレーキ圧力を高めるブレーキアシストも作動し、より安全性を高めるという仕組みだ。
実際にクラウンを走らせてみると、その介入は思いのほか穏やかでナチュラル。実際、何も予備知識を持っていなかった往路ではまったく気づかず、話を聞いての復路で「ああ、これがそうなんだ!」と思い当たったぐらい。あまりに自然で的確なシフトチェンジをしてくれるため「最近のATは賢いね」なんて思ってたら、それはナビのサポートあってこそ実現したものだったのだ。
ナビ協調ブレーキアシスト制御は、一般道でのチェックだったため、アシストが効くまで試すことはできなかったが、ナビの有効活用および予防安全という意味では間違いなく有効な機能となるハズだ。ただ、現状ではデータ整備との兼ね合いもあり「東京23区をはじめ政令指定都市における片側2車線以上の道路に進入する一時停止交差点」のみと限られてしまうのが残念なところ。
安全運転をサポートするさまざまな機能を搭載
4番目の逆走注意案内は最近増えつつある高速道路での逆走を検知、注意喚起するもの。こちらはGPSと車速、ジャイロセンサーと従来からある自車位置測位機能を利用、本線走行中や料金所、インターチェンジ、ジャンクションなどでの分岐や合流、SA/PAの進入路などでの逆走を検知している。
また、純正ならではの機能ではないため上のリストには載っていないが「DSSS運転支援機能」なんてのもある。これは警察庁と社団法人新交通管理システム(UTMS)協会が推進しているプロジェクトで、VICS光ビーコンを利用して安全運転をサポートするもの。まだ、東京都と神奈川県の18カ所のみとごく一部にしか設置されていないが、今後の進展次第では標準的な機能となっていきそう。こんな機能を先行して搭載できるのはある意味、純正の強みといえるかもしれない。
最近では「カーナビなんてスマホで十分」なんて声をよく聞くけれど、今回紹介したような機能を実現できるのは車載の、それも純正ナビにしかできないワザ。安全性や快適性を含めて考えれば、そのメリットはかなり大きいといえるハズだ。