特別企画

【特別企画】奥川浩彦の「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」撮影ガイド(第1回 撮影編)

基本的なサーキット撮影のテクニックから、コンテストの攻略法などを解説

 2014年も「WTCC(世界ツーリングカー選手権)JVCKENWOOD 日本ラウンド」が鈴鹿サーキットで開催される。このWTCC開催にあわせ、4年連続でCar Watch、デジカメWatchが主催の「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」が実施されることになった。

 2014年は8月に鈴鹿サーキットで行われたSUPER GT第6戦で「ミシュラン SUPER GTフォトコンテスト」、10月に富士スピードウェイで行われたWECで「WEC(世界耐久選手権)フォトコンテスト」が開催されているので、今年3回目のフォトコンテスト開催となる。なお、「WEC(世界耐久選手権)フォトコンテスト」の応募は10月27日まで。WECで撮影された方は期日までに応募いただきたい。

応募先[Que!]WEC(世界耐久選手権)フォトコンテスト
https://que.impress.co.jp/theme/index/detail?theme_id=784

 今年のWTCCが過去3回と大きく異なるのは、鈴鹿サーキットのフルコースで開催されることだ。これまでは逆バンク、ダンロップからショートカットして最終コーナーに戻る東コースで争われていた。今年はフルコースとなったことで、ヘアピン、スプーン、130R、シケインと、鈴鹿サーキットのオーバーテイクポイントでのバトルが期待される。

 フォトコンテストの詳細、「WTCC(世界ツーリングカー選手権)JVCKENWOOD 日本ラウンド」の詳細は以下のリンク先を参考にしていただきたい。

WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140926_668477.html
WTCC(世界ツーリングカー選手権)JVCKENWOOD 日本ラウンド
http://www.suzukacircuit.jp/wtcc_s/

流し撮りとシャッター速度

 フォトコンテストの開催にあたり、今年もサーキット撮影について紹介したい。サーキット撮影と言えば流し撮りだ。流し撮りは動く被写体をカメラで追いかけながらシャッターを切る撮影方法で、上手く撮れると被写体は静止し、背景が流れることでスピード感を表現できる。

2013年のWTCCで撮影した画像。シャッター速度は1/30秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
2013年のWTCCで撮影した画像。シャッター速度は1/125秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
2013年のWTCCで撮影した画像。シャッター速度は1/30秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)
2013年のWTCCで撮影した画像。シャッター速度は1/60秒(クリックすると1920×1080ドットの写真が開きます)

 次に、以下の4枚の画像を見比べていただきたい。これらは同じ場所でシャッター速度を1/500秒、1/250秒、1/125秒、1/60秒と変化させて撮った画像だ。手前の芝、奥のスタンド、タイヤ、ホイールなどがシャッター速度によって異なって見える。

シャッター速度1/500秒
シャッター速度1/250秒
シャッター速度1/125秒
シャッター速度1/60秒

 1/500秒では速さは感じられない。1/250秒になると少し動きが出てきて、1/125秒になるとだいぶ速さが増し、1/60秒になると、かなり速さの感じられる画像となった。このように、マシンはほぼ同じ速度で走っていても、シャッター速度を変えることでマシンの速さの伝わり方に差が出る。

 シャッター速度を遅くすると速さを表現できるが、シャッター速度は遅いほどよいかと言うとそうでもない。シャッター速度を落とすと被写体がブレて失敗する確率も増える。初めてサーキット撮影をする方はシャッター速度1/250秒あたりから撮り始め、慣れてきたら徐々にスローシャッターに挑戦していただきたい。

 下の2枚の画像ではどちらの方が速さを感じられるだろうか。筆者は広角で撮った画像よりもアップで撮った画像の方に速さがあるように感じる。この2枚は元は同じ画像で、シャッター速度を1/125秒に設定して広角で撮った画像(写真右)から、マシンの部分だけをトリミングしたのがアップで写っている画像(写真左)だ。同じ場所で同じマシンを撮っても、画角が異なると速さの伝わり方に変化があることが分かる。

マシンの部分だけトリミングした画像
元画像は広角レンズでシャッター速度1/125秒で撮影

 続く2枚は、同じ逆バンクのイン側からシャッター速度1/125秒で撮影したものだ。F1はSUPER GTより走行するスピードが速いので、同じシャッター速度で撮った場合には被写体の動きがF1の方が速い(より多く移動している)ため、背景が大きく流れて速さが感じられる画像となる。

逆バンクでF1をシャッター速度1/125秒で撮影
同じ逆バンクでSUPER GTをシャッター速度1/125秒で撮影

 このように、シャッター速度はレンズ、マシンの速度などさまざまな要因で変化させる必要がある。筆者自身は1/125秒を基本とし、そこから条件によって上げ下げして撮影している。さいわい、デジタルカメラは撮った画像をその場で確認できるので、それを見て調整すればよいだろう。

 Car Watchのフォトギャラリーに掲載しているフルHDの画像は、主にサーキット撮影初心者の撮影時の参考になるように、Tv(シャッター速度)、Av(絞り数値)などのEXIF情報を残してある。レンズの焦点距離などはトリミングをしているのであまり参考にならないが、初心者の方はサーキット撮影の前に確認しておくとなにかしら手助けになるだろう。

2013年WTCC日本ラウンドフォトギャラリー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20130926_616920.html

流し撮りの注意点

 流し撮りをするときに筆者が心掛けているのは、被写体のどこか1点に集中することだ。F1などのフォーミュラマシンの場合はドライバーのヘルメット、SUPER GTなどのツーリングカーの場合はフロントのエンブレムやドアに書かれた文字の1つを目で追うようにしている。

 撮影時のスタンスは、シャッターを切る位置に対して正対するようにしている。野球やゴルフのインパクトの位置関係に近い。その体勢から身体をひねって近付いてくるマシンをファインダーにとらえ、正面でシャッターを切り、フォロースルーをするというイメージになる。

 レンズを振るときはスムーズに振り抜くことを重視している。実際にはマシンの加減速もあるので本能的にマシンに合わせて調整をするのだが、多少のズレは無理に修正せず振り抜いた方が被写体ブレが少ないような気がしている。

 フレーミングは「ゆとりを持ちつつ、できるだけ大きく」と相反することを考えている。被写体に集中するためにはゆとりを持ってフレーミングしたい。左右カツカツにフレーミングすると頭が切れないようにと、レンズを振りながらフレーミングを気にしてしまう。そうなると1点に集中できなくなって被写体ブレが多くなるような気がしている。フレーミングにゆとりがあれば、多少レンズの中心からズレたとしてもフレームアウトを気にすることなく撮影に集中できる。

 その半面、被写体をファインダー内にできるだけ大きく映した方が被写体ブレが少なくなると思っている。例を挙げると、次の2枚はマシンを普通にフレーミングして撮った画像と、背景を大きくとらえマシンを小さくフレーミングした画像だ。マシンを小さくフレーミングすると被写体ブレは大きくなる。これは極端な比較だが、できるだけマシンを大きくフレーミングした方が被写体を確実にとらえることができると思われる。これらの結果として「ゆとりを持ちつつ、できるだけ大きく」フレーミングをすると、流し撮りの成功率が上がると考えられる。

マシンを大きくフレーミングすると被写体ブレが減り、流し撮りの成功率は上がる
マシンを小さくフレーミングすると被写体ブレが増えて失敗することが多くなる

正面から撮影

 正面からの撮影は流し撮りより難易度は低い。ただし、焦点距離が長めの望遠レンズが必要になることが多い。各コーナーの様子は次回以降の撮影ポイント説明で紹介するが、多くの場所で500mm(35mm判換算)のレンズを使用しても、トリミングをしなければ1台のマシンを画面いっぱいに撮ることはできない。

 正面から撮る場合、比較的簡単なのは真正面から高速シャッターで写し止める方法だ。シャッター速度の目安は1/500秒から1/1000秒くらい。撮影方法は撮影ポイントで待ち伏せするのではなく、撮りたいポイントの少し手前からマシンをファインダーに入れ、シャッターボタンを半押しにしながら小さくレンズを振ってマシンに追従し、撮りたいポイントに来たらシャッターを切ることだ。こうすることでカメラにマシンが近付いてくることを知らせることができ、ピントが合う確率が高くなる。正面からの撮影では一脚を使用すると微調整がしやすくなり、手持ちより楽に撮ることができる。

 レンズの長さが足りない場合はいくつかの対処法がある。1つ目はトリミングだ。現在のデジタルカメラの多くは高解像度なので、トリミングしてもそこそこの画像になるはずだ。次の画像の元サイズは5184×3456ピクセルだが、トリミングしても2700×1800ピクセルの画像を残すことができる。

元画像(左)は5184×3456ピクセルで撮影。マシンを中心にトリミング(右)しても2700×1800ピクセルの画像を残すことができる(掲載写真はどちらも800×533ピクセル)

 2つ目の方法は複数台のマシンをからめて撮影することだ。WTCCは複数台のマシンのバトルが多い。特にスタート直後は大混戦となる。次の画像は同じ位置から同じレンズで撮っているが、先ほどの単独走行の絵とは異なる印象となっている。

同じ位置から同じレンズで複数台のマシンを撮影

 3つ目はフレーミングでバランスを取ることだ。マシンを画面いっぱいに撮る必要はないので、全体の構図でバランスを取れば、巨大な望遠レンズがなくても正面から撮影することは可能だ。

スプーンカーブの進入
スプーンカーブ1つ目
WECで撮影した富士スピードウェイの13コーナー

正面から撮影の応用

 高速シャッターで真正面から撮るのは少し慣れれば簡単なので、慣れたら次は応用だ。クリッピングポイントの少し前後で徐々にシャッター速度を落として撮ると、動きのある写真を撮ることができる。次の2枚の画像はスタート直後の混戦をシャッター速度1/500秒で写し止めたものと、レース展開が進んだところでシャッター速度1/60秒で撮ったもの。このようにシャッター速度を変えると、同じ撮影ポイントでも印象の異なる絵が撮れる。

スタート直後の混戦をシャッター速度1/500秒で撮影
シャッター速度を1/60秒に落として撮影

コンテストの攻略法

 ここまではサーキット撮影の基本的なところを紹介した。では、実際にコンテストの入選作品をいくつか見てみよう。次の3点の作品は2013年のWTCCフォトコン大賞、バトルロイヤル賞、格闘技賞を獲得した写真だ。

フォトコン大賞、撮影者:pocariさん、応募者コメント:「おしくらまんじゅう」伊沢選手、押されて泣くな PENTAX K-30 / DA★ 300mm F4 ED [IF] SDM / 1/400秒 / F5.6 / ISO100 / 2649×4000ピクセル
バトルロイヤル賞、撮影者:kazuyoppyさん、応募者コメント:レース2、これから激しいバトルが始まります。 Canon EOS-1D X / EF 70-200mm 2.8L IS USM+EF 2.0x / 1/320秒 / F5.6 / ISO100 / 3114×4671ピクセル
格闘技賞、撮影者:takasakuさん、応募者コメント:引くに引けぬ! Canon EOS Kiss X6i / TAMRON SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD / 1/250秒 / F8 / ISO100 / 1728×2592ピクセル

 3つの作品に共通するのは、アイデア(センス)とシャッターチャンスだ。強烈なスローシャッターでもなく、500mm、600mmといった超望遠レンズを使用しているわけでもない。その点では、もの凄い機材を持っていない人でも入選できる可能性があるということだ。

 次は横浜ゴム賞、横浜ゴム特別賞の作品3点。Takashi Azumaさんの作品は先ほどの3点と同じくアイデア(センス)とシャッターチャンスが光る作品。残りの2点はシャッター速度1/80秒、1/160秒と流し撮りのテクニックが感じられる作品だ。

撮影者:Takashi Azumaさん、応募者コメント:「Rolling Start with YOKOHAMA&Audience」沢山の車と観客と看板 Canon EOS 5D Mark III / SIGMA APO 50-500mm / 1/200秒 / F11 / ISO100 / 3787×5680ピクセル
撮影者:route4484さん、応募者コメント:ガチンコバトル。2コーナーでのバトルシーン 2台がドッキングしてます。 NIKON D3 / 500mm / 1/80秒 / F4.5 / ISO / 2109×2812ピクセル
撮影者:zeeemaさん、応募者コメント:ギリギリの勝負でもクラッシュしない。格闘技の魅力。 Canon EOS 7D / SIGMA APO 70-200mm EX HSM / 1/160秒 / F7 / ISO100 / 3456×5184ピクセル

 サンディスク賞の3点の作品は、審査基準が「スピード感のある流し撮り。」なので、シャッター速度1/20秒、1/25秒、1/8秒と超スローシャッターに加え、アイデアとセンスが光る力作となっている。機材もテクニックも超一流という方の作品揃いだ。

撮影者:benkeiさん、応募者コメント:Techhnical turn! Canon EOS-1D Mark III / EF 500mm F4 / 1/20秒 / F10 / ISO50 / 2475×3712ピクセル
撮影者:ぺーすのーとさん、応募者コメント:『追いついてみせる』 NIKON D4 / 600mm / 1/25秒 / F16 / ISO / 2746×4126ピクセル
撮影者:まっちぃさん、応募者コメント:stripe Canon EOS-1D X / EF 400mm F2.8L×1.4 / 1/8秒 / 20 / ISO50 / 2933×4400ピクセル

 フォトコン大賞、バトルロイヤル賞、格闘技賞、横浜ゴム(特別)賞、サンディスク賞の9作品をチェックすると、それぞれの賞に方向性が感じられるだろう。数百点の応募作品のなかから選考されるので、単独で走るマシンを普通に流し撮りしただけでは入選は難しい。筆者自身、30年ほど前に何度かフォトコンテストに応募して入選したこともあるが、多重露光(同じマシンを1ラップ待って2回撮影)したり、タイトル名に凝ったりした記憶がある。コンテスト受けする写真を狙って撮るのも1つの手法だ。とは言え、イメージどおりの絵を撮るにはそれなりのテクニックが必要なので、この記事で紹介した基本的な撮影方法を参考にした上で、アイデア、センス、シャッターチャンスを生かして魅力的な作品を応募していただきたい。

 過去の入選作品は以下の関連記事で確認できる。
2013年「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」結果発表
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20131209_626843.html
2012年「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」結果発表!!
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20121221_579932.html
2011年「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」結果発表
http://www.suzukacircuit.jp/wtcc_s/

 今回のWTCCフォトコンテストは、上記の賞とキッズ賞、コンデジ賞が継続される。新たに新設された賞は、シケイン賞、ヘアピン賞、鈴鹿サーキットクイーン賞。2013年までのスマホ賞はスマホレタッチ賞に変更された。フルコースで開催されることをうけて新設されたシケイン賞とヘアピン賞に関しては、次回以降の撮影ポイントの説明で紹介するとして、鈴鹿サーキットクイーン賞の攻略法を筆者なりに考えてみたので紹介しよう。

 鈴鹿サーキットクイーン賞と聞くと、レースクイーンを撮影して応募するのかと思われそうだが、この賞の審査基準は「鈴鹿サーキットクイーンの中川早織さんが選ぶ1枚。」というなかなか変わり種の賞だ。

 鈴鹿サーキットクイーンの中川早織さんは元々カメラ好きで、サーキットクイーンのお仕事がない日は自前の一眼レフカメラを持ち、鈴鹿サーキットのスタンドで撮影をしている。ブログを見ると、ときには名阪スポーツランドまで遠征してモトクロスの撮影をしていることも分かる“モータースポーツカメラ女子”なのだ。

中川早織さんのブログ「さっちょちょ、!」
http://ameblo.jp/saochan0919/
「ミシュラン SUPER GTフォトコンテスト」撮影ガイド(前編 機材編)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/special/20140804_660581.html

鈴鹿サーキットで撮影をする中川早織さん(左)と筆者(右)

 以前にも「ミシュラン SUPER GTフォトコンテスト」の撮影ガイドで中川早織さんに協力をいただいた。一緒に撮影した経緯もあり、彼女の撮った画像を数多く見た印象から、鈴鹿サーキットクイーン賞の攻略法は「スローシャッターの流し撮りとアップ」だと思っている。

 彼女が撮った画像は、1/60秒、1/80秒といったスローシャッターによる流し撮りが多い。加えてマシンがフレームアウトするほど大きくアップに撮る傾向がある。もちろん、彼女自身が撮りたい絵と賞で選ぶ絵の方向性が必ずしも同じとは限らないので、真面目に受け止めていただく必要はないが、鈴鹿サーキットクイーン賞を狙う方は参考にしていただきたい。

 次回は鈴鹿サーキットの東コースの撮影ポイントについて紹介する。

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。