特別企画

【特別企画】車高アップで雪道に最適という「CHUHATSU PLUS MULTI ROAD」装着プリウスに乗ってみた

約25mm車高アップのハイライダースプリング。雪の北海道で試乗

CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASCを装着した3車。このほかプリウスα用とコペン用が発売中、またカムリハイブリッド用が発売予定となっている

 唐突ではあるけれど「スプリング」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。「春」だったり、ホットを前に付けて「温泉」だったりするかもしれない。が、そこはCar Watchだからして、当然サスペンションの構成部品である「ばね」に目を向けてほしい。

 で、このスプリング、チューニングアイテムとして考えるなら、基本的には車高を落とすダウンスプリングが一般的。まぁ、お金をかけてまでサスペンションを変えようとするのは、ほとんどがスポーツカー系のユーザー。目指すところは“走り”や“ルックス”の向上なのだから、ローダウン方向になるのも当然っちゃ当然。

 しかし、である。そんな認識を打ち破ったのが中央発條が製造し、SPKが販売する「CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC」だ。

 会社名だとあまり耳慣れないかもしれないけれど、中央発條はトヨタ自動車を筆頭に自動車メーカー各社に純正スプリングを供給する大手サプライヤー。そのアフターマーケット向けブランドが「CHUHATSU PLUS」というワケだ。同ブランドからは86向けとしてスポーツタイプをラインアップするほか、アルファードなどにもローダウンスプリングをリリースしている。86向けの「CHUHATSU PLUS SPORTY」は、“高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記 その6(http://car.watch.impress.co.jp/docs/longtermreview/86/20130909_614305.html)”でも紹介しているので、興味があればリンクを辿っていただきたい。

 ちょっと話がそれてしまったが本題に入ろう。CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC(以下、マルチロードSASC)は、装着すると車高が約15mm~30mmほどアップする、いわゆるハイライダースプリング。ラインアップは現状「プリウス(30系)」「プリウスα」「86」「アクア」「コペン」と、ハイブリッド車とスポーツカーといったところ。ランクルやジムニーなどクロカン4駆ではメジャーなアイテムだけど、こと乗用車用となるとあまり例がない商品だろう。

 どの辺りに需要があるのかと話を聞いてみると、どうやら積雪地を中心としたユーザーからの要望が多いらしい。なるほど、と納得しかけたものの関東に住んでいる身としては今ひとつピンとこない、なんて思っていたら「それなら実際に試してみましょうよ」ってことに。師走を迎え慌ただしい編集部の面々からの視線を浴びつつ、爆弾低気圧に追われるように一路北海道へと向かったのだった。ホットなスプリングにも期待しつつ……。

 北海道に着いてプリウスのレンタカーを借り、まずノーマルで走ってみる。路面はわずかに雪が残る程度で、気温が0度を上回っているらしくベシャベシャな状態。ほとんど、単なるウェットって感じで、当たり前ながら特に問題もなく走ることができた。クルマの個体もそれほどヤレを感じさせることはなく、乗り心地も上々だ。

 明けて翌日。まず向かったのが、石狩市にあるマルマン・モーターズ。プリウスはもちろん、すでに多くの86に同スプリングを装着しているというショップだ。

 路面はといえば低気圧の余波で昨日から一変。夜半に雪が降り、明け方は氷点下になったため、溶けたところに雪が積もってそれがまた凍った状態。文章だと分かりづらいけど、轍はもちろん、その中央部も凍ってガリガリになっている。FFとはいえスタッドレスを履いているから普通に走れるんだけど、腹下を擦っている音が絶えず聞こえてニギヤカだ。なんて笑っていられるうちはイイのだけれど、やはり少し心配にもなってくる。ほかのクルマも走っているのになぜそんな状態なのかと思えば、実はプリウスは最低地上高が低いとのこと。調べてみれば一般的な乗用車では165mm程度なのに対し、プリウスは140mmしかない。相手は雪(というか半分氷だけど)だからクルマにそれほどダメージはないものの、精神衛生上とてもよろしくない感じがする。

雪が降った後、除雪されていないと道路はこんな状態。道路を横切って駐車場に入ろうとするだけで車高の心配をする必要がある
街中だとマンホールだけ雪が溶けて段差になっていることも
写真の場所では7cm程度の段差になっていて気づかずそこを通ってしまうと危険な感じ

 交通量の多い交差点や道路はミラーバーンになっているかと思いきや、複雑に交わった轍が凍って、デコボコの大きなウォッシュボード状に。これが「サスペンションのテストか何かですか!」と叫びたいぐらい。自分が乗るクルマの挙動は見えないものの、ほかのクルマを見ていると結構な勢いで跳ねていて人ごとながら心配になってしまうほど。「サスペンションはもちろん、ボディにも確実に悪影響を蓄積していきそう」なんて考えていると、ようやく目的地に到着。

 代表の萬年氏にお話をうかがってみると、86の場合は車高調に交換しているオーナーが多いため車高は変えることができるものの、道すがら体験したウォッシュボード状の路面を走ることによる劣化や融雪材によるサビなどもあり、冬場はノーマルに戻すオーナーが多いとのこと。その際、スプリングをマルチロードSASCに変えたセットを用意しておけば、車高も上がってより安心ってことらしい。

 そんな話の後ちょっと場所を移して、マルチロードSASCを組んだプリウスに乗り換えてみた。あ、書き忘れていたけれど、私はプロドライバーでも評論家でもないので、あくまで普通の人レベルでの違いと言うことになる。念のため。

左がCHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車。右がノーマル。車高の変化量は遠目にはよく見ないと分からない程度だ
CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車のフロント。車高アップは約20mm。リアはグレードによって異なるが約25~30mmアップする
ノーマルのフロント。フェンダーとホイールハウスの隙間に注目するとかなり違いがあることが分かる

 がッ! これがちょっと走った、というより数m動かしただけで効果を実感できた。ノーマルでは洗濯板状の路面でバタバタフラフラしていたのが、シットリカッチリした印象に! 車高アップという字面だけ見ると挙動が不安定になりそうな気がするけれど、逆にスポーツサスを組んだようなシッカリした感じ。とはいえ、洗濯板のような路面でもゴツゴツしたショックを感じることはなく、キチンとダンパーが働いているのはもちろんボディ剛性まで増したような印象さえ受けるほど。今回は同じクルマに付け替えたわけではないので条件が異なるとはいえ、それを差し引いても明らかに向上と言える変化が感じられたのだ。

雪道だけにそれほど速度は出ていない状況。ノーマル(写真左)ではロールを感じるが、CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車(写真右)はフラットな印象だった
雪道は一見フラットに見えるものの、溶け具合の違いなどで結構デコボコ
CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車は剛性感があってとにかく乗り心地がイイ
ノーマルは乗り心地は悪くないものの常に細かく揺すられている感じ

 その秘密の1つは中央発條の特許技術「SASC(サスシー:Side Action Spring by CHUHATSU)」。詳しく説明し出すと長くなってしまうので、以前の記事(http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/carparts/20121001_562946.html)を読んで欲しいのだけれど、要はスプリングが伸び縮みする際の反力を独自構造によって精密にコントロールしている、ってこと。「タダのスプリングとは違うのだよ!」なんて台詞が聞こえてきそうだけど、実はプリウスの場合は純正スプリングも同社のSASCモデルを採用している。その点ではイーブン。

除雪されていない住宅地。ウォッシュボード状のデコボコの轍ができていて普通に通ることができそうだけど……
CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車は大きくフロアを擦ることもなく普通に走ることが可能だった
同じ場所でノーマル車は常にガリガリとフロアを擦る音が聞こえる状態で、ここから少し上がったところでタイヤの接地感が怪しくなり進むのを断念。わずか20mmの差でしかないけれど大きな違いだ

 それじゃ、なんでこんなに違うのよと考えてみると、もう車高アップしか原因は考えられない。スプリング(=ストラット)が長くなることによりロアアーム角が適正化され、それが剛性感や乗り心地に好影響を与えているのではないだろうか。とすれば、実はプリウスはもともと160mm辺りの最低地上高を想定して設計されていて、それが空力面(=燃費)を優先して140mmになったのかも?なんて深読みまでしてしまう。それぐらい、マルチロードSASC装着車は好印象なのだ。

 乗り心地を堪能した後は除雪されたワインディングや未除雪の住宅地でも、ノーマルとマルチロードSASC装着車を乗り比べてみた。前者では雪道のため速度はそれほど出せないものの、車高アップによるデメリットをまったく感じさせないフィーリング。一方、後者ではノーマル車だと少し躊躇してしまうような深い轍がある道路でも、マルチロードSASC装着車では車高アップの恩恵で気にせず入っていける。数字にすればわずかに20mmから30mm程度しか変わらないのだけれど、「普通のクルマより低い」のが「普通のクルマとほぼ同等」になるのだから、路面というか轍との干渉は格段に減るワケ。もう少し具体的に言えば、ノーマルでは普通のクルマが通った後であっても腹がつかえてスタックする可能性がある。だが、マルチロードSASC装着車なら、普通のクルマが通っていれば干渉する部分を除雪してくれているのでまず大丈夫、になる。実際、取材中もノーマル車がスタック寸前の場所でもマルチロードSASC装着車では、まったく問題なく進むことができた。降雪や除雪の有無で道路の状況が常に変化する雪国では、「大丈夫かな~」なんて常に心配しなくて済むという安心感は相当に大きいに違いない。

 その後、アクアでも乗り比べてみたけれど、基本的にはプリウスと同じ傾向ながらキビキビした印象が強くなった。車高アップが前後とも約15mmとプリウスより少ないこともあって、振れ幅は若干少なめになるものの、効果を確実に体感できるレベルの違いと言える。スタイルもSUV風グレードのようなカッコ良さで「これはアリだな~」とか思っていたら、マイチェンで「X-URBAN」なるモデルが追加されていた。一歩先を行った「してやったり」感があってちょっと嬉しい。ってまぁ、自分が作ったわけじゃないんだけど。

アクアでの比較。左の白いクルマがSASC装着車
車高アップは前後とも約15mmと少なめだけど比較してみれば明らかな差がある。左の白いクルマがSASC装着車
アクアの場合、CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車はちょっとスポーツサスに変えたかのようなフィーリングに。キビキビした走りが好きな人に合いそうだ
フラットに近い路面でも乗り心地はCHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASC装着車に軍配が上がる
ノーマルアクアでは断念した深い轍でもCHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASCを装着したアクアは余裕。少し高い車高もステーションワゴンに設定されているSUV風グレードのようなムードでカッコイイ
それなりにクルマが走っている場所でもこれぐらい深い轍がある。ここから15mm低かったら……、そりゃお腹擦りまくりですよ

 そんなことを考えつつマルマン・モーターズに戻り、アクアに実際に装着されているスプリングを見せてもらった。これが見た目は至ってノーマルなのだ。アフターマーケットのアイテムといえば、メーカーのコーポレートカラーやイメージカラーにペイントされたハデな商品が多いが、マルチロードSASCは黒系のカラーで純正パーツといった佇まい。だが、実はココにも秘密があるという。高濃度の亜鉛微粉末を使った下塗り「ジンクリッチ塗装」をベースに、柔軟剤を添加したエポキシとポリエステルを混合した上塗りによる2コート粉体塗装を採用。平均膜圧は480μmと同社の基本ペイントの約6倍もの厚さを実現しており、SST試験と呼ばれる塩水を使ったテストでは2000時間以上をクリアしているという。飛び石や融雪剤による影響を受けにくく、安心して使えるワケだ。

取材に協力していただいた北海道石狩市のマルマン・モーターズ
デモカーにも86用のCHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASCを装着。86の場合、前後約15mmアップ(MTのフロントは約17mm)。ちょっとラリーカー的なスタイルがステキだ
車高アップにより雪道でもFRらしい走りを楽しむことができる
過去、車高アップ用にオリジナルカラーを作ったこともあったが今はCHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASCへの交換をお勧めしているとマルマン・モーターズの萬年氏
CHUHATSU PLUS MULTI ROAD SASCをアクアに装着した状態。見た目はノーマルのよう
こちらは86用
よく見ると少しラメっぽい。これは上塗りを通して下塗りの亜鉛微粉末が見えているため
車高アップに伴ってバンプラバーも同梱されている

 後で聞いたところによると、マルチロードSASCは札幌地区を拠点とする複数のタクシー事業者が所有するプリウスにも採用されているとのこと。一般車よりハードな使われ方で、コスト意識も強いタクシー業界で使われるのは、明確なメリットがあるからこそ。それだけ信頼性もあるってことに違いない。

 雪国のユーザーはもちろん、釣りや登山など林道などの未舗装路を走る機会が多いとか、荷物や人を乗せる機会が多いなんてユーザーにもオススメできそう。「こんなレビューじゃフィーリングがよく分からん」って人は、旅行ついでに北海道で装着タクシーを探してみるのもイイかも!?

安田 剛