F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

第81回:ほんっっっとうにいろいろあった2023年シーズンを振り返ります

 明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします。

 2023年のシーズンを1グランプリ1枚の写真で振り返ってみようと思います。

 まずは開幕戦バーレーンから。

 開幕戦というのは、いつもワクワクするものです。

 楽しみにしていたのは、レッドブルは相変わらず速いのか? アルファタウリはどんなんだ? テストのときからアストンマーティンが速いと言われていて、アロンソ選手の活躍がどれほどのものになるのかということ。

 アロンソ選手の予選は5位、そしてレースは3位表彰台獲得。

 勝ったんじゃないかと思わせるパルクフェルメのこの瞬間は、うれしかった!

 実力のある選手がいいマシンに恵まれて結果を出す、アロンソ選手の場合難しい時間が長かっただけにうれしそうな表情を見ることができて、あ~今シーズンの楽しみが増えてワクワクじゃないか! と思いました!

 第2戦サウジアラビアGP。

 サウジアラビアといえば、2022年にサーキット近くの石油施設にミサイルが飛んできたというインパクトが自分の中には大きすぎるできごと。

 地元の人に聞いてみると、ミサイルが飛んでくることはそんなに珍しいことではないという……。世界は広い。

 サウジアラビアという国が、観光目的で入国ができるようになったのは2019年。つい最近まで、遊びに行けない国だったんです。

 そんな中でF1を開催する意味があるわけで、お金はうなるほどあるので絢爛豪華なサーキット施設にはVIPが大勢観戦にいらしゃってますし、ドローンのお馬さんも飛ぶのです!

 第3戦はオーストラリアGP。欠席しました。

 理由は、取材費の高騰、それも半端ない高騰であります。オーストラリアはもともと物価が高い上に円安というダブルパンチ。個人事業主としては、全戦取材を基本的にやってきましたが、どうすることもできないほどの高騰ぶり、逆立ちするくらいでは済まない状況。

 ですので、連戦だとか、安く行ける国であるとか効率よく取材できるようにスケジュールを組むことにしたわけです。

 ですから、2023年は23戦中18レースを取材することにしました。

 休むことにしてどう思ったかといえば、残念だし悔しい気持ちもありますよね、正直に言えばね。いい光が出たり、いいシーンが撮れたかもしれないわけで……。

 写真が高く売れたり、円が高くなったり、飛行機代、ホテル代、レンタカー代が安くなればまた全戦取材に戻れるのですが、レース数も増加しているし、冷静になって近未来的に考えると、行けるレース数を減らしていくしかない状況はしばらく続きそうですね。

 ということで、第4戦はアゼルバイジャンGP。

 この写真はレース後のパルクフェルメでマシンから降りたばかりの角田選手。10位入賞で初ポイント獲得。

 ちょっと分かりづらいかもしれませんが、目が血走っているんです。その原因は分かりませんが、レースを戦う厳しさが見えた気がします。

 レースカーの運転というのは、自家用車の運転やゲーム感覚をベースに考えがちですが、とっても大変な作業らしいです。

 もちろん、ほとんどの人はF1でレースをできないので想像するしかないのですが、僕の経験だけでお話しすると、たった80ccの2サイクルエンジンのミッションカートでフェスティカという栃木のゴーカートサーキットを連続で15ラップくらいすると最終コーナーでヘルメットがアウト側に倒れていって、20ラップもするとその遠心力に抵抗することを諦めます……。息はぜいぜい……手アンダーも頻発、集中力もなくなってきますし、ラップタイムも落ち始めます……。翌日はベットから起き上がるのも大変な筋肉痛。ぜひ、ゴーカートに乗ってみてください。どなたでも経験できますからね。とってもハードなんです、でも、とっても楽しいですから!

 それが、F1ともなると……とかいうレベルの話ではないくらい異次元の中で90分走り続けるというのは、想像をはるかに超えたことをやっているんですよね。

 だからこそ、憧れるし、尊敬しなきゃと思うし、お金を稼ぐのも当然ですしね。

 第5戦はマイアミGP。アメリカは高いし、マイアミはあまりフォトジェニックではないので欠席。

 第6戦はエミリア・ロマーニャGP。

 モナコとスペインの3連戦なので、ニースでレンタカーを借りてイタリアのイモラまで向かう途中で、携帯の画面に知り合いから「イモラ中止?」というメッセージの画面が出てきたので、高速のパーキングに入ってメールなどをチェックすると、な、なんと中止!

 そんなことあるの! 嘘でしょ! って気分でした……。

 どうしようかなと考えるけれど、とりあえずホテルもサーキットの近くの街に取ってあるし、行ってみるかという軽い気持ちで向かいました。

 そしたら、もう大変。高速道路は途中で降ろされるし、洪水の影響は甚大で下道もあちこち冠水で進めません……。携帯のナビでホテルの街まで何度Uターンを繰り返し近付くのだけれど、行けない。

 本当に途方に暮れそうになり、水あるけど行っちゃうか! って進むとたくさんのクルマが半ば浮かんで置き去りになっているのが見えてきて、急にビビりなながらバックしたりして……ナビで道はあるけど、実際は進めないの繰り返し。

 道で歩いている人に、町の名前を告げて行けるかと尋ねたら、行けるよ、そこから今来たところだよと言われ、ナビ画面を差し出して通じている道をなんとか教えてもらって、やっとホテルに到着。1週間、そのホテルで過ごしました。

 実際に行ってみると、その被害の甚大さに驚きましたし、中止以外の選択は考えられない状況でした。現在はもう普段の生活が戻っていると思いますが、自然の猛威を体感した1週間でした。

 第7戦モナコGP。

 フェルスタッペン絶好調って感じ。パルクフェルメで記念撮影に加わるアロンソ選手。この雰囲気が、いい!

 第8戦スペインGP。この写真はレース前、全車グリッドについてドライバーが国歌斉唱に集まる前の時間。

 ピットレーンのアラムコのサインがある上を、アストンマーティンのガレージを出てまっすぐ歩いてくるローレンス・ストロールさん。雰囲気からして、ただものではない。

 僕が写真を撮っているのを分かっているのかいないのか、僕の存在はいないものとしているに違いない勢いそのまま、まっすぐ歩いてくる。

 だから、僕はギリギリ避けた。でなければ踏まれている。

 まあ、僕が避ければよかったんだし、それでいいんだけど、なんとしても真ん中を歩いているその進路をおまえの存在で曲げてたまるかという通過したときの雰囲気。事業では大成功者で大金持ち。ビジネスでは抜け目なく信頼も得ているんでしょう。

 なんじゃそれって思った。

 第9戦カナダGP。写真を撮るのは好きなサーキット。でも高いからパス。

 第10戦オーストリアGP。チェッカー後のウイニングラップ。

 いつもなら、パルクフェルメに突進しているころなんだけど、フェルスタッペン応援席の前できっとこうなるに違いないと予測してみました。

 煙幕は禁止だっていうお達しは、大型ビジョンで周知徹底されているはず。でも、こうなるであろうと思いました。たまには、予測が当たることもある。

 第11戦イギリスGP。

 シルバーストーンサーキット、伝統ある場所。集まってくるファンの雰囲気もいい。

 天候がわるいことが多く、雨になることもしばしば、雨の写真が大好きな僕にとっては好ましいんです。

 でも、空の表情もなく曇りのような天候では、とても撮る場所がないサーキット。アップダウンもなく、コースまでの距離も遠くバックグラウンドの変化も付けづらい。

 じゃあ、火花でも撮るか……で撮った写真。

 第12戦ハンガリーGP。

 角田選手のチームメイトのニック・デフリース選手がパフォーマンス不足で交代になりました。

 この措置に対してたった10戦を戦っただけで判断するのは早すぎるという意見もありましたよね。でもチームとしては、ポイントが取れる取れないで大きな収入の差にもなるので即戦力としての加入だったんでしょうね。

 角田選手と同等かそれ以上を求めていたわけで、現実はそうならなかった。

 外から見ているよりも、中の人たちはもちろん客観的なデータを見れるわけなので、ダメだという結論を出されてしまったということです。厳しい世界です。

 代わりに、ベテラン、ダニエル・リカルド選手がハンガリーから復帰。パフォーマンスは、さすがだねという評価。

 第13戦ベルギーGP。スパウェザー本領発揮!

 雨が降ってはやんで太陽のち雨みたいな、カッパを着ては脱ぎ、また着るというような、楽しすぎる3日間でした。

 雨の量が多すぎると赤旗が出てしまいます。オー・ルージュ、ラディオンという名物高速コーナーは、雨が多すぎるととても危険。赤旗が出てしまうのは致し方ないんですけど、僕個人的に、たくさんの水煙が撮りたくてコース脇に立っている自分としてはなんだよ~~~って思うのであります。

 大粒の雨にカッパを着込みながら、今だよ今! って思ってしまうのはダメですか?

 第14戦オランダGP。

 フェルスタッペン選手のためのグランプリ。

 再開後、今年で3回目。予選、レースとも1番を取っているのは、フェルスタッペン選手。すごいことです。

 自国グランプリというのは、どのドライバーもみな特別な思いで臨むもので、思いの外うまくいかないことも多い。

 自分の人気でグランプリの誘致をして、完璧な週末を3年連続で成し遂げる。半端ない才能と度胸、強運全て持ち合わせているドライバー、僕は応援したくなるし大好きなドライバーです。

 第15戦イタリアGP。

 レッドブルの1-2。3位にサインツ選手が入ったことで、ギリ納得してくれたティフォシの皆さんという感じでしょうか。

 発煙筒って、臭いんだなって実感したのがこのときでした……。

 第16戦シンガポールGP。

 無敵だと思っていたレッドブルのマシンが遅かった。予選でフェルスタッペン選手が11位、ペレス選手が13位。レースでフェルスタッペン選手が5位、ペレス選手が8位。

 そして、レッドブルの全戦優勝が途絶えた。

 終わった今になっても残念な気もするけれど、F1の厳しさを知るグランプリでもありました。

 写真はレース後にマシンを降りたところのフェルスタッペン選手の表情。

 第17戦日本GP。

 速いフェルスタッペン選手の復活とマクラーレンのスピードが上がってきています。

 チームによって、サーキットの特性に合う合わないで成績が左右するというのはそういうものですが、後半戦に入ってからのマクラーレンは速かった。

 こうしてスタートのシーンを見ると、全盛期は最終コーナーにも巨大な観客席がありましたよね。今年の春の鈴鹿はどんな感じなんだろう。

 第18戦カタールGP。あまり好きな国でもないし、コースもいまいちなのでお休み。

 第19戦アメリカGP。

 アメリカで3戦あるグランプリの2つ目。国旗大好きアメリカのどデカい国旗は今回もありました。

 満員のお客さんは、F1を楽しめたのかな?

 急激な人気の盛り上がりですから、急に冷めるということもあり得ますよね??

 第20戦メキシコGP。

 アメリカ、メキシコ、ブラジルの3連戦という過酷な旅。特にメキシコ、ブラジルというのは思い出すだけでも疲れます……。

 メキシコのこの地で、純然たるホンダF1が初優勝を遂げます。1965年でした。そのときの監督が中村良夫さんでした。

 中村さんの晩年、雑誌の企画でヨーロッパを一緒に旅をしながらいろんなお話を聞かせていただきました。

 戦争時は航空機のエンジン設計技師をされていました。

「いいですか熱田さん、戦時中に航空機を設計できるというのは技術者にとっては非常にやりがいのある仕事なんですよ。そして結果が全て。撃ち落とされるか撃ち落とすのか、勝敗が結果として示される、そういう意味ではレースも同じですよ!」

 中村さん、今回もホンダPUが勝ちました。

 第21戦ブラジルGP。

 金曜日の予選、この写真を撮ったすぐ直後にとてつもない大粒の雨が降ると同時にものすごい風、まさに暴風雨!

 20分くらい続いたでしょうか……。マーシャルポストの下に隠れていたんですけれど、びしょ濡れ。

 大雨で写真が撮りたいって書いたけれど、この暴風雨では全く走れないし、撮れない……。

 レースはアロンソ選手の大活躍、素晴らしいレースで3位獲得!

 第22戦ラスベガスGP。

 しばらくぶりの開催のラスベガス、絢爛豪華なカジノの雰囲気とF1の親和性が始まる前から話題でした。

 木曜日のパーティーとかドライバーも顔見せ、その前の観客席には3割くらいしかお客さんは入っていない。反対側のVIP用ラウンジは満席の大混雑。

 最初のセッションで、コースに埋め込まれた小さな金属の蓋が浮き出てしまってサインツ選手のマシンが大破。10分も走らず赤旗中断、2回目のセッションも遅れて始まって終わったのが朝の4時という前代未聞の事態に。

 なんとなく、アメリカで最も豪華なグランプリにするために一生懸命頑張りましたという演出が前面に出過ぎているような雰囲気に感じられて僕はちょっと引き気味でした。

 セッションの開始時間も遅すぎです。どっぷりと疲れたグランプリでした。

 第23戦アブダビGP。

 え! 角田選手が3位走ってる??

 コースに写真を撮りに行っていると、レース展開がまるで分からないままになることが多い。たまたま、大きなモニターで順位を見たときが3位でした。

 しばらくして、どんどん抜かれていくさまを見てタイヤ戦略かなとは思いましたけど、シーズン後半のアルファタウリのスピードは明らかなパフォーマンスの向上を感じられました。

 2024シーズンもこの好調が続いてくれるといいのですが、そうとは限りませんからね。

 ともあれ、角田選手がいてくれるおかげでどれだけサーキットに向かうときのモチベーションにつながっていることか。

 レッドブルグループとホンダという関係性が徐々に薄くなっていく状況で、今後のF1で戦い続けていくためには、今以上のアピールが必要です。それも含めて、来季も角田選手に注目していきたいと思います。

 開幕戦は3月3日ひな祭りであります。それまで、いろいろと準備を整えながら進めていきたいと思います。

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。