F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

第97回:マクラーレンの快進撃が止まらない! ノリス選手が優勝したシンガポールGP。ハース小松代表のミニインタビュー付きでお届けします

 シンガポールGPでした。

 スタートは1コーナーへ。みなさん混乱なく通過。

 そして、セイフティーカーなしのレース。

 ポールスタートのノリス選手が圧巻の走りで優勝。ランキング2位で1位のフェルスタッペン選手と52ポイント差となりました。今季3勝目。

 マイアミの初優勝は見てないけれど、ノリス選手ってイメージでは勝ったときにはうれしさ爆発するタイプだと思っていたんですけれど、意外にはっちゃけるタイプではなく、じっくりと噛み締めるタイプみたいですよね。

 2位にはフェルスタッペン選手。金曜日の絶不調から脱することができてよかった。

 記者会見でFワードを禁止するという内容に反発してましたね。僕はフェルスタッペン選手に全くもってして賛成です。

 レースで戦うってギリギリのところで戦っているわけだから、精神状況は普通ではないわけで、例えば子供たちに聞かせたくなかったら放送しなければいいと思うんですよね。

 堅苦しい世の中になっていきますよね……。

 3位にはピアストリ選手。5番グリッドからのスタート。

 写真は予選のQ3のアタックラップ。最終コーナーに向かうシケインで大カウンター。

 写真的にはかっこいいんだけど、こんな感じだとタイムは出ませんよね。見た感じかなり長~く横向いてました。

 この失敗がなかったら、予選2位にはなれていたかもしれませんし、レースも同じですよね。

 マクラーレンの快進撃は続きそうです!

 アロンソ選手は8位。4ポイント獲得。さすがです。

 ヒュルケンベルグ選手が9位入賞! レッドブルを従えての堂々たる走りでした。

 バクーでのミスを帳消しにできたのではないでしょうか?

 予選は6位でした。

 小松代表の話ですと、事前にシミュレーションしていた作戦をチームもドライバーも完璧にやり遂げた結果だそうです!

 その内容というのは、どのタイミングでクルマを出すとか、セットアップも含めて細かく作戦を立てるのだそうです。

 レース後にハースのホスピタリティーで小松代表に話を聞いてきました。

 今回は時間があったので、カレーライスをごちそうになりながらじっくりと話すことができました。その中で印象的だったお話を書きます。

熱田:ヒュルケンベルグ選手が予選からレースまで素晴らしいパフォーマンスでしたけど?

小松代表:本当に素晴らしかったと思います。ニコとは尊敬、信頼、お互いの尊重、そんなリレーションシップが築けているのでいい関係が築けています。そういうことも含めてやっぱり人、いい人間関係を築けるかという根本的なことが一番重要だと思う。いや~ホント、ニコと仕事するのは楽しいですよ!

熱田:ランキング7位で6位まであと3ポイント差になりましたがいかがですか?

小松代表:今回で18戦が終わって、9戦でポイントが取れていて、直近の3連続ポイントは2018年以来だと思うんです。やらなければいけないことを基本に忠実にやれば、これだけミスを犯しながらも50%のレースでポイントが取れるんです!

 具体的にはモナコ、ブダペスト、スパはクルマがダメ。だから15レースはポイントを狙える位置で戦えているわけです、その中で6戦ポイントを取り損ねていて、7回11位という成績ですから、その取りこぼしをなくしていかなければトップチームにはなれない。でも、よくやっているところは認めて、足りないところは改善していく、そのバランスが大事です。

熱田:今後のマシンのアップデートは?

小松代表:夏休み前にリリースしていますけど、オースティンで入れます。現在、風洞は100%、2025シーズン向けに動かしています。

 この話を聞いた時間帯は、チームメンバーは機材の撤収に向けて忙しくしている最中。カレーに入れるスコーピオンという超辛いタバスコがお気に入りで、次々に食べに来るスタッフにこのタバスコを勧めて、「ね! 辛いっしょ!」とか言って大笑いする。写真のようにサラダの葉っぱ1枚を皿に入れてあげる。そもそもチーム代表がレース後のこんな遅い時間までサーキットにいるのを見たことがない。

 それくらい、小松代表はこのチームのスタッフ全員とコミュニケーションを取ろうとしていて、その結果チーム全体の意思疎通が整い、強いチームになるために士気が上がり、今年の好成績につながっているんだと思います。

「やっぱり僕は人間が好きなんですよね、今回もニコが予選で6位になったじゃないですか。あの瞬間のガレージの中を見るとみんなの笑顔が素晴らしいわけですよ。もうね、この仕事、楽しくて仕方ない!」

 さあ、どこまでいくのか今年のハース、楽しみですよ!

 RB、シンガポールで特別カラーリング。そのお披露目が木曜日に行なわれました。

 オリジナルの上にラッピング処理。好評だったようですけれど、このラッピング部分が艶消しなんですね。僕の個人的にはせっかくのキラキラ光源のナイトレースでキラキラしなくなってしまうのが残念。

 RBとシンガポールの相性はわるくなく、金曜日から好調で、角田選手が8番グリッド獲得。

 しかしレースではスタートがうまくいかず、ポイント圏外に後退。そのままレースを終えて12位。5戦連続でノーポイントとなりました。

 グリッドでマルコさんとメキースさんが話していました。RBのシートが話題になっています。

 レース後の様子。リカルド選手のところには、他チームの関係者などがひっきりなしにあいさつに来ていました。

 笑顔で対応するのはいつものようですが、このシンガポールが最後のF1でのレースになりそうです。

 本来ならば、最終戦まで乗れることがいいのかもしれないのですが、ここは熾烈な競争世界。角田選手のスピードに負けることが多くなってしまっているのは事実としてあるので致し方ないでしょう。

 まだ正式な発表はないものの、オースティンまでの秋休みの間にはっきりするのではないでしょうか。

 ドラパレから帰ってきたところ。ペレス選手と話したあと背中に添えた右手にはどんな意味があるんでしょう。

 チェッカー後のパルクフェルメに戻ってきて、マシンから降りて体重測定を待つドライバー。

 普段からトレーニングを欠かさず、体調管理をしつくしているドライバーでも、シンガポールの暑さと湿度で立っていられないほどの疲労、脱水症状。テレビ画面では伝わらない、このスポーツの過酷さを表しているのではないでしょうか?

 話はフェルスタッペン選手のFワードに戻りますが、限界領域で戦っているドライバーに対して、大人しくしていろというのは違うと思うんですよね。

 前を走るドライバーは、後ろから迫ってくるドライバーをなんとかして抜かれたくないと思うわけです。

 マシントラブルもありますし、自分自身のミスもあります。

 ドライバーは何より自分のために少しでも順位を上げてチェッカーを受けたい。それが仕事だから。チームのメンバーの想い、スポンサーの想い、そしてファンの想いもそれに加わっています。

 チクショウ! とか、この野郎が! とか、アホちゃうか! とか、何しやがる! とか、なんだテメ~! とか、そんな気持ちがそもそもないと戦えないものだと僕は思うんですよね。

 相手があるスポーツです、闘争心なしにはあり得ない戦い。

 それをフェルスタッペン選手や、角田選手はただ素直に言葉にしているだけで、それを聞いたわれわれはよりドライバーの心情を垣間見れているわけです。

 ただでさえヘルメットをかぶり、表情が見えないモータースポーツじゃないですか。そのときの気持ちがダイレクトに伝わることがどんなにありがたいことか。

 それを違うと言われてしまうと反発したくなりますよね。分かるわ~~~。

 今回、いろんなところで写真を撮らせてもらった方々、ありがとうございました!

 シンガポールは元々日本からのお客さんが多かったGPですが、鈴鹿が春になったのでさらに増えているように思いました。みなさん楽しそうで、僕もうれしかったです!

 ホンダの折原さんが法原さんを……じゃありません。われわれの伺い知れぬところで、綿密なるPU運用をしています。

 レッドブルは、フェルスタッペン選手の頑張り、チームのセットアップで、苦手であるこのシンガポールで2位を得ました。

 これ以降の頑張りが、連続チャンピオンをかけての戦いになってきます。もちろんホンダサイドの失敗は許されない状況は変わりありません。このピリピリした状況、これぞF1というレースを見せてくれると思います!

 最近のフォトグラファーズルームは、中国系のカメラマンが多くなってきています。シンガポールは特に多かったんですが、僕の席の隣は上海から来た若いカメラマン。

 F1とは全く関係ないんですけれど、最近のニュースで中国・深センで日本人の男子児童が刺されて死亡した事件があって、その原因が中国の反日教育だという報道があふれかえっているじゃないですか? 本当にそんな教育を中国で現在もしているのかと疑問になったので聞いてみたんです。

 そしたら、確かにそういう教育を行ななっている学校もあるが、全体の20~30%くらいだということ。大人になってもそういう考えを持った人もいることは事実だということ。でも、日本に対して好意的なイメージを持っている人の方が多いとも言っていました。

 そのカメラマンも日本が大好きで、京都や大阪などこれまでたくさん旅行で訪れているし、富士や鈴鹿へレースの取材でも行っていて大好きだと言ってくれました。

 難しいですね。

 同じ人間、同じアジア人、歴史の認識の違いということはあるにせよ、これからのことを考えていけばいいんじゃないの? というのは甘々な考えなんでしょうか?

 現在も戦争をやっている国もあるくらいだから、人間というのは中途半端に考えることにたけてしまったが故に、悲しく情けない動物になってしまったように思えますね……とかなんとか思ってしまいました。

 さあ、次戦はオースティン。

 メキシコ、そしてサンパウロの3連戦。この3連戦はまさに気合を入れて行かないとならないんで、この秋休みにたまっている写真整理を進めつつ準備したいと思っています。

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。