日下部保雄の悠悠閑閑
モーガンとマクラーレン
2018年6月4日 00:00
時代を超越したスポーツカーメーカー「モーガン」と最新のスーパーカーメーカー「マクラーレン」が、奇しくも同じ日にプレス発表会を行なった。伝統がボディを纏って走っているようなモーガン、既存のスーパーカーに捕らわれないマクラーレン、両極端の世界をほぼ同時に見ることができたのは何かの因縁なんだろうか。
モーガンは、ケータハム車の輸入などで知られるエスシーアイが「モーガンカーズ・ジャパン」を設立したことで、全国ネットワークで販売されることになった。エスシーアイは多くの国内外ディーラーを抱えるVTホールディングスの傘下にあり、グループ会社にはロータスを販売するエルシーアイなどがある。
モーガン自体は1909年に創業され、まさに自動車の黎明期に幕を開け、パワーウェイトレシオの優れた前2輪、後駆動1輪の「3-WHEELER」からスタートした。今も販売されている3-WHEELERは現代につながるモーガンのルーツでもある。
そして、第二次世界大戦前の1936年に4輪のスポーツカーを生産することになった。現在も継続して生産される「4/4」である。ちなみに私が子供のころに手に入れた1963年の自動車のアルバムにも、プレゼンされたものと寸分も違わないデザインのモーガン 4/4が紹介されていた。そこについているコメントが面白い。「~保守的な英国車の中でも頑迷なほど伝統を守り続けているスポーツカーで~」と記載されている。2018年の今日も同じように作り続けられているのだから、当時のライターが見たらなんと言うだろう。
もちろんエンジンは当時のままではないが、フォードといい関係を続けており、現在も1.6リッターのFord Sigmaシリーズを搭載して排出ガス規制をクリアしている。エンジンパワーは82kWで5速MTと組み合わされるが、ボディが795kgと軽いので、意外と楽しく走れそうだ。
モーガン車の特徴は、馬車の時代から丈夫で加工しやすいトネリコ材を多用していたことで(トネリコは野球のバットにも使われている)、当初はラダーフレームにも使っていた。まさに馬車の名残だが、現在はスチールのラダーフレームになっている。そのラダーフレームに積まれているボディは、今もトネリコ材を加工して使われる。
ちなみに4/4のサスペンションは前スライディングピラー!、後ろはリーフリジットである。もちろんパワステなんか付いてないだろうから、165/80 R15というラジアルタイヤといえどもハンドルはきっと重いんだろうと思う。ただ、エンジンはフロントアクスル後方に搭載されているみたいだから、フロント荷重は軽いのかもしれない。現物を見ていると運転したくなってきた。基本1936年から途中、紆余曲折があったとはいえ、80年以上も作られているスポーツカーってどういうモンなんだろうか?
モーガンはこの4/4のほかに、2.0リッター4気筒エンジンの「PLUS 4」。3.7リッターV型6気筒エンジンの「ROADSTER」。そしてなんと2.0リッターV型ツインエンジンの3-WHEELERもラインアップする。ワイヤーホイールなど多くのオプションを揃えており、趣味人の心を捉えることになるだろう。4/4は766万8000円のプライスタグが付くが、英国 ピッカーズレイ・ロード工場から手作りされる全モーガン車は頑張っても(きっと頑張らない気がする)年850台ぽっきりだ。
一方のマクラーレンは徳川家の菩提寺でもある増上寺で、その名も「セナ」の発表が行なわれた。
私にとってのマクラーレンは創業者、ブルース・マクラーレンのF1だが、スーパースポーツのメーカーとしては、センターシートのF1がマクラーレン・スポーツカーの最初の1ページを開いたと思う。その後、長い間マクラーレンでは単独のニューモデルを出していなかったが、2012年に「MP4-12C」を投入し、その後の「P1」につながる。現在はカーボンセルのボディ構造を使ったバリエーションを展開し、エンジンなどスペックを変えて「540C」「570GT」「570S クーペ」「570S スパイダー」「720S」などと展開している。
セナは言うまでもなく不世出の名ドライバー、アイルトン・セナにちなんだもの。アイルトン・セナはマクラーレン・フォーミュラ1で3度のワールドチャンピオンを獲得しており、マクラーレンのレーシングヒストリーに輝かしい記録を残している。その名にふさわしい究極のマクラーレンにアイルトン・セナの名を付けたのも頷ける。
セナは限りなくサーキット志向のロードカー。マクラーレンの一連のシリーズはサーキットもレーシングカーのように走れるロードカーだったが、セナでは一転して目的を絞り込んでいる。4.0リッターV型8気筒のツインターボエンジンからは、597kW(800PS)/800N・mの出力を吐き出し、7速のデュアルクラッチトランスミッションを介して、315/30 R20のピレリ「P ZERO Trofeo R」に伝えられる。ボディ重量はシートも極限まで軽量化され1198kgにすぎないので、パワーウェイトレシオはわずか1.49kg/PSだ。
研ぎ澄まされたエアロダイナミクスで、ダウンフォースは250km/hで最大800kg!という大きな値を発生するというから驚きだ。エアロダイナミクスではフロント、リアともに連携しながらアクティブに空力パーツが可動し、最適な空力バランスを得るという。
この他にも驚き機能満載だが、到底限られた誌面では記載しきれない。
セナは全世界で僅か500台のみが手作業で生産され、すでにオーナーは全て決まっている。日本への割り当ては十余台だそうだ。ちなみに価格は大雑把に言って一億円。性能とスペックを考えると妥当なんだと思うが、桁が違うので高いのか安いのかよく分からん。
いつの世の中にも趣味性の高いクルマはユーザーから望まれているが、クルマが身近な存在である時代、そしてちょっと窮屈な時代だからこそ、スポーツカーが根源的に持っている動かすこと、走らせることへの願望が強くなっているように感じる。
それにしてもモーガン 4/4とマクラーレン セナの時代差は82年、同じ時代を走っていることはとても感慨深い。