日下部保雄の悠悠閑閑

カローラ ハッチバック プロトタイプ

カローラ ハッチバック プロトタイプに乗ってきた

 トヨタ自動車「カローラ」の誕生は1966年。折からの高度成長期に乗り、好調な売れ行きを示してトヨタの礎を築いた記念すべきクルマだ。日産自動車「サニー」との熾烈な販売合戦は当時の世情を沸かし、プラス100ccの余裕と装備でカローラに軍配が上がった。トヨタの作戦勝ちであった。

 カローラは2016年に誕生50周年を迎えて世界154カ国以上で販売された結果、なんとその数4600万台というからビックリするではないか! 現在では世界16拠点で生産され、10秒に1台の計算でカローラが生産ラインを出ていくことになるらしい。驚くほかない!

 そのカローラが次の50年に向けてスタートを切るのが、12代目となる新しいカローラだ。まず、使命はカローラを若返らせ、国内購買平均年齢を下げることだ。カローラはいわゆるカンパニーカーとしての需要が多いが、個人の購買年齢層の平均を調べていくとセダンのアクシオは70歳、ヤングユーザーに使い倒してほしいという願いを込めたワゴンのフィールダーでも60歳になるそうで、今後加齢に応じてクルマを手放す人が増えていくことを考えると、トヨタの危機感は相当なものだろう。

 その危機感の裏付けとも言えるのが、今回のハッチバックの返り咲きだ。デザインも塊感のあるグッと締まったデザインで、さりげなく入ったリアのキャラクターラインでメリハリが効き、これまでのカローラのイメージを一新した。個人的には後ろ姿がなかなか好ましい。

 もう1つの軸はコネクティッドと走りだが、コネクティッドの内容は正式発表までおあずけだった。

 ここまで書いてお気付のように、富士スピードウェイのショートサーキットで行なわれたプロトタイプの先行試乗会で、実際に触れることができたのだ。

カローラ ハッチバック プロトタイプのシート

 さて、「プリウス」から始まったトヨタのクルマ作りの骨格を成す「TNGA(Toyota New Global Architecture)」は次の「C-HR」で磨きをかけられ、第3弾であるカローラはさらに煮詰められた。これまでにないほどシットリとしたクルマになっていたのだ。ホイールベースはC-HRと同じだとすれば2640mm。「ヴィッツ」をベースとする現行カローラよりはもちろん大きいが、TNGAによるプラットフォームは軽量、低重心でかつ高剛性と素性がよく、これがもたらす走りも一体感があり、つわものが集まる欧州Cセグメントの競合車と渡り合える力を持つと感じられた。

 新しいカローラは極めて接地性が高く、コーナリングトラクションも合わせて高い。まるでLSDが入っているかのようだ。ジオメトリー、バネとショックアブソーバーとの組み合わせなども大きいが、面白いのはショックアブソーバーのオイルに注目したことだ。

 ご存知の通り、サスペンションの上下動はバネだけだと振動が止まらなくなる。ショックアブソーバーは中に封入されたオイルの粘性でその振動を収束させる重要な役割をする。その減衰力の特性が重要で、通常はオイルが通過する通路を工夫するなどでチューニングするが、新しいショックアブソーバーはオイルそのものの特性にも注目した。低フリクションオイルで従来品と粘性は変わらないが、例えば横力などが入った時に摩擦力が上がり、結果的に減衰力を上げるようなことになる面白い特性を持たせている。

小瓶に入ったサスペンションオイルのサンプル。左が従来品、右が新製品だが、見ただけではよく分からない……

 カローラはフロントサスペンションにストラット、リアにダブルウイッシュボーンを使っている。特にストラットはコーナリング時に大きな横力も受けるため、ショックアブソーバーが微細な変形をする。その際にオイルによる摩擦力が上がればグッと締まった効果が得られ、結果的に接地力も上がるので、なかなかユニークな考え方だ。キャビテーションなどの厳しい品質管理を受けたのちに製品化されることになったという。メーカーはKYB製であった。

 このオイルは前後のショックアブソーバーに使われ、試乗ではハイブリット車と組み合わされていた。

 エンジンは1.8リッターのハイブリッドと1.2リッターターボ。後者のトランスミッションはCVTと自動ブリッピング機能などを入れた6速のiMTが選べる。

自動ブリッピング機能も備える6速のiMT

 ハイブリッドは電動モーターによるアシストも的確でパワフル。通常の加速ではラバーバンドフィールもあまり感じず、リズムのよい加速ができた。

 1.2リッターターボのCVTは、試乗コースのサーキットではパドルシフトを使うとよさが出た。CVTメーカーであるアイシンは、最近モータースポーツでも使えるCVTを開発して全日本ラリーに参戦しており、結果を残している。スポーツモードで積極的にパドルを使うと高回転を維持して、パワーバンドに乗る。日常では効率がよいものの、これまで歯がゆかったドライビングシーンに積極的に関与するCVTとして歓迎できる。ソフトの書き換えだけではなくスポーツドライビングに合わせたハード面の進化も大きい。

 iMTはシフトダウン時にエンジン回転を合わせる自動ブリッピング機能や発進時のクラッチミートでエンジン回転を上げてスタートを容易にする機能が組み込まれる。シフトフィーリングなどは平凡だが、マニュアルを搭載してくれただけでも幅が広がり嬉しい。ただし、アクセル踏み始めではエンジンのレスポンス不足を感じ取れてしまうため、この辺りはもう少しアダプティングが必要だと思われた。

 しかし、カローラの魅力が俄然大きくなったのは疑いの余地がない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。