日下部保雄の悠悠閑閑

「UX」とのショートトリップ

レクサス「UX」の試乗会に参加してきた

 レクサス「UX」の試乗会に参加してきた。レクサスの試乗会はいつも長距離を走ることでメディアに知られているが、レクサスではそのクルマが持つ世界観も感じさせる試乗会を心掛けている。

「ES」ではワインディングロードと高速道路をつないだコースで、ロングツーリングからESの居住性や安定性などを思う存分、経験することができた。

 UXはレクサス初のコンパクトSUV。UXの世界感は週末、都会の喧騒から離れた心落ち着く場所でリラックスした時間を過ごすというもの。試乗コースに選ばれたのは川崎の総合リゾートスペース The WAREHOUSEにあるTREX River Cafeを起点として、三浦半島の佐島にある別荘と千葉県市原市付近にある古民家を改造した別荘地の2か所を巡るものである。

 工業地帯の真ん中に開かれたカフェをスタートして、ヨットハーバーで有名な佐島までは高速道路と狭い市街地を走るという設定だが、こちらのコースは御用邸で有名な葉山周辺の狭い道を走るので、コンパクトSUVの利点や視認性を確認できる。

 また、千葉の古民家までの道は郊外路と適度なワインディングロードがあるので、両コースでそれぞれUXの特徴を知ることができる。

 レクサスとしては初めてのGA-Cプラットフォームは、トヨタブランドでは「プリウス」から始まって「C-HR」「カローラ スポーツ」と3車種にわたって進化し続けた。UXではその知見を活かしてさらに開発が進められた。クルマにとって走る、曲がる、止まるといった基本的な性能を決めるプラットフォームは今後のクルマの成立を考えると非常に重要だと思っているが、軽量化と高剛性を両立した最近のトヨタのプラットフォームにも共感できるところが多い。

 UXはボディもLSW(レーザースクリューウェルディング)などの溶接点が増え、構造用接着剤の長さも大幅に増やすなどで剛性の強化と振動の軽減が図られている。また、アルミサイドドアなどの採用で、背の高くなるSUVの重心点を下げており、軽量化にも貢献している。

 UXのいいところは何といっても運転がしやすいことだ。着座位置が低いのが特徴のGA-Cプラットフォームなので、UXもSUVとしては着座位置が低めだ。しかし、ダッシュボードが下げられていることと、サイドウィンドウの位置も低いことで、前方視界は優れている。特に斜め前方はドアミラーがドアから離れた位置に置かれているなどで、死角が大幅に減少している。狭い道も不安は少ない。全幅もレクサスとしては1840mmに抑えられていることも大きい。ちなみに最小回転半径は5.2mで、比較的機動力は高い。

 静粛性は高く、風切り音やメカニカルノイズなどがよく抑えられており、レクサスクオリティを感じる。ただ、路面のよい高速道路ではキャビンに入る雑音が抑えられている分、パターンノイズが目立ってしまったのがちょっと惜しい。

 佐島では素敵な別荘「Nowher but Sajima」が折り返しになっており、そこでは湘南の海を見ながら、あーだこーだとエンジニアとの会話を楽しんで、再び川崎まで取って返す。往路はハイブリッドの“F SPORT”で、駆動方式は4WDのE-Four。復路はガソリンの“version L”だ。

 どちらも特徴があり、E-Fourは重量バランス的に見るとFFよりも少し有利になり、ハンドリングというよりも前後のダンピングのバランスがよく、乗り心地としてはまろやかに感じられた。オプション設定のパフォーマンスダンパーはボディのねじれ振動を絶妙にいなす効果があり、快適な乗り心地に貢献している。まとまり感がよかったのは、最初に乗ったこのハイブリッドの“F SPORT”E-Fourモデルで、新規開発の2.0リッター直噴エンジンとハイブリッドの組み合わせも都市型のSUVとしては非常にいいマッチングだ。

 復路はガソリン車。4気筒 2.0リッター直噴はハイブリッドと共通だが、エンジン型式が「M20A-FXS」から「M20A-FKS」になり、出力は128kW(174PS)、209Nmに上がる。パフォーマンス的には発進時に電気の力を借りているハイブリッドの方がパワフルに感じるが、新しい2.0リッターエンジンもわるくない。新開発のCVTは1stギヤを持ち、発進時から全開だと60km/h付近までギヤで加速し、CVTに受け渡す。そのために加速フィールが向上してダイレクト感が強くなった。併せてCVT自体も低速から頑張らなくてもよくなったので、小型軽量化できるというメリットも生まれている。

 加速時のエンジンノイズは中速回転域で「クオォー」という吸気音のようなノイズを発するので、人によっては少しうるさく感じられるかもしれない。個人的には回転フィールもよいのでそれほど気にならないのだが。

 川崎からアクアラインを通って、千葉の古民家「まるがやつ」に向かう。だんだんと雲行きが怪しくなってきたが、UXはドライバーに疲れを感じさせない。風の影響を受けやすいアクアラインでも姿勢安定性がいいのは、リアの独特のテールランプのデザインも効果を上げているようだ。フィンのような独特の形状のリアコンビランプまわりは、フロントのホイールアーチモールから流れてくる空気を整流し、ふらつきをなくす効果があるという。

テールランプは「エアロスタビライジングブレードライト」というちょっと長い名前の独特な形状をしている。空気を整流するとのことだが、この角度から見ると効果がありそう

 また、18インチタイヤはすべてランフラットタイヤだが、特有のゴツゴツ感はかなりよく抑えられている。コーナリング時に路面の強い段差を越えるときは若干のバタつきを感じるが、総じて完成度は高い。

 ワインディングロードでは軽快かつ安定したフットワークで走れて、安心して楽しめた。ステアリングレスポンスも過敏でなく、かつルーズでもない。コンパクトカーらしい動きで、ライントレース性も素直で扱いやすく、クルマとの一体感を感じさせてくれる。

 到着した古民家「まるがやつ」は別荘として貸し出しているそうで、広い縁側からの心和む景色と柔らかい光に包まれた居心地のいい部屋で、あっという間に帰りの時間になってしまった。

心和む古民家

 夜間でも認識できる先進予防安全パッケージ「Lexus Safety System+」を持ち、基本的に上級グレードとの差はほぼない。

 さて、UXのチーフエンジニアは加古滋(カコチカ)さん。レクサスはもちろんトヨタでも初めての女性チーフエンジニアだ。できあがったクルマは加古さんの人柄を反映してか、サッパリとして快適でまとまりのいいクルマになっていた。

トランクは残念ながらリアシートを倒さないとゴルフバッグが積めない。加古チーフエンジニアもチョッピリ心残りだったそうですが、割り切ったとのこと

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。